第四十一話 日常は長く続かない
「んー!」
朝日の日差しを感じて目覚めてハンモックの上で大きく伸びをする。
高いだけあって寝袋はとても心地よくぐっすりと眠れて寝覚めも気持ちがいい。
制服に着替えて調理室に行き手早く朝食と平行してアランに買ってもらった鍋で昼食も作る。
少しバタバタと忙しいが短い昼休みに楽をするためにも必要な事なのだ。
「おはよう。どっちの鍋を持っていけばいいかな?」
「おう!ニコ今日もありがとうな!」
「おはよう。いつもの鍋を持って行ってくれ。」
エミールとロジェがやってくるので指示を出す。
二人が鍋を持って行き、黒い寸胴鍋をマジックバッグに入れて片付けをして食堂へと向かう。
食堂ではいつも通りにみんなが配膳を済ませた机で待っているので、アランとマットの間に座って食事をする。
「なぁニコ?昨日ニコ達が帰ってからすぐに大喧嘩があったみたいだけど大丈夫だったか?」
「ん?俺は何も知らんな。」
朝食を食べているとマットが心配そうに聞いてくるが、全く心当たりがない。
「マット?何かあったの?」
「あぁ、昨日街灯を一本折る大乱闘があったんだってよ?怪我人も出たらしいぜ?」
ターニャの問いにマットが答える。
俺達の事だったようだ。
アルフォンスからの報告を聞いているのだろうフィルがこちらを睨んでいるがアランは気にした様子はなく朝食を美味しそうに食べている。
そんなアランにどんどんとフィルの表情が険しくなっていく。
アランは全く気にしてないようだが、俺は大変居心地が悪い。
「無駄話はせずにさっさと食べて授業に行こう。」
「そうだね!」
「そうね?食器も洗わないと駄目だしね!」
昨日の事件の話をしていたみんなが話をやめて朝食に集中する。
朝食を終えターニャとシモンヌに食器を洗って貰い教室へと七人で進む。
これから授業と料理をして一日を終える変わらない日常がやってきた。
一ヶ月が経ち剣の実技授業が変わった。
運動場での素振りが終わり、今日からは演習場での模擬戦になるようだ。
フォルナとアイリーンの先導でクラスごとに移動していく。
演習場内の舞台は全部で八個。金、銀、銅、鉄で舞台を公平に二個づつ使って模擬戦を行うようだ。
「公平だが不公平だな。」
「そうだな・・・順位順に模擬戦みたいだぜ?」
「金クラスなんて騎士の先生に丁寧に教えて貰ってるみたいだね。」
模擬戦を観戦する人ごみから離れた場所で俺の呟きにマットとシャルルが反応する。
「俺達の番いつになるんだよ?なぁニコ?」
「計算したがとりあえず今日は俺達が模擬戦をする事は無いってことだな。」
「暇だなぁ・・・。」
模擬戦を見ていると一試合約五分。
実技の時間は二時間半、三十試合なので二つの舞台で行うとして百二十人だ。
銅クラスでも二回は模擬戦ができるという計算だ。
鉄クラスは二百五十人いるのでワーストスリー俺達の番は明日、下手をすれば明後日だ。
「俺は本でも読むかな。」
「じゃあ俺達はニコのノート書き写そっと!」
「今やっとけばあとで楽ですもんね!」
マットの言葉に反応して俺のノートを渡して本を読む。
二人は演習場の端に座る俺の隣で武具用の棚を机にしてノートを書き写し始める。
「(演習場に移動しても結局俺達底辺は変わらなかったな・・・)」
そんな事を思いながら本に没頭する。
「ニコ?銅クラスでターニャ、鉄クラスでシモンヌの模擬戦みたいだぜ?」
「見に行こうよ!」
「わかった。」
模擬戦が終わった生徒や自分の番がこないとわかっている生徒はみんな金クラスのフォルナの指導を見に行っているので銅と鉄クラスの舞台は自分の番を待つ生徒以外はいない。
演習場の端にいても舞台の上に緊張した様子のターニャとシモンヌがそれぞれに上がっているのが見えるので三人で観戦をする。
「シモンヌもターニャもニコの指導のおかげで強いな!」
「おれの指導のおかげかは知らんが、シモンヌに至ってはかなり手を抜いてるな。」
「ニコ君のおかげだよ!でもシモンヌさん手を抜いてるの?僕には一生懸命戦ってるように見えるよ?」
二人共対戦相手を圧倒して余裕で戦っている。
ターニャは貴族という事もあり下地があるので納得なのだが、学校に入るまで剣を握った事もないと言っていたシモンヌに違和感を感じる。
相手の動きを捕捉した上でミスをして互角の勝負を行っている。
どちらかと言うと相手を圧倒しないように一生懸命になっているような感じだ。
「(にしても気になるな・・・)」
なぜか銀クラスのレナエルがシモンヌの戦闘を凝視している。
そして何よりも完全武装しているので顔が見えないが、鉄クラスの指導員の騎士が舞台に背を向けて俺達の方を見ている。
「エミールは優雅だなぁ。」
「鉄クラスはロジェ君みたいですよ!?」
「ロジェは力任せに振りすぎだ。」
エミールは悠々と余裕の笑みを浮かべながら試合を終えた。
ロジェは力任せに相手を圧倒している。
「ニコ?あれは駄目なのか?」
「うんうん!圧倒してますよ?」
「それは相手が弱いからだ。あんな力任せな剣受け流すだけでロジェはバランスを崩して隙だらけになる。」
「なるほど・・・」
「受け流す、かぁ。」
二人が俺の言葉に考え込んでうんうんと唸り始める。
俺はそんな二人を置いて端に戻って読書に戻る。
ノートの書き写しを終えたのだろう、二人は見えない剣を構えて二人で模擬戦をしている。
俺だから模擬戦とわかるが、傍から見たらただ二人でじゃれあってる様にしか見えないが二人共真剣な表情だ。
「今日はここまで!今の模擬戦をもって終了だ!」
フォルナの声が演習場に響く。
俺が本を閉じるとマットとシャルルは息を切らしながらまだ二人で真剣にじゃれあっていた。
「なぁニコ?今日から演習場使っていいらしいから俺達に模擬戦の稽古つけてくれよ!」
「うんうん!マット君とのフリじゃわからないです!」
最後の模擬戦が終わり演習場から出るときにマットとシャルルが言って来る。
二人の言いたい事はわかるが俺は忙しいのだ。
「晩飯を作るからな・・・エミールとターニャに教えてもらえ。」
「料理の事を言われたら何も言えないな・・・」
「マット君頼みに行こっ?」
シャルルがマットの手を引っ張ってターニャ達を探しに離れるので、ホッと一息吐いて着替えるために寮に直行する。
料理を作っていると真剣な表情をしたアランとフィルが近づいて来る。
「どうした?飯はまだだぞ?」
「話しがある。夕食が終わったら図書室でなく校長室に来い。」
「ニコ・・・断わってもいいからね?」
「(面倒臭い予感しかしないな・・・)」
それだけ言って踵を返して調理室から出て行く二人を見ながら考える。
一気に気が重たくなって思わず料理をする手が遅くなる。
「(あいつら何してるんだ?)」
料理が出来上がって片付けを終えてもエミールとロジェがこない。
仕方がないので出来上がった料理を持って食堂へ行くとフィルとアランが二人だけでいつもの机に座って待っていた。
「みんなは?」
「多分剣の練習をしてるんじゃない?」
「ふぇっふぇっふぇっ殊勝で良い事だな!」
「俺達が食べ終わるまでに来なかったら残りは朝飯だな。」
そう言って配膳を済ませて三人で晩飯を食べる。
「で?今日は何の話だ?」
「・・・後だ。」
「人が多すぎるわ。」
二人が不自然で無い程度に周りの様子を伺いながら言う。
「全く・・・気が重い。」
溜息混じりに言って晩飯に集中する。
「ごめんよ!演習場の中時間がわからなくて!」
「うんうん!みんなで熱中しすぎちゃって!」
俺達の晩飯が終わる頃に汗まみれのマットとシャルルが大急ぎでやって来て配膳を始める。
「料理も運ばんと本当にすまん!」
「今日は始めての模擬戦で熱中しちゃったね・・・」
後ろから同じく汗まみれのロジェとエミールがやって来て謝る。
おそらく女性陣は体を拭いたりしているのだろう。
「いい気にするな。洗い終わったら俺のハンモックの下に置いてくれ。」
「「「「わかった!」」」」
四人が満面の笑みで答えるので、食器の後始末を丸投げして三人で校長室に行く。
校長室に入りいつも通りにソファに座る。
「で?話しとは?」
「オホン!二ヵ月後に野外実習があるのは知ってるか?」
フィルが咳払いをして言う。
確か全校生徒が参加する交友を深めるのが目的の一泊二日で行う夜営訓練だったはずだ。
「知ってる。」
「その日は教員達はある事をするので忙しい。アランと一緒に王子の護衛をしてもらえんか?」
「それはルドルフで?ニコで?」
「あたしはルドルフがいいと思うわ。」
「・・・ワシは生徒として参加して欲しいのだが・・・」
アランはルドルフとして本気で護衛を、フィルは生徒として陰ながらアランのサポートをという意味だろう。
「話を聞いて判断しよう。」
「まずは野外実習をこの時期にやるのには色々な意味がある。」
「ふむ。」
「まずは一年生が学校に馴染むため。次に戦闘や夜営などの通常の訓練だな。そして一番重要なのが学校に潜り込んだハイゼン王国からのスパイを野外実習の間に排除するのだ。」
「なるほど。レナエルが監視員だな?詳しく聞こう。」
「やはり気付いていたか・・・」
フィルは可能性の一つとして考えていたのだろう。
一瞬驚いた顔をしたがすぐに真剣な面持ちで話し始める。
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