第三十七話 アランのお願い
「さぁ行っくぞぉ!」
昨日あんな事をいいながら俺に朝食を作らせたアランが上機嫌な様子で拳を掲げて王都を歩く。
「とりあえずどこだ?」
「うーん・・・ギルドかな?」
「は?俺は観光に行きたいんだぞ?」
「先立つ物がいるでしょ?」
アランが人差し指と親指で丸を作って笑いながら言っている。
「金ならカードと所持金合わせれば二百万はあるぞ?」
「ほう?なら大丈夫だね!ギルドに行こー!」
「言葉が通じないだと!?」
まさかの事態に困惑してただただ上機嫌なアランに付いて行くしか無くなる。
さすがは神銀級冒険者だ、ギルドに着くとアランに視線が集中してギルド内がざわつく。
俺は注目を浴びたくないのですぐにアランから離れて建物の端に行くが、アランはざわつく冒険者達を無視して依頼ボードに直行した。
「あったあった!これこれ!これ受けるわ!」
さすがは神銀級冒険者、受付の女性もカチカチに緊張している様子で大慌てでアランのカードの処理をしている。
「ニコ行くよー!」
依頼を受けたアランが駆け寄ってくる。
「・・・決めてたんだな?」
「たまには神銀らしい事をしておかないとね。それにこの依頼急ぎの割に誰も受けたがらなくってね?」
「俺は見てればいいのか?」
「あたしの苦手分野でねぇ?ニコにお願いしよっかな?って・・・私が受けたから名誉はあたし!報奨金は全部ニコってね?」
アランがウィンクしながらフィルと同じ事を小声で言う。
「とりあえず外に出るぞ。」
「あいあいさー!」
ギルド内の人間の視線が痛い。
神銀級冒険者と子供がコソコソと話しているのでみんな何を話しているのか気になっているのだろう。
普段の騒がしいギルドがみんな聞き耳を立てているのでとても静かだ。
「とりあえず喫茶店にでも行く?」
「いや、さっさと終わらせて王都観光をするぞ。出来るか?」
「じゃあこれあ・げ・る♪」
アランがマジックバックから金属製の槌を取り出して渡してくる。
「これはなんだ?」
「今回の相手はダンジョン内に異常発生したストーンゴーレムだから!」
「なるほど。納得だ。場所はどこだ?」
ゴーレムとは意思を持った鉱物の魔物でハンマーなどの鈍器で体を砕いて魔石を取り出すのが普通の倒し方だ。
「普通に行けばここから馬で二日の所かな?」
「俺達が走れば?」
「ニコがあたしと同じ速度で走れるなら・・・昼過ぎには着けるんじゃない?」
「ならさっさと行けば明日の朝一にはここに向けて出発出来るな?」
「そう出来ればいいけどねー?」
「ちっ!貸し一つだぞ?」
「へいへい!じゃあ行っくよー!」
「・・・俺はアランと一緒に出てギルドの依頼をこなしたアランと一緒に帰って来たら不自然だから隠れて出させて頂くぞ?」
「認識阻害魔法だね?わかったわかった!」
アランの了承を得たので自分に魔法をかける。
「さすがはニコだ!あたしにもどこにいるかわかんないや!さぁ行こー!」
拳を上げてアランが王都へと猛スピードで走って行くので付いて行く。
アランが人ごみに突っ込んで行くので俺は建物の屋根に登りアランを見失わないように追って行く。
今の俺が人ごみに入ると触れるまで認識されないので道行く人間は俺に気付かずにぶつかるので絶対に入りたくない。
門の手続きをするための列にアランが並んだので誰にも触れないように注意しながら門を通る。
しばらく外で待っているとアランが出て来て辺りを見回して悪戯っぽい笑みを浮かべて突然走り出す。
「ニコいるの?」
門を出てしばらく走ったところでアランが聞いてくる。
「いるぞ。」
「結構本気で走ったんだけどな・・・自信なくしちゃうな・・・」
「アランのペースで走ればいい。俺は付いて行く。」
「わかった!本気で行くからね?」
そう言ってアランが走りだす。
地を蹴り出すごとに地面が爆発を起こして抉れる。
「(魔力操作が稚拙だから地面が抉れるんだ。)」
そう思いながらアランの後ろ・・・は抉れた土が降り注いで来たので隣を並走する。
「ニコ?ダンジョンに着いたから昼御飯にしよ?」
数時間走ってダンジョンであろう洞窟の入り口が見える場所で少し息が荒くなったアランが止まって言う。
捜索魔法に人の反応は無いので認識阻害魔法を解いてマジックバッグから調理道具を取り出す。
「やっぱりいたのか・・・わかってたけど本気で走ったのにちょっとショックだな・・・」
隣で焚き火を熾す俺を見て悔しそうにアランが言う。
「アランは今まで見た人間の中では一番速かったぞ。」
落ち込むアランを慰めながら料理を作る。
「ニコ?慰めてるんならカルボナーラ食べたい。」
「・・・ならこのスープは晩飯だな。」
焚き火を追加で焚いてお湯を沸かしつつフライパンを熱する。
晩飯用のスープを作りながらカルボナーラを作る。
「ほう?手際いいね?やっぱニコはいい旦那になるよ?あたしの旦那にならない?」
「興味ない。あと晩飯は変更できないぞ。」
「へいへい!晩御飯はニコのお任せコースでお願いします!」
ホワイトソースを作る俺にアランが素直に頭を下げる。
「今だ。」
「はいな!」
アランが俺の号令に合わせて湯でた麺を俺のフライパンに入れる。
ザルからフライパンに入れるだけですごい気合の入れ様だ。
料理が出来ないと胸を張って言うのも頷ける緊張具合だ、麺とソースを絡ませて更に盛り付ける。
「ニコ?これが洞窟の地図ね?」
「ふむ。」
食事中にアランが適当に地図を投げて渡してくるので広げて見る。
全長一キロほどで普段は地獄蜘蛛や兵隊蟻などの魔虫が発生する初級者向けのダンジョンのようだ。
「ゴーレムは外に出て来ないし初級向けのダンジョンだから誰も受けない依頼だったんだよね・・・」
「ほう?ならなんで受けた?」
「このダンジョンはね?八歳の時にあたしが始めて挑戦したダンジョンなんだ?そのダンジョンに誰もいないのはなんだか寂しくてね・・・」
アランが俺の問いに遠い目をして答える。
「なら大量発生の原因を調べて冒険者でいっぱいにしないとな。」
「さすがニコ!終わったらあたしからもお礼するから!」
「楽しみにしておく。」
食事を終えて二人で洞窟に入る。
洞窟に入ってすぐに二メートル以上ある人型の石像が目の前に立ちはだかる。
動きは鈍重だが関節球体が付いているのでスムーズに動いている。
「邪魔だ。」
膝の関節の球をアランから貰った槌で横薙ぎに砕く。
膝から下が無くなったゴーレムがバランスを崩して倒れるのでそのまま頭を叩き割る。
ゴーレムは動かなくなりそのまま前のめりに地面に倒れる。
「さすがね?」
「まだだ。」
ゴーレムは魔石を取り出さないと周りの鉱石を吸収して復活する。
胴体に槌を振り下ろして胴体の割れた隙間から黒い石を取り出すとストーンゴーレムは形を保てなくなり砂の山に変わる。
「ゴーレムコアか・・・」
「魔石じゃなくてゴーレムコアって事はゴーレムマスターがいるのね?」
「だろうな?」
自然発生したゴーレムなら魔石なのだが、今倒したゴーレムからはゴーレムコアが出てきた。
つまり作られたゴーレムという事だ。
「じゃあ何かの目的があってダンジョン内をゴーレムでいっぱいにしてるんだね?」
「みたいだな。」
「じゃあ灯りはお姉さんに任せなさい!」
アランが魔力灯を発動させ真っ暗だった洞窟の中が一気に明るくなる。
「本当に大量発生だな・・・」
「そうだね・・・」
このダンジョンが元々はコボルトの巣だったとするとリビングのような場所なのだろうか?
奥に広い空間が見え軽く十体近くのストーンゴーレムが見えて俺とアランは顔を見合わせて溜息を吐く。
「ニコ?ストーンバレットとかさ?物理系の魔法でパパーッと倒せないの?」
「・・・俺は威力調整が苦手でな?ダンジョン内で発動したら洞窟が崩れる可能性が高い。」
なので俺が魔物を倒すときには基本的に雷魔法しか使わない。、
雷魔法なら少々調整を失敗しても周りに影響を与えにくいからだ。
「へぇ?じゃあどうするの?」
「身体能力強化魔法だな。」
「あたしの苦手分野だね・・・」
「行くぞ?」
歩を進め一体のストーンゴーレムが俺達に気付いて走り出すと他のストーンゴーレムも連鎖的に向かって来る。
俺は先程と同じように横薙ぎに膝を砕き転んだストーンゴーレムの頭を砕く。
「次だ!」
とりあえず行動不能にして次のゴーレムを処理して行く。
周りの鉱石を吸収して復活すると言っても何日もかかるので後で胴体を砕いてゴーレムコアを回収すれば問題ないのだ。
「ニコ右!」
「きりがないな。」
ストーンゴーレムは動きが遅いのだが多すぎて一体を処理する間にどんどんとストーンゴーレムが押し寄せてくる。
俺は槌を投げ捨て飛び上がり自分の魔力で強化した己の体でストーンゴーレムの頭を砕きまくる。
いくら身体能力強化魔法で強化しているといっても石の塊を殴っているのだ普通に皮膚が裂ける。
治癒能力を強化しているので傷は一瞬で治っているのだが拳はどんどん血に染まって行く。
「うわっ!!痛そぉー・・・」
アランが俺の血まみれになった拳を見て嫌そうに顔を顰めているが気にせずにゴーレムからゴーレムへと飛んで手当たり次第に頭を砕いていく。
「はぁ・・・はぁ・・・」
しばらくして大部屋の入り口には石の山が出来上がった。
「お疲れ!さすがにニコも息が切れるんだね。」
「これからが大変だぞ?洞窟の外に向かって風を起こせるか?」
「出来るよ!」
水玉を作り出して手を洗いながらアランに言うとサムズアップして答えるので安心して放り投げた槌を拾う。
槌でストーンゴーレムの体を砕いてゴーレムコアを取り出す。
砂になったストーンゴーレムはアランが起こした風で洞窟の外へと流れて行く。
「二十六体か・・・」
「あたしは無機物系の魔物は苦手だから一人じゃどれだけ時間がかかってたやら・・・」
ゴーレムコアは全部で二十七個なので広場には二十六体のゴーレムがいたようだ。
「さっさと終わらせるぞ。」
「へい!」
アランの魔力灯に照らされたダンジョンを進んで行く。
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