第二百二十七話 ライネン出発初日
「では私達は出発の準備をして参ります!」
「リーダーはゆっくりと来てね?」
「・・・あぁ。」
翌朝朝食を食べ終わると、二人は笑顔で部屋を飛び出して行く。
なんでも元奴隷達に舐められないように、俺には準備を手伝わせたくないそうだ
そして準備が終わってから、堂々と登場して威厳を見せ付けて欲しいそうだ。
だがそのために俺に朝食の後始末を全部丸投げするのは本末転倒では無いのだろうか?
そんな事を考えながらも、せっせと使い終わった食器をまとめて洗浄魔法をかけてマジックバッグに入れていると、ノックが聞こえる。
「開いてる。」
「失礼致します!」
部屋に入ってきたのはザッシャだった。
おそらく最後の挨拶に来てくれたのだろう。
「みんな世話になったな?本当に助かった。」
「まだお返ししきれておりません!少しお時間よろしいですか?」
お礼を言うとザッシャはすごい剣幕で詰め寄ってくる。
俺は余りの迫力に押されて頷くと、そのまま手を引かれて騎士団の食堂へと連れて行かれる。
何事かと思っていると食堂にはバンクが天上に着きそうなそうな程に積み重ねられた大量の食材と一緒に待っていた。
「ルドルフ殿。忙しくてこんなタイミングで申し訳ないがずっとお礼を言いたかった。
・・・あなたが来てくれていなければ、今頃我々はこのライネンを守りきれずにハイゼン王国の領土となっていたでしょう。
いくばくのお礼をしても足りる気がしませんが・・・我々からのせめてものお礼を受け取って頂きたい。」
バンクが喋っている間にザッシャが隣に並び、二人が深々とお辞儀をしてくる。
本当に深い百二十度のお辞儀だ。
元奴隷達の道具の準備をしてくれたり食事を振舞ってくれたりと、とても協力的でありがたいと思っていたが、全てひっくるめて今回の俺の働きに対する対価と言う事なのだろう。
今までの依頼報酬などと比べて計算すると、少々少ない気もするが、正直五百人分の食料など持っていない。
帰りの行軍は元奴隷達に道中で食べられそうな物を見つけてもらいながら進もうと考えていたので、時価を考えれば相応の報酬だろう。
「ふむ・・・わかった。今回の一件は俺がプライベートで動いた事にしておく。」
「「ありがとうございます!」」
俺が食材の山を時忘れのマジックバッグに放り込みながら言うと、二人は嬉しそうに声を弾ませて再度頭を下げる。
ありがたく食材を時忘れのマジックバッグに入れるのだが、量が多すぎて時忘れのマジックバッグだけでは入りきりそうに無い。
外ではみんなが出発の準備をしてくれているので、あまり待たせすぎるのも心苦しいので、大急ぎで保存のききそうなものはアイテムボックスに入れるようにして、食材を選別する。
選別を終え食材を全て時忘れのマジックバッグとアイテムボックスに収納し終えたので、バンクとザッシャに短い挨拶を交わして騎士団支部を出るべく扉に手をかけるとタルトとアンジーの声が聞こえてくる。
「ニコ様のおいでです!」
「みんな頭を下げてお迎えよっ!?」
少し嫌な予感がしながらも扉を開けると、跪いて頭を下げる五百人の人間に出迎えられる。
仰々しい出迎えに驚いていると、とても満足そうな表情をした二人が近づいて来る。
「さ、こちらです。」
「リーダーは先頭を威風堂々と進んで貰うわよ?」
「こんな事して・・・どうせボロが出るのに・・・」
二人に促されるままに頭を下げる人間の間を歩いて進む。
どうせすぐにボロが出て、俺が五百人もの人間を率いる器が無い普通の子供だとばれるのに殊勝な事である。
そして隊列の先頭には車があり、それを引くのは馬ではなくレタスのようだ。
「お前ら・・・レタスに何をさせるつもりだ?」
「レタスが!レタスが馬などに引かせるかっ!と・・・」
「そうよ?レタスが自分で引くって言って聞かなかったの・・・」
そこまでするか?っと呆れ半分で声をかけるが、タルトとアンジーは必死に否定し、レタスはドヤ顔でサムズアップしているのでどうやら本当にレタスが自分で引くと言ったようだ。
「疲れたらアンジーに引かせるからすぐに言うんだぞ?」
「ぶもっ!」
レタスに一声かけて車に乗り込む。
「出発!みんな行きますよ!?」
「気合入れて進みなさい!」
俺が車に乗ると、座る暇も無く二人の声が聞こえて車が動き始める。
まだ座ってないので車が揺れて盛大に転んでしまう。
「(ここにアランが居れば何日でボロが出るか賭けるのだがな・・・)」
そんな事を思いながら揺れる車の中でなんとか席に座り、魔石を取り出して魔法陣を刻んで行く。
「リーダー?夜営地点に着いたわよ!?」
魔素が切れる直前まで魔石の処理をしてから読書に勤しんでいると、アンジーの声が聞こえる。
車を出ると元奴隷達は五人程のグループに別れて騎士団から支給されたテントを設営していた。
予定ではこの後元奴隷達を半分に分けてそれぞれにタルトが勉強を、アンジーが戦闘を教えるはずだ。
タルトとアンジーの姿はどこにも見えないので、おそらく教えるための準備をしているのだろう。
俺は車を引いていたレタスと一緒に焚き火を熾して料理を作る。
騎士団で貰った食材に大量のクズ肉があったので、今日の夕食はハンバーグだ。
ひたすらクズ肉と野菜をマジックアイテムのミキサーで切り刻んでレタスの前に置いてあるボールに入れる。
そしてレタスは巨大な手で器用に切り刻んだ肉と野菜を捏ねて、俵型に成型して鉄板に並べて焼き始めてくれる。
俺が行軍のためにと準備した鉄板はハンバーグが四十個並べられた。
五百人の食事を用意するとなると、少し物足りないがこれ以上大きい鉄板だと焚き火が巨大になりすぎるし、何よりこれ以上の量を一度に焼くとなると手が回らないのでこれが限界だ。
「よし。夕食は大体目処が付いたから明日の朝食だな?」
「ぶも。」
レタスは当然と言った様子で一つ頷いて、焼き終えたハンバーグを俺の前に寄せてくれるので、時忘れのマジックバッグに入れ、続いて明日の朝食のベーコンエッグを作る。
鉄板には約二十のベーコンエッグが並べる事が出来たので、明日の朝食に向けて最低二十五回繰り返さなければならないようだ。
二回目からは見ていたレタスが手順を覚えてベーコンを並べてくれるので、一気に楽になるがやはり五百人分の食事を準備するのは大変だ。
「レタス任せても大丈夫か?」
「ぶもっ!」
俺が尋ねるとレタスはしっかりと答えてくれるので、安心して隣の焚き火の下に行き、チーズ用にと作った巨大な鍋でスープを作る。
約百リットルのスープなので味付けの量がよくわからない。
何度も何度も味見をしながら味を整えて行く。
「もっ!もっ!」
「出来たか?」
レタスが短く鳴いて呼ぶ。
反射的に呼ばれたと思ってレタスの下に行くと、思ったとおりベーコンエッグが出来上がっていたので、時忘れのマジックバッグに入れる。
レタスは次のベーコンエッグを作り始め、俺はスープ作りに戻る。
その後もレタスと終わりの見えない量の料理を作っていると、タルトとアンジーがやってきて、巨大な机をマジックバッグから取り出して設置し始める。
「すまんな?では配給を頼んだ。」
「かしこまりました!」
「みんなこっちにいらっしゃい?」
巨大な机の上に作ったハンバーグとサラダ、そして騎士団で貰ったパンを取り出して置くと、元奴隷達にタルトとアンジーとレタスが配給を始める。
元奴隷達は騒ぐ事も無く、行儀よく一列に並んで配給を受け取っているので問題無さそうだ。
配給は三人に任せて自分達の料理を作る。
一応不平不満が出ないためにも、メニューは元奴隷達と全く同じだが、中身は全然違う。
元奴隷達のハンバーグはクズ肉だが、俺達のハンバーグはサーペントと魔猪の合挽き肉だし、スープも水ではなくホエーを使ったスープで、パンはミノタウロスミルクパンだ。
「食事が終わったら小川で食器を洗ってくださいね?その後は自由時間です!」
「あー忘れてた!今日着ていた服はリーダーが魔法で綺麗にするからここに置いておきなさい?」
配給を終えたタルトとアンジーは、俺の料理がまだ完成してない事を確認すると、食事中の元奴隷達に指示を出してくれている。
「お前は疲れただろうから、先に夕食を食べて休めば良いぞ?」
「ぶもっ!」
片手間にレタスのためにサラダを作って差し出す。
名前の元にもなった、レタスのような葉野菜ばかりのサラダにしてみたが正解だったようだ、レタスは満面の笑みでサラダを食べ始め、何度も美味しそうに反芻し始める。
「あらあら?レタス美味しそうねぇ?」
「おなかぺこぺこです!」
「日中歩いていたお前らはゆっくりしてればいい。」
丁度夕食が完成する頃に元奴隷達に指示を出し終えた二人が戻ってきて料理の配膳を始める。
俺は一日車に乗っていたが、二人は元奴隷達と一緒に丸一日歩いたのだからと、気を使って声をかけたのだが二人共首を横に振って拒否されてしまう。
どうやら威厳あるニコ様に配膳をさせる気は無いようだ。
「(だが料理はいいのか?)」
そんな疑問を抱えつつも二人が用意してくれた椅子に座って夕食を始める。
「元奴隷達の勉強と訓練はどうだ?」
「はい!文字の読み書きは予想以上に順調です!」
「あたしの方も素振りをさせているけど、何も問題無しよ?」
夕食をしながら二人に聞くが全く問題無いようだ。
むしろ順調すぎて恐くなって来る程にいい報告しか聞かないので、少し怖くなってくるほどだった。
「師匠は魔道具作りは順調なのですか?」
「そうね?あたしも気になってたわ?」
「魔素枯渇直前まで作ったが、今日だけで二十個は作れたから、王都に着くまでには完成するだろう。」
二人は二人で俺の心配をしてくれているようだ。
今日だけで二十個の魔石に魔法陣を刻むことが出来た。
二人が組んだ日程では、キーフまで三週間かかりそしてキーフから王都までは二週間かかるそうなので、余裕をもって作れそうだから俺のほうも全く問題無い。
二人と報告をしあいながら夕食を終え、元奴隷達が積み重ねた衣服の山に洗浄魔法を発動して綺麗にしてから、車の中で寝袋に入って一日を終える。




