第二百三十六話 タメ口ニコール
翌日朝食を終えるとタルトとアンジーは、開けた場所に昨日狩った魔鰐を取り出してから、とても上機嫌な様子で森の中へと消えて行き。
俺はレタスとニコール達を連れて、乱雑に積み重ねられた魔鰐の山を眺めていた。
「・・・ニコ様?この魔物どうしたんですか?」
「昨日あいつらが湖で遊んでいたら襲われたらしい。」
「・・・とんでもないですね。」
「そうだな?楽しく水浴びをしてるのにこんなのに邪魔されたらたまったもんじゃないな。」
ニコールが頭を抱えている。
二人は普通に対処したので、なんとも思わなかったが、確かに水浴びをしていてこんな数の魔鰐に襲われてはたまったものでは無いという事に気付く。
「そこじゃねぇ!この数の魔物を倒せる事にとんでもないって言ったんだよ!」
「ふむ。そっちだったか。」
するとニコールが頭を抱えながら思わずと言った様子で俺にツッコミを入れてくる。
初めて部下からタメ口で突っ込まれた。
今の気持ちを上手く表現出来ないが、タメ口で話されると言うのはとても気持ちがいい。
「あ・・・いや・・・これは・・・ニコ様に言ったのでは・・・」
「いやいい。これからは俺にはタメ口で喋ってくれ。これは命令だ。」
ニコールは俺に対してのツッコミでは無いと必死に否定しようとしているが、一人くらいは俺と対等に話を出来る人間がいた方がいいだろう。
エミールは俺の命令を聞くと、再び頭を抱えて地面に座り込んでいるが、ニッグを含めた部下の中で俺に反論をした人間はニコールだ。
俺としては適任だと思うので無視して後ろに控えるニコラスとドメニコに指示をだす。
「俺はニコールとあの大物を解体する。お前らは手分けして小さい方を頼んだ。」
「「はいっ!」」
ニコラスとドメニコは元気よく返事をして、回りの部下達に指示を出して一斉に魔鰐の山に群がって解体を始めるので、俺は巨大な魔鰐を一人で解体する。
巨躯な分皮も分厚いので、解体用ナイフでは刃の長さが足りないので、刀を抜いて解体を始める。
「おい二コール。そこじゃない。こっちを持て。」
「こ、ここか?」
「そこだ。」
ぎこちないタメ口のニコールと一緒に巨大魔鰐を捌いて行く。
「ニコ様この魔物はなんという名前なのですか?」
「知らん図鑑にも載ってない。敬語はやめろ。」
皮を剥ぎ内臓を抜いていると再びニコールが聞いて来る。
とりあえず敬語だったので注意しておく。
「え?図鑑に載ってない?」
「いいか?人間にとって水の中は圧倒的不利だから、水棲魔物の情報は少ないんだ。」
ニコールが驚いているのでしっかりと説明しておく。
魔物だけでなく、水棲の肉食動物は全てが人間にとって天敵だ。
天敵といえば空を飛ぶ魔物もだが、空の魔物と違って水棲の魔物には水場に近づかなければまず出会う事は無い。
もし不運にも出会ったとすれば、その人間にとっての死を意味するらしいので、ほとんど情報が無いのだ。
なのでエスガルド王国ではどれだけ調べても水凄魔物達の詳細は一切わからないのだ。
魔魚の漁を行っていたブールニア女王国ならば情報があったのかもしれないが、ヴァドールの村でもみんな魔魚や魔貝と一括りに呼んでいたので、あまり期待は出来ないと思っている。
「じゃ・・・じゃあ、この魔物は?」
「ギルドに報告すれば俺達が命名出来るかもな?」
「そんな魔物を二十体も・・・アンジーさん達はどんだけ強いんだ・・・」
「まぁあいつらなら余裕だろうな。」
エミールは驚いているが、タルトとアンジーに・・・水竜と人魚に水中戦を挑んだ時点で、魔鰐達の運命は決したと言っても過言では無い。
俺も二人を相手にすると考えた時に、地上戦ならやりようはあるが、水中戦となるとおそらく手も足も出ないだろう。
その証拠に積み上げられた魔鰐達は、血抜きと魔石を抜き取るために作った二箇所の刺し傷があるだけで、それ以外の傷は見当たらずとても綺麗な状態である。
圧倒的な実力差が無ければ出来ない芸当である。
その後も二人の腕前に関心しながらニコールと二人で巨大な魔鰐の解体をする。
「もっもっ。」
「そうか。もうそんな時間か。」
丁寧に魔鰐の部位分けをしていたら、レタスに呼ばれる。
巨躯の解体に集中していたが思った以上に時間をかけてしまったと、周りを見るのだが、みんな魔鰐の皮を剥いている最中なので、時間をかけ過ぎた訳ではなさそうだ。
「ニコールやり方は覚えたな?部下達と協力してくれ。」
「うっす!」
ニコールに指示をしてから魔鰐の肉を時忘れのマジックバッグに入れてレタスと一緒に調理場へと向かう。
「も?」
「今日はマジックバッグに入りきらないくらいの肉が手に入ったから贅沢に使うぞ。」
俺が先程部位分けした魔鰐の肉を切って渡すとレタスが不思議そうに尋ねて来る。
おそらくこれを焼いていいのか?っと聞いてきたのだろう。
今日は贅沢に野菜でかさましせずにステーキにする予定なので、それで問題無いと伝えるとレタスは鉄板のうえに俺が切り出した肉を並べて焼き始める。
鉄板一杯に並べられた肉にしっかりと塩コショウをして味を整えて、スープ作りに取り掛かる。
その後もいつも通りレタスと一緒に料理をし、昼食の時間になるのだがタルトとアンジーがいないので、ニコールに指示を出して適当な人間に配給をさせる。
「ニコール?適当な人間っていったんだぞ?」
「みんな食べたいのに押し付けられませ・・・ねぇって!」
「もっとしっかりとタメ口で話せ。」
「命令されたから頑張るが、期待せずに気長に待っていてく・・・れよな!?」
配給をしに来たのはニコールと副リーダーのニコラスとドメニコとニコリーネだったので、俺は呆れながら言うとニコールがとても言いにくそうに反論してくる。
事情を知らない副リーダーの三人は目を見開いて、俺に対してタメ口で話したニコールを凝視しながら配給をしている。
「色々あってよぉ!ニコ様は俺にタメ口で喋れと命令したんだっ!・・・そうだろニコ様!?」
ニコールがやけくそ気味に俺に話を振り、三人が目を見開いたまま俺に振り向く。
完全に後ろを振り返ったので、配給の手は完全に止まっている。
「その通りだ。ニコールは俺と対等だからな?お前らもタメ口で話したければそれでいいぞ?」
俺はそうなればいいなと思って本気で言ったのだが、副リーダーの三人は愛想笑いを浮かべて首を横に振る。
そういう対応をするのなら俺にだって考えがある。
「そうか。なら仕事をしてからゆっくりしろ。目の前で食器を持っているのは誰だ?可愛い部下だろうが待たせるな、ニコールはこっちに来い。」
「はい!」
副リーダーの三人には配給をさせ、ニコールには特別に俺達用に作った食事を盛った皿を渡す。
出来ればレタスと二人で食べるのは寂しいのでニコールも一緒に食べて欲しいのだが、今の状況ではまだニコールは俺と一緒だと緊張しすぎて、いつもと違う肉やスープだと気付かずに昼食を終える可能性がある。
ちなみに部下達には、牛で言えば肩ロースなどの部分だが、俺達用のステーキはサーロイン部分の肉を使用している。
魔鰐の肉は鶏のように脂身の少ないピンク色だったのだが、この部分だけは牛肉っぽかったのでステーキに最適だと思って自分用に用意したので、是非とも味わって欲しい。
「え?みんなと同じ料理じゃな・・・ねぇか?」
「まぁ食べてみろ。秘密だぞ?」
「わか、わかった。」
ニコールは俺が盛った皿を持っていつもの場所へと行き食事を始める。
遠視で見ていると一瞬目を見開いて、そのまま無言で昼食を平らげている。
どうやら味の違いがわかったようで何よりだ。
そんな事を考えているとニコールが空になった食器を持って俺の元へと駈け寄ってくる。
「おい!この料理なんだよ!?」
「お?いい感じだな?その調子でタメ口で対等に話してくれ。」
「あ・・・汚い言葉を使って、すみません。」
「謝る必要は無い。」
ニコールはなぜか一瞬で冷静になって謝ってくる。
俺がいい感じだと言ってるのに、謝ってきて大変面白みの無い事である。
「まずこの肉は何ですか!?」
「まぁこれでも食べて落ち着け。」
そう言って昨日作ったレタスがクリームを塗ってくれたパンケーキを差し出す。
「なんだよっこれっっ!甘っ!美味っ!」
ニコールはとても疲れた表情でパンケーキを一口食べ、そのまま夢中で食べ始める。
そして昨日クッキーを食べたニコリーネが昼食を食べながらすごい目つきでニコールを睨みつけている。
「レタス?お前が焼いたパンケーキ美味いってよ?」
「ぶもっ!」
レタスは自分が焼いたパンケーキを美味しそうに食べてもらえているのが、嬉しいようでとても満足気に鳴く。
「ニコ様午後からは暇か?」
「特に用はないが、どうした?」
「俺達は自主的に稽古をしようと思う。監督してくれないか?」
「どうせ暇だしいいぞ。」
パンケーキを食べ終わったニコールが思いがけない提案をして来る。
わざわざ休みだと言われたのに、稽古をするとはとても殊勝な事である。
そして何よりも魔道具作りが終わってから、料理か読書か寝るしかしてないので気分転換にもなりそうなので、やぶさかではない。
「食器は俺が洗っといてやるからさっさと行け。もうみんな行ってるぞ?」
「ありがとうございます!」
ニコールがパンケーキが乗っていた食器を持って水場へと行こうとしているので、その食器を奪い取ってニコールに指示を出す。
周りの部下達はニコールがパンケーキに夢中になっている間に、昼食を食べ終わって食器を洗い、今は木刀を手に先程魔鰐を解体した空き地へと向かっている。
ニコールはお辞儀をしてからマジックバッグから木刀を取り出して走って行くので、昼食で使った食器を洗浄魔法で綺麗にして、レタスと共にゆっくりと部下達の訓練を見に行く。




