第二十五話 子供にたかる大人達
幸いにも昨日のようにアラン達が来ても大丈夫なようにと思って作っていたので量はある。
来なくて余れば昼飯と晩飯にすればいいという考えだったのだ。
「ニコごめんよぉ・・・ありがとぉ・・・」
マットが今にも泣き出しそうな顔で言う。
そして後ろでブロンド癖っ毛の男の子が泣いている。
「だがパンが欲しいな・・・」
「それなら食堂で買えるよ!」
「ならこれで買えるだけ買って来てくれ。」
そう言ってマットに銀貨を渡す。
「ニコ?何個買うつもり?」
「ん?何個くらい買えるんだ?」
「三十個くらい買えるんじゃない?」
「じゃあ朝食の分だけ買って来てくれ。」
「わかった!」
笑顔のマットが銀貨を握り締めて調理場から出て行く。
「おい。お前三百五十六位だな?この鍋を混ぜてくれ。」
「わ、わかりました!」
そう言って癖毛の男の子が一生懸命鍋を混ぜ始める。
俺は隣のカマドで目玉焼きを作る。
「あの!僕シャルルです!」
「俺はニコだ。」
「なんでニコ君は自分で料理を作っているんですか?」
「俺はゴブリンやコボルトの肉を食べるのはごめんだからだ。」
「えぇ・・・魔物肉ってだけで高級品・・・」
シャルルがブツブツと言っているが目玉焼きを焼く音でさっぱり聞こえない。
「はいはーい!朝食食べに来たよー!」
「・・・目玉焼き追加だな。」
寝癖で頭が爆発したアランがやってくる。
となりで目を見開いたシャルルが「アラン様?」と呟いているがだらけきった寝間着のアランは様付けをされるような人物には到底見えない。
「さすがニコ!可愛い子だね!今日のメニューは?」
「リザードマンのミネストローネだ。」
「リザ・・・」
シャルルはさっきから驚きすぎたせいか無表情になった。
「じゃあ料理をー・・・?食べよー!」
上機嫌で鼻歌を歌うアランを先頭に戻ってきたマットがパンを、俺が目玉焼きを、シャルルがスープの入った鍋を持って廊下を進んで行く。
「あたしの部屋だよ!」
そう言って部屋に入って行く。
部屋の中は宿屋と変わらないベッドに机があるだけの質素な部屋だった。
「君達!女の部屋をじろじろ見すぎだよ!」
「見る物が無いのだが?」
「まぁ基本はマジックバッグに入れてるからね?ニコもでしょ?」
「俺は普通の常識的な量しか入らない。」
「じゃあそういう事にしとこう、朝食まだ?」
「もう出来ます!」
「はい!ただ今!」
アランの言葉に配膳をしていたマットとシャルルが答える。
「うーん!昨日のポタージュも美味しかったけどミネストローネも美味しい!」
俺のスープを飲んでアランが唸るように言う。
「やっぱりニコの料理は美味いな!」
「これが・・・リザードマンの肉・・・」
満面の笑みでマットが言い、シャルルはスープに入れた肉を眺めてうっとりとしている。
「で?君達はこれから一週間何をするのかな?」
「はい!俺は金が無いのでギルドで手伝いの依頼を受けようかと!」
「俺は図書館に篭るつもりだ。」
「え?君達文字の読み書きできるんですか?」
アランの問いにマットと俺が答えると、シャルルが驚いて聞いてくる。
「読めるけど、書けないよ?」
「俺も練習中だ。」
「じゃあ僕と一緒にバルテ先生の授業に行かないと!一週間で読み書きを教えてくれるらしいですよ?」
「アラン?俺達は何も聞いてないぞ?」
シャルルの言葉にアランを睨みながら言うと、口の周りを目玉焼きの黄身で汚したアランが遠い目をする。
「あ・・・そういえばそんなのあったな・・・」
そしてそのまま呟く。
完全に忘れていたようだ。
「俺の料理目当てとはいえ、調理室の場所を教えてくれた事は感謝する。だが教えるべき事を忘れてまで自分の目的を優先するな。」
「・・・はい。」
俺の言葉に肩をすぼめてしおらしくなるアラン。
「ねぇ・・・アラン様にあんな事言えるなんてニコ君って何者?」
「さぁな?俺もキャラバンで出会ったばかりで謎だらけなんだ。」
シャルルとマットがこそこそと話している。
「お詫びと言っちゃあなんだけど・・・」
そう言ってアランがマジックバッグから肉を取り出す。
「またオーガ肉か・・・」
「ニコこれを柔らかく料理出来るんでしょ?」
「・・・なんでお前の飯まで世話しなくちゃならんのだ?」
「ンフフ!あたしを味方に着けてた方が絶対にお得だと思うよ?」
「ちっ!マット達のついでだな!」
「じゃあ今日の夜はステーキ楽しみにしてるから!」
笑顔のアランがオーガ肉塊を机の上に置くので受け取ってマジックバッグに入れる。
「シャルル?バルテ先生の授業はいつからだ?」
「朝食を食べ終わり次第来なさいって言ってましたよ?」
「ならこれ以上何か言われる前に出発だ!」
そう言ってスープの入った鍋をマジックバッグに入れる。
「あ・・・私のお昼御飯が・・・」
アランが小さく呟くが聞こえない振りをしてマットとシャルルを連れて部屋から出る。
「すまんが案内を頼む。」
「昨日の筆記試験場のはずですよ!」
そう言ってシャルルが廊下を歩くのでマットと一緒に並んで廊下を歩く。
教室に入るとすでに授業は始まっていたようだ。
七人の生徒が授業を受けていた。
驚くことに昨日見た勇者が授業を受けていた。
「遅い!早くここに座りなさい!」
「「はい!」」
老婆に怒られて言われた席に向かう。
マットとシャルルはびびったのか小走りだ。
「ではノートと筆記用具を出しなさい!」
「ノート?」
「白紙の本の事です!」
席に座るとバルテに言われ白紙の本・・・ノートと筆記用具を取り出す。
隣のマットを見るとノートを持っていないのだろうがバルテに怒られたくないのだろう、言い出せずに困っている。
黙ってマットに予備のノートを渡すと笑顔で頭を下げてくる。
「よろしい。では始めます!」
そう言ってバルテが声を出しながら壁に文字を書き始める。
どうやら文章の基本となる文字の読み方と形を教えてくれるみたいだ。
全員が一斉にバルテの後に続いて声を上げながらノートに書き取る。
さすがは教える事で食べている人間な事はある。
とてもわかりやすく午前中でほとんど理解が出来た。
単語は二十六種類の文字の組合せで表現されていて、さらにその単語の組合せで文は成り立っている。
これからは尊敬の念を込めてバルテ先生と呼ぶことにしよう。
「では昼休憩にしましょう!十三時にこの教室に集合です。では解散!」
バルテ先生の言葉に七人の生徒は一斉に教室を出て行く。
「じゃあスープを温めるか・・・マットはパンを頼む。」
「了解だ!昼は食堂で食べるよね?席取りも任せてくれ!」
銀貨を渡すとマットが食堂へと走って行く。
俺とシャルルは調理室に行ってスープを温める。
「・・・ねぇ?なんで火魔法がそんなに上手なのに零点なんですか?」
「ん?水晶玉が反応しなかったから試験を受けさせてもらえなかったんだ。」
俺の言葉にシャルルが驚いている。
「まぁ半年後に受けられればいいだろう。お前はなんでそんなに点数が低いんだ?」
「僕は今まで魔法とか剣とか使った事も無くて・・・」
「ごーーーはーーーんーーーっ!!」
シャルルの言葉を遮ってアランが調理場に突撃してくる。
周りで料理していた使用人達がびっくりしてアランを見る。
「・・・予想してたから四人分作ってある。」
「さすがニコ!」
アランが抱きついて来る。
料理中なのでとても危ない。
「五人分だ!」
「はぁ?」
部屋の入口から声が聞こえて眉をひそめながら見るとフィルが立っていた。
周りの使用人達は料理の手を止める事無く俺達とフィルを交互に見ている。
非常に目立ってしまっているようだ。
「こ、校長先生!?」
「爺は食堂の飯を食ってな!」
シャルルが驚いて、アランは手を追い払うように振りながらフィルに言う。
「ちっ!」
思わず舌打ちしながらスープはもう量を足せないので、一品作る。
適当に野菜炒めだ。
「ほう?ニコはいい旦那さんになるね!今から予約しとこうかなぁ?」
「・・・興味無い。」
「ふぇっふぇっふぇっ!なら食堂で食べるぞ!」
アランとのやり取りを楽しそうに見ていたフィルが部屋を出て行く。
「おい・・・何か持てよ・・・」
「そうよクソ爺!」
「ニコ君?アラン様?校長にそんな口は・・・」
三人で料理を持って食堂へと行く。
食堂へ入ると笑顔のマットとフィルが座って手招きをしている。
三人で鍋とフライパンを置くと食器を持っていたシャルルが配膳を進める。
「なぁ?食堂内に同級生しかいないがなんでだ?」
「この時期は休みが長いからな。みんな帰郷中だろうよ?」
俺の素朴な疑問にフィルが答えてくれる。
「なるほど。」
「それよりもニコは文字は書けそうか?」
「読めるからな。大体は書けそうだ。」
そう答えるとフィルはとても満足そうに頷く。
「それはよかった大事な話しがある!夕食を作ったら校長室へ来い!」
「えっ!?ちょっ!?それって!!??」
フィルの突然の呼び出しに対してアランがフィルに掴みかかって何か言い合いを始めている。
「あの・・・配膳終わったんですけど・・・」
「ほっといて食べるぞ。」
「やっほーい!肉だぁ!」
シャルルが言うので俺が答えるとマットが嬉しそうに野菜炒めの肉だけを食べる。
「野菜も食え。」
「えー!?母ちゃんみたいな事言うなっての!」
「でもでも!ニコ君の言う通りですよ!」
「シャルルもかよ!?ちぇっ!」
俺の言葉にシャルルが同意し、反論していたマットが大人しく野菜を口に入れてスープで流し込む。
「フィル?話は後!昼食よ!」
「そうだな!ニコの野菜炒めが無くなるな。」
フィルとアランがマットが食べる机の中央に盛られた野菜炒めを見て口論を止めて昼食を始める。
「お前ら話しは纏まったのか?」
「とりあえずワシとアランの分の飯を持って校長室だ!」
「それまでにはニコが有利になる様に話し纏めとくから!」
俺が聞くとマットとシャルルと野菜炒めを取り合いつつフィルとアランが答える。
どっち道俺は校長室に二人の夕食を持って行かなければならないようだ。
料理する量が増える事に思わず溜息を漏らしながら昼食を食べる。
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