第二十三話 試験終了
「この建物は何だ?」
「演習場だ!ふぇっふぇっふぇっ!」
前を歩くフィルが楽しそうに笑いながら演習場の扉を開ける。
演習場とは剣などの稽古をする場所のようだ。
建物の中には八つの四角い舞台があり壁際には様々な武具が並べられている。
「二人だけか?」
「目立ちたくないんだろ?」
不敵に笑うフィルが言う。
本当にどこまで見抜かれているのだろうか。
「真剣でやってもいいが、今回は刃引きした剣で勝負だ!」
「ふむ。」
フィルから刃引きというものをしているロングソードを受けとる。
渡された剣は刃が潰されていて物を斬れそうにないものだった。
刃引きとは刃を潰す行為の事をいうようだ。
「面白そうな事してるじゃない?」
声の主を探すと演習場の入口にアランがもたれかかって立っていた。
「魔法試験の試験官はどうした?」
「あんなの誰が見ても一緒よ。こっちの試験官も必要でしょ?」
「・・・ニコ?」
カバンを降ろして刃引きをしたロングソードの素振りをして感触を確かめているとフィルが聞いてくる。
フィルを信用して大丈夫と判断するならそれで構わない。
「俺は構わん。」
「久々に楽しめそうね!」
「お主はニコとはどういう関係じゃ?」
「さぁ、ねっ?ニコは準備万端みたいよ?」
「グヌヌヌヌ!」
二人がなにやら騒いでいるので俺は舞台の上で準備体操をしながら聞いていると、フィルも俺と同じようにはぐらかされている。
フィルが悔しそうに顔を顰めながら舞台に上がってくる。
「では来い!」
御者をしていた好々爺のフィリップではなく、剣聖らしく強者の雰囲気を纏ったフィル校長が剣を油断無く構えて言う。
「では・・・」
俺は本気で上段に構えたロングソードでフィルに斬りかかる。
フィルとの距離は十メートルあるが、身体強化魔法によって三歩で間合いに入る。
「ぬおぉぉぉ!」
俺が予想以上に早く驚いたのだろう。
フィルが目を見開きながら必死の形相で避ける。
そのまま半身して避けたフィルに横薙ぎに剣を振るう。
「にょぉぉぉぉ!」
フィルが奇声を上げながら必死の形相でくの字に体を曲げて俺の剣を避ける・・・凄まじく格好悪い。
「まだ駄目か。」
油断無くフィルへと突きを放つ。
剣聖なので大丈夫だろうとは思うが念のために首ではなく鎧を狙う。
「ぬっほぉぉぉぉぉ!」
フィルは見事なブリッジで俺の突きを避ける。
老人のフィルがするブリッジには目を見張るものがある。
だが目の前で大股を開いているのは無防備すぎるのでは無いだろうか?
俺は大股を開いてブリッジするフィルの股間を刃引きしたロングソードで軽く叩く。
「ぬおぉぉぉぉぉっほほほほほぉぉぉっ!」
股間を叩くと内股になったフィルは奇声とも笑い声ともわからない声を上げてその場にパタリとブリッジを解いて崩れ落ちる。
「ぎゃははははははっ!ひぃーっ!ひぃーっ!」
舞台の外で試験官として試合を見ているはずのアランが床を叩きながら大笑いしている。
俺は腹を抱えて転がるアランに向き直る。
「これはどうなんだ?」
「あんな慌てた剣聖は始めて見たね!満点だね!」
俺が聞くと涙目のアランはサムズアップしてウィンクをしながら言う。
「それならいい。」
フィルの股間を治癒してやり起こす。
「・・・わしの負けだな・・・」
「爺の負けだね!ぎゃははははは!」
気がついたフィルが悔しそうに言い、アランはフィルを指差しながら言って思い出し笑いをしている。
「ニコ?私とも魔法ありで勝負しないかい?」
突然真面目な顔に戻ったアランが突拍子もないことを言って来る。
「それをして俺になんの得が?」
「得はない!・・・いや!勝ったらお姉さんを一晩好きにしていいよ?」
腰をくねくねと曲げながらアランが言う。
「・・・興味無い。」
「ふぇっふぇっふぇっ!神銀もニコの前では形無しだな!」
「試験官として言います!ニコいえ・・・百九十二番零点!」
頬を膨らませながらアランが告げる。
「(どう考えても職権乱用で非常識な採点だ。さっき満点と言ったじゃないか。)」
「フィル?零点はおかしいと思うのだが?」
「剣の試験だけが満点もおかしいし・・・よかろう!」
悪戯っぽく笑うフィルが事も無げに言い放つ。
「再戦を希望する。」
「絶対にやだやだ!」
フィルが股間を押さえながら首を振って拒否する。
「ギャハハハハハハハハッ!ひぃーっ・・・もう無理!」
試合前の剣聖らしさが微塵も無い所作を見てアランが先ほどの光景を思い出したのだろう腹を抱えて笑っている。
「ニ、ニコは学校に行って図書室にでも行っとれ!」
「そうね、私が案内するわ。」
フィルとアランが魅力的な事を言ってくれるので大人しく従うことにする。
アランの後ろを付いて学校の中を歩く。
一つの部屋に通される。
「ミレイユ先生お願いします。」
「あらあら?早いのね?」
アランが俺をミレイユと呼ぶ丸々太った女性へと背中を押す。
ミレイユはメジャーで俺の体を隅々まで採寸して紙にあれこれと書き込んでいる。
「ニコ君ね・・・はい終わり!」
笑顔のミレイユが俺の背中を叩いてアランへと押し出される。
流れるような一連の流れにされるがままだ。
「はい!これで入学準備も終わり!じゃあ図書室に行くわよ?」
「わかった。」
アランが部屋から出ていくので付いて行く。
しばらく学校の中を歩くと図書室であろう本が入った棚が並んだ部屋に案内されアランが俺に向き直って口を開く。
「ニコ?夕食になったら呼びにくるわ?」
「俺が今必要な本はどれだ?」
「えーーーーーーっとぉ・・・」
アランが悩みながら図書館を見渡して一つの本棚へと行き本を差し出してくる。
「・・・国の歴史?」
「そうよ?これで英雄がどれほどの強さなのかもわかるし一石二鳥よ?」
「ほう?にしてもお前は何者だ?」
「フフフ!あなたの味方よ?」
「ならば裏切ったら容赦なしだな。」
「あー恐い恐い・・・」
わざとらしく言いながらアランが図書館から出て行く。
図書館の中を改めて見渡すとカウンターに女性が座って本を読んでいるだけで他に人はいないとても静かで落ち着ける空間だ。
俺はアランから受け取った本を熟読する。
本の後半にはフィル校長の事であろう逸話が書かれていた。
俺が今いるエスガルド王国はニ十年程前にハイゼン家が突然挙兵して戦争になったそうだ。
当時騎士団長だったフィルは一万人のハイゼン王国の軍隊を単身で食い止め。
エスガルド王国の反撃の時間を作り出した英雄らしい。
「(全盛期のフィルはどれ程の強さだったのだろうか?)」
二十年前・・・今のフィルは六十台といった所だ。
「(にしてもこの本を読んでいれば今日の試験の半分は答えれたな。)」
本を読み終わりそんな事を考えながら図書室の本を一通り見てみる。
農耕の本や建築の本など色々と興味深い本ある。
「(六年で読み終えられるだろうか?)」
思わずそんな事を考えながら適当に本を選んで読む。
剣聖フィルの英雄譚だった。
フィルは剣を持った状態で産まれた所から話しが始まり、冒険者になって民々を助け、最終的には騎士団々長となり十万人のハイゼン軍を一人で叩きのめしたと書いてあった。
「(気付いたら先が気になって読みきってしまった・・・にしてもさっきの歴史書とハイゼン軍の人数が違うな。)」
よくわからないので機会があればフィル本人に聞くことにしよう。
次の本を探しているとアランが声をかけてくる。
「ニコ?ご飯よ?」
「そうか。すぐに行こう。お前達のおかげで昼飯抜きだったからな。」
「細かい事をいつまでもうじうじ言う男はもてないわよ?」
「細かいか・・・なら今度機会があれば是非アランの食事を貰おう。」
「ニコの前では食事はしないようにするわ・・・」
真顔になったアランが言う。
「さっさと食事だ。どこだ?」
「演習場よ。」
「ほう?」
アランと演習場に入ると中は昼間の無骨な武具などはなくなり、部屋の中央に様々な料理を乗せた机を囲んだ受験生達でいっぱいだった。
「ニコどこに言ってたのよ!?」
「ニコ君探したよ?」
ターニャとエミールが駆け寄ってくる。
マット達は机の近くで手を振っている、食事の始まりに備えて机の近くで場所取りをしているようだ。
「さっ!子供同士楽しんできな?」
「すまんな。助かった。」
アランにお礼を言ってターニャとエミールと一緒にマット達の下へと歩く。
マット達と合流するとフィルがお立ち台に上がりみんなの注目を集める。
「オホン!だらだらと長い話は性に合わんから手短に言う。ようこそエスガルド学校へ!みんなこれから六年間よく学び、よく遊び、よく鍛錬をしてくれ!順位発表はまもなくだから食事をしながらこれから共に過ごす友と交友を深めてくれ!食事が終われば半年間過ごす寮への案内だ!では皆今日は疲れたろう我が校自慢の料理だ食べてくれ!」
フィルが言い終わると全員が一斉に机の上に載った料理を騒がしく取り始める。
「(これが学習本にあった立食パーティというやつか。)」
みんなが我先にと料理に群がり戦場のようになった机を見て成程と頷く。
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