第四話 成長した魔王の息子
-八年後-
木々が生い茂り、足元には腰にまで届きそうな草が生えた森を立体機動で枝から枝へと飛び移り駆ける。
枝が折れないように枝に魔力を付与して強化しながら飛び移って行く。
七歳になってやっと出来る様になった。
「いた。」
獲物を見つけ息を潜めて弓を構える。
狙う獲物はリザードマン。
二メートルを超す巨躯に硬い鱗に覆われた二足歩行の蜥蜴だ。
生半可な剣や矢では傷すら付けられない魔物である。
矢に魔力を纏わせ二百メートル先のリザードマンに照準を合わせる。
矢を放つ瞬間にぶれないように息を止め、集中して射る。
矢は枝の隙間をすり抜け、生い茂る葉を打ち抜きながらリザードマンへと向かって行き頭へ命中する。
上手く脳幹を破壊できたようだ。
リザードマンがぐらりとその場に倒れる。
「よし。」
探索魔法を行いながら油断無くリザードマンへと走る。
リザードマンの首を切り落とし、枝にロープを回してリザードマンを逆さ吊りにして魔法で地面に穴を開け血を流す。
血抜きをしないと肉が臭く、そして痛みやすくなってしまうので面倒だが必須なのだ。
血抜きが終わり腰に付けたマジックバッグに入れ、血の臭いで魔物が寄って来ないように魔法で穴を埋める。
このマジックバッグとは、持ち主の魔力量に応じて収納量が変わる魔道具だ。
俺はリザードマンを五体いれた所で一杯になったのだが、家一軒分の材木を入れてる所を見た事もあるがルルやクネのマジックバッグがいっぱいになった所を見た事がない。
血抜きを終えたので枝に飛び移り、再び森を駆ける。
しばらく走ると魔物を発見する。
三メートルの巨躯で獅子の頭部に山羊の胴体、蛇の尻尾の魔物キマイラだ。
百メートル三秒で走り、炎を吐き出す危険な魔物だ。
距離は三百メートル。念のためにリザードマンよりも距離を離している。
油断無く弓を構え魔力を纏わせた矢を放つ。
矢が音を立てずに飛んで行く。
が、キマイラは直前で気付き矢を避け、こちらに向けて走り出す。
「ちっ」
思わず舌打ちをしながら五本指を全て使って矢を三本同時に射る。
キマイラはジグザグに進み避けながらこちらへと向かって来るので枝から降りながら何度も打ち込むが全て避けられる。
十秒も経たずにキマイラが目の前までやってきて、勢いもそのままに凶悪なまでに研ぎ澄まされた爪の付いた左前足を振り上げながら飛び掛ってくる。
魔力の盾、魔法障壁を発動する。
「ギャリィィィン!」
激しく金属を切りつけたような音が森に響き渡る。
透明な魔法障壁に阻まれてよほど悔しかったのだろう、キマイラはその場で大きく息を吸い込んで、唸り出す。
「ウ゛ゥゥゥゥゥワッ!」
キマイラが炎のブレスを吐き、目の前が真っ赤に染まる。
さらに魔法障壁を張って防ぐ。
俺の前後左右と上に五枚張る。
キマイラのブレスは強烈だが魔法障壁はビクともしない。
十秒ほどしてブレスが終わり、息を荒げてこちらを睨むキマイラが炎の向こうから現れる。
「さて・・・終わらせるか。」
刀を構えキマイラへと魔力障壁を飛ばす。
魔力障壁はキマイラにぶつかり奥の木へとキマイラを叩きつける。
魔力障壁はどれだけの魔力を使って発動するかが難しいが、攻守につかえる便利な魔法だ。
もちろん魔力量の調整を失敗していれば今頃キマイラのブレスに耐え切れずに魔力障壁は割れ、俺は丸焦げになっていただろう。
キマイラに歩いて近づく。
魔力障壁によって木に押さえつけられているキマイラは前足で攻撃してくるが、ブレスで魔力を使い果たし身体強化魔法が切れているので、先程までとは比べ物にならないほどに遅い。
余裕で前足を避け首を切り落とす。
キマイラの血抜きを済ませ、我が家へと帰るために再び森を駆ける。
森の中を進むと家々が立ち並ぶ村が見えてくる。
村の入口の門で親であるルルとクネが待っていた。
クネは下半身が蜘蛛のアラクネの魔族だ。
ルルは何の魔物の魔族かは知らない。
ちなみに魔族とは知性を持った魔物の事だそうだ。
「クネ!クネ!戻ってきたぞ?」
「見ればわかるわ。」
「リザードマンとキマイラを狩ってきた。」
「ほう?無傷でキマイラか・・・子供の成長は早いな?ヌァッハッハッ!」
「ルルが心配しすぎなだけよ。二コならとっくに狩れてたわ?」
「油断して勝てる相手じゃなかったな。」
「ヌァッハッハッ!そうかそうか!精進するのだぞ?」
「じゃあ私は行くわよ?魔王様いいわね?」
「クネ。ルルのせいで仕事を中断して待ってたんだろ?ごめん。」
「フフフ。ニコのために来たのよ?間違ってもルルのためじゃないわ?そこを忘れないでね?」
クネが俺の頭をクシャクシャと撫でて村の中へと入って行く。
「じゃあ俺はハッピーに獲物を渡しに行って来るぞ?」
「わかった!あ、エドが用事があると言っておったぞ?」
「珍しいな?わかった。」
「ではまた後でな!ヌァッハッハッ!」
高笑いするルルと分かれてハッピーの家へ向かう。
ふと違和感がして考える。普段なら村を歩き回るゴブチョウやコボチョウ達の姿が見当たらない。
ゴブチョウとコボチョウは五歳の時に助けたゴブリンとコボルトの魔族だ。
今はホブゴブリンとハイコボルトに進化しているのだが、俺の事を二コ様と言って慕ってくるこの村の住人だ。
そんな事を考えていると、ゴブチョウ達に絡まれないせいですぐにハッピーの家に着いた。
ノックもせずにそのまま扉を開けると家の中でバタバタと動く音が聞こえる。
「ハッピー?獲物持って来たぞ?」
「い、いらっしゃい!」
家に入ると背中から生えた翼と体を目一杯広げて厨房を隠している。
家の中はこの村唯一の厨房と地下への階段に六人掛けの机が置いてあるだけのシンプルな家だ。
「獲物は貯蔵庫でいいか?」
「うん!お願い!」
「血抜きしてるだけだが放り込んどけばいいか?」
「え?捌いてくれるの?可愛い上に優しい弟をもってお姉ちゃん嬉しいなぁ?」
「・・・余計な事を言ったと後悔してる。」
挙動不審なハッピーの前を通り過ぎて地下室の貯蔵庫へと向かう。
貯蔵庫はエドの自信作で魔法の効果で常に部屋の温度を低温に保ってくれる部屋だ。
「寒いな・・・風邪引く前に捌くか。」
解体用のナイフでリザードマンの鱗をはがし、皮を剥ぎ拳大の魔石を取り出して部位ごとに切り分ける。
キマイラも同じように解体する。
今まで何百回とやってきた作業だ。
二時間ほどで作業を終えて階段を上がり、来た時と同じように翼と体を目一杯ひろげたハッピーに「終わったぞ。」と一声かけてそのまま家を出る。
変わらず挙動不審なハッピーだがこういう時は何を聞いてもはぐらかされて時間の無駄になるのはわかりきっているので何も聞かないでおく。
ハッピーの家から出て、エドの作業場へと向かう。
エドの作業場は村の外れにあるので村の中を突っ切らなければならないので、普段ならゴブチョウ達に絡まれて時間がかかってしょうがないのだが、今日はそんな事も無く真っ直ぐエドの作業場へと辿り着く。
作業場の中へ入ると、色々なガラクタが積み重なりどこにいるのかわからない。
「エド来たぞ?」
「ん、ここ。」
エドの声は聞こえるのだがガラクタ達で反響してどこから聞こえるのかもわからない。
「エド?ガラクタでどこにいるかさっぱりだ。」
「二コ?ガラクタじゃない。これ。」
ガラクタをかき分けてエドが奥から出てきてマジックバッグを差し出してくる。
「何だ?」
「宝物。プレゼント。」
「これって時間経過の無いエドの宝物じゃないか。貰える訳ないだろ。」
「なら今度帰ってきたら返して。」
「は?帰ってきたら?」
「用事は終わり。帰って。」
「意味がわから・・・」
少女の見た目からは想像も付かない力で無理矢理作業場から締め出される。
「本当になんなんだ・・・」
思わず一人ごちて、帰路に着く。
日が暮れかけているのに相変わらずゴブチョウ達の姿が見えない。
何かあったのか?思わず森へと駆け出しそうになる。
「(いかんいかん。ルルに似たかな・・・)」
そう思って踏みとどまり家に帰る。
家のドアを開けるとルルが仁王立ちで高笑いをしていた。
「ヌァッハッハッ!飯だ!飯にするぞ!」
「わかった。テンション高すぎないか?」
「そうか?いつも通りだろ?エドの用事は終わったか?」
「あぁ、エドのマジックバッグを貰った。」
「そうかそうか。エドもなんだかんだ言ってあれなんだな・・・」
「何のことだ?今日一日ゴブチョウ達を見てないが関係あるのか?」
「ええい!あいつらはあいつらで頑張っておるのだ!男が細かい事を気にするでない!」
「ルル?困ったら声を荒げる癖は直した方がいいぞ?」
「お、親の俺に向かってなんて口の聞き方だ!」
「ほら。確信突かれてまた荒げる。」
「・・・反抗期というヤツか・・・こういう時はそっとしておくのよいのだったな・・・」
ルルが意味不明な呟きを残して家から飛び出して行く。
「おい待て。って、いねぇ・・・」
ルルの後を追って家の扉を開けるがルルの姿はなかった。
ハッピーの家に全力で向かったのだろう・・・溜息を一つ吐いて月明かりの村を歩いて行く。
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