第二十四話 零点の男
「あの料理なんだ!?」
皿を持ったマットが人ごみに突っ込んで行く。
「あいつは勇者か?」
「勇者はあそこだよ?」
俺が思わず呟くとエミールが演習場の端を顎でさす。
演習場の端をみると、使用人であろう大人達を従えた数人の男女が豪華な机で優雅に食事をしている。
がその中に一人だけ平民の服装でオドオドとしている明らかに場違いな人間がいる。
「真ん中で食事をしている黒髪が勇者みたいだね?右隣が公爵家のエドワール君で左隣は伯爵家のギャスパル君だね?」
「ほう?よく知ってるんだな?」
エミールの情報に感心する。
「僕はこれでも貴族の子供だからね。自分が仲良くなるべき目標でもあるから当然だよ。」
「貴族とは大変なのだな。・・・王子はあの中にいないのか?」
「僕もそう思って探してるんだけど王子は・・・見当たらないねぇ?」
「王子は試験を受けていないのか?」
「戦争中だからねぇ?暗殺を恐れて試験は別で受けてるのかもね?」
「ん?先程歴史書を読んだが終戦したんじゃないのか?」
「表向きはそうだね?」
「裏があるのか?・・・意味がわからん・・・」
エミールの言葉の意味を考えていると人ごみの中からマットが出て来る。
「取って来たよ!」
マットが黄色い細長い棒の料理を皿にいっぱいに盛ってやってきた。
一つ摘んで食べると外はカリカリで中はホクホクの芋料理だ。
程よい塩味でとても美味しい。
「それフライドポテトよ。」
「芋を油で揚げた料理だね。」
ターニャとエミールは知っていたようだ。
俺とマットは手が止まらず皿に山盛りにあったフライドポテトはすぐに無くなってしまう。
「ニコ?無くなっちゃったね?」
「そうだな。」
「まだ足りないよね?」
「そうだが・・・俺はあの戦場に赴く勇気はない。」
「同じく・・・」
「順位発表じゃ!」
マットと空の皿を眺めて話していると、フィルの声が聞こえた。
先生達が板を演習場の中へと運びこんでいてみんなが一斉にそちらへと向かう。
ターニャ達も走って見に行った。
「今だ!」
「そうだな。」
どうせ鉄クラスの俺とマットは順位なんて気にせずに料理を取りに机へと向かう。
俺達以外と同じように順位を見に行かずに料理に集中する人は十人くらいいる。
「やったぁ!銅だぁ!」
「チクショウ鉄だ!」
集団の中から色々な声が聞こえてくる。
「おい!最下位は零点だってよ!」
最下位は全部の科目で点数無しだったようだ。
「三科目受けて零点って今日一日何してたんだ?」
一日頑張ったのに可哀想な人がいるものだ。
「百九十二番って誰だ?」
俺だった。
マットが食事の手を止めて俺を見てくる。
「アラン・・・本当に剣の試験は零点にしたのか。」
思わずアランを睨むとフィルと一緒に俺を見て大笑いしていた。
「まぁいい。百一位も最下位も同じ鉄クラスだ。」
「そうだね!今のうちに腹いっぱいになるぞ!」
マットと一緒に今のうちに色々な料理を堪能する。
しばらくして順位を確認した人が戻って来て机の周りは先程と同じように戦場と化す。
俺とマットはなんとか腹を満たすことに成功して順位を確認する。
「お!エミールとターニャは銅クラスじゃん!」
「ほう?ちなみに三百五十七位の百八十七番ってマットだな?」
「・・・そうだね。」
マットは俺の一つ上の順位で十五点だった。
「魔法が発動しなくってね・・・ニコは魔法と剣は何で零点だったんだ?」
マットが肩を落として答える。
「魔法は受けさせてもらえなくて、剣は・・・アランの悪戯だな。」
「そういえばアランさんとどういう知り合い?ターニャが言ってたけど、あの人二年前くらいに一人で騎士団を壊滅寸前にまで追い込んだ恐い人らしいよ?」
中々非常識な人間なようだ。
「俺にもさっぱりわからんのだ。」
「そっか・・・ニコは謎だらけだな!ヘヘヘ!」
「ふん。俺はつまらん普通の人間だ。」
マットの言葉に鼻で笑って答える。
「ニコ?もうご飯は食べ終わったの?」
マットと談笑しているとアランが話しかけてくる。
「終わったがどうした?」
「あんたには必要だろうからちょっと設備の紹介を、っね?さぁ行くわよ!」
そう言ってアランが演習場から出て行くので大急ぎで付いて行く。
何食わぬ顔でマットも付いて来ている。
学校の中は王都と同じく一定間隔で魔力灯が設置されていてとても歩きやすい。
「ここが食堂よ。」
「ふむ。」
「だけどニコはここで自分の料理を食べるだけでしょうね?」
そう言ってアランは食堂の前を素通りして行く。
「どういう意味だ?」
「食堂で作る料理はゴブリンやコボルトの肉を使ってるからよ。」
「(そんな最下級の魔物肉はごめんだな。)」
「えっ!?魔物の肉を食べられるんですか!?」
俺がそう意味か、と納得しているとマットが目を輝かしてアランに聞いている。
「そうよ?でもフィルに聞いたけどここに来るまでの道中でオーガやミノタウロスを食べてたんでしょ?」
「ミノ!?知らないです!」
「オーガ肉を手に入れる前はミノタウロスの肉だったんだ。」
俺の言葉にアランがにやりと笑い、マットは驚いて声が出ないようだ。
しばらく歩くとたくさんの調理台が並んでいる部屋に着く。
「ここが調理室よ。」
「ふむ。ここで料理を作ればいいんだな?」
「その通りよ。場所は覚えたわね?じゃあ寮に行きましょ!」
そう言って調理台を調べる俺とマットを無視してアランは一人で廊下を進んで行く。
「これが金クラスの寮よ。」
そう言って一軒の建物の前を通り過ぎる。
金クラス十人で住むには広すぎる大きさの建物だ。
「次が銀クラスね!ここまでは一人部屋よ?」
先程と全く同じ建物だ。
三十人が住む建物と言われれば問題なさそうだ。
「次が・・・銅クラス、二人部屋よ?」
全く同じ建物の前を通り過ぎる。
「最後にあなた達の寮ね。二階が女子よ。」
「同じ建物が四つか。百六十人が住むには小さすぎないか?」
「よく聞きなさい?これから半年は死ぬ気で勉強しなさい?入学試験は所詮今までの教育レベルを見るための物だから、本当の順位は半年後の同じ教育で挑む試験よ?」
アランが真面目な顔で言って来る。
マットは真剣な顔で何度も頷いて聞いている。
「じゃあ学校開始は一週間後よ!ゆっくり休みなさい?」
「わかった。ありがとう。」
「ありがとうございました!」
「忘れてた!鉄クラスのトイレはあそこだから。じゃあね?」
アランが少し離れた所に建つ掘っ立て小屋を指差してから、後ろ手を振りながら去って行く。
「入ってみようぜ?」
「そうだな。」
マットと一緒に寮の中に入る。
寮の中は所々に柱がある大部屋だった、一メートルの高さで間仕切りされた狭いスペースにハンモックが吊るされていて、それが部屋の奥までズラリと並んでいる。
俺達とは別に案内を受けたのであろう新入生達が一日緊張して試験を受けた疲れを癒している。
「俺達のハンモックはこれだろうな。」
「そうだな。」
おそらく奥から順位順なのだろう、入口近くの二つのハンモックが空いていた。
俺とマットがハンモックに乗ると寮の中にどよめきが起こる。
「多分あれだね・・・零点が誰かわかったからだろうね?」
「そういう事か、合点がいった。」
マットの言葉に納得したので寝袋に入ってハンモックで寝る。
寝ているとみんながトイレに行くために俺の前を通るのだが、時折俺をジロジロと見て行く人間がいて、気になって寝る事が出来ない。
「(馴れなければ駄目なのだろうな・・・)」
自分に睡眠霧をかけて無理矢理眠る。
翌朝騒々しく話すみんなの声で目を覚ます。
昨夜は疲れきっていて静かだったが、一晩寝てすっきりしたのだろう。
自己紹介をしたりしてみんな交友を深めながら食堂へと向かっている。
「ニコ?俺達も行こうぜ?」
「・・・アランの言う通り俺は自分で作るかな。」
「・・・じゃあ魔物肉を食べさせてくれとは言えないから食堂に行くよ・・・」
そう言ってマットが肩を落として寮から出て行く。
「(そこまで気にしなくてもいいのだがな・・・)」
そう思いながらも調理室に行く。
調理室では数人の大人が料理をしていた。
空いてるカマドに火を点けて料理を開始する。
「これはこれはニコ君!無事に入学できたようで何よりです!」
「オーギュストさんか、あなた方こそ間に合ったようでよかったです。」
「それもこれもニコ君のおかげです!ニコ君が馬車を押してくれていなければ間に合ってなかったでしょう。」
「いえ、俺はフィリップに言われてやっただけですから気にしないで下さい。」
オーギュストが深くお辞儀をして来るので、手で制しながら言う。
「そう言って頂けると助かります。」
「オーギュストさんも大変でしょうが体を大事に頑張って下さい。」
「ホッホッホッ、ありがとうございます。ではニコ君またお会いしましょう?」
そう言ってオーギュストが料理を載せたお盆を持って調理室から出て行く。
料理を作っていると別れた時よりも肩を落としたマットが茶髪の男の子を連れてトボトボと調理室に入ってくる。
確かマットの一つ奥のハンモックで寝ていた生徒だ。
「どうした?もう食べ終わったのか?」
「ニコ・・・伝統でさ?俺達ワーストスリーは食堂使っちゃ駄目なんだって・・・」
「無茶苦茶な伝統だな。なら俺の料理でよければ食べろ。」
どうやらこれからはマット達の分も作らなければいけないようだ。
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