第二十九話 本日は魔熊狩り
朝目覚めて食堂へ行くがフォルナとアイリーンの姿が見当たらないので、とりあえず朝食を食べる。
「(さて・・・何も言われてないがどうすればいいのだろうか。)」
朝食を食べ終わり、そんな事を考えながら宿から出ると鎧姿の二人が荷馬車の準備をしていた。
「見ないと思ったらそういう事か。」
「これならワイルドベア二、三体くらい運べます。」
「報告には十体以上だろ?・・・まぁ何往復もすればいいのか。」
「本当にこんな物が必要なのだろうか・・・」
「(俺が往復するわけではないしいいか・・・)」
フォルナが荷馬車を眺めながらポツリと呟くのでそれに対して俺はそんな事を思う。
それにどうせ荷馬車を動かすのは御者係のアイリーンなので俺には関係のない話だ。
「出発できますがどうしますか?」
「俺は問題ない。」
「じゃあ出発だ!アイリーン頼む!」
アイリーンの言葉に俺が言うとフォルナが荷車に乗って言うので倣って荷車に乗る。
先に走って行ってもいいのだが、森間違いをしては格好悪いので大人しく荷馬車で森へ行く。
しばらく馬車に揺られて昼前に森の前に到着する。
探索魔法を発動すると熊型の反応がある。
「飯を食べてからにするか?それでも昼飯前に終わらせるか?」
「昼飯までに終わるのか?」
「終わらせる事も出来る。」
「ハッハッハッ!なら是非終わらせてくれ!」
フォルナが大笑いして言うので荷車から降りて刀と弓矢をマジックバッグから取り出して、魔力をかなり強めた探索魔法をする。
探索魔法とは周りに魔力を飛ばしてエコー反射によって魔物などの情報を感知する魔法である。
魔力が弱ければ反射せずに感知は出来ず、強ければ強いほどに感知精度は上がる。
だが強すぎれば自分の位置を知らせてしまうことになる。
そして今俺はあえて自分の位置を魔物に教えた。
魔力を感じた魔物は俺を食べようとこちらに向かって来る。
森の中から木がガサガサと音を立てて揺れ始める。
「おい。俺の前には出るな。熊型の魔物が二十四体だ。」
「は?え?」
フォルナとアイリーンは状況が飲み込めずにあたふたしているが、気にせずに俺は森に通常の探索魔法を行って魔物に向かって弓を射る。
枝の折れる音と共にズズンと何かが倒れる音が聞こえる。
久しぶりに弓を使ったがしっかりと頭部に命中して殺したようだ。
次々と魔物の反応に対して矢を放って行く。
魔物が木々を薙ぎ倒しながら倒れて森の入口近くの木がバサバサと葉が擦れ合う音を鳴らしながら倒れ地響きを起こす。
少しづつ木々の間から魔物達が見えだす。
「いたぞ!」
「はい!」
「だから前に出るな。邪魔だ!」
フォルナとアイリーンが抜刀して駆け出そうとするので止めつつ矢を放ち続け魔物を仕留める。
「ぐっ!」
フォルナが悔しそうに唇を噛んでいるが今は構っている暇は無い。
八体の魔熊が森から出て来る。
魔熊達との距離はニ百メートルまだ矢を放ち続ける。
前足が迫ってくるが寸前まで矢を放って五体仕留める。
弓を横に投げ前足を避けながら抜刀して剣を振り上げ前足を切り落とす。
「グァァァァァッ!!」
血を噴き出しながら魔熊が俺に対して吼えてくる。
アイリーンとフォルナはびくりと体を震わせその場に立ち竦んでいる。
俺はそのまま魔熊へと飛び上がり首を刈り落とす後二体。
着地しそのまま前進しながらソードベアの頭に雷を落とす。
ソードベアは動かなくなりそのまま前のめりに地面に倒れる最後の一体。
「(こいつは俺が食べよう。)」
そう思って俺に向かって剣のように鋭い全身の毛を逆立てながら咆哮を上げるソードベアの首をすれ違いざまに切り落として手早く血抜きを施す。
「ちっ!毛が鋭すぎて縄が切れるな・・・」
吊るすために後ろ足に縄をくくろうとするが鋭い毛のせいで縄が切れてしまうので、後ろ足を持って木に登って血抜きを施す。
「(これは重たいし疲れるからやりたくなかったな・・・ワイルドベアを残せばよかった。)」
軽く後悔しながら木から降りて解体を始める。
皮を剥ぐのだが毛が邪魔で非常に剥ぎにくい。
やっとの思いで皮を剥ぎ終わる。
思いのほか集中していたようだ、フォルナとアイリーンが抜刀したまま立ち尽くしているのに気付かなかった。
「お前ら何をしている?」
「何が起こったんだ?」
「魔熊が・・・」
「記憶喪失か?何が起こったかその目で見ただろう?さっさと熊を運べ。飯を食べてから行くか?」
「わ、わかりました!アイリーン?」
「は、はいぃ!」
フォルナとアイリーンが2人がかりで熊を荷車に載せ始める。
三体載せた所で荷車がぎしぎしと怪しい音を立て始めたのでフォルナが荷車を押して村へと向かって行く。
俺はそれを見送ってソードベアを捌く。
「(いつかリオルゲンで食べた内臓料理も作りたいな・・・)」
ソードベアの内臓を魔法で掘った穴に入れながらそんな事を考える。
あのモツ鍋とやらはそれほどに美味しく衝撃的だった。
ソードベアの解体を終えたので森の中に倒れているワイルドベアとソードベアを引き摺って計二十体の熊を森の入口に並べて行く。
「(フォルナ達はまだまだ帰ってこないだろうな。)」
そう思って料理を始める。
始めの探索魔法にはゴブリンの反応があった。
俺の魔力に怯えて出てこなかったが魔熊がいなくなった今死体を見張っておかないと盗られるかもしれない。
ゆっくりとご飯を作って食べ終わった頃にフォルナとアイリーンが荷馬車の群れを引き連れてやってきた。
「今日中に終わらないから急遽にんぷを雇った。」
「さぁみんなお願いします!」
フォルナが説明してアイリーンがみんなを指示して魔物を荷馬車に積んでいる。
「少し遅いが昼飯作ったが食べないのか?」
「魅力的だがにんぷ共がネコババしないか見張らないと駄目なのでな!」
「さぁじゃんじゃん積んで下さいね!」
「そうか、折角作ったが残念だ。」
フォルナが鍋を凝視してアイリーンもキビキビとにんぷ達に指示をしながらも鍋をちらちらと見ているので断腸の思いなのだろう俺は鍋ごとマジックバッグに入れる。
「俺も手伝おう。」
にんぷ達に任せていると積み込みで日がくれそうだったので、ワイルドベアを持上げて荷車に載せて行く。
「そこ!さぼるんじゃない!」
「はいはいはーい!あの人は金級冒険者なので気にしないでくださーい!」
ヒグマよりも一回り大きいワイルドベアを持上げる俺を見て立ち止まるにんぷ達に二人が渇を入れている。
「はーいそれじゃ皆さん出発でーす!」
そう言ってアイリーンの荷馬車を先頭に荷車隊が出発する。
俺はワイルドベアの上に座り、フォルナは見張りのために最後尾の荷馬車に乗っている。
「ルドルフさん。」
「なんだ?」
「今度ルドルフさんの弓を引かせてもらいたいのですが・・・」
「構わんが恐らく引けんぞ?」
「フフフフ!身体能力強化魔法を駆使した私で引けない弓なんてないでしょう。」
アイリーンが御者をしながら胸を張って言うが恐らく無理だろう。
おそらくフィルやアランでも引けるかどうかという所だと思う。
そして人間界では身体強化魔法の事を身体能力強化魔法と呼ぶようだ・・・長い。
そんな事を考えながら馬車に揺られながらワイルドベアに洗浄魔法をかけて上に寝転ぶ。
気になる獣臭がなくなり毛もふかふかになったので非常に寝心地がいい。
綺麗な青い空を見上げながら馬車に揺られていると後ろからすごい音がしてにんぷ達の騒ぎ声が聞こえる。
顔を上げるとワイルドベアの重さに耐え切れずに荷車の一つが壊れたようだ。
にんぷ達は総出で荷車を持上げて修理しようとてんやわんやしている。
が荷車は持ち上がらず載せているワイルドベアを下ろすようだ。
「はぁ・・・本当に日が暮れるぞ。」
溜息を吐いてワイルドベアの上から降りて荷車の下へと行く。
「おい待て。俺が持上げる。」
ワイルドベアを降ろそうとしているにんぷ達を止めて荷車を持上げる。
軽々と荷車を持上げる俺を見てにんぷ達はぽかんと口を開けて俺を眺める。
「早く修理しろ。」
「へ、へい!」
そう言ってにんぷ達が外れた車輪を取り付ける。
「もう大丈夫でさぁ!」
「わかった。日暮れまでに村に着くぞ。」
十分程で修理が完了したのでゆっくりと荷車を地面に下ろしてアイリーンの馬車へと戻ってワイルドベアの腹の上に寝転がる。
「出発しますよぉ!」
俺が乗った事を確認したアイリーンが声を張って荷馬車隊が道を進んで行く。
その後は何も問題無く村へと着きアイリーンが指示をしてギルドの前でにんぷ達がわらわらとワイルドベアを降ろし始める。
「我々に任せてルドルフ殿はどこかでゆっくりとしてください!」
そう言っフォルナがギルドの中に入って行く。
「(言葉に甘えて暇だし風呂にでも入ってこよう。)」
そう思って作業するにんぷ達を横目に公衆浴場に入る。
風呂を堪能してギルドに行くとまだワイルドベアを下ろしていた。
「ルドルフ殿!丁度よかった今査定が終わったのでカードをお願いします。」
「わかった。」
フォルナに言われるままにギルドに入り受付にカードを差し出す。
「解体費込みでワイルドベアが一体三十万、ソードベアが一体五十万ですね?」
「・・・毛皮が丸々綺麗に取れるのにその値段か?ルドルフ隊長の心遣いで騎士団ではなく市井に魔物を流すのだぞ?」
「ワイルドベア四十万、ソードベア七十万で・・・」
「いいだろう。ルドルフ殿カードを。」
「すまんが百万は現金で残りはカードに頼む。」
「かしこまりました!」
フォルナが値段交渉してくれたようだ。
俺は価値がわからないので言われるがままだ。
最後の言葉もアランに言われていた言葉だ。
しばらくして受付の女性が皮袋をカウンターに載せてカードを手渡してくる。
「どうもありがとうございました!ご確認下さい!」
「ありがとう。」
カードを受け取って見ると0だった所が8500000という数字になっている。
続いて皮袋をから金貨を一枚取り出してフォルナに渡す。
「にんぷ代にしてくれ。足りるか?」
「問題無いかと。」
「じゃあ後は任せていいか?」
「はっ!お任せ下さい!」
フォルナが敬礼をして答えるので任せて宿で食事をして部屋に戻る。
「まだ明るいな。」
夕暮れだがまだ寝るような時間ではない。
それに俺が狩ったワイルドベアの解体などをこれからするのだろう。
村に響く作業の声が煩くて寝れそうに無いので部屋に備え付けの机で辞書を開いて勉強する。
馬車の中での勉強でも十分快適だったが、やはりちゃんとした机は勉強しやすい。
「せーっっの!!・・・せーっっの!!」
ワイルドベアを運ぶ人々の声を聞きながら単語を覚える。
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