第三十一話 騎士達と村観光
翌朝ノックで目覚める。
「誰だ?」
「フォルナです。」
「今開ける。」
マスクを装着して扉を開けると、真顔のフォルナが昨日と同じワンピース姿で立っていた。
「鎧じゃないのか?」
「昨夜アイリーンと話し合ったのだが・・・任務が早く終わりすぎたので今日こそ一日ゆっくりと観光しないか?」
「二人がいいのなら俺はそれでいいぞ。」
「では食堂で待っている。」
フォルナが敬礼して男らしく廊下を歩いて行く。
普段から鎧が擦れないように大股で歩く事が当たり前になっているのだろう。
ワンピース姿のフォルナが大股で肩で風を切りながら歩いて行くのは違和感を感じざるを得ない。
王都での観光はしばらくは諦めて村で色々と買物をする事にしよう。
食堂で普段着の二人と朝食を食べて三人で村を歩く。
市場はこの前の夕暮れと違い品揃えも人通りも段違いだった。
「む?この前はもっと閑散としていたぞ?」
「ハハハ!大抵の売り子は昼までに売り切って帰るからな。」
「成程・・・では色々と買い込ませて頂こう。」
市場を歩き、とりあえず目に付いた物を購入して行く。
市場を歩き終わり昨夜の食堂で昼飯にする。
「(これで作りたかった料理に挑戦できるな・・・)」
注文を終え料理を待つ間にそんな事を考えながらマジックバッグの中身を確認しているとソワソワした二人が口を開く。
「なぁ?ルドルフ殿?今日買った物は全てマジックバッグか?」
「マジックバッグは二個しか持ってませんけどねぇ?」
二人の言葉にジャック達に教えてもらった常識的なマジックバッグの容量を思い出す。
普通の人間では普通のカバン程しか入らないのだった。
「まぁ人よりは魔力が高いから容量は大きい。」
「大きいにも程がないか?」
「そうですね?軽く一か月分の食材を買ってましたよね?」
二人が俺のマジックバッグから視線を外さずに首をかしげている。
こういう時の逃げ方もアランから聞いている。
「冒険者の事は詮索無用がルールだろ?」
「そうか・・・冒険者扱いだったな・・・」
「冒険者は色々な人がいますもんね。」
アランに教えてもらったとおり効果は絶大だ。
今のところアランの言葉に偽りは無い。
「(こんなに親身のなってくれるアランが何者か気になってしまうな・・・)」
「お待たせしました!」
考えていると料理が運ばれてくる。
考えてもわからないので諦めて目の前の料理に集中する。
二人が午後からの予定をあれやこれやと話しながら食事をしているが、ギルドの演習場だとか筋トレだとか魅力的とは言えない場所ばかりが候補に上がっている。
「そうだ。俺用の一般的な剣と弓を選んで欲しいのだが?」
「は?あんなに素晴らしい曲刀と弓があるのにか?」
「うんうん!王都でもあんな武器は見た事無いですよ?」
「念のために予備を用意しておきたい。」
「ルドルフ殿がそう言うのであればいいぞ。」
「そうですね!」
なんとか筋トレは回避出来たようだ。
午後からは学校で使う武器を買うことにする。
この刀は珍しいみたいなので学校内で使っていると、そこから俺がルドルフだとばれるかもしれないので学校内ではロングソードを使うべきだという考えからだ。
食事を終え武器屋へ行くととほど武器が好きなのだろう。
目を輝かした二人がいそいそと品定めを始める。
「ルドルフ殿は背が低いからな・・・」
「大丈夫だ。背は伸びるはずだから普通の大人用ので頼む。」
まだまだこれからが成長期のはずなのだ。
「ルドルフ殿の力に合わせると弓が大きくなりすぎちゃいますね・・・」
「普通の大人が森で使う弓でいいぞ。」
アイリーンが全長二メートルくらいある大弓を見ている。
学校の授業では森での野外実習もあると聞く、そんな弓を持って森を歩くなんて考えたくも無い。
「ルドルフ殿この剣はどうだ?」
「いい剣だな。これにしよう。」
フォルナに勧められたロングソードは学校で使った刃引きをしたロングソードよりもしっかりと手に馴染むいい剣だった。
「弓はこれでどうですか?56インチ弓ですよ。」
「サイズも丁度いいな。」
アイリーンも丁度いいサイズ感の弓を選んでくれた。
「ハーレム兄ちゃん弓の試し撃ちしてみるかい?」
カウンターの奥でニヤニヤしながら俺達を見ていた店主であろうゴツイおっさんが言って来る。
「ならお願いしよう。」
「こっちに来な!」
そう言って店の裏庭に案内される。
裏庭の端に付いて振り向くと武器屋の壁に五個の的が並べて掛けられていた。
距離は十メートル、いつもの弓なら外すわけががない距離だが普通の弓なのでどうなるのか想像もつかない。
「矢はこれを使いな?サービスだ!姉ちゃん達の前で無様な姿は見せるなよ?ガハハハ!」
そう言って店主は矢を十本渡してくれる。
「ふむ・・・」
何度か弦を引いて弓の感触を確かめてから矢を射る。
一射目は放物線を描いて飛び的の端に当たる。
弦の張りが弱すぎて想像以上に矢が描く放物線が大きい。
「おぉ?腕はあるようだな?」
「いや・・・ルドルフ殿なら真ん中に当ててもらわねば。」
「そうですね。見えてない魔物の眉間を撃ち抜いてましたもんね?」
「やはり始めての弓は難しいな。だが大体分かった。」
先程の放物線を計算して修正して矢を放つ。
的の真ん中に命中する。
店主は驚き、二人はなぜか安心した顔をしている。
「次も試しておくか・・・」
弓を横に構えて三本撃ちする。
三本とも並んだ的の真ん中に刺さる。
満足の行く結果だ。
「店主、この剣と弓を買うぞ。カードは使えるな?」
俺が聞くが反応が無いので振り返ると、三人が口を開いて呆けていた。
「何をしている?」
「三本撃ちで全部真ん中・・・マグレだろ?」
「いやルドルフ殿なら不思議はない、っな?うん!」
「ルドルフ殿?もう一回三本撃ちしてもらっても?」
「一回だけだぞ。」
三人は三本撃ちに驚いていたようだ。
俺は再び同じ的に三本撃ちをすると三本とも先程の矢を弾いて真ん中に刺さる。
「すげぇ・・・いいもん見せてもらったお礼だ!サービスするぜ!」
そう言って店主が走って店の中へと戻って行く。
「支払いを済ませるぞ?」
「そ、そうだな。」
「ルドルフ殿今のはどうやるんでしょうか?」
「後で教えてやる。慣れが必要だぞ?」
俺がそう言って店に戻ると二人は嬉しそうに後ろを付いてくる。
「二つで五十万!鞘と矢筒はサービスだ!」
「安すぎないか?」
剣の値段は三十万と書いてあったはずだ、この弓がニ十万という値段ではないというのは俺でもわかる。
「ガハハハ!端数をばっさりと切り落としただけだ!大事に使ってくれよ?」
「恩に着る。」
そう言ってカードを出して、カウンターの上に置いてある剣と弓をマジックバッグに入れる。
すぐに店主がカードを返してくれる。
「じゃあルドルフ殿行こうか!」
「そうです!教えて下さい!」
「ガハハハハ!モテモテで羨ましいねぇ!また来な!」
カードを受けとると同時にフォルナとアイリーンに両脇から抱えて持上げられて店を出る。
俺は突然の出来事に驚いて手を振る店主に挨拶も出来なかった。
「どこに行くんだ?」
「ギルドの演習場だな。」
「そうですね!」
そう言って俺を持上げたまま二人はギルドへと走って行く。
「(出来れば下ろして欲しいのだが今の二人には言っても無駄だろうな・・・)」
諦めて両足をブラブラさせながら二人に運ばれる。
演習場で日が暮れて真っ暗になるまで、私服の二人に三本撃ちを教えさせられた。
「(結局筋トレと変わらなかったな・・・まぁ目当ての買物は出来たからいいか。)」
へとへとになった二人と食事を終えベッドに入ってそんな事を思いながら一日を終える。
翌朝食堂へ行くと鎧姿の二人が朝食を食べていた。
フォルナの隣に朝食が置かれているのでおそらく俺の分も注文してくれたのだろう。
「おはよう。」
「おはよう!ルドルフ殿もそろそろと思って朝食の準備をしておいたぞ。」
「おはようございます!これからも三本撃ちを練習してものにしてみせますよ!?」
「フォルナありがとう。アイリーンは頑張れよ。」
フォルナの隣に座りながら挨拶をして朝食を食べる。
「では準備をしておきますのでルドルフ殿は朝食を食べていてください!」
「わかった。」
先に食べていた二人は食べ終わると同時に食堂から出て行く。
恐らく馬車の準備をしに行ったのだろう。
朝食を終えて宿から出ると、予想通りに兜を被った騎士が馬車の前で待っていた。
俺を見るとフォルナであろう騎士が馬車の扉を開けてくれる。
「すまんな。」
扉を開けて敬礼して俺が乗り込むのを待つフォルナを労って乗り込む。
「さてっと・・・」
ふかふかの椅子に座り勉強を始める。
「ルドルフ殿?出発の際は一ページ目を読んでいたがもう中程まで書き写したのか?」
「あぁ。覚えながらだから時間がかかってるな。」
勉強していると対面に座っているフォルナが尋ねて来るので答える。
「ハハハ・・・単語だけを書き写しているとは言え辞書だぞ?早すぎだ。」
「なら俺は覚えるのは得意なようだ。」
フォルナが乾いた笑いをしながら言うので、認識を改める。
このペースなら一週間で辞書を読破出来ると思っていたが、人には言わないようにしよう。
「ルドルフ殿?本当に覚えてるのか試させて欲しい。」
「試す?」
「これから辞書で読み終わっている単語を言うので文字で書いてみてくれないか?」
「ふむ、ちゃんと覚えられているか確認にもなるな。」
行きとは違いフォルナは俺の勉強に興味津々なようだ。
フォルナが言う言葉を文字に起こしていく。
「本当に覚えているのだな・・・」
「そのようだな。俺も安心した。」
フォルナが適当に辞書の単語を三十個選んだところでフォルナが言う。
「これなら辞書を覚えたら文が書けるな。」
「ルドルフ殿?辞書の言葉を網羅している人間はそういないぞ。」
「そうなのか?ならば覚えた後は使う言葉を厳選せねばな。」
「本物の天才を見たな。ルドルフ殿と比べたら今まで見た天才と呼ばれる人々はただの非凡な人間だったのだな。」
フォルナがとんでもない事を呟く。
「(学校では絶対に言わないようにしよう。)」
そんな事を考えながらフォルナから辞書を返してもらい勉強を再開する。
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