第二百三十五話 王都への道
キーフからの出兵も無く平穏な日々が続き、全員分の魔道具が完成したのでタルトとアンジーに配ってもらったら途端にやる事が無くなってしまったので、ゆっくりと車の修理をしてすごした。
タルトはオープントップの神輿スタイルが気に入っていたようで、とても残念そうだったが、あんな丸見えの状態で移動など恥ずかしくて御免である。
そして本当に何事も無く順調に王都への旅が進んだが、ぼちぼちこの旅の正念場だ。
「アンジーさん?私がザッシャさんから頂いた地図では森を迂回するためにそろそろ曲がらないと駄目なのでは?」
「色々あってその地図はもう役に立たないの。」
そんな事を考えていると車の外でニコールとアンジーが話す声が聞こえる。
先日の異常気象によって、王都周辺の地形がガラリと変わってしまった。
異常気象の前ならば、ここら辺で進路を変えて前に見える森を迂回していたのだが、今は森が巨大になって迂回しようとすれば一週間は余分にかかるほどの大きさになっているのだ。
「アンジー車を任せた。」
「わかったわ。」
「ニコールこれからはいつ魔物が出て来てもおかしくない警戒しろ。隊列を密集させて短くしろ。」
「了解です!」
「レタス頼んだぞ?」
「もっ!」
そろそろ森が目の前に見えてきたので車から出て、テキパキと周りに指示を出す。
アンジーがレタスと交代し、ニコールは後ろの部下達に指示を出し始める。
そして俺は自由になったレタスと共に森へと歩を進める。
俺は森に向かって空気の刃を放って一直線に木を薙ぎ倒し、レタスが土魔法で切り株を粉砕しみんなが進みやすいように地面をならして道を作る。
この方法で一直線に森を進めば一日で抜けられる・・・はずだ。
あくまでも俺とタルトが上空から見た大体計算なので自信は無い。
「にしても変だな。」
「変?」
「これだけ派手に進んでるのに魔物が一体も出てこない。」
「言われてみればそうね?」
探索魔法を発動しているが、動物の反応ばかりで魔物の反応が無い。
異常気象のせいで突然森が広がったので、魔素が少ないのかそれとも何か別の理由があるのか、どっちにしろ森を抜けるまでは警戒を解くつもりは無いので魔物が出ない方が楽でいいのだが逆に気持ち悪い。
ひたすら続く単調な作業なのでふとそんな疑問を抱き、休憩がてらにアンジーと話すがわかる訳も無いので、またレタスと一緒に単調作業に没頭する。
丁度太陽が真上に上がった頃、やっと単調な作業に変化が現れる。
森が途切れて直径百メートルのまん丸な湖が現れたのだ。
「もぅ・・・」
レタスが怯えているので、おそらく本能的に何かを感じ取っているのだろう。
俺もこの不自然なまでにまん丸な湖からはいい予感はしない。
「リーダー?あたしが調べてこようか?」
「いやそれは森を出てからだ。あとニコール達には絶対に湖に近づくなと厳命しておいてくれ。」
「ニコール聞こえたわね?」
アンジーが湖を見てうずうずした様子で言って来る。
もし湖からとんでもない魔物が出て来たら、部下達を守りながら戦うのは大変なので、とりあえず森を抜ける事を優先する。
そして部下達が無駄に湖に刺激を与えないようにと指示を出すのも忘れない。
アンジーが後ろのニコールに言うと、真剣な表情で頷いているので問題無さそうだ。
湖に出来る限り近づかないように大きく迂回して反対側に回り、さっさと森を抜けるべく道作りを再開する。
湖を通り過ぎてからも魔物の姿は無く、予定よりもかなり早めに森を抜ける事が出来た。
「師匠!今日の訓練は休ませて頂けませんか?」
「久々に水浴びしたいの、いいでしょ?」
「あぁ・・・楽しんで来い。」
森を抜けて野営の準備をしていると、タルトとアンジーが声をかけて来る。
湖を見て水竜と人魚の本能を刺激されたのだろう、二人なら余程の事で無ければ対処出来るだろう。
訓練の事は気にせずにしっかりと楽しんで来て欲しいものだ。
鼻歌交じりに作りたて道を進んで森に入って行くのを見送って、テントを建てるニコールの場所へと向かう。
「ニコール。一日森の中を歩いて疲れただろう?今日の訓練は無しだ。ゆっくり休め。」
「了解です!」
ニコールに指示を出すと、ニコラス達に伝えに駆け出す。
やはり名前があると指示が出しやすくて本当に楽だ。
全員がニコという事を抜かせば、全員の名前が決まったのは本当によかった。
そんな事を考えながら、レタスと一緒に夕食を作り始める。
「ニコ様!我々にお手伝い出来る事はありませんか!?」
料理を作っていると、ニコリーネが数少ない女性達を連れて声をかけてくる。
今日は自由時間でゆっくり休めと指示をしたのに、殊勝な心がけだ。
ありがたくみんなに手伝って貰う事にしよう。
「チロル、エルマ、クローバー、ヴェルマだな?交代でこの野菜達をひたすら切って渡してくれ。ニコリーネはみんなが怪我をしないように監督してくれ。」
「ニコ様?我々の名前を覚えてくださってるのですか?」
「あぁ女は数が少ないからな。男は半分も覚えれてない。」
新しい部下五百人の内、女性は五十人だけだ。
五人は俺が名前を覚えていることに感動しているが、女性の数が少なすぎて印象に残っていたので覚えているだけなのだ。
五人に野菜を任せて、レタスと一緒に鉄板で焼き係をする。
「今日の料理はなんという料理なのですか?」
「今日はな・・・野菜炒めだ。」
今日は今までの料理で出た半端な野菜や肉が貯まってきたので、処理するために全部を一気に消費出来る上に鉄板があれば簡単に作れる野菜炒めだ。
少し手抜きかもしれないが、タルトとアンジーが湖で楽しんでるんだし、俺だってたまには楽をしたい。
そう思って野菜炒めにしたのだが、ニコリーネ達が来てくれたので更に楽をさせて貰えて本当に何よりだ。
そして出来上がった料理を時忘れのマジックバッグに放り込んでいるとニコリーネ達の視線を感じる。
隣を見ると五人が野菜を切る手を止めて、バッチリと俺の時忘れのマジックバッグを凝視していた。
絶対に秘密だとタルトとアンジーに念を押したと言うのに、俺がこんなうっかりミスをしては笑えない。
「お前ら今見た物は忘れろ。」
「何を忘れるのでしょう?ねぇ?」
ニコリーネはとぼけた様子で言って、他の四人は何度も頷いている。
少し不安だがこいつらを信じるしか無いのだろう。
一応口止め料として、お茶請けにと焼いていたクッキーを渡しておく。
みんなクッキーを見て不思議そうな表情をしながら一口食べて顔を蕩けさせているので気に入ってくれたようだ。
「お前らこれも内緒だぞ?」
「何がでしょうか?ねぇ?」
そう言って追加のクッキーを渡すと、ニコリーネはとぼけた表情でクッキーをポケットに隠して、他の四人も真顔で何事も無かったかのように、料理を再開していた。
「たまには手伝ってくれ?別のお菓子を準備しておく。」
「え!?本当ですかっ!?」
「その代わり内緒だぞ?」
「何を内緒なのでしょうか?ニコ様は不思議な事を仰いますね?」
分かりやすい手だったが、彼女達の心を射止めることに成功したようなので後は彼女達の事を信じるだけだ。
そのままみんなで夕食を作り、そのまま明日の朝食のベーコンエッグを作る。
「ニコ様こんな量を毎日作られていたんですか?」
「そうだぞ?」
レタスと一緒にベーコンエッグを作っているとニコリーネが当たり前の事を聞いて来る。
なぜそんな事を聞いて来るのかと不思議に思ったが、チロル達を探すと一瞬で理解出来た。
野菜を切ってくれていた四人が少し離れた所で、辛そうな顔でお互いに震える腕をマッサージをし合っている。
四人で交代しながら野菜を切っていたのに不甲斐無い事である。
「お前らは修行が足りないぞ。」
「ニコ様が凄すぎるんですよ?」
「・・・とにかく助かった。」
「はい!では失礼致します!」
ニコリーネは腕をマッサージし合う四人を連れて去って行く。
おかげでいつもよりかなり早めに料理を作り終えたので、今度ニコリーネ達が来てくれた時のためにデザートを作っておく事にする。
鉄板を洗浄魔法で綺麗にしてからレタスの牛乳を使ってパンケーキを焼く。
と言っても俺がデザートを作ると絶対失敗するので、生地を作るまでは俺だが焼くのはレタスに全て任せる。
そしてレタスがパンケーキを焼いている間にクリームを作る。
勿論クリームも作るまでで、クリームをパンケーキにかけるのはレタスだ。
俺がかけるとなぜか食欲をそそらない見た目になってしまうので、悔しいがこればっかりは仕方が無い。
丁度パンケーキを作り終わった頃にすっきりした顔のタルトとアンジーが戻ってくる。
「只今戻りました!」
「久々に泳げて楽しかったけど、やっぱり海水で泳ぎたいわね・・・」
「楽しんだようで何よりだ。湖は何かいたか?」
アンジーは慣れない淡水だったので何やら文句を言っているが、二人共とても清々しい表情なのでとても大満足のようで何よりだ。
そして湖の様子を聞くのだが、二人共嫌そうに顔を顰める。
「どうしたんだ?」
「いえ・・・魔鰐の巣窟でしてあいつら無謀にも我々に襲い掛かってきました!」
「って訳で御土産あるけどここに出していい?」
「何体いたんだ?」
「二十体程です!」
「おかげで真っ赤な湖で水浴びして最悪だったわよ!」
その後も二人と話をするのだが、二人が湖に飛び込むと魔鰐達が陸に上がる暇も無く、一気に襲いかかってきたので、チャチャッと返り討ちにして水浴びを楽しんだそうだ。
まだ夕食まで時間があるので、俺もチャチャッと解体しておこうと思って、二人に魔鰐を出して貰うのだが、アンジーのマジックバッグから五メートル近い鰐が出て来る。
「待て。全部このサイズか?」
「大体ね?」
「主っぽいやつが一体いまして・・・」
予想以上に大きかったので、思わず次の魔鰐を出そうとするアンジーを止めて聞いておく。
するとタルトが言いにくそうにマジックバッグに手を突っ込んで魔鰐を取り出すのだが、尻尾だけで二メートルはあるので慌てて止める。
こんな馬鹿みたいな大きさの鰐を、夕食までの短い時間で捌くのは無理だ。
「お前ら明日も水浴びして来い。その間にニコール達と解体しておく。」
「師匠がそれでいいなら嬉しいです!」
「明日は透明な水で水浴びできるのね?」
急遽明日はニコール達と総出で五メートルの魔鰐二十体近くと十メートルくらいありそうな魔鰐一体を解体することが決まっった。
そのままわかりやすく上機嫌になったタルトとアンジーがレタスと一緒に配給の準備を始める。




