第四十三話 密会小屋を発見
「さて・・・頂上に着いたけど・・・これは山全体を見たほうがよさそうね?」
「そうだな。」
魔法陣だらけの山を登り頂上でアランが呆れた様子で言う。
一個描くのにルルでも三分はかかるだろう、俺だったら三十分はかかるその魔法陣が軽く百を越える数描かれている。
気が遠くなるような作業量だ、どれだけの時間を描けて描いたのかとても気になる。
「魔力を補充しておこう。」
「お願い。」
アランの頭に手を置いて目に纏わせた魔力を補充する。
俺の魔力なのでアランでは操作できないので十分程で霧散してアランでは隠してある魔法陣を視認する事が出来なくなるからだ。
その後もアランに魔力を補充しつつ山を見て行くがどこも魔法陣だらけだ。
だが騎士以外の人影は見当たらない。
「いないわね?魔法陣は描き終わったという事かしら?」
「その可能性が高いな。」
「とりあえずあたしは学校に帰って爺に報告するけどニコは?」
「俺は森で一夜を明かして明日ギルドに行ってからだな。」
アランが俺の言葉に一瞬考えて悔しそうな顔をする。
おそらく俺の晩飯を当てにしていたのだろう。
「ニコの晩御飯を食べてから帰りたいけどそうも言ってられないわね。」
「お前らで魔法陣を見る手段はあるのか?」
「事が事だから国宝級のマジックアイテムとか出すんじゃない?じゃあね!」
思ったとおりアランは調査のついでに俺の晩飯を食べるつもりだったようだ。
アランはそう言って手をひらひらと振りながら学校の方向に進んで行く。
俺はアランを見送ってから最初入った森に帰って夜営の準備を始める。
それにしてもこの森は管理が行き届いているとは言え不自然なほどに魔物がいない。
「(この森に溜まる魔素はどこに行ってるのだろうか?)」
そんな事を考えながら料理を作る。
料理を作っていると突然声が聞こえてくる。
捜索魔法をかけると料理をする前は誰も入っていなかった小屋の中に大人と子供の反応がある。
小屋は騎士団が管理する山の敷地内にある小屋だ。
大人が二人なら騎士の可能性もあるが、反応は大人と子供の二人なので確認しなければならない。
念のためにマジックバッグから刀とベネチアンマスクを取り出して装着する。
「落ち着いたと思ったらまた面倒事ばかりだ。」
思わず愚痴を零しながら小屋へと向かう。
「マジ疲れたわどんだけ魔法陣描かすんだよ!」
「お疲れ様?これで成功間違いなしね。」
「こんだけやって失敗とか冗談じゃねぇよ!毎日夜通し描いたんだぜ?」
「向こうの準備も問題無しね?」
「あぁ。問題無しだ。」
「お疲れ様。じゃあ私は戻るわね?」
「へいへい。頑張ってください。」
「じゃあしばらくゆっくりしてなさい?」
そう言うと小屋の中から光が漏れる。
捜索魔法を使うと小屋の中には男の反応しかない。
恐らく子供が転移魔法陣を使って転移した際の光だろう。
転移には恐ろしい魔力を消費するはずだ。
それを使える子供がいるとは要注意人物だ。
顔が見えなかったのが悔しいが男が移動を始めるので意識を切り替える。
「やっとゆっくり出来るぜ!」
男が言いながら小屋から出て来る。
「俺も自分の事だけを考えてゆっくりしたいものだ。」
声をかけるつもりが心の声が口から出てしまう。
「精霊よ我に力を!」
男は俺の言葉に反応して俺のいる場所へ火の玉を放ってくる。
今までの人間達を見る限り反応速度も速く咄嗟の魔法で詠唱省略を使っているのでかなりの手練れのようだ。
飛んで来る避け・・・て騒ぎになっては面倒臭いので火の玉を受け止めて魔法を構築している魔力を分解しながら握りつぶす。
「化物か!?」
「お前は何者だ?」
男が魔法を握りつぶす俺を見て驚いているが気にせずに問いかける。
が男は俺の問いに答える気はないようだ。
黒塗りナイフを投げてから抜刀して切りかかってくる。
「(かなり戦い慣れてるな。)」
黒塗りのナイフは闇に紛れて全く見えない。
そんな事を考えながら男の周りに魔法障壁を張って閉じ込める。
ナイフが魔法障壁に当たって地面に落ち、男が後を追って魔法障壁にぶつかって尻餅を着く。
「マジでお前なんなんだよ!」
「騎士団九番隊々長ルドルフだ。お前は何者だ?」
男に問いかけるが鼻血を出しながら魔法障壁を蹴ったりして破壊を試みるばかりで返答は得られそうにない。
「人が名乗ったらを名乗り返すのが常識じゃないのか?」
「うるせぇ!お前の事は忘れねぇからな!」
そう言って男が懐から魔法陣が刻まれた石を取り出す。
魔法陣が怪しく光り始め男が俺を左手の人差し指で指しながらその場から消える。
「ちっ!本で見た転移石というものか。」
転移石はかなりの貴重品と書いてあったはずだ。
それをあんなに簡単に使うとは只者ではないはずなのでフィルに報告するべき案件が増えたと思わず舌打ちが出てしまう。
考えても仕方ないのでさっきの場所に戻って料理を再開する。
「はぁ・・・」
小屋からまた話し声が聞こえたので思わず溜息を吐く。
捜索魔法では大人が二人のようだ。
「(今日は小屋で寝よう。)」
慎始敬終と言う言葉もあるので関わった以上きっちりとやり切らないと駄目だろう。
スープは出来上がっているので鍋をマジックバッグに入れて火の始末をしっかりとしてから小屋に近寄る。
「首尾は?」
「上々でさぁ!もうじき下水道がいっぱいになって溢れる頃合でさぁ!」
「よしよし。調査もしっかり出来てるな・・・」
「へへへありがとうございやす。」
金を数えているのだろうジャラジャラと音がして後の会話が全く聞き取れない。
しばらくジャラジャラと音を響かせた後に男達は小屋からで別々の方向へと進んで行き闇の中に消える。
「(ん?よく見るとこの小屋・・・認識阻害魔法がかけられてるのか。)」
小屋の壁をよく見ると魔力の膜がある。
気になるがとりあえず小屋に入って晩飯を食べる。
小屋の中は二メートル四方の何もない部屋が一つあるだけの掘っ立て小屋だ。
何か罠があるとかは無さそうなのでとりあえず鍋とパンを取り出して晩飯を食べる。
晩飯を食べ終わり小屋を隅々まで調べる。
認識阻害魔法は建物などに掛けると人に掛けるのと違い魔力が霧散すると魔法が切れるのだが、この小屋は切れる様子は無いので何か仕掛けがあるはずだ。
と言っても小屋は一室のみで天井も無い掘っ立て小屋なので調べる場所は多くない。
一通り壁や屋根を見ても以上はないので床下に潜ると魔法陣が怪しく光る石板を見つけた。
石板には魔石が嵌められている。
「(なるほど。こうやって魔力を供給しているのか・・・)」。
魔法陣と魔石に魔力経路を引いて魔法を発動させているだけの単純な構造だがその発想に感心する。
小屋の中で石板を見ながらそんな事を考えているとまた来客だ男と女が入ってくる。
もちろん認識阻害魔法を使っているので部屋の隅で座っている俺に気付く事無く話し始める。
「これが調査書でこれが貴族の悪口リストね?」
女がそう言って豊満な胸に挟んでいた紙を取り出して男に渡す。
「よしよし。」
男はその紙を読んで満足そうに頷いている。
「早く謝礼をおくれ?」
「わかっている!引き続き頼むぞ?」
「あいよ!やばいと思ったら手を引くからね?」
「問題ない。ではまた合おう。」
「会えるように頑張るさね?」
女が皮袋の中身を数えながら言い、男は小屋から出て行く。
「クソ貴族と寝て金貰って、クソ貴族の世間話をチクって金になる・・・ボロイ商売さね!あっひゃっひゃっひゃ!」
女が金貨を数えながら嬉しそうに高笑いをする。
「(予想通りこの小屋はスパイとの密会場所なのだな・・・大胆不敵だな。)」
騎士団が管理する山にある小屋を密会場所にしてる事に驚きを隠せない。
女はそのまま嬉しそうに数え終わった金貨を入れた皮袋を抱えて出て行く。
魔法陣が光っている石版を床下に戻して鍛錬をする。
「(まだ来るのか・・・)」
少年が入ってくる・・・見覚えがある。銅クラスの同級生だったはずだ。
俺は鍛錬を途中止めして動向を見守る。
少年は折りたたんだ紙を床に置いてすぐに出て行く。
「(ふむ・・・学校の見取り図に×マークが描かれているな・・・)」
見取り図をサラサラとノートに書き写して元あったように折りたたんで床に置いて鍛錬を再開する。
鍛錬をしているとローブのフードを深深と被った人間が入って来て紙を拾って出て行く。
「(この国はどれだけスパイがいるんだ・・・)」
そんな事を思って呆れながら鍛錬を終え寝袋に入って就寝する。
「おい!剣聖がこの山にいるぞ!誰かとちったのか!?」
扉を乱暴に開けて右手のブレスレットに怒鳴りながら男が入って来る。
マジックアイテムで会話しているのだろう。
どこにでもいる普通のオッサンだ。
「何?ならなんで剣聖がこんな時間に山にいるんだ!?」
相手からの音声は直接脳内にでも響いているのだろうか?
男は一人でブレスレットに怒鳴りつけている。
「もういいしばらく動きを控えろ!・・・あ?大事な時期だからこそだ!連絡もしばらくは中止だ!」
男が外を気にしながら話して小屋から出て足早に去って行く。
「(・・・フィルがいるならさっさと報告して寝るか。)」
のそりと寝袋から出て山に向かう準備をする。
「あぁめんどくさい。」
思わず心の声を漏らしながら寝袋を畳んでマジックバッグに入れて小屋から出る。
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