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第二百二十九話 キーフ防衛戦

最後の見直しで気に入らなくて何度も何度も書き直してたら一日空きました。

ニコが砲撃された時、キーフは正に蜂の巣を突いた様な騒ぎになっていた。

街の中は完全武装した兵士達が走り回り。

外周の建物の窓からはニコが乗っていた車を爆破した鉄の弾が次々と飛び出している。

「これで俺は第三王子だ。」

鉄の弾が飛び出す窓の中の一つに望遠鏡を構えて、口元を歪める青年がいた。

彼こそ今回の反乱の首謀者ヘファイ・ムイワールの三男坊マルスである。

ルドルフが来ると知り、死ぬ瞬間を自分の目で見るためにこの最前線の砲兵の指揮を志願したのだ。

マジックアイテムである鉄の筒こと、魔砲によって車の上半分が吹っ飛ぶを見て、ルドルフの死を確信したマルスが小さく呟いていた。



「マルス様!金髪のメイドが走ってきます!」

「は?メイドだと?」

マルスは兵士の指差す方向へと望遠鏡を向けて確認する。

爆発によって巻き上がった土埃から出て来るアンジーを発見し、大慌てで魔砲を担ぐ兵士に指示を出し始める。


「おい!あの気狂いを殺せ!」

「言われなくてもそのために撃ってます!」

今魔砲を撃っている兵士の足元には命中率を上げるための補助魔法を発動するための魔法陣があり、隣の兵士は息を荒げて今にも倒れそうな表情で必死に魔力を流して、補助魔砲を発動している甲斐もあって全弾命中している。

だがアンジーは自身の結界に加えて、魔法障壁を展開しているので無傷のまま魔砲の弾を無視して、キーフへと走り続けている。


「撃て撃て!撃ちまくれ!」

「見えてないんですか?撃ちまくってます!」

マルスが指示を出すが魔砲を担いだ兵士はすでに何度もアンジーに向かって魔砲を発動しては鉄の弾を込め、そしてアンジーに向かって発動している。

そして隣の建物からも隣の隣の建物からも、隣の隣の隣の・・・と東側の建物からは引っ切り無しに魔砲の弾がアンジーに向かって飛び出して飛び出しているのだ。

そして全弾がアンジーに命中しているのだが、勿論無傷だ。

アンジーがおもむろにフルートを取り出して演奏を始めると、先程まで戦っていた兵士達が動きを止めて部屋から出て行く始める。



「おい!お前らどこに行くんだ!?・・・おい!」

マルスが必死に兵士達を止めようとしているが、虚ろな目をした兵士達はマルスの言葉を無視して建物の外へと出て行くと、丁度アンジーは街に入り、自分の演奏の音だけが響き渡る目抜き通りを、フルートを演奏しながら悠々と歩いていた。

そして兵士はそのまま当然の様にアンジーを先導するように街の中心部へと歩いて行く。

マルスはその様子と建物の出口で息を殺しながら観察していた。

そしてアンジーが通り過ぎた事を確認したマルスは忍び足で街の出口へと向かって歩いて行く。









その頃おおわらわになっている司令本部として使っている太守の館に、次男坊のギュスターが飛び込んでくる。

「母上!例の広範囲魅了使いの化物がやって来ました!」

「騒々しい!少し落ち着きなさい!」

ギュスターが荒々しく扉を開け放って、大勢の貴族達の中心で指揮をとっていた女性がギュスターを怒鳴りつける。

この女性こそヘファイ・ムイワールの嫁であり、ハイゼン王の妹である、ミーティア・ハイゼン・ムイワールである。

ギュスターは母親に言われた通りに、大きく深呼吸して、落ちつきを取り戻してから改めて口を開く。

「母上!例の化物に街のほとんどを掌握されました。」

「やはりそうなりましたか・・・私が食い止めます無事な人間を連れてすぐ領地に逃げなさい。」

ギュスターの言葉にミーティアは慌てる様子も無く、窓の外を眺めながら指示を出す。

ミーティアとは対照的に周りの貴族達からはどよめきが走り、ギュスターは大慌てでミーティアへと駆け寄る。


「それでは母上がっ!」

「貴方達はハイゼンとエスガルド両国の王族の血が流れているのですよ?貴方達が次のエスガルドを我が兄・・・伯父さんと共に治めなさい?」

「っ!・・・母上またお会い出来る事を願っております。」

始めて見る覚悟を決めた母親の顔を見たギュスターは、魅了されていない貴族達と共に退室して行く。







「ふぅ・・・兄上から預かったこれを使えば・・・」

先程まで騒がしく魔道具で指示を出していた貴族達がいなくなり、静かになった部屋の中で母親は宝石のように光り輝く綺麗なマジックアイテムを取り出してしげしげと眺め始める。

このアイテムはハイゼン王国の独立戦争時に、国王が精霊教会からいざという時のためにと賜った物で、国王の妹である母親が終戦後にエスガルドへと嫁ぐ際に何か合った時のためにと渡された物である。

「精霊様・・・我が息子達をお救い下さい・・・」

ミーティアはこのマジックアイテムを発動すれば、使用者もただでは済まないとわかっているので、ハイゼン王国との戦争から二十年以上経った今でも使わずに取っておいた物だが、ヘファイが囚われた今、息子達を守れるのは自分だけとミーティアは意を決してマジックアイテムを握り締めて太守の館を出て街の南へと向かって歩き始める。





「母上!ギュスターから聞きました!私が引き付けますので母上はお逃げください!」

「レイモンドあなたは長男として、みんなを導きなさい!何をするかはわかってますね?」

母親が馬に乗った三人の男が駈け寄ってくる。

ムイワール家の長男レイモンド、次男ギュスター、四男ギャスパルだ。

レイモンドは決死の覚悟で母親に言ったのだが、逆に母親の真っ直ぐな瞳に気圧されて、目を白黒させるばかりで何も答えられないでいると、母親は大きな溜息を吐きながら子供に諭すようにゆっくりと落ち着いた様子で話し始める。



「はぁ・・・いいですか?まず家に戻ったら籠城の準備よ?そしてハイゼン王国に(ふみ)を出しなさい?あなた達の伯父さんが救援を送ってくれるはずよ?」

「かしこまりました。」

「さぁ!魅了の音楽が大きくなってきました。無事な貴族と兵士を連れて今すぐに逃げなさい!」

「かしこまりました!お前ら行くぞ!」

母親は最後まで落ち着いた様子で、話は終わったとばかりに音がする方向へと優雅に歩き始める。

レイモンドは悔しそうに顔を顰めながらも、馬を反転させて弟達に指示を出して走り始める。


「母上!御武運を!」

「家でお待ちしております!」

残りの二人も最後の言葉をかけて馬を反転させて、レイモンドと一緒に街の出口に向かって駆け出し、母親は振り返ること無くキーフの目抜き通りを歩む。







「あら?魅了を防いだのは貴女だけ?」

「・・・ミーティア・ハイゼン・ムイワール!お前を殺す人間の名よ!」

ミーティアは自分の名前を伝えて右手を掲げてマジックアイテムを発動しようとするのだが、アンジーは余裕綽々の様子だ。

なぜならミーティアはまだ気付いてないが、アンジーが素早くマジックアイテムを気付かれないように盗んでいるからだ。


「ねぇ?このマジックアイテム発動してたら貴女自信も命は無かったわよ?」

「わかってるわ?息子達が逃げる事が出来るのなら安い物よ!・・・()()ですって?」

アンジーは盗んだマジックアイテムをしげしげと観察し、続けてミーティアの足の先から頭の天辺までねめつけるように観察する。

「(どうやらこの女は命を捨てるつもりのようね・・・にしてもどれだけマジックアイテム持ってんのよ・・・)」

アンジーはミーティアが身に付けるマジックアイテムの数に驚き、そしてどうやって対処するべきかと頭の中をフル回転させる。

このまま攻撃しても勿論結界のマジックアイテムもあると思われるので、他のマジックアイテムを発動される前に殺せる確立は極めて低い。

それならばっとアンジーはいい案が浮かんでとても妖艶な笑みを浮かべて口を開く。


「これを発動されても面倒だし・・・これから反乱軍に街を元通りにさせるから、それが終わったら連れて帰ってくれない?」

「え?」

「貴女達が来たせいで死人とかも出たんでしょうけど、あたしはどうでもいいの・・・だからうちのリーダーには上手く言っとくからお願い出来ないかしら?」

「え?」

アンジーは必死に考えた案を言うのだが、突然の申し出に呆気に取られたミーティアは生返事をするばかりで、アンジーはとても不満そうに続けて口を開く。


「え?じゃ何もわからないわ?それとも身に着けてるマジックアイテム達を発動して死にたいのかしら?」

「発動したくは・・・ないわね。」

「なら兵士を連れて帰るのか、マジックアイテムを使うのか決めなさい?」

「本当に私達は帰っていいのですか?」

「いいわよ?その数のマジックアイテムの発動を全部阻止して勝つ方法が見当たらないもの。」

「ならば・・・従おう。」

ミーティアは唇を噛んで悔しがりながらその場にへたり込む。

それを見たアンジーは満足そうにフルートを吹き始め、後ろに付いて来ていた兵士達が、虚ろな目のまま動き始める。

そして散り散りになる兵士の奥からレタスが引くオープントップになった車に乗ったニコが悠々と進んでくる。

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