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第四十話 王都の夜は危険

アランを抱っこしたまま歩いていると三人の少々汚い印象を受ける男達が進路を塞いでいる。

おそらく酔っ払った冒険者という所だろう。

俺は絡まれないように通りの端を歩くが男達はニヤニヤと笑いながら進路方向へと移動し始める。



「へいへい!お熱いねぇ!」

「まだガキなのに羨ましいぜ!」

「おい!その姉ちゃん俺達に任せて坊主が帰りな?」

「・・・この女はお勧めしないぞ。」

「ちっ!いい感じだったのに・・・」

三人に絡まれ顔を顰めてわかりやすく不機嫌になったアランが俺から降りて男達の下に千鳥足で歩き始める。



「素直でよろしい!じゃあ坊主帰んな!」

「あっちの店で一緒に飲もうぜ!」

「ヘッヘッヘッ俺達の武勇伝聞かせてやるぜ!」

ノッポと髭もじゃがアランを囲み短髪の男が先導して連れて行こうとしている。

ついでに髭もじゃが俺を追い払うようにシッシと手を振っている。

「俺は言ったぞ?」

「何を言っ・・・ギャブッ」


アランがアッパーを打つ。

腰に手を回そうとしていたノッポは弧を描きながら飛んで行く。

「(死んだんじゃないか?)」

そう思うほどに強烈なアッパーだ。


そのままアランは俺に向かってシッシと手を振っていた髭もじゃの股間を蹴り上げる。

男は俺の人生では見た事の無い表情で顔中の穴から液体を流しながら地面に倒れる。


「なっ・・・なんだよこの女!?」

「逃がさないよ!」

そう言って逃げようとする短髪の襟を掴んで街灯へと放り投げる。

「ゴゥンッ!」短髪がぶつかった衝撃で街灯が折れて中程から九十度に曲がって地面と平行になった。




「さ!学校に帰ろっ?」

そう言ってアランが首に手を回して飛び乗ってくるので仕方なく抱っこをする。

「自分で歩けるだろ・・・」

「歩けなぁーい!」

「・・・はぁ。」

上機嫌に俺の胸に体を預けるアランを見て溜息を吐いて学校にむけて歩き出す。


「衛兵さんこっちです!」

「貴様ら待て!」

誰かが通報したのだろう。

衛兵隊が走って来て一人だけ違う鎧を着た衛兵が俺達を見つけて呼び止める。



「ちっ!また邪魔が・・・」

アランがプルプルと震える。

「(さすがに衛兵と揉めるのは駄目だろう・・・)」

そう思って咄嗟にアランを抱く手の力を強めて、抱っこの目的を拘束へと変更する。



「貴様ら・・・これはどういう状況だ?」

衛兵が通りに倒れている三人の男と折れた街灯を見ながら聞いてくる。

騒ぎを聞きつけて野次馬も集まり始める。


「あたしを連れ去ろうとしたから抵抗しただけだよ!」

「・・・アランさんか・・・申し訳ありませんが私、衛兵長に付いて来て下さい。お前らは後始末だ!」

アランの顔を見た衛兵長は一瞬で悟った顔になり俺を先導する。

アランは衛兵にも顔が知れ渡っているようだ。

俺は黙ってアランを拘束したまま衛兵長に付いて行く。

周りの衛兵達も手早く伸びている男達を担架に乗せてどこかへと運んでいる。



そのまま付いて行くと城の目の前にある新築の大きな建物へと連行されると見覚えのある鎧を着た人間がたくさんいた。

みんな俺が抱き上げるアランの顔を見るなり目を見開いてビクリと体を震わせている。

「騎士団本部だよ。あと多分あたしが大人しくお姫様抱っこされてることに驚いてるんだよ。」

俺がきょろきょろと辺りを伺っていると不機嫌なアランが教えてくれる。




そのまま衛兵に連れられ一つの部屋に入れられる。

部屋の中には一つの机と両側に椅子が一つずつ置いてあるシンプルな部屋だった。

「取調室だよ。」

そう言ってアランが不機嫌そうに椅子に座って腕を組んで机に足を乗せる。

「行儀が悪いぞ?」

「知るかっ!おい!また新築にしたくなかったらさっさと誰か来い!」

「はいただ今!」

アランが声を張るとすぐにとても焦った様子のアルフォンスが部屋に入ってきた。

白いガウンを羽織っているので家にいる所を急に呼び出されたのだろう。

すぐにアルフォンスはアランの対面の椅子に座る。

アランは不機嫌さを取り繕う事も無く机に足を乗せたまま何があったのかを話す。

アルフォンスは何度もハンカチで汗を拭いながら真剣な表情でアランの話を聞いてノートに書き込みをしている。



とりあえずアルフォンスの様子が明らかに普通ではない。

アランがまた新築。などと言ったので、二年前の騎士団を壊滅寸前まで追いやった時に何かしたのだろう。

「(だがなぜそんな非常識な事をしてこいつは捕まったりしてないんだ?)」

話をするアランとアルフォンスを見ながら考える。



「事情はわかりました。」

「ならあたし達は帰るよ!」

ノートを閉じてアルフォンスが言うとアランが立ち上がる。

「あの・・・帰る前に彼らの治療費と街灯の修理代を頂きたいのですが・・・」

アルフォンスが消え入るような声で言う。

アランの表情から感情が無くなり足元から冷たい霧が出始める。



「なんで?」

「冒険者達は暴力をふるったわけでは無くてですね・・・あの・・・その・・・魔法は使わないで下さい・・・」

「へぇ?じゃああたしは絡まれたまま暗がりに連れて行かれればよかったの?」

「いや・・・あの・・・それでも街灯を折るのはやりすぎと申しますか・・・」

「あんたらが仕事してないからあんな(やから)が王都を徘徊してるんでしょ!?騎士団が払え!」

「そんな・・・」

アランが無茶苦茶なことを言ってるのは俺でもわかるのだが、アランには反論出来ないようだ。

アランに言われて普段は堂々として自信に満ち溢れているアルフォンスが鍛え抜かれた大きな体を縮こませて今にも泣きそうに項垂れる。




「ニコ帰るよ!」

そう言ってまた俺の首に手を回して飛びついてくる。

「いや、もう歩けるだろ?」

そう言って降ろそうとすると万力のような力でしがみ付いて足を地面に付けようとしない。


「あたしを歩かせて飲み直しに付き合わされるのか、抱っこして学校に帰るのどっちがいい?」

「是非抱っこしよう。」

アランの目は本気だ。

きっと歩かせたらどんな事でもして俺を連れ回すだろうと確信する本気の目だ。

俺は即座にアランの体に手を回して抱っこする。



「あのアランがニコ君の前ではただの女だな・・・」

「こんな女いらん。」

アルフォンスが俺達の一連のやり取りを見て思わずといった様子で言うので思わず突っ込む。


「あたしにそんな事言えるのニコくらいだぞ?」

「そうか。わかったからさっさと帰るぞ。」

俺に抱きついたアランが頬を膨らませて何やら言っているが適当に返事をして部屋から出る。


「こっちだったか?」

「そうそう!出口はそっちだよ!」

衛兵長の後ろを付いて言っただけなので始めての建物で迷いそうになりつつも騎士団本部から出る。



「なんとか出れたな・・・」

「学校はあっちだよ?」

「わかった。」

アランが指差した方向に向かって歩いて行く。

どう考えても俺みたいな子供に抱っこさせずにアランが先導した方が早いと思うのだが、俺も馬鹿では無いので素直に抱っこしたまま歩く。



「おい待てよ。」

後ろから声をかけられたので振り返ると五人の騎士が街灯で白い鎧を輝かせて立っていた。

「なんだ?」

「なんだじゃねぇよ!お前ら団長にあんな口きいて何様だこらぁ!」

「そうだそうだ!牢屋にぶち込んでやる!」

騎士達が何やら騒いでいる。


「アランどうしたらいいんだ?逃げるか?」

「・・・あたしは我慢して我慢して我慢したんだけどね・・・」

アランを見ると度重なるトラブルで我慢の限界のようだ。

アランの体から霧がすごい勢いで噴き出している。


「なんだこりゃ?霧に隠れて逃げるつもりか?」

「さっさとやっちまおうぜ!」

リーダーと副リーダー的な騎士が言って抜刀して俺達に駆け寄ってくる。

「アランどうするんだ?」

「この状況は正当防衛っしょ!ファッ「ちょっと待てぇいっっ!待て!待って!」」

とても邪悪な笑みを浮かべたアランが何かをしようとしたが突然間に割って入ってきたアルフォンスが慌てて止める。



「何?今霧でよく見えないけどそこにいる悪漢を退治するところなんだけど?」

「待て!あいつらは騎士だ!俺が教育しとくから!」

「団長!何言ってるんですか!?」

「そうっすよ!牢屋にぶち込みましょう!」

顔面蒼白のアルフォンスがアランに懇願している。

後ろから先程の騎士達がアルフォンスにあれこれと物騒な事を言っている。


「貴様ら・・・今死ぬところだったのは気付いているのか?馬鹿モンがっ!」

そう言ってアルフォンスが騎士達に順番に拳骨を落とす。

恐らくアランはファと言ったので空気中の塵を集めた霧に着火して粉塵爆発を起こそうとしたのだろう。

粉塵爆発が起こっていれば騎士達だけでなく俺達も無事では済まなかったと思うので結果的にアルフォンスには俺も助けられた。



「アラン。俺を巻き込む魔法はやめろ。」

「何しようとしてたのかわかったの?」

「粉塵爆発だろ?」

「さすがはニコだ!帰ろう?」

「あぁ。」

アランに言われて学校へと向かって歩き始める。


「やっと着いた・・・」

「長かったね?楽しいデートだったよ?」

そう言ってアランが頬にキスをして俺から下りて自分の部屋へと帰って行くのでそれを見送ってから自分の寮へと帰る。

マットとシャルルはまだ帰ってきて無いようで空のハンモックを見てみんなの寝息を聞きながら鍛錬を行いアランに買ってもらった寝袋に入って寝る。


「(ふむ。宿屋の布団よりも寝心地は上かもしれんな。)」

枕も一緒買ってもらったのでとても快適だ。

ハンモックに揺られて意識を手放す。

面白いと思ったり続きが気になると思った方は評価や感想を頂けると嬉しいです。

もちろん誤字、脱字やお気づきになった矛盾点などの指摘もお待ちしています。


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