第三十五話 合挽きハンバーグも非常識だった
「なぁなぁ?さっきの剣を摘んで止めたのどうやったんだ?」
「マットの魔法と同じようなものだ。」
「えっ!?ニコ君はどこに魔法陣を?それに詠唱してなかった・・・」
「秘密だ。詠唱は小声でした。」
寮で運動着から普段着に着替えて料理をしているのだが、隣で興奮冷めやらぬといった様子のマットとシャルルに質問責めされる。
「・・・料理に集中したいのだが?」
「そ、そうだね・・・食堂で待ってるよ。」
「ごめんよ。気になっちゃって・・・」
二人は大人しくなって調理場から出て行く。
「(やっと料理に集中できる。)」
「おい・・・」
「ん?」
ハンバーグを焼いていると声を掛けられる。
反応して視線をフライパンから外すと目の前にリュカが立っていた。
「なんだ?さっきの勝負が不服だったか?」
「不服だな。」
「めんどくさいから再戦はしないぞ?」
「お前に勝てるとは思えないから再戦は申し込まない。俺が退学になる所を助けたつもりなんだろうが思い上がるな?それを言いに来た。」
リュカは言うだけ言って調理場から出て行く。
「(なんだったんだ?意味が分からん・・・)」
ハンバーグを焼きながら首を傾げる。
「ニコ君出来たかい?」
「料理を運びに来ちゃったぞ。」
エミールとロジェがやってくる。
「なら今最後のハンバーグだからもう少しだ。」
「こっちの寸胴は出来とんか?」
「それは出来ているが持てるのか?」
「フフフ任せておくれよ。」
エミールとロジェが二人がかりでスープの入った寸胴を持って行く。
「・・・調理台の片づけがあるからハンバーグも持って行って欲しいのだが・・・」
俺の声は周りの使用人達の料理の音で聞こえないようで、二人はそのまま調理場を出て行く。
すぐに二人が戻ってきたのでホッと一息吐く。
「ハンバーグも完成したぞ。」
「了解!配膳して待ってるよ?」
「おぉ!美味そうじゃ!」
エミールとロジェがハンバーグを持って行くので調理台を片付ける。
野菜くずを纏めてゴミ箱に捨てて、かまどに残った炭を集めて蓋をする。
片づけが終わり食堂に行くと俺の到着を待っていたのだろう。
配膳を終えた机でみんながペットにまてをした時のように料理から視線を外さずに見つめて大人しく座っていた。
「待たせたな。」
「よし!みんな食べよ!」
「そうだな!」
俺が席に着くとアランとフィルが満面の笑みで言ってみんなが一斉に食事を始める。
「あ!ニコこれありがとうね!」
マットが魔法学のノートを待たしてくるので受け取ってマジックバッグに入れる。
「あぁすまんな。」
「ニコのノートって文字が書けなかったのを忘れるくらいに読みやすいし魔法陣も綺麗で書き写しやすくて助かるわ!」
「ほう?銅クラスの生徒まで最後尾で立ち見する生徒のノートを書き写しているのか・・・」
ターニャの言葉にフィルの目が光る。
「あのっ違うんです!ニコのノートがとてもわかりやすく纏められているので・・・」
「(そりゃ次にバルテ先生が何を書くか大体わかっているからな。)
ターニャの言葉に対して思っているとフィルとアランが少し思案顔になっている。
「ほう?だがニコは病弱だから時折長く休むかもしれん。ニコに頼り過ぎないようにな?」
「そうだね?ニコがいなくなった途端にノートが取れなくなるよ?」
「(三食俺の料理を食べるお前らがそれを言うか・・・)」
ターニャの言葉にフィルとアランがそれっぽい事を言うが、説得力は皆無である。
そんな事を考えているとみんなにとっては違うようで一様に神妙な顔をして考えながら食事を食べている。
「フィル?巷では病が流行っているのか?」
「いや?念ためにみんなに言っただけだぞ?」
「ならいい。気をつけないとな。」
「そうだな。」
みんなは今の会話を聞いてホッとした様子だが、俺が一番ホッとしている。
そんな連続で依頼が来るのであればこれからの六年間の事を考えると億劫になるところだ。。
「ねぇニコ?このハンバーグすごい美味しいけど何の肉なの?」
「ん?ミノタウロスとソードベアの合びき肉だ。」
「はえっ!?」
ターニャが驚いて口の中のハンバーグが外に飛び出す。
ターニャはそれを大事そうに拾い集めて食べなおす。
「・・・ターニャ?机に落ちた物を食べるのは行儀が悪いぞ。」
「でもそんな高級肉勿体無くて捨てられないじゃない!」
みんなターニャに同意見のようで俺以外にターニャを咎める者はいない。
「いいみんな?今何の肉を食べているか忘れなさい?誰にも言っちゃだめよ?」
「そうだな。言った人間はニコの料理は食べさせん。」
アランとフィルの言葉に全員が首を縦に振る。
そのまま食事が終わりターニャとシモンヌが食器を集めている。
全員綺麗に完食し、みんな最後にパンを使って皿の上に残った肉汁まで食べたので皿は洗わなくてもよさそうなくらいに綺麗だ。
食器を集め終わったターニャとシモンヌが食堂から出て行く。
エミールとロジェが料理を持って行き、マットとシャルルが配膳をして、ターニャとシモンヌが洗い物という役割分担にしたようだ。
「ニコ君?君は料理の魔物肉はどこで手に入れてるんだい?」
「・・・山育ちだからな。コツがあるんだ。」
「そうか・・・なるほど。」
自分で言ってなんだが、何のコツか全くわからない。
だがエミールは納得してくれたようで静かになるので助かった。
「ねぇニコ?剣授業でフォルナ先生の言葉だけで構えや動きがわかってたみたいだけど剣を習ってたのか?」
「山育ちだからな、野生動物を狩るのに祖父に習った。」
「ねぇ?ニコ君は魔法はどこで習ったの?」
「同じく祖父だ。」
「ニコ君の祖父って何者なんじゃ?」
「・・・色々あって人との関わりを断っていてな?秘密だ。」
みんなから質問責めにされる。
フィルとアランも興味があるのか何も言わずにニコニコとその様子を見るばかりだ。
「お待たせ!」
「ありがとう。じゃあ俺は行く。」
ターニャとシモンヌが食器を持ってきてくれるので歩み寄って受けとりマジックバッグに入れて、そのまま逃げるように図書室へ行く。
「(全く・・・常識的に生きると言うのは難しいものだ!)」
心底思ってしまう。
これだけ不便と思いながら抑えているのにそれでもまだ非常識な部分があるのだ。
「(何か手を考えないと非常に不味い。)」
そんな事を考えながら教科書を熟読する。
「ニコ君?時間ですよ?」
「もうそんな時間か・・・すまない。」
フィオナに言われて周りを見渡すと図書室の中は俺とフィオナの二人だけだった。
教科書に集中しすぎていたようだ。
すぐに教科書をマジックバッグに入れて寮に戻る。
かなりの時間教科書を読んでいたようで、寮の中は寝息しか聞こえないので音を立てないように鍛錬を終えてハンモックに乗って眠りにつく。
「・・・手詰まりだな。」
朝目覚めて調理を始めたのだが今日こそは昼飯の分も作ろうと思い下拵えをしていたのだが、十八人前を作るには鍋が全く足りない事に気がついた。
今までジャックから貰った背負いカバンの中身で十分に足りてたのですっかり失念していた。
とりあえず朝食の分だけ料理する。
料理を終えるとエミールとロジェがニ往復して料理を運んで行き調理場の片付けを終え食堂に行くとみんなが待っている。
俺が席に着くと一斉に料理を食べ始める。
なぜか完全に流れが出来上がってしまっているようだ。
「ねぇニコ?明日休みだけど何するの?」
「ん?明日は休みなのか?」
「フフフこれからは五日学校で二日休みよ?」
「丁度いい。鍋が足りないから王都の観光ついでに鍋を買いに行こう。」
「なら私が案内してあげようかな?」
アランがいい情報を教えてくれる。
やっと念願の王都の観光が出来そうだ。
「ほう?ニコ王都観光したがっていたし丁度いいじゃないか!」
「そうだな、では頼もう。」
「じゃあ明日朝食を食べたらデートしましょうね?」
フィルも賛成のようだ。
俺が二つ返事をするとアランが嬉しそうに言う。
「みんなは何をするんだ?」
「僕とターニャは早く討伐系の依頼を受けられるように剣の練習だね?」
「ワシとシモンヌは薬草採りして小遣い稼ぎじゃ。」
「俺とシャルルは店の手伝いの依頼を受けて生活費を稼がないと。」
どうやらみんなはみんなで色々とやることがあるようだ。
「なら休みの日は自分の分だけを考えるようにしていいみたいだな。」
「・・・休みの日くらいはそれでいいだろう。」
「ちっ!仕方が無いわね・・・」
フィルとアランが悔しそうに言うが大人である二人こそ自分で用意して欲しいものだ。
食事が終わりターニャとシモンヌが皿をパンで綺麗にした食器を集めて洗いに行く。
「(明日はやっと王都観光だ。)」
ターニャとシモンヌから食器を受け取って足取りも軽やかにみんなと教室へ向かう。
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