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第二百三十一話 キーフの太守と一ヶ月ぶりの王都

太守の館が見え始めた頃、指揮官らしき男が忙しなく動き回って戦の準備を進める声が聞こえてくる。

「急げっ!今すぐに出撃するぞっ!」

太守の館の前に行くと、指揮官らしきフルプレートアーマーに身を包んだ指揮官らしき男が大声で命令をし、大勢の兵士らしき人間が大慌てで荷台に乗った武具を取って武装していた。


「やはりこうなっているか・・・」

「呆れて物も言えませんね・・・」

解放されたばかりなのに、仕事熱心でとても素晴らしいのだが、今の状況ではとても拙い。

タルトが呆れた表情のまま、武装する兵士達にむかった口を開く。


「全兵武装解除!ムイワール軍への追撃は絶対に禁止です!」

「ちぃっ!売国奴が残っていたか!」

タルトが兵士達に指示を出すと、指揮官が俺達の事を誰何(すいか)する事も無く斬りかかって来る。

タルトはうんざりした様子で、指揮官の剣を左手で掴んで止め、そのまま鎧を右手で掴んで地面に捻じ伏せる。

タルトは指揮官を地面に縫い付けたまま、俺に視線を送ってくる。

九番隊の隊長としてしっかりとしめろと言う事だろう。


「エスガルド王国騎士団九番隊々長のルドルフだ。タルト隊員の指示を実行しろ。」

「クソガキが偉そうにっっっ」

捻じ伏せられる指揮官に歩み寄って自己紹介をし、改めて指示を出す。

だが指揮官は俺を見ての激昂して汚い言葉を投げつけてくる。

どんな罵詈雑言が飛び出すのかと聞くつもりだったのだが感情が感じられない表情のタルトは、乱暴に指揮官の頭を一度持ち上げて地面に叩きつける。



「囚われの身から助けられた分際で師匠をクソガキと言いますか?」

「力が強すぎだ、もう聞こえてないぞ?」

指揮官の兜は地面にめり込み、綺麗にレンガが敷き詰められた床が壊れている。

もしかして死んだのでは?っと脈を確認するが生きているようで一安心だ。


「それは残念です。追撃は中止!追撃した者は九番隊が処罰します!」

「とにかく太守達と話をするか・・・」

指揮官は目覚めたら俺達の指示を無視しそうなので、引き摺って太守の館へと足を踏み入れる。

玄関に入ると、一つの部屋から大勢の人間が話す声が聞こえる。

指揮官を引き摺りながら、タルトと一緒に声がする方に歩く。

廊下を歩いて扉を開くとそこは食堂だった。

三名の貴族達は無駄に大きい食卓を囲んで、反乱軍との戦闘に備えて作戦会議をしている所だったようだ。


「こちらも仕事熱心ですね。」

「そうだな。」

タルトの呟きに思わず反応すると、三人の貴族は俺達の存在に気付いて、露骨に侮蔑(ぶべつ)の感情がこもった視線を送ってくる。

なぜわざわざ解放したのにこんな不愉快な対応をされないと駄目なのだろうか?大変遺憾である。

そんな事を考えていると、一番奥に座っていた貴族が立ち上がる。

金髪に銀縁めがね、そして先程まで囚われていたと言うのに、髪形も服装もビシッと決まった堅物な印象を受ける人物だ。



「これはこれはルドルフ殿。此度は誠に大儀でした。後の対応は我々に任せて王都にお帰り下さい。」

驚く事に堅物貴族は名乗る事もせずに、俺に帰れと言い切って頭を下げる。

それに追随して周りの貴族達も立ち上がって俺に向かって頭を下げて、お礼は終わったとばかりに会議を再開させる。

「・・・師匠?暴れてもよろしいですか?」

「駄目だ。」

タルトが不穏な許可を求めてくる。

とても気持ちはわかるが、却下しておく。


「では暴れない方向で事態を収拾してもいいですか?」

「とても不安だが任せる。」

続けてタルトが許可を求めてくる。

とても不安だが、暴れないと言っているので信用する事にしよう。

それに本音を言うと、先程のやりとりでこの部屋の中にいる貴族達への興味も関心も無くなったので、ミーティアさんとの約束さえ守れれば後はどうでもいい。


「我々の話を聞きなっさいっ!」

タルトは俺達を無視する貴族達に向かって声を上げながら、食卓に拳を叩きつける。

食卓はタルトの怪力に耐え切れずに亀裂が走り、自立出来なくなって豪華だった食卓は一瞬で豪華なごみへと姿を変える。





「やっと聞いてくれそうですね?我々はこの街を守るためにミーティアさんと約定を交わしました。あなた方に言う事は一つです!追手を出さずに街の再興だけを考えなさい。」

「何を仰るのやら・・・我々は貴方達の尻拭いをしようと話し合っているのですよ?」

二人の貴族が突然の出来事に唖然となる中、堅物貴族だけは呆れたような表情で反論してくる。

今ので動じずに普通に反応出来るとは、中々肝が座った人物のようだ。


「反論は一切受け付けません。もし出兵した場合、我々九番隊が敵になると思いなさい。」

「その発言は・・・王に報告してもよろしいのですか?」

「王だろうが、騎士団長だろうが、お好きにしなさい!この人間のようになりたくなければ出兵はしない事です。」

タルトはそう言って、引き摺っていた指揮官を豪華なごみの上に投げ捨てる。

貴族達の視線は指揮官に釘付けになり、俺達は言いたい事を全て伝えたので、踵を返して食堂を後にする。


「解放は本当に感謝しております。ですがやり方と対処が杜撰すぎます・・・後悔する事になりますよ?」

背中越しに堅物貴族の声が聞こえ、それに追随するように貴族達の侮辱する声が聞こえるが無視する。

ただでさえ貴族と関わるのは出来る限り回避しているのに、ここで面倒事に関わるのは絶対にごめんだ。

そのままタルトと一緒に足早に待機させていたレタス達の下に戻り、街を出る。



「リーダー?もう王都に出発なの?」

「いや。この街の貴族共は駄目だ。追手を出したら即座に対処出来るようにキーフの東で待機するぞ。」

「一週間も見張れば、逃げ切れるでしょうね?」

合流したアンジーが尋ねて来るので、これからの段取りを教えておく。

タルトの見立てでは、これから一週間キーフの街を見張らなければならないようだ。

そのままキーフの東を進み、森の手前で野営の準備を始める。





「とりあえず一週間の野営はいいが・・・問題がある。」

「食料ですか?」

「肉は道中の森でリーダーが確保してくれてるからあるけど、野菜よね?」

「ぶも!?ぶももも!」

元奴隷達が手際良くテントを建て始める中、タルトとアンジーを呼んで相談する。

なぜかレタスもしたり顔で会議に参加しているが、俺はレタスの言葉を一切理解出来ないので、いなくてもいいのだが本人はやる気満々なので何も言わないでおく。

肉は道中森を通る時に強制探索魔法(サーチ)を使って、魔物を狩っているので問題無いのだが、野菜が今日の夕食を作ったら底をついてしまう。

二人は俺のマジックバッグの中身は知らないはずなのだが、しっかりと把握してくれているようで、とても話しがスムーズに進むのでありがたい限りだ。


「タルト?近くに冒険者ギルドが機能している街・・・いや町でもいい。ないか?」

「この辺りは反乱軍との戦闘によってギルドが機能しているかわかりませんので王都まで行くのが一番確実かと!」

「ってことは、あたしとレタスは留守番ね?」

「ぶもっ!」

恥ずかしい話だが金欠すぎて冒険者ギルドで魔物の素材を売り払わないと、野菜を購入できないのだ。

という訳で村レベルでは、俺達の素材の買取も出来ないだろうし、食料の補充も難しいだろうと思って聞いたが、結局王都まで戻らないと駄目なようだ。

二人は早々に話し合いを切り上げて、タルトは出発の準備を始めアンジーは元奴隷達の元へと歩いて行く。

眷属達が優秀すぎて、逆に俺が置いてけぼりの状況だ。

慌ててタルトを追ってみんなから離れた所に行き、変化を解いて水竜の姿になったタルトの背に乗って王都を目指す。










「かなり地形が変わっているな?」

「そうですね。王都付近は地図の描き直しが必要そうですね。」

一ヶ月ぶりに見る王都は俺達が出発する時の異常気象によって、今まで平地だった場所に森が広がり、絶対に見覚えの無い湖なども出来ている。

元奴隷達を連れて歩いて帰る時は、今持っている地図はもう使えないみたいだ。

キーフの貴族達からの対応は最悪だったが、おかげで素晴らしい情報を知る事が出来た。

この状況を知らずに地図を頼りに徒歩で帰っていたらとんでもない事になっていただろう。


「そろそろ降ります!」

「頼む。」

いつも通り少し離れた所に降り立ってタルトが人間に変化して服を着るのを待つ。

タルトのおかげで三時間程で王都に来ることが出来た。

これならば大急ぎで用事を済ませられれば夕暮れまでにはみんなの下に帰れそうだ。


「師匠おまたせしました!」

「よし行こう。」

人間の姿に変化して服を着たタルトと一緒に王都へと走る。





王都に入ると戦争が始まったせいでそう見えるのか、一ヶ月ぶりに見る王都は人が少ない気がした。

いや人込みに揉まれる事無くすんなりと冒険者ギルドに着いたので確実に人は少なくなっている。

だが冒険者ギルドは機能しているようで一安心だ。

真っ直ぐ受付カウンターに向かいギルドカードを差し出して職員に用件を言う。

「すまんが、サンドラギルドマスターをお願いできるか?」

「ルドルフ殿!?かしこまりました!」

俺が言うと受付嬢は二階へと走って行くので、タルトと一緒にサンドラが到着するのを待つ。





すぐにサンドラがとても慌てた様子でやって来る。

「ルドルフ!?あなたキーフで何をしたのですか!?」

「さすがは耳が早いな・・・説明をするから、その前に素材の買取を頼む。」

開口一番怒鳴られ、周りの職員や冒険者からの視線が一気に集まるので、本当に止めて頂きたい。

とりあえず説明をするにも、人目のない所でしたいので、単刀直入に俺の用件を伝える。


「ふむ・・・では倉庫にお願いします。」

「わかった。」

キーフの貴族達が俺達の事をどういう風に報告してるのかは知らんが、サンドラの様子を見る限り、碌な報告ではないのだろう。

サンドラと一緒に倉庫に行き、アイテムボックスから売却用にとっておいた素材を取り出して行く。


「相変わらずとんでもない量ですね・・・」

「買い取れるか?」

「戦争中で武具の素材が高騰してますからね!無理をしてでも買って儲けさせて頂きます。」

「じゃあ計算をしている間にキーフで何があったか説明しよう。」

職員達が素材の査定をしている間にサンドラにキーフで何があったのか説明する。




「っという訳だ。」

サンドラは最初は訝しげに聞いていたが、ミーティアのマジックアイテムや魔法陣の話をした辺りで青くなり、最後の堅物貴族達とのやりとりを説明すると真っ青になった。

「成程。キーフを救うために反乱軍を逃がしたのですね?」

「そうだ。おそらく結界を張るマジックアイテムもあっただろうから、魔法を発動する前に殺すのはかなり難しい状況だったのでな。」

「それはキーフの太守には報告したのですか?」

「あいつらの報告を聞いたろ?俺達が説明出来る状況だったと思うか?」

サンドラは黙って考え込む。

更に俺の言い分としては、怒って暴そうになっていたタルトを抑えて穏便に済ました事を褒めて欲しいくらいだ。



「わかりました。ではフィルとアレク王には私から説明しておきます。」

「すまんが頼んだ。あと王都からの追手は知らんと言ってるからな?」

「御安心下さい。只今王都は先日の異常気象で地形が変わっているので、兵を出したくても出せない状況ですので!」

「成程。それでキーフに対しても傍観してたのか。」

なぜ騎士団が動かないのかと考えていたが、そういう事だったようだ。

そして今騎士団は総出で王都近辺の地図を描き直している最中らしい。


「師匠?私の記憶を頼りに地図を描きました。」

「ふむ・・・さすがはタルトだ。サンドラ?」

やけに静かだなと思っていたら、タルトはずっと先程空から見た景色を地図におこしてくれていた様だ。

冷静なメイドバージョンのタルトが真顔で手描きの地図を渡してくる。

パッと見だが俺の記憶と合わせても寸分の狂いも無い、とても素晴らしい地図だ。

そのままサンドラに渡すと、サンドラは目をひん剥いて地図を眺める。


「これは本当ですか?」

「あぁ。水竜の上から見た。大体はあってるはずだ。」

「この地図の代金も上乗せしておきましょう・・・」

「そうだ。あとこれの処理も頼む。」

「かしこまりました。」

サンドラが地図を持って倉庫から出て行こうとするので、ルシアから受けとっていた依頼票の処理もついでに頼んでおく。




「師匠?今のうちに買物を済ませて来てもいいですか?」

「金貨十枚ほどしか残ってないぞ?」

「師匠は金銭感覚が壊れています!それだけあれば一週間分の食料なら十分買えます!」

「・・・任せた。」

まさかタルトにまで、俺の金銭感覚を馬鹿にされるとは思っても無かった。

余りのショックによろけそうになるが、何とか踏ん張ってタルトになけなしの金貨を渡して送り出す。




「いくらかかるかなんて分かるかよ・・・五百人分だぞ?」

誰にも聞こえないようにタルトへの文句を呟く。

五百人の一週間分の食料が金貨十枚で足りるかどうかなんて、わかる訳が無いので俺の金銭感覚が壊れてはいない。

むしろそんな無茶苦茶な状況での値段を予想できないのは、庶民的な金銭感覚だという事のはずだ。

必死に自分に言い聞かせて気持ちを落ち着かせて、読書をしながら職員達が素材の査定を終えるのをゆっくりと待つ。

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