第四十二話 騎士団の山
「レナエルとオーギュストは秘密の内部監査官だ。」
「だろうな。一年生にしてはレナエルは隙が無さ過ぎる。」
今日の模擬戦の時に不自然だったシモンヌを見ていたのもそういう意味だったのだろう。
何人か不自然な人間を知っているが恐らくレナエルは調査済みだろう。
それに何よりも素人の俺が口を挟む領分では無い。
「レナエルの報告書によれば十人のスパイが発見された。例年であれば一人二人なのに王子と勇者がいるからだろうな?今年は多すぎる。」
「そうか・・・で?どういう風に実習は進むんだ?」
「順位関係無しで全学年混ざってパーティを組んでそれぞれが地図を頼りに学校からの任務をこなして行く。任務をこなせてなくても翌日の夕方に学校に集合だ。」
それなら俺が王子と一緒の組になってもそこまで不自然ではなさそうだ。
逆にルドルフで行くとしても俺がどの組かわからないようにする細工は簡単に出来そうだ。
「で?アランはなんでルドルフの方がいいと思うんだ?」
「最近ハイゼン王国の動きがおかしいからね。もし本気を出さざるを得ない状況になったらルドルフじゃないと動きにくいでしょ?ニコが実習に参加してないのは爺ならいくらでも誤魔化せるっしょ?」
アランの言う事にも一理ある。
もし剣での打ち合いになっても使い慣れてない学校用に買ったロングソードでどこまで戦えるか自分でも未知数だ。
「それがかなり難しいからニコで行って欲しいのだ・・・」
フィルが頭を抱えながら言っている。
「なぜだ?」
「野外実習は本当の意味での死人が出ないために生徒管理は完璧にしているからだ!場所も普段は国が完璧に管理している山を使うし、教員や騎士達にもばれないように誤魔化すのはかなり厳しいのだ・・・」
フィルが頭を抱えたまま言う。
確かに言われて見れば学生の九割以上は貴族の子供だ。
そんな子供を学校の授業中に死なせたりしたら大事なのは俺でも分かる。
「それをどうにかするのが爺の仕事だろ?」
「いい。それなら生徒として護衛しよう。アランも付いてるんだろ?」
アランが机を叩いてフィルに抗議し始めるのでそれを制止してフィルに尋ねる。
「それは約束する!アランは王子の護衛任務だけだ。」
「あたしがばれないように尾行するけどさぁ・・・」
「なら問題無い。下見などをしておきたい。」
俺の言葉にフィルは嬉しそうに顔を上げて地図を取り出して机の上に広げる。
「本当にすまんな。ちゃんとした依頼だから金も支払う。」
「わかった。で、王子組の任務や予想ルートなどは?」
「山頂だけに生える薬草の採取だ。ここからスタートだから・・・」
ありがたい事に目標地点が一箇所だけの任務にしてくれたようで、フィルが教える予想ルートもそれ以外には考えられないものだ。
「普通に考えればそのルートしかないだろうな。」
「そうだろ?」
「実習までの休日は下見で潰れるな。」
何があるかわからないので出来る限りの準備はしておきたい。
敵が襲ってくるであればかなりの準備をしていると思われるのに、俺がぶっつけ本番で挑む理由は無い。
「爺?依頼額は・・・これだけだよ?」
「・・・二・・・十万か?」
アランがチョキをしてフィルに言うとフィルは一瞬口ごもって言うが、アランが鼻で笑っている。
「金級冒険者が二ヶ月間の休日を潰して準備するんだよ?二百よ!しかも基本依頼料がよ?」
「・・・致し方あるまい。」
フィルが苦虫を潰したような顔で了承する。
基本依頼料という事は、襲撃が起きなくても二百万ゴールドをもらえるという事だ。
勿論本当に襲撃が起きたりすれば危険度などによって加算される。
「ニコ?どうやって下見するの?」
「鉄級冒険者として森で薬草集めの依頼でも受けてその森に忍び込むさ。」
「そっか・・・それに付いて行くのは不自然ね・・・」
アランが不満そうにソファにもたれかかりながら呟く。
そろそろ少しづつでも自分自身のランクも上げておかないといざという時に困るかもしれない。
分相応のランクにはなれるようになっておきたい。
「ではニコすまんが任せた!一応言っておくがレナエルの事は極秘だぞ?」
「わかってる。」
フィルが締めくくってくれたので、校長室を出て図書室へと向かう。
準備と言っても森の中を把握する程度なのだが何もしないよりはするに越したことは無い。
図書館で王都周辺の地形などを調べておく。
「ニコ君?終わりですよ?」
「ん?あぁいつもすまんな。」
「いえいえ。いつも一人で時間まで本を読んでいたので人がいるのは嬉しいですよ。では暗いので気をつけてね?」
司書のフィオナに見送られながら寮に帰る。
「(さて・・・休日は中々忙しくなりそうだな。)」
鍛錬を終えて寝息しか聞こえない寮の中で音を出さないようにハンモックに乗って寝る。
三日後休日になり王都の冒険者ギルドへ行く。
目当ては薬草採取の依頼だ。
それも国が・・・というよりは調べると普段は騎士団が訓練場として管理している山だったのだが、その山の近場の森で取れる薬草採取の依頼を探す。
「シャクヤクとオウギの採取だな。」
依頼票を受付に持って行く。
「はい!受け付けましたが、この隣の山は騎士団が管理しているので入らないようにね?」
「わかりました。」
「シャクヤクとオウギはこの辺に生えてて・・・この線が山との境界線だからね?」
俺のカードを処理しながら受付嬢に言われる。
わざわざ地図まで出して説明をしてくれるのでよほど間違えて入ると危ないのだろう。
俺はしっかりと返事をしてカードを受け取って森へと向かう。
王都の森は初めてきたが足元の草もしっかりと刈られて管理が行き届いていてとても綺麗な森だった。
入り口付近は俺と同年代か年下の子供が籠を片手に薬草摘みをしている平和な森だ。
そんな子供たちを横目に薬草を集めつつ森の奥へと入って行く。
依頼分の薬草は集まったので自分に認識阻害魔法を発動して目的の山へと入る。
森と山の境界には人の気配は無いが柵が設けられていてすぐわかるようになっていた。
俺は構わずに木から木へと飛び移りながら目的の場所である野外実習のスタート地点に向かう。
魔物の生息域でも調査しているのだろう。地図片手に騎士達が山の中を歩いている。
「(やはり地上を走らなくて正解だったな。)」
俺の判断は正しかったようで、大満足で森の中を進む。
「おい・・・何してるんだ?」
「来たね?待ってたよ?」
スタート地点に着くとアランが枝の上に座って鼻歌を歌いながら体を揺らしている。
俺が声をかけると、認識阻害魔法が切れた俺を発見して手を挙げて言って来る。
「なぜ?」
「あたしも尾行するんだから一緒に調査した方がいいかな?って思ってね?」
「はぁ・・・もう何も言う気が起きん、行くぞ。」
そう言って木から木へと飛び移りながらとりあえずフィルの考えた予想進路ルートを進む。
「ちょっ!まっ!!はやっ!」
アランが慌てて付いてきている。
「おい。枝を揺らしすぎだ気付かれる。」
「あんたのペースで枝が揺れないのがおかしいのよ!」
「足手まといだな・・・」
「足手まといなんて初めて言われた・・・」
アランが何やらショックを受けているが、そんなに枝を揺らされると音や落ち葉で騎士に気付かれる可能性がある。
形跡を残さないように行動してもらわないと困る。
「もういい。アランが無理の無い速度で進め。」
「わかったわよ!」
「煩いばれるさっさと行け。」
俺の言葉に頬を膨らませながらアランが木から木へと飛び移って行く。
速度は俺がさっき進んでいた時の半分くらいだが枝は揺れていないのでばれるよりは全然マシだ。
「アランそろそろ止まれ。」
「え?どうしたの?」
「・・・気付かないのか?」
木の上からざっと地面を見回すだけでも二十は下らない数の魔法陣が描かれている。
「何が?」
「よくもまぁ作った物だ。そこらへん中魔法陣だらけだ。」
「見えないんだけど?」
「ちっ!仕方ない。鍛錬不足だぞ。」
アランが辺りを見渡しながら言うので、舌打ちをしてアランの頭に手を置いて目に魔力を纏わせる。
「すっげ!こんな風に見えてんの?」
「疲れるからよっぽどでないと使わん。」
「魔法陣だらけじゃん・・・しかもこれ転移?」
「おそらく転移陣だと思うが俺にはわからん。」
俺は転移魔法は使えないので詳しく無い。
恐らく転移系の魔法陣だろうが断言は出来ない。。
「もしこれが転移陣なら王子だけをどこかに飛ばせるし、大量の魔物や人員が突然やって来て大パニックって事もありうるわね・・・」
「いいか?まだ誰かが魔法陣を描いてるかもしれん。気をつけて進むぞ?」
アランが魔法陣を眺めながらブツブツと言っているので念を押しておく。
その魔法陣を描いてるやつが俺達よりも魔力が高くて認識阻害魔法をレジストされる可能性もある。
アランが真剣な顔で頷いてさっきよりもさらにゆっくりと進み始める。
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