第四十五話 雷龍。そして水竜。
「猛々しく・・・食べ尽くす・・・龍・・・」
声に出してイメージを固めて行く。
隣のフィルと急いで昼飯を食べ終えたアランが目を輝かして俺を見ている。
「雷龍!」
両手を前に突き出して魔法を放つ。
「バリバリバリバリ!」
雷の龍が轟音を上げながら手の平から飛び出し霧の中に溶けて行く。
「(久々に本気で魔法を放ったが上手くいった。)」
轟音を出しながら霧に溶けて行く龍を見てそう思うが尻尾まで全部霧の中に溶け終えるまで集中は切らさない。
「この魔法は・・・すごいな。」
「ねぇ?ニコが使える魔法の中ではどの位置なの?」
「話しかけるな。これでも暴走しないように必死なんだ。」
フィルとアランが何か言ってるが雷龍の制御でいっぱいいっぱいなので何を言われたのかもさっぱりわからない。
数秒だったのか数十秒だったのかわからないが、雷龍の尻尾が霧に溶けきり思わず大きく息を吐いきながら地面に座り込む。
「はぁ・・・」
「ニ・・・ルドルフがこんな姿になるとはな・・・」
「まぁこんな大魔法を発動したから当たり前でしょ。」
「数分は絶対霧に触れるな。あと爺は間違えそうになりすぎだ。」
恐らく今の霧に触れると良くて触れた箇所が吹っ飛び、悪ければ通電して即死するだろう。
フィルとアランが何か言ってるが無視して警告をしておく
あとフィルは俺の名前を間違えかけすぎなので釘を刺しておく。
「にしても王都の下水道を全部覆う帯電霧を作るとはねぇ。」
「そうだな。規格外にも程がある。」
「フィル?マネージャーとしては今回の仕事はかなり貰うよ?」
アランが人差し指と親指で丸を作っていやらしく笑いながらフィルの肩を叩いている。
「・・・アレクと相談する。」
「王都を救ったのを忘れないようにね?」
「わかっとるわ!」
「じゃあ後始末よろしくっ!」
「そうだな。」
フィルが霧が霧散しないように魔法を維持し続ける騎士団達の下へと歩いて行く。
「こりゃかなり貰えるよ?」
「そうなのか?」
「魔鼠って魔物は小さくて弱いけど、伝染病とかを持ってるからもし地上に溢れたら王都に病気が広まって壊滅なんて事態もありえたからね?しかもいつ溢れてもおかしくないほどに大量発生してたからね!」
「全ての魔鼠を殺せてたらいいのだがな。」
「ここからでも霧の放電が見えるし問題ないっしょ!」
そう言って隣に座るアランが言う。
下水道の中の霧が放電して時折入口が眩く光っている。
「で?この後何すんの?」
「何も無いのなら疲れたしまずは王都の大浴場に行ってゆっくりとしたい。」
隣に座るアランが興味津々と言った様子で話しかけてくるので言う。
本気で魔法を放ったのでかなり疲れた。
王都に来てから一ヶ月以上経つのに行けていない大浴場に今日こそ入ってゆっくりとしたいのだ。
「ならフィル達が忙しそうにしてる今がチャンスじゃない?」
「なるほど。じゃあさっさと離れよう。」
「大浴場は宿屋街の中心にあるよ!」
「ふむ。では早速向かおう。」
珍しくアランが俺を逃がしてくれるようだ。
ありがたく足早にその場から抜け出す。
途中でマスクを外して宿屋街を歩く。
「あれか・・・」
煙突から白煙を上げる巨大な建物が見え始める。
思わず歩く速度が早くなる。
建物の入口に着くが建物は巨大で学校の校舎よりも大きいかもしれない。
意を決して浴場へと入る。
「すまない男一人。」
「あいよ千ゴールドだ。」
さすがは王都だ今までの村の大衆浴場よりも高い。
番台に座る店員にカードを出して中に入る。
「これは何だ・・・?」
いくつもの扉が付いた棚が並んでいる部屋に入る。
棚の扉には鍵が付いている。
「坊ちゃん初めてか?この中に脱いだ服を入れて鍵を持って風呂に入るんだぞ?鍵は無くすんじゃねぇぞ?」
「なるほど。助かった。」
俺が考えていると隣の初老の男性が教えてくれたのでありがたく言われた通りに脱いだ服を入れて鍵と風呂セットを持って浴室に入る。
「広すぎるだろ・・・」
浴室は百人が入っても余裕がありそうな巨大な浴槽があり滑り台のような物まで付いている。
そしてその周りにはいくつもの小さな浴槽が設置されている。
「とりあえず体を洗ってから見学するか。」
体を洗っている大人達に混じって体を洗う。
石鹸を持ってきたがさすがは王都今までの村の大衆浴場では桶と石鹸は持参しなければいけなかったのだが、桶と一緒に石鹸も備え付けられていて無料のようだ。
感心しながら体を洗い風呂セットを棚に戻してから浴場を見学する。
「これは水風呂・・・薬草風呂か。」
巨大な浴槽の周りにある小さな浴槽は今まで見た事の無い特殊は風呂のようだ。
その中でも特殊な風呂を発見したので入ってみる。
サウナと言う高温多湿な個室の中で汗を流す部屋のようだ。
険しい顔をした大人達が汗を流しながら椅子に座っているので俺もそれに倣って隣に座ってサウナを楽しむ。
「(体の中に溜まっていた疲れが汗と一緒に出るようだ。)」
とても心地よくついでに鍛錬を行っておく。
今日は大魔法を放ったせいで魔力の流れが乱れているのでしっかりと普段通りの流れに戻しておかないといけない。
「兄ちゃんすげぇな・・・顔色一つ変えずにどんだけの時間そうやってんだ?」
「・・・三十分くらいは経ったかもな?」
「そりゃすげぇ!逆上せて倒れないように気をつけろよ!」
そう言って初老の男性が部屋から出て行く。
先ほどから何度も出入りしているのでまた休んですぐに戻ってくるだろう。
更に十分ほど鍛錬をしてサウナから出て、ぬるぬるの汗で気持ちが悪いのでもう一度体を洗って色々な風呂に入ってみる。
「(薬草風呂・・・よくわからんな。)」
その他にも熱湯風呂や熱砂風呂という砂の中に埋まって温まる風呂まであった。
一通り堪能して大浴槽にゆっくりと浸かる。
「(やはりオーソドックスな普通の風呂が一番気持ちいいな。)」
そんな事を思って風呂にゆっくりと使って疲れを癒していると外から鐘の音が聞こえて浴場内の人間が慌しく脱衣所へと出て行き始める。
「おい坊主!警報だ避難するぞ!」
「そうか。それは大変だ。」
「落ち着いた坊主だな・・・急げよ!?」
そう言って親切な老人が脱衣所へと走って行く。
お爺さんこそ急ぎすぎて滑って転ばないように気をつけて欲しいものだ。
俺もみんなの後に付いて服を着て外に出る。
「本当にいた!ニコ君!?」
大浴場から出ると夕暮れになった王都でアルフォンスが駆け寄ってくる。
「おぉ!騎士さんだ!何があったんだ!?」
「王都は問題ないのか!?」
「どこに逃げればいいんだ!?」
質問する王都民達に囲まれアルフォンスが見えなくなる。
「南!南の下水道の川を上った所で水竜だ!」
「わかった。」
聞こえないだろうが一応返事をして自分に認識阻害魔法をかけて家の屋根づたいに昼間にいた下水道の入り口へと向かう。
下水道の入り口に着くが誰もいない。
「(そういえば川を上った所と言っていたな・・・)」
そう思って王都の外壁を登るのが早そうだ。
高さは約三十メートルその場で垂直飛びをして中腹にゴブリンソードを突き刺し上に乗る。
そしてそこからもう一度飛び上がり王都の壁の上に行く。
下からではわからなかったが壁の上は広い通路のようになっていた。
そして王都の外へ視線を移すと水竜が見えその前に騎士団であろう白い集団が見える。
俺は壁から飛び降りて魔法で風を起こして身の安全を確保して着地する。
そしてすぐに水竜が居た方向へと走る。
「雷魔法の主はおらんのかぁぁぁぁぁ!?」
遠くから水竜のであろう怒号が聞こえる。
「(俺が目当てなのか・・・気が重いな・・・)」
一週間の食材の買出しをしてからどこかで適当に晩飯を食べて帰って寝ようと思っていたのにとんだハプニングだ。
水竜の下に急ぐ。
近づくと話しているのだから魔族なのだろうが水竜はワイバーンの様に手が翼になった亜種ではなく本物の竜種のようだ。
もし戦闘になった場合、俺でも勝てるかわからない、そして間違いなく後ろにいる騎士団は壊滅するだろう。
「待たせたな俺が雷魔法の主だ。迷惑をかけたのなら謝罪しよう。」
雷龍は霧以外には干渉しないようにしたつもりだが、久々の本気で放った魔法なのでもしかしたら川に感電してしまい怒ったのだろう。
しっかりと謝って穏便に済ませる意思がある事を伝えるのを忘れない。
後ろの騎士団やフィル達はどうすればいいか困って目を泳がして右往左往しているが無視する。
「ほほぅ?やはり本当に人間があのような魔力を・・・」
「すまなかった。魔法が川に干渉し無い様に注意したつもりだったのだが失敗したようだな。」
俺がそういうと水竜は巨大な首を傾げる。
俺もそれ見て首を傾げる。
数瞬沈黙が流れ何かに気付いた様子の水竜が人間臭く左の前足の平を右の前足で拳を作り軽くポンッと叩く。
「違うのじゃ!助けて欲しいのじゃ!と言っても人間が魔族であるわらわを助けんのじゃろうが・・・」
「話し次第だ。」
「え?」
「だから話し次第だ。話してくれ。」
騎士団がざわめく中、目を丸くした水竜がポツリポツリと話し始める。
「我らの集落が窮地での・・・ダンジョンに巣くったアークデーモンを退治してくれぬか?」
「何体だ?・・・にしても竜種なら倒せない相手じゃないだろう?」
「三体おっての・・・我ら水竜は結界魔法が得意なのじゃが・・・攻撃魔法は苦手での・・・」
「・・・はぁ・・・集落までは連れて行ってくれるのか?」
アークデーモンとは悪魔界からやってきたといわれる魔物で実体を持たない魔素の塊なので物理攻撃が効かない。
攻撃魔法が苦手なのであれば最強の竜種と言えども水竜の天敵と言っても過言ではない魔物だろう。
水竜が言いにくそうに言うので俺は大きく溜息を吐いて言う。
「おぉ!?もちろんなのじゃ!さぁ乗ってたもぉ?」
そう言って水竜が後ろを向いて背中を見せてくる。
おそらく乗りやすいようにしてくれたのだろう。
俺はとりあえず水竜の背中に飛び乗り羽根の付け根に掴まる。
「あたしも付いて行くわ!」
「待て!お前は明日から学校で任務だろう!ワシが行く!」
アランを押しのけて意を決した表情のフィルが俺の隣にやってくる。
「では行くのじゃ掴まってたもぉ!!」
そう言って水竜が空に飛び上がる。
「フィル?こんな高い所を飛ぶなんて経験あるか?」
平穏な日常は諦めてこの経験を楽しむことに決める。
「んぎゃあぁぁぁぁぁ!!落ちる!落ちるぞぉぉぉぉ!」
フィルが背中を滑り落ちて尻尾に掴まって泣きながら絶叫しているが水竜は気付かずに空を優雅に飛んで行く。
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