第二十七話 金級冒険者ルドルフ誕生
話しが纏まったようで四人がこちらに戻ってくる。
「ギルドからの条件は討伐した魔物はギルド以外に売らないこと。」
「問題無い。」
サンドラの言葉にアランが不敵に笑いながら答える。
「騎士団からの条件は常に数人の騎士を帯同する事。」
「邪魔をしないなら問題無し!」
「邪魔とは?」
「ニコの邪魔だよ。まぁ足手まといを連れて行く時点で邪魔だけどね?」
「・・・心得た。」
アランの言葉に悔しそうにアルフォンスが答える。
「王国からの条件は我が国と敵対しない事だ。」
「それは答えかねるわね。王国があたしとニコの敵になったら敵対も何もないわ。現に二年前騎士団があたしを騙したから私は騎士団と戦ったし?」
「・・・心得た。」
「(アランは王に対しても態度を変えないのか・・・)」
アランに対して頭を下げるアレク王を見て感心する。
「最後にワシだな。この仮面をつけなさい。」
そう言ってフィルが目元を隠すマスクを机の上に置く。
「なに?このベネチアンマスクは?」
「マジックアイテムだ。これをつければ顔を認識されなくなる。」
アランが訝しそうにマスクを手にとって尋ねるとフィルが答える。
「御者係の時の眼鏡と同じ物か?」
「その通りだ。よもやレジストする新入生がいるとはな。」
これでターニャ達が気付かなかった理由がわかってすっきりした。
「「「なっ!?」」」
「ふーん?ならニコがあたしみたいに改名を迫られる事はなさそうね?」
「アランには本当に申し訳ないと思ってる。」
俺がマジックアイテムにレジストしてフィリップとフィルが同一人物と気付いたと聞いて三人が驚いているがアランとフィルは無視して話を進めるようだ。
「これであたしを認識出来ないのかな?」
アランがベネチアンマスクを装着して言う。
「不思議な事に顔がよく見えないな。」
「ですが違和感はありませんね?」
アレク王とアルフォンスがアランをマジマジと見つめながら言う。
サンドラとフィルも同じ感想な様で頷きながらアランを見つめる。
「ニコにはどう見えてるのかな?」
「マスクを付けたアランだな。」
「やっぱりニコの方が魔力高いか・・・」
そう言ってアランはベネチアンマスクを外して渡してくる。
「多分これは装着すると狭い範囲に認識阻害魔法が発動するマジックアイテムのようだな。」
「多分そうね。」
俺の分析にアランが同意するので間違いないだろう。
これなら魔法を発動し続けなくていいので便利だ。
「色々と突っ込みたいが・・・まぁいい!これに血を垂らしてくれ。」
フィルがギルドカードを差し出してくる。
「二重登録になるんじゃないのか?」
「別に二重登録は問題ないぞ?ただ無駄だから特別な事情が無い限りは誰もせんがな。」
「なら問題ない。」
フィルが差し出したギルドカードに血を垂らして登録する。
「これでニコは王国騎士団第九番隊々長のルドルフだ。」
早速仰々しい肩書きが付いた。
「ニコ安心しな?ニコしかいない誰も知らない名前だけの部隊だから。」
表情が曇っていたのだろうアランが補足してくれる。
アランが大丈夫と言うなら大丈夫なのだろう。
「んむ!冒険者として騎士業務を行ってもらう!かなり特殊な立場になってしまったが仕方があるまい・・・」
「よし!話は終わったね?じゃああたしは今日一日爺と喧嘩して疲れたから部屋に戻るよ?」
フィルが言い終わるとアランが一拍手を叩いて立ち上がる。
「・・・まだだ!急いでニコにお願いしたのにはわけがあるんだ!」
フィルがアランを制する。
同時に何かを察したアランが不機嫌になって椅子に座りなおす。
「まだ学校が始まっても無いのに依頼とか頭おかしいんじゃないの!?」
「アランは学校から離れられないからな・・・急いでニコの力を計ったのもそのためだ。」
「それで馬車を押させたり、非常識な事をさせたのか。」
「そうだ。戦闘能力はミノタウロスを圧倒出来るのはわかっていたから、色々と無理を言って人間性を見させてもらった。すまなかった。」
そう言って対面の四人が頭を下げる。
「(フィルやアルフォンスとサンドラはいいが、王が頭を下げるのはそうそうあることではないのではないだろうか?)」
「アレク王まで頭を下げるって事はかなりの人不足なようね・・・」
アランが驚いて言うのでやはり珍しい事だったようだ。
「お前に学校の・・・王子の警護を依頼する時点でわかってただろう?」
「まぁ・・・ね?で、ニコへの依頼って?」
今日一日アランが教壇に立っている所を見てないので不思議に思っていたのだが、先生とは名ばかりのボディーガードだったようだ。
「(そういえば王子がどれか見てないな・・・)」
興味は無いのだが知らずに近づいて非常識なトラブルに巻き込まれるのは避けたいのだ。
俺がそんな事を考えている間にも話しが進んでいる。
「王都から二日の森で魔熊が大量発生していてな、その退治を依頼したい。」
「問題ない。だが一つ頼みがある。」
そろそろ肉も少なくなって来た頃だったのでありがたい話でもある。
だが二日も馬車に揺られるのは暇だ。
「図書室の本を貸し出して欲しいのだが?」
俺の言葉を待つフィルに言うとおそらく俺の提案を聞いて安心したのだろう、フィルは笑顔になる。
「特別に許可しよう。明日出発だ!朝八時に王都の門前に行くぞ。バルテ先生にはわしから言っておくから気にしなくていいぞ。」
「わかった。」
フィルが了承してくれた。
文字を覚えるために借りる本はもう決めてある。
「この任務で君の力を計らせてもらうよ。」
「わかりました。」
アレク王が手を差し出してくるので握手をして答える。
「フィルが言うんだから大丈夫だと思いますが、死なないように!命が一番大事ですよ?」
「では騎士団として頑張ってくれたまえ!」
「はぁ。」
アレク王と握手しているとサンドラが優しく笑って言い、アルフォンスが乱暴に肩を叩きながら言う。
「ではみんな忙しい中すまんかったな?解散だ!」
フィルが言うと三人は部屋から出て行く。
「さてっと・・・あたしも部屋に戻ろっと!」
「アラン。俺がいない間食堂が使えないマットとシャルルを頼む。」
「ん?何それ?」
「順位ワースト三人は食堂の飯を食べちゃ駄目らしいぞ?」
「ふーん?任せときな!」
アランが胸を叩きながら部屋から出て行く。
「ふぇっふぇっふぇっ!仲が良いと思ってたらそういう事だったか・・・さぁ図書室に行くぞ!」
「わかった。」
フィルと一緒に図書室に行く。
「なら好きな本を持って来い!」
そう言ってフィルはカウンターに座る女性と何やら話をしている。
俺は一直線に辞書へと向かう。
単語を覚えるならこの本が一番だろう。
「ほう?そんな本を読むのか?」
フィルの下に行くと興味深そうに俺が選んだ本を眺める。
「単語を覚えるならこれが一番だろう?」
「ふぇっふぇっふぇっ!お前さんらしい合理的な選択だな。フィオナ?これからも頼んだぞ?」
「わかりました。」
カウンターに座る女性がフィルに頭を下げている。
「ニコ?この女性が図書室の司書のフィオナだ。これから借りる時はフィオナに声をかけろ。一応本はみんなに見えないようにな?」
「わかった。」
おそらく俺だけの特例だからだろう、すぐに辞書をマジックバッグに入れる。
「じゃあ明日から頼んだぞ!」
「わかった。あ、フィル?昔一万の軍勢と戦ったとか?」
「大昔の話だ。」
「英雄譚には十万となっていたがどちらが正しいんだ?」
「あの本か・・・」
フィルが恥かしそうに頭を抱える。
「あれはある事無い事を面白おかしく書いてあるから信じちゃ駄目だぞ?」
「そうか、なら剣を持って産まれたってのも嘘か。」
「嘘に決まっているだろうが!」
「そうか・・・残念だ。」
「ああ言う英雄譚とかは売れるように面白く書いてあるからな?信じるんじゃないぞ?」
「わかった。」
楽しく読んでしまった俺はまんまと人間の策略にはまってしまったようだ。
フィルと別れて学校を抜けて真っ暗な道を歩いて寮へ帰る。
寮に入るとマットとシャルルが話しかけてくる。
「ニコお帰り!」
「用事って何だったんですか?」
「ん?問題ない。明日から俺は用事でいないから飯はアランにお願いしたからな。」
ハンモックに寝ながら二人に言うと目を丸くしている。
「え?どういう意味?」
「いなくなっちゃうんですか?」
「すぐに戻ってくる。今日は疲れたから寝るぞ。」
マットとシャルルは納得いっていないようだが、俺は疲れたので気にせずすぐに意識を手放す。
よほど疲れていたのだろう、初日と違ってトイレに行く生徒の足音で起きる事無く朝を迎えた。
すぐに起きて朝食を作りに調理場へと行く。
使用人たちに紛れて朝食を作り終え食堂に行くと当然の顔をしてフィルとアランがマットとシャルルと一緒の机で俺を待っていた。
「だろうと思ってた。」
そう言って机の上に鍋を置くとシャルルとマットが配膳を開始する。
「今日のパンはあたしが買ったわよ?」
「ワシも金を出したぞ!」
二人が胸を張って言うが、いい大人がパンで威張らないで欲しいものだ。
マットとシャルルが配膳を済ませてみんなで朝食を食べる。
「なぁ?パン多すぎないか?」
二人が買ったというパンが机の中央に山盛りに盛られていて五人で食べきれる量ではない。
「余ったらニコが持っときなさい?」
「ふぇっふぇっふぇっ必要だろう?」
「そういう事か。」
旅の途中で食べろという事だろう。
きょとんとするマットとシャルルを横目に五人分のパンを残してマジックバッグに入れる。
朝食を食べ終わりマットとシャルルが食器を洗いに行く。
「ニコ?恐らく同行する騎士は女よ?手を出しても出されても駄目よ?」
「よくわからんがわかった。」
二人がいなくなり、アランが真面目な顔で言って来る。
俺はいってる意味がわからないがとりあえず頷いておく。
「あたしの時と同じように国との繋がりを深くさせるためのハニートラップよ。」
「そんな事までしてくるのか。」
言われなくても手を出さなかっただろうが聞けてよかった。
「ニコ?死ぬなよ?危ないと思ったら任務を放棄して逃げてもいいからな?」
「わかってる。」
フィルも真面目な顔をして言う。
そんな事は言われなくてもわかっている。
いざとなれば森に帰って任務どころか人間界からも逃げるつもりだ。
「ニコおまたせ!」
マットとシャルルが洗い終わった食器を抱えてやってくる。
食器を受け取りマジックバッグに入れる。
「じゃあ出発だ!」
「そうね?あなた達は授業がんばりなさい?」
「「はい!」」
筆記用具の入ったカバンを持ったマットとシャルルを見送って俺もフィルとアランと一緒に学校を出る。
「そろそろ仮面を着けてもいい頃だな?」
「・・・本当に顔がわからないわね。」
「念ためにローブも着ておこう。」
フィルに言われてマスクを装着してローブを着てフードを深深と被る、アランが俺の顔を見るために覗き込んでくる。
アランにもわからないと言う事は基本的に人間には認識阻害が働くと考えていいだろう。
騎士団の馬車が待っているという門に向かって三人で朝から騒がしい王都を歩く。
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