第二百三十四話 ニコ軍団結成
指揮官はフルフェイス兜の隙間から血走った目で俺の顔を真っ直ぐに睨みつけ、もし身体が自由だったら確実にまた切りかかってきただろう。
だが俺は出来れば平和的に解決したいので、出来る限り友好的に語りかける。
「いいか?まずは状況の説明をする、彼女は息子達を逃がすために決死の覚悟だった。
そして大量の魔道具とマジックアイテムを身に着け、体には得体のしれない魔法陣・・・お前ならどうする?
ちなみに腕輪は極大魔法の魔道具だった。」
「そんなの決まってるだろ!俺に貴様ほどの力があれば発動される前に首をはねるわっ!」
痙攣する表情筋を無理やり動かして笑顔を作り、精一杯優しい口調で丁寧に説明したのだが、やはりこいつは話にならなさそうだ。
首をはねて終わっていたのなら、アンジーもそうしただろう。
だがそれが出来なかったからこそあの時、俺達はお互いに信用という目に見えないものを使って交渉したのだ。
だからこそあえてミーティアのマジックアイテムの解除も求めなかったし、拘束もしなかった。
マジックアイテムを解除させようとすれば、おのずと魅了耐性を上げていたマジックアイテムは外させる事になる、そんな事をすればミーティアはあのまま何かしらの魔法を発動して、我が身を犠牲にキーフを更地に変えるくらいの事をしていてもおかしくなかったのだ。
「いいか?最後にもう一度だけ言う。追うのは六日後だ。」
「煩いわっ!貴様のようなガキの言う事を誰が聞くか!」
指揮官に最後のチャンスを上げたのだが、聞く耳をもたない様子で相手をするのが面倒臭くなってしまった。
ちょうどいいタイミングでタルトとアンジーがやってくるので、二人にこの指揮官の対応を一任する事にする。
「出来るだけ丁寧に説明したが聞く耳をもたん。後は任せた。」
「昼食を邪魔した上に師匠を侮辱した罪はどのように償って貰いましょうか・・・」
「そうねぇ?自粛してたけど本気で魅了して洗脳してみる?」
体良く一任と言ったが、ぶっちゃけ丸投げである。
だが俺達の会話が聞こえていたみたいで、二人共とても冷たい目で地面に張り付く指揮官と兵士達を見ながら不穏な会話をし始める。
二人なら俺の魔法を解除出来るし、任せておけば問題ないだろう。
レタスの下に戻って昼食作りを再開する。
「ニコ様もう終わったのですか?」
夕食を作っていると、元奴隷達のリーダーが話しかけてくる。
「終わった。細かい事はあの二人に任せているからお前達は気にするな。」
「ぇ・・・」
何に対してかはわからないが、驚きの表情で言葉を詰まらせる。
このリーダーはキーフにアンジーを一人で向かわせた時も話しかけてきたし、元奴隷達の中では一番話している・・・というか他の元奴隷達とはまともに話した事が無い。
全員名前が無いので「お前」と呼ぶと全員が、声をかけたのが申し訳なくなるくらいに、一斉に緊張した面持ちで振り向くので、話かけづらいのだ。
タルトやアンジーは俺と出会うまで、自分に名前が無かったので気にしてないようだが、俺はとても不便だ。
いい機会なので改めて俺の口から命令しておく。
「せめてお前と赤髪とノッポと鼻筋の四人くらいは名前を決めろ不便だ。」
「了解です!」
この茶髪リーダーを筆頭に赤髪とノッポと鼻筋という三人の副リーダーで、元奴隷達をまとめてくれているのだが、誰も名前を決めてくれないので、身体的特徴で勝手に呼んでいる。
リーダーは元気一杯に返事をして駆け足で離れて行くので、これでさっさと名前を決めてくれれば、部下達もリーダーにならって名前を決めてくれるだろう。
その後も昼食が出来上がってもタルトとアンジーは帰ってこないので、レタスと二人で食事にする。
「もっ。」
「帰ってきたか。」
レタスがタルトとアンジーの姿を見つけて教えてくれるので、食事を中断して時忘れのマジックバッグに入れていた昼食を取り出して配膳し、改めて四人で食事をする。
「御苦労。どうなった?」
「アンジーの魅了で洗脳して街に帰しておきました。」
「久しぶりに本気で魔力特性を使ったから疲れちゃった・・・」
一応二人に聞くのだが、問題無く終わったようである。
それにしても先程言っていたので、気にはなってはいたのだが、アンジーの魔力特性は洗脳まで出来るらしい。
タルトの魔力特性も水操作で汎用性は計り知れないし、本当になぜ俺なんかの眷属になったのか不思議である。
「リーダー心配しなくても、一週間で解ける程度にしかしてないわ?」
「そうか。」
なぜ俺に・・・っと考え込んでいると、アンジーが更に報告してくるのだが、その心配は一切してなかった。
「師匠?見張りはどうしますか?」
「一応予定通り一週間見張ってから出発するか。」
続いてタルトが今後の予定を聞いて来る。
もう次の派兵は無いだろうと思うが、万が一という事もある。
約束した相手は敵のミーティアだが、敵だからと裏切るような恥知らずな行為はしたくない。
真面目な話は終わったので四人で和気藹々と昼食を食べ、食後のティータイムをしていると先程の茶髪リーダーが三人の副リーダーを引き連れてやってくる。
「どうしましたか?」
「ニコ様タルトさんアンジーさん!許されるなら・・・ニコールと名乗りたいです!」
タルトが四人の元奴隷達に尋ねると、緊張した面持ちの茶髪リーダーが口を開く。
ニッグ達と言い、元奴隷に名前を考えさせると俺の名前をもじりたがるようだ。
いやニッグはもじってない、もじったのはルードとドルフの二人に訂正する。
「認めよう。」
「「「「やったーっ!」」」」
俺の言葉に四人が抱き合って喜んでいる。
恐らく俺の名前を使う事を不遜と怒られないかと心配していたのだろう。
「俺はニコラスです!」
「僕はドメニコを!」
「あたしはニコリーネ!」
「認めよう。」
よくもまぁニコが入った名前を考えたものだ。
呆れると共に感心しつつも、リーダー達の名前が決定した。
「では貴重な時間をありがとうございました!」
ニコールがお礼を言い四人で頭を下げてから、嬉しそうに飛び跳ねながら離れて行く。
「師匠?あんな簡単に名前を決めてよかったのですか?」
「そうね?全員似た名前で混乱しそうだわ?」
「だが自分で決めろと言ってしまったからな・・・」
四人だけだが、元奴隷達の名前が決まったというのに二人は少し不満そうだが自分で決めろと言った手前、頑張って考えた名前を否定するような行為はかわいそうだ。
そしてそろそろ訓練と勉強の時間なのでマジックバッグから午前中に作ったレタス用の木刀を渡しておく。
「使わない事を願うが、一応武器も作ったぞ?」
「もっもっ!」
木刀を渡すとレタスは大喜びで素振りを始める。
続いてレタス用の槌を渡すと更に大喜びで槌に頬擦りしてから、大事そうにマジックバッグに入れてタルトとアンジーと一緒に訓練をしに離れて行くので、三人を見送って再び魔道具作りを始め、今度はしっかりと適当な所で切り上げて、夕食を作り始める。
レタスが訓練に行ってしまったので、一人でする料理は少し寂しい。
そんな事を考えながら、モクモクと料理を作る。
一人で寂しかったが、無事料理を終え。
タルトとアンジーもいつも通りに戻ってきて何事も無く夕食を終え、いつも通りの食後のティータイムを楽しんでいると、夕食を食べ終えた元奴隷達が配給の時のように俺達の机の前に一列に並び始める。
「何事だ?」
「突然申し訳ありません!ニコ様私はニコエンツォを希望します!」
「・・・なんだって?」
「ニコエンツォです!」
聞き間違いかと思って聞き直したが、この男はニコエンツォという名前が希望らしい。
無理矢理ニコを付けなくてもエンツォでは駄目なのだろうか?
「エンツォじゃ駄目なのか?」
「やはりリーダー達以外はニコ様の名は使用禁止ですか?」
「そんな事は無い・・・認める。次の奴も名前か?」
「よしっ!」
ニコエンツォはガッツポーズをしながら離れて行き、次の元奴隷が軽く会釈をして口を開く。
「ニコオッシアンです!」
「・・・オッシアンでいいじゃないか。」
やはりと言うべきか、次の元奴隷もニコを無理矢理付けている。
二人しか聞いてないが恐らく全員が無理矢理ニコを付けた名前なのだろうと思うと頭痛がしてくる。
「ですからリーダー達の名前を簡単に決めていいのですか?と言ったんです。」
「ニコって呼んだら全員が振り向くわね・・・」
隣でタルトとアンジーは我関せずと言った様子で優雅に紅茶を飲みながら、世間話をしている。
タルトの言う通り、ニコをもじった名前を禁止すればよかったと激しく後悔するが、時すでに遅しだ。
その後もニコ達の名前を認めて行く。
「見事に全員ニコになりましたね?」
「もうさ?ニコはファミリーネーム的な扱いにして省いちゃおうよ?」
「賛成だ。周知させてくれ。」
全員の名前を認め終わると、アンジーが素晴らしい提案をしてくれる。
これからは元奴隷達の名前はニコを省略する事が決定した。
「では今日はもう遅いし、寝るか。」
「了解です!」
「そうね?見張り要因の交代の指示をしてから寝るわね?」
五百人もの名前を許可していてすっかり夜更かしをしてしまったので、さっさと寝るためにも各々の仕事をするべく動き始める。
タルトはテキパキと机などを片付けて先程決まったニコを省略するという話をニコールに伝えに行き、アンジーは今もキーフを見張っている部下達に交代の指示を出しに行った。
「(ん?ニコを省略したらニコールはどうなるんだ?)」
ふと疑問が浮かぶ、リーダー格以外の奴らは普通の名前にニコをくっつけただけなので問題無いし、副リーダー達はラス・ダム・リーネと呼べばいいが、ニコールは省略してしまったらールだ。
呼びにくいことこの上なしだ。
そんな事を考えながら、みんなの汚れた服に洗浄魔法を発動して、自分のテントに入る。
翌日朝食を作っていると見張りでいなかった部下達が、名前の許可を貰いにやってきたが、やはり全員ニコが付いていた。
とりあえず少し不満はあるが、元奴隷もとい部下達の名付けが終わった。




