第二百三十三話 久々に働きます
朝食を食べ終わり、気合十分のタルトと一緒に稽古をするために訓練場に行き、向き合う。
「では師匠行きますよっ!?」
「いつでも来い。」
「あなた達!?滅多に見れるものじゃないわよ刮目なさいっ!?」
タルトは魔王の手斧を構えて本気モードだし、アンジーは元奴隷達を集めたせいで注目の的になってしまっているし本当に気が進まない。
「では胸をお借りします!」
「俺も本気を出さねばならんのだろうな・・・」
タルトが猛スピードで突っ込んでくる。
意識を集中させて世界をスローモーションにしなければ、まず反応出来ない速度だ。
刀を抜いて魔王の手斧による上段からの唐竹割りを受け流す。
しっかりと受け流したはずなのに、余りの衝撃に足が地面にめり込む。
進化していなければ、確実に腕か足の骨が折れていただろう。
「やはりお強いですっ!ではこれでは如何でしょうか!?」
タルトはそう言うと魔王の手斧を回転させて宙に飛ばし、マジックバッグから一本の金属の棒を取り出す。
タルトが金属の棒に魔力を込めると大量の水が出て来て、すぐに巨大な斧へと姿を変える。
俺はこんな物は知らないので、タルトが俺には秘密で自分用の武器を作っていたのだろう。
「(にしても・・・やっぱりタルトの魔力特性は反則だろ。)」
縦横無尽に飛び、死角から俺に向かって来る魔王の手斧を避けながら、マジックアイテムで作られた大斧を捌く。
正直進化してなければ、一秒も耐えられなかった自信がある。
というかスローモーションで闘ってるのに一杯一杯だ。
「すまんが、そろそろ集中力が限界だ。」
「むっ!?」
俺の集中力が限界を迎えたので、タルトとの稽古を終わらせるべく、身体強化魔法を魔力特性で強化する。
タルトは魔王の手斧を手元に戻して斧の両手持ちで、俺の本気を受け止めようと身構えているが、無駄な行為である。
刀ですくう様にタルトが持っている斧を空中へと投げ飛ばし、すぐにタルトの頭を掴んで乱暴に地面へと叩きつける。
やはり身体強化魔法の強化は効果てきめんだが、消費魔素量が体感で十倍近くに跳ね上がるので、費用対効果を考えると微妙な所だ。
「勝負あり!はいみんな拍手っ!」
「ぶもぉぉぉぉ!」
数瞬の沈黙が流れ、アンジーの声が響き渡り、レタスが万歳をしながら雄叫びを上げ、元奴隷達からはまばらに拍手が起こり始める。
「大丈夫か?」
「お手数をおかけします。」
結構本気で地面に叩きつけたのだが、タルトには特にこれと言った外傷は無いので、俺の攻撃ではタルトの結界を割れなかったという事だ。
今回は稽古なのでタルトを倒した事によって、アンジーは終了と判断したが、実戦だったら俺はタルトの結界を割る事が出来ずにまだまだ戦闘は続行していたので、勝敗はどうなっていたかはわからない。
そんな事を考えながらタルトの手を引いて起こしてやる。
そして立ち上がったタルトは静かに元奴隷達を見渡して口を開く。
「皆さん?今後ニコ様をお飾り主人と言ったら、お飾り主人に負けた私が本気でお相手します!肝に銘じておいて下さい!」
タルトは高らかに宣言するが、元奴隷達はアンジーに言われて無表情のまま拍手をするばかりで、全く感情が読めない。
「二人共・・・気を揉ませてすまなかった。じゃあレタス行こうか?」
「ぶもっ!」
俺はとりあえずこれでタルトの気も治まっただろうと、レタスを連れて調理場へと戻るべく声をかけるのだが、レタスは首を横に振ってその場から動こうとしない。
「レタスは先程の闘いを見て、自分も戦闘訓練を習いたいみたいです。」
「ふーん?レタス用の武器なんてどうしようかしらね?」
「・・・作っておこう。」
レタスが望むのならそれでいいだろう。
とりあえず二人にレタスも含めて元奴隷達の事は丸投げして、俺は調理場へと戻ってまずはレタス用の巨大な木刀と槌を作る。
両方共俺が魔力付与をしたので、レタスの力で使っても余程の事では壊れないはずだ。
続いて元奴隷達の魔道具作りを開始する。
予想以上に順調なので一週間後に王都へ出発する時には配れそうだ。
「あれ?師匠今日からは昼食があるんじゃ・・・」
「きっとあれよ?レタスがいないから作業に没頭してて忘れてたのよ?」
「師匠に限ってそんな事あるわけ無いですよ!」
「いーえっ!きっとそうよ。」
魔道具作りに没頭していると、戻ってきたタルトとアンジーが喧嘩し始める。
完全に俺が忘れていたのでとても言い出しにくい状況だが、ここは非を認めてさっさと昼食を作り始めるべきだろう。
「すまん、完全に没頭していて忘れていた。」
「ほらね?」
「いえ!誰にでもミスはあるものです!」
アンジーが勝ち誇った顔をしているが、タルトと一緒に無視して料理を始める。
三人で手早く料理を作り、いつも通りタルトとアンジーが配給する後姿を見ながら、自分達の昼食を作っていると、みんな料理を受け取って俺にむかってお礼を言ってから離れて行く。
今までは初めて見る料理に夢中で、タルトとアンジーの後ろで料理をする俺の事など気にする素振りも無かったのに、今朝の稽古は予想以上の効果があったようだ。
手を挙げて応えるのだが当然料理の手が止まって、遅々として調理が進まない。
それに気付いたタルトとアンジーが「主人への礼は無用」と注意し始めてくれて、やっといつも通りに昼食を作れるようになった。
「アンジー様!街からっ!東の大通りからたくさんの兵士が出て来ましたぁ!」
配給を終えて三人で料理を作っていると、見張りをしていた元奴隷が最悪な報告を叫びながら駈け寄ってくる。
何が最悪かと言うと、完成目前で食べる気満々だった昼食が中断された事だ。
溜息を吐きながら、作りかけの料理達を時忘れのマジックバッグに放り込む。
「はぁぁぁ・・・一時間前か後にしなさいよね!」
「アンジーの言う通りです。」
「俺も同感だな・・・俺が片付ける。二人はみんなに昼食を続けろと指示を出してくれ。」
アンジーが深い深い溜息を吐いて愚痴を言い、タルトは心底うんざりした表情で同意している。
俺も全く持って同じ気持ちだが、前もって準備していた魔法陣が無駄にならなくてよかったという気持ちもあるので困ったものである。
二人に指示をしてから魔法陣を設置している場所へと向かう。
走っていると見張りをしていた唯一女性の副リーダーの鼻筋が俺を見つけて報告をしてくれる。
こいつは魔族の血が流れているからか、とても美人で顔を見ると綺麗な鼻筋に目が行ったので、俺は勝手に鼻筋と呼んでいる。
「兵士は約二千!騎兵のみで歩兵の姿は見えません!」
「御苦労。もう戻って昼食を食べていいぞ。」
報告をしてくれるのはありがたいのだが、平原を走る騎兵達は見えているので、問題無い。
一応立ち止まって指示を出しておく。
「(というか要塞都市のライネンで馬は千頭程しかいなかったのに、キーフには二千頭もいるのか?)」
平原を駆け抜ける騎兵軍団を見て一番に思った事だ。
ただの馬を二千頭ならば話は簡単だが、軍馬となると話は違う。
馬は繊細な生物なので、鎧の感触や金属音に驚かないように訓練するために相当長い時間を要するはずだ。
更にそこから戦闘を行えるようになるための訓練は更に長い時間がかかる。
つい先日まで反乱軍に占領されていた街に軍馬が都合よく二千頭もいるとは到底思えない。
そんな事を考えながら、俺の予測通りに魔法陣がある場所を通るようなので、先回りして進路を塞ぐ。
先頭を駆けているのは、先日兵士達に指示を出していた指揮官らしき男だ。
「薙ぎ倒してしまえぇぇぇぇ!」
後ろに止まる指示を出さないな。っと見ているととんでもない指示が聞こえてきた。
というか先日あれだけ力の差を見せられて、まだ俺達の事を舐めているようだ。
とりあえずイラっとしたので指揮官に向けて光爆弾を発動する。
この魔法は初級の光魔法で、敵の前で光の爆発を起こして目を眩ませる。ただそれだけの魔法だ。
だが俺の予想通りならこれで騎兵達の進軍を止めることが出来る。
「ぐわぁぁぁぁっ!」
指揮官が光爆弾の光に驚いた馬に振り落とされて地面を転がる。
そして後ろの馬が目の前に突然現れた指揮官を避けようとして、隣の馬と衝突し、ぶつかられた馬は興奮し。
その興奮は一瞬で隊列中の馬に伝播し、操縦不能になった馬は大暴れし一瞬で二千人の隊列は瓦解する。
「(やはり普通の馬をかき集めたんだな。)」
これが訓練された軍馬ならば、目の前に人が転がろうが攻撃されようが、冷静に対処していただろう。
だがそんな訓練を受けていない馬は驚いたりすると、乗っている人間などお構い無しに本能的に行動する。
俺の光爆弾一発で半分以上が落馬し、馬は散り散りに走り去った。
「少々手荒ですまんが、とりあえず頭を冷やせ。」
馬が魔法の範囲から逃げた事を確認してから、一応地面に転がる指揮官に声を掛けて更に魔法を発動する。
範囲は大体五百メートル四方で地面から数ミリの高さに磁場を形成して金属を引き寄せるだけ魔法で、あらかじめ範囲の設定用と制御用の魔法陣を刻んでいるので適当に魔力を流すだけで発動するのでとても楽チンだ。
これで兵士達は鎧が地面にくっつき、身動きが取れなくなる。
鉄を含む物を持たなければ普通に動けるようになるのだが、鎧や剣が無くてはミーティアを追う事も出来なくなる。
「きぃぃぃぃさぁむぁぁぁぁっ!!」
俺の言いたい事を理解してくれるのなら解放するし、相容れないのならばミーティアが逃げ切れるまで後ろの兵士達を道連れに地面に張り付き続いてもらう事になるが、この男はどちらを選択するのだろうか?
そんな事を考えながら、地面に張りついたまま鬼の形相で睨んでくる指揮官へと歩み寄る。




