第四十八話 フィルとアランの料理
「ウラン殿!この辺で降ろしてくれ!」
「ぬ?まだ遠いがよいのか?」
「近づきすぎると大騒ぎのなるのでな?」
「わかったのじゃ!」
フィルの言葉に王都の明りが何とか見える場所にウランが着地するので背中から飛び降りる。
「待ってたぜぃ!」
フィルが恐る恐ると言った様子でウランの背中から降りていると後ろの闇の中から声が聞こえてくる。
俺とフィルだけではなく、人間よりもずっと感覚が優れているはずのウランまで驚いて声が聞こえた方向を見ている。
「誰だ!?」
「おっとすまねぇ!」
そう言って声の主が魔力灯を発動させると、闇の中に鳥の顔が浮かび上がる。
「ガルーダか!?」
「すまんが照らすぞ。」
フィルが剣に手をかけて今にも切りかかりそうだ。
俺は一応断わりを入れて強めの魔力灯を発動させる。
鳥の頭に背中には立派なワシのような翼に立派な鉤爪の魔族が現れる。
「この存在感は・・・魔王種だな?」
俺の言葉に魔族が不敵に笑いフィルとウランが息を飲む。
「なんの用だ?」
「大魔法のよう、強者の気配がよう!したから来たんだけどそこの水竜に先越されたからよぅ・・・待ってたのよぅ!仮面の旦那をよう!」
腕組みをする魔族がドヤ顔で答える。
自信満々なのだがそんな事は聞いてないのだ。
とりあえず俺のマスクが見えているので俺よりも魔力量が多い危険な魔族という事がわかった。
「それはわかった。何の用だ?」
「おう!俺様と、ガル様と喧嘩しようぜぃ!?」
魔族改めガルが俺にウィンクしながら言って来る。
「・・・断わる。今日は大魔法、雷龍を放ったりアークデーモンと戦ったりして魔力も無いのでな。」
「む・・・確かに万全の状態でないと面白くねぇもんな!いつにする?」
「万全の状態でも断わる。俺に何の得が?」
目を輝かしてガルが言ってくるが俺はきっぱりと断わる。
ガルが意味がわからないといった様子でくちばしを開けて俺を見ているが気にせず踵を返して王都へと向かって歩き始める。
「グッ!ならば・・・ならば・・・クソゥ!思いつかん!」
二人を人質にして強制するとか何かありそうなものだが、ガルは何も思いつかないようで四つん這いになって地面を叩いて悔しがっている。
「ルドルフ?悪いやつではなさそうだし受けてやってもいいのでは?」
「そうじゃの・・・この姿を見たら可哀想になってきたのじゃ。」
「お前ら自分が戦うわけじゃないからって勝手すぎるぞ。」
フィルとウランが言うが相手は今は地面に四つん這いになっていて情けなく見えるだろうがガルーダの魔王種だ。
人間が戦える相手ではないし戦って無事で済む保証は何一つ無い。
「おいガル・・・お前はなんで俺と戦いたいんだ?」
「ん?強くなるために決まってるだろ?」
「(俺と戦ってなんで強くなるんだ?さっぱりわからん。)」
俺がガルの言葉に考え込んでいるとガルがマジックバッグから何かを取り出す。
「もし俺に勝ったらこれをやるからよぅ・・・喧嘩してくれよぅ・・・」
「・・・マジックアイテムか?」
「そうだよぅ!この指輪を着けてると毒とか石化ブレスとかにレジストしやすくなるんだよぅ!」
「それは魅力的だな。」
ガルが景品として差し出したものは状態異常耐性を高めるとても魅力的なマジックアイテムだった。
「決まりだな!土曜日の昼に決闘だ!場所は俺が用意しよう!」
「爺勝手に決めるな。」
「わかったよぅ!土曜日っていつだぁ?」
「今日をあわせて六回日が昇ったら土曜日だ!」
「おう!じゃあ楽しみに待ってるぜぃ!」
そう言ってガルは満面の笑みで飛び立ち闇の中に消えて行く。
俺はフィルを睨み続ける。
「まぁルドルフなら大丈夫だろ!」
「・・・俺よりも魔力量が多いのだぞ?しかも魔王種だぞ?魔物の頂点だぞ?」
「ま、まままままぁ大丈夫だろう。」
フィルが目を泳がせながら脂汗を流して答える。
「ウラン殿?ウラン殿も勉強道具を用意しておくので土曜日に来ていただけるか?」
「わかったのじゃ!では失礼するのじゃ!」
そう言ってウランも飛び立って闇の中へと消えて行く。
「では帰るぞ?」
「爺・・・勝手に決めすぎだぞ?」
「ふぇっふぇっふぇっ!お前なら大丈夫だと思って任せたのだぞ?」
「魔王種相手だぞ?死なないようにするので精一杯だ。」
「死ぬなよ?・・・ふぇっふぇっふぇっ!」
フィルが一瞬真剣な顔で言ってすぐにいつも通りの好々爺といった表情で快活に笑いながら歩いて行くので後ろを付いて行く。
「明日は・・・今日か?寝坊すればいいからな?」
「ほう?朝食はどうなる?」
「たまにはわしらでどうにかしてやるわい!ふぇっふぇっふぇっ!」
「では楽しみにしておこう。」
「起こしにいくからゆっくりしておれ!ふぇっふぇっふぇっ!」
フィルの言葉嬉しくなり楽しみになりながら門を通り寝静まって静かな王都を歩いて学校に帰る。
「では明日はゆっくりと寝坊しなさい!」
「わかった。」
フィルと別れて寮に入りそのままハンモックに乗って横になる。
鍛錬をしなければならないのだが、今日は眠気が勝ちまぶたが勝手に落ちて意識が無くなる。
「ニ………コ………!………ニコ!」
マットに揺さぶられて目が覚める。
体感的にはさっき目を閉じた気がするが寮の中には日の光が差し込んでいるのでしっかりと寝たようだ。
「どうした?」
「助けて!もうどうしようもない!」
「何がどうしようもないんだ?」
「とりあえず来て!」
そう言ってマットに腕を引っ張るので制服に着替えてマットに手を引かれながら調理室に行くと困り顔のフィルと諦めの境地と言った言葉が似合う表情をしたアランがカマドの前に立ち尽くしていた。
視線の先のフライパンからは黒い煙が立ち昇っている。
近づいて見て見るとフライパンの上には消し炭は乗っており、隣の寸胴鍋には怪しい紫色の液体がボコボコと泡立っている。
「これと・・・これは本当に何だ?」
「ステーキ?」
「ポタージュスープを作ってたよな?」
アランとフィルが疑問系で言う。
「正解だが違う。お前らの朝食だ。」
そう言って隣のカマドに火を熾して非常食にと思ってとりおきしていた今までの残り物を温めてお盆に乗せて行く。
「これ・・・食べるの?」
「食べ物は粗末には出来んからな・・・」
アランとフィルが自分で作った料理を絶望の表情で眺めながら話している。
「さぁマット温まったから持って行ってくれ。」
「でも・・・あっちはいいの?」
料理を眺めて茫然と立ち尽くすアランとフィルを指差してマットが言う。
「なら俺が持って行くからマットは一緒に食べればいいぞ。」
「よ!喜んで!」
俺を押しのけてマットがお盆を持って調理室から出て行く。
「おい。俺達は行くぞ?」
「あぁ行ってくれ・・・今度からアランとは料理は作らん。」
「だからあたしに作らせない方がいいって言ったのよ・・・」
調理台の片付けを終えて無表情の二人は自分達で作った料理から視線を外さずに話している。
巻き込まれる前にさっさと食堂へと戻る。
「あれ?校長とアラン先生は?」
「気になるならあっちの料理を食べていいぞ?」
ターニャの問いに俺が言うとマットがターニャの腕を掴んで無言で首を振る。
ターニャだけでなく全員が事態を飲み込んだようで一様に配膳された料理に視線を戻して会話が終わる。
「じゃあ俺達は食べるぞ?」
そう言って席に座ると同時にみんながご飯を食べ始める。
今日は今までの残り物なのでみんなそれぞれに違う料理だ。
マットとシャルルは配膳係の特権をフル活用してやたら豪華な朝食を食べている。
俺たちが食べ終わる頃に死んだ魚の目をした二人が怪しい紫色の液体が入った皿と炭が乗った皿を持ったフィルとアランが食堂に入って来て机に座って料理を食べ始める。
二人共消し炭を食べ始め俺達が食堂から出て行くまで紫色の液体には手をつけなかった。
「ニコ?授業始まるぜ?」
「あぁそうだな。さっさと行こう。」
「走らないと間に合わないぜ!?」
「(さて!無駄に忙しかった休日が終わって日常だな。)」
そんな事を思いながらマット達の後ろを付いて教室へと向かう。
「さて!今日は授業の前に皆さんに仕事の斡旋があります!」
いつもの場所で画板を装着して待っているとバルテ先生が入って来て、普段の授業では絶対に出さない大声で言う。
「おい!仕事だってよ!」
「僕達一年生に言うくらいだから安全なんだろうね?」
「何だろうな?」
マットとシャルルを初めとした平民の多い鉄クラスがざわつく。
「静粛に!仕事内容は王都下水道内での荷物運びで期間は約一週間!報酬は歩合制で今回に限り学校も出席扱いです!希望者は十分以内に運動場に集合しなさい以上!では授業を始めます。」
おそらく下水道内の魔鼠を運び出す仕事だろう。
学生を募集しなければならないほどの数がいたようだ。
バルテ先生はそう言って淡淡といつもの声量で授業を始める。
「行こうぜ!」
「そうだね?ニコ君ノートお願いね?」
そう言ってマットとシャルルが教室から出て行く。
マットとシャルルを皮切りに鉄クラスの半数以上が教室から出て行く。
「(みんな下水道と聞いてただろうに・・・よく行くな。)」
感心しながら運動場へと向かうみんなを眺めながら授業のノートをとる。
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