第二百二十五話 逃げるディアナと付いて来る奴隷
自由になった奴隷達は俺達に敵対的な行動をする事も無く、真っ直ぐに一人で神輿に乗ったままのディアナの下へと駆け寄る事に成功する。
「まさか一億ゴールド払うとは思わなかったっしょ!」
「(なぜ一億払ったと知ってるんだ?)」
ディアナは神輿の上で楽しそうにふんぞり返ったまま余裕綽々な様子で言って来る。
魔素量などは前回と違いは無いのに、なぜそんなに余裕なのか気になる。
そして何よりも俺が聖女に支払った依頼額を知っているのかとても気になる所だ。
「お前なぜ一億ゴールドと知っている?」
「答える気はないっしょ!」
尋ねるがディアナは口元を歪めて答える。
神輿に乗っていて見下されている事も相まってとても不愉快だ。
タルトとアンジーが武器を振り上げてディアナへと飛び掛る。
「おっと!今は戦う気はないっしょ!王都で歓迎の準備をして待ってるっしょ!」
おそらく転移石を持っていたのだろう。
ディアナはそう言ってその場から消え、乗っていた神輿は二人の攻撃によって一瞬で真っ二つになった。
「ちっ!逃げられたか!」
「あいつは王都から動かないようですし、もう興味は無いです!」
「普通にやっても勝てないと踏んでの事だろうが、俺達にとっては好都合だ。さっさと帰ろう?」
二人は怒りも顕わにディアナが座っていた神輿を睨みつけながら戻ってくる。
おそらくディアナの魔力特性は空気中の何かを槍などに創造するものだろう。
そういう創造系の魔力特性は便利であれば便利であるほど制約と制限の条件が厳しくなる。
と言う事は今の言葉は噓ではなく、本当にディアナは自分の魔力特性を発揮できる状況を作って王都で待ち構えている可能性が高いので、安心してとは言い難いがとりあえずエスガルド軍がハイゼン王国の王都に侵攻するまでは大丈夫そうだ。
「そうですね!帰りましょう!」
「でもどうすんの?奴隷達が解放されて暴徒になってるわよ?」
「気付かなかったな・・・あれが俺の部下になるのか?」
アンジーに言われて振り返ると奴隷達が暴徒と化して、保護しようとライネンから出てきた騎士達に殴りかかっている。
騎士達は俺の部下だと命令されているせいか、皆盾で防御するだけでそれ以上の対応が出来なくて困っている様子だ。
タルトが大きく溜息を吐きながら奴隷達の真ん中に進み出て地面を踏み抜く。
タルトを中心に地面に地割れが発生すると同時に轟音が鳴り響く、暴徒と化していた奴隷達は一瞬で静かになる。
「素晴らしい鎮圧だ。」
「圧倒的な暴力って頭で考える前に身体が反応するのね・・・」
タルトの素晴らしい脚力によって街の中に暴徒がなだれ込むのは回避出来たようだ。
そのままタルトは少し不機嫌な表情で暴れていた元奴隷達を見回して再度大きく溜息を吐いてから口を開く。
「あなた達はなぜ暴れていたのでしょうか?」
「俺達は物じゃねぇ!首輪が外れた今俺達は自由だ!」
「「「「そうだそうだ!!」」」」
タルトの言葉に一人が答え、周りの元奴隷達が一斉に歓声を上げ始める。
どうやら所有者によって生殺与奪を管理されていた奴隷が、隷属の首輪と生贄の魔法陣が消え、自由への欲望が芽生えたようだ。
タルトが困った表情で見てくるので大きく頷いておく。
勿論俺は千人もの眷属を迎えるつもりなどなかったので、自由にしたい奴は自由にさせろという意味だ。
「いいですか?我が主人は殺す事が出来たのにわざわざあなた達のために一億ゴールドを使って助けました!」
タルトは俺の頷きを見てにっこりと笑って元奴隷達に向かって高らかに声を張って喋り始める。
本当に部下が優秀なので俺は楽で助かる。
「つまりあなた方を一億ゴールドで買ったと同義なのです!まだ抵抗したい者は申し出なさい!そんな無駄な者はいらないので私が息の根を止めて差し上げます!」
「アンジー!タルトを止めろ!そしてあいつらには自由にさせればいい!」
「はいはい・・・付いて来たい子だけ連れて行くのね?」
タルトの言葉を聞いて慌ててアンジーに新たな指示を出させる。
元奴隷達はタルトの言葉を聞いて露骨に嫌悪感を顕わにしている。
最悪部下は許容出来ても、こんな敵意むき出しの部下は絶対にごめんだ。
アンジーはとても面倒臭そうにタルトを押しのけて元奴隷達に宣言する。
「さっきの一億ゴールドは忘れなさい?我々に付いてきたい人間は街へ!自由になりたい人間は去りなさい?ただし外で何かあっても無関係なあたし達の名前は出さない事・・・以上!みんなは自由よ?自分の思ったように動きなさい!」
アンジーは俺の言いたい事をしっかりとみんなに伝えてドヤ顔で戻ってくる。
タルトは少し頬を膨らませてむくれているが、あのまま任せていてはとんでもない事態になっていたので慰めの言葉を言う気は無い。
「アンジー御苦労。さぁ帰るぞ?」
「むぅ・・・いっぱい去って行きます・・・」
二人と合流してアンジーを労っておく。
元奴隷達は街に入る者と去る者は半々と言った様子だが、去って行く人間を見てタルトがとても悲しそうに呟いている。
「リーダー?夕食は普通の椅子かしら?」
「・・・夕食後のティータイムじゃ駄目か?」
アンジーが暗に御褒美をねだってくる。
やはり夕食は三人で楽しく食べたいので、夕食後を指定するとアンジーは一瞬考えてだらしない表情でブツブツと呟き始める。
「・・・へぇ?おなか一杯で椅子か、それも新しいわね?」
「お前がわからん。」
アンジーは満面の笑みで早く夕食にしようと手を引っ張ってくる。
傍から見ると、ブロンド美人に満面の笑みで手を引っぱられるとても羨ましい光景なのだろうが、実際の所は少しでも早く自分に座って貰いたい変態が俺の手を引っ張っているだけである。
「師匠!申し訳ありませんが私はこれからバンクさん達と元奴隷の処遇を決めて参りたいと思いますが、その間に料理をお願いしてもいいですか?」
「わかった。では元奴隷達への対応は任せる。」
「かしこまりました!」
騎士団支部に入ると先程まで落ち込んで元気を無くしていたタルトが提案してくる。
そんな面倒臭い事をしてくれると言うのであれば何一つ文句は無い。
ただ先程のタルトの暴走を見て少し・・・いやかなり心配になるのでアンジーにも一緒に行かせることにする。
「アンジー?やはりタルトだけでは心配だ。」
「ぇー・・・わかったわよ!ニッグ達と同じ感じでいいのね?」
「そうだ。タルトが暴走しないようにしてくれ。」
「はいはい!その代わりちゃんと座りなさいよね!?」
アンジーはとても嫌そうな顔でタルトの後を追って離れて行く。
普段しっかり者のタルトだがたまに俺の覇道が!などと言い出したりして大暴走するが、普段ド変態のアンジーはこういう時俺の考えをしっかりと汲んでくれるのでこれで大丈夫だろう。
俺は自分に言い聞かせながら調理室へと行き料理を作る。
料理を作り終わり部屋に戻ると二人は話を終えて戻ってきていた。
「早いな?」
「我々の条件をただ言い。ザッシャさんが文章に起こすだけでしたから・・・」
「あたしが行って正解だったわ?」
机の上に作った料理を並べながら二人に声をかけるのだが、タルトは不満そうに答えアンジーは溜息混じりに答えながら椅子に座るので、どうやらタルトがまた暴走をしたようだ。
「それで?タルトは何を言ったんだ?」
「私は別に・・・」
「部屋に入ると元奴隷達の代表者がいたのよ?それを見たタルトは代表者に向かって「師匠の小指の先程には役立つように鍛えて上げます。何も言わずに我々に付いて来なさい。」って言い放ったのよ?」
アンジーの言葉に頭を抱える。
タルトは本当に俺に何を求めているのだろうか?
アンジーの性癖も理解出来ないが、タルトの考えもよくわからない今日この頃である。
「師匠が覇道に弱者は邪魔なだけですから・・・」
「タルト?リーダーは覇道なんて進みたくないの!だから奴隷達も希望する人間は鍛えるけど、戦闘したくない人間は事務とか安全な事をしてもらえばいいの!」
前にしっかりと言ったはずなのだがタルトはまだ覇道などと言う謎の道を俺に歩ませようとしていたようだ。
こういう時だけは普段とは逆でアンジーがとてもお姉さんに見えてしまうので不思議だ。
その後もタルトはアンジーに説教されると言うとても目新しい状況の中夕食が進む。
「ほんとにタルトは年上なのにガキね・・・」
「そうだな?お前も変態じゃなければ本当に心の置けない部下なのだがな・・・」
夕食の間ずっとタルトに説教をしていたアンジーはさっさと夕食を食べ終わって、目を輝かせながら床に四つん這いになり始める。
息を荒げるアンジーに座りながら、夕食の間ずっと説教されて完全に沈みきったタルトの淹れた紅茶を飲む。
傍から見れば俺はメイド使いの荒い最低な主人に見えることは間違いない状況だ。
「タルト?俺はただゆっくりと過ごしたいんだ。今回俺に付いて来ると決めた五百人近い人間の扱いにも困っているんだぞ?」
「鍛えて・・・鍛えて鍛えて鍛えてっ!鍛え抜いて屈強な戦士にして見せます!」
「どれだけ鍛えるつもりなんだ?それに屈強な戦死は必要無い。俺にはお前らがいれば十分だ。」
「ニコ様・・・」
俺もタルトに説教をしようとするのだが、慣れない事をするものではないなと反省する。
説教した結果タルトは顔を上気させて普段は絶対に呼ばない名前で呼びながら暑いのか服を脱ぎ始め、なぜかそれに感化された椅子になっているアンジーが息を荒げながら気持ちの悪い声を出し始めてしまった。
「とにかくだっ!明日一日で大勢の元奴隷達を連れて帰る準備をして、明後日出発するぞ?」
「かしこまっております!ニコ様を乗せる車の準備も済ませております!」
「んっ!!はぁはぁ・・・元奴隷の代表者にも伝えてるわ?」
気付けば部屋の中は下着姿になったタルトと元から下着姿のアンジーというカオスな空間になってしまっていたので、夕食の食器に洗浄魔法を発動してマジックバッグに入れてさっさと寝るべく立ち上がる。
「ニコ様?今日は我侭を聞いて欲しいです。」
「そうね?今日あたし達・・・てかあたし頑張ったわよね?」
「わかった。わかったから下ろせ。」
二人に両脇を抱え上げられ、そのまま有無を言わさない力でベッドに押し込められて、シングルベッドで川の字になる。
そして布団に入ると同時に両脇をがっちりと二人にホールドされたので、身動き一つ取れない。
「シングルベッドは狭すぎないか?」
「落ちそうなので近づきますね?」
「そうね?あたしも落ちそうだから・・・」
せめてベッドを連結しろと言う意味で言ったのだが薮蛇だった。
二人に密着させる口実を与えてしまった。
完全にホールドされているので睡眠霧も発動できないので完全に詰みの状態である。
「(そういえば今日鍛錬してないな・・・)」
ふと思い出したので二人の存在を忘れ、そのまま寝入れたらいいなという願望も込めて必死に鍛錬を行う。




