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第二百二十四話 聖女の実力

「師匠!そんなのはあんまりです!」

「そうよ!自分の気持ちに反したことをして何が楽しいのっ!?」

ようやく作戦会議が終わったので、最後に俺が今日からはまた別々に寝ようと提案した所二人の猛反発を受けてしまっている。

今度は一緒に寝るのか、別々に寝るのかと言う会議に移行し、お互いに平行線でとても不毛な時間を過ごす。

いつまで経っても寝れそうにないので、作戦の確認をして無理矢理話を終わらせる。



「明日の確認だ。俺はディアナの相手をして釘付けにする。」

「師匠がけん制している間に私の魔力特性で動けないようにバラバラにしてやります!」

「そしてあたしが魅了して幻覚を見せて精神攻撃ね?任せなさい!」

「よし!では寝るぞ!」

「了解です・・・」

「もう何も言わないわ・・・」

二人はとても不満そうに各々のベッドに向かっているが、睡眠霧(スリーピングミスト)で眠るよりもやはり自然に寝入った方が寝覚めが気持ちいいのだ。

「(二人に抱かれて柔らかい感触を感じつつの寝覚めもいいが、気ままなのが一番だ。)」

久々に一人でベッドを占領できるので大満足で意識を夢の中へと手放す。








翌朝すっきりと目覚めて二人が起きる前に朝食の準備をする。

最近は目覚めても二人に挟まれて身動きが取れなかったので自分のタイミングで動き始められるという普通の事がとても嬉しい。

俺がマジックバッグから作り置きの朝食を準備しているとその音で二人が目覚めて布団からモソモソと出てき始める。

「師匠が隣にいるという事に慣れすぎましたね・・・」

「一人で寝たら寂しかったでしょ?昨日の発言撤回しても笑わないわよ?」

「さ。朝食の準備が出来たぞ?」

起き抜けに二人が何やら言って来るが無視して朝食を食べ始める。

メニューはいつもどおりベーコンエッグと野菜スープと焼いたトーストにミノタウロスの牛乳だ。

パッと見普通の朝食だが、レタスのおかげでミノタウロスバターを使ったりとかなり豪華な内容になってきた。

乳製品のストックもかなり出来たので、次はパンをミノタウロスの牛乳で作ってみるのもいいかもしれない・・・ずっと目論んでいたのだが牛乳は他に優先するものが多すぎて後回しにしていたので、ディアナが来るまでの間パン作りをしてみよう。



「リーダー?あたし達の言葉は無視なの?」

「なんだ?そんなに一緒に寝たいのか?」

「そういう訳じゃないわ?ただリーダーが寂しいのに我慢してるんじゃないかと・・・」

「なら大丈夫だ。冷める前に朝食を食べろ。」

アンジーがもそもそと言って来るのでバッサリと切り捨てておく。

会話を聞いていたタルトは俺の言葉を聞いて絶望の表情を浮かべているが、ここで甘い対応をすると王都に帰っても一緒に寝なければいけなくなりそうだ。

そんな事になればそれを知ったアランがどんな行動を起こすか想像もつかないし、考えたくもない話である。

そのまま三人で朝食を食べてレタスが待つ牛舎へと赴く。



「レタスいつもすまんな?すこし牛乳を分けてもらうぞ?」

「ぶもっ!」

牛舎に行くとレタスが当たり前のように牛舎の前で焚き火をしてチーズ作りをしていた。

頭を撫でながら言うと満面の笑みでまだ加工前の牛乳を渡してくれるのでありがたく受け取って、レタスの隣でパンを作る。

驚いた事にタルトとアンジーはパンの作り方を知っていた。

俺が二人に指示を出そうとしたのだが、二人共俺が何かを言う前にてきぱきとパンを作るので、逆に俺の仕事がなくなってしまった。


「パンの作り方を知っているとは驚きだな?」

「タルトがね?師匠がパンの型を作ってるからレシピを覚えよう!って言ってきたのよ・・・」

「何も知らなければ師匠のお手伝いは出来ませんから!」

余りにも献身的なタルト達の様子に、今日からまた一緒に寝るか?っと思わず言ってしまいそうになるが我慢する。

ここで言ってしまったら色々と拙い事になるのは目に見えている。

その後もタルト達に手伝って貰いながらパンを作り続ける。







「にしても本当にそのマジックバッグって反則よね?」

「いつでも焼きたてほかほかのパンが食べられますもんね?」

「俺もそう思う。だから絶対に秘密だぞ?」

焼き終わったパンを時忘れのマジックバッグに入れていると二人の会話が聞こえるので念を押して言うと、二人共無言で頷く。

しっかりと二人共このマジックバッグの非常識さと事の重大さを理解しているようで一安心だ。

その後もせっせとパンを焼き続けるのだが、騎士団からの呼び出しはないのでそのまま昼食にして焼きたてのパンに舌鼓を打つ。



「こんな濃厚なパンは初めてです!」

「そうね・・・リーダーと出会ってから初めての体験ばかりだわ。」

「一つ言っておくぞ?俺もこんな美味いパンは初めてだ。」

ミノタウロスの牛乳で作ったパンはとてもふわふわで付け合せは何も必要無いくらいに濃厚だ。

三人で今日作った分を全部食べつくしてしまいそうな勢いでパンを食べ続ける。


「これは・・・これから是非とも作るべきだな?」

「はい!レタスが付いて来るので安定して作れますしね?」

「もしかしてあの子達にも出すつもり?」

二人共俺の提案に大賛成のようだ。

ただアンジーはこれからパンを作る事を考えたのか少し不安そうに尋ねて来る。

ちなみにアンジーが言うあの子の中にはフィルとアランも含まれている。


「そうだな。十人近くのパンを焼くのは大変だな・・・」

「我々の分だけでも結構な労力ですよ?」

「リーダーの分なら作ってあげるけど、友達の分は知らないわよ?」

フィルやサミュエル達には申し訳ないが、俺達の意見が一致した。

学校での食事はみんなには普通のパンを出して、ミノタウロスミルクパンは俺達だけの楽しみにしておこう。

三人でミノタウロス牛乳の入ったグラス片手にパンを食べまくっているとパンジーが駈け寄ってくる。


「来たか。レタスは牛舎に戻ってゆっくりしてな?」

「ぶもっ!」

「さて・・・聖女とやらのお手並み拝見ですね?」

「肉の串焼き二十万本の働き見せてもらわないとね?」

おそらくディアナが奴隷達を連れてやってきたのだろう。

タルトもアンジーもマジックバッグから武器を取り出して準備を進めながら、パンジーの到着を待つ。







「ルドルフ殿!「南門だな?」」

「その通りであります!」

食い気味に尋ねるとパンジーは俺の首に手を回して飛びつきながら答える。

いつも通りにエアーバッシュを発動して飛ぼうとするのだが、隣のタルトとアンジーからの殺気を感じて背筋が凍り、思わず体の動きを止める。


「パッパンジー?すまんが今回はタルトの背中に掴まれ。アンジー来い。」

「かしこまりました!」

「やった!タルト先輩南門でね?」

パンジーはタルトにおぶられ、アンジーが満面の笑みで首に手を回して頬をくっつけてくる。

「リーダー?変な所・・・触らないでね?」

「わかった。お前は走れ。」

アンジーは耳元で囁いてきてイラッとしたので支えていた手をどかすのだが、アンジーは腰に足を回して必死にしがみ付いてくる。

そのやりとりの全てを見ていたタルトがとても冷たい視線をアンジーに送りながら口を開く。


「馬鹿ですね・・・師匠行きますよ?」

「そうだな。」

二人で南門へと飛ぶ。

南門の内側には大勢の騎士や兵士達が控え、壁の上ではザッシャとバンクが立っているのがすぐに確認できた。

おそらく騎士と兵士達は無力化した奴隷を捕えるために控えているのだろう。



「状況を。そして聖女はどこだ?」

「お待ちしておりました!報告によりますとハイゼン軍は約千名で只今森を進軍中です!そして聖女様は真下でございます。」

この街に来てから何回目か忘れたが、いつも通りザッシャ達の隣へと降り立って声をかけるとザッシャは即座に報告してくれる。

報告を聞く限り、ルシアの言葉を信じるならば。っだがディアナは煉獄炎(ゲヘナムフレア)の魔法陣を刻まれた奴隷だけで攻めて来ているようだ。

そして壁の下を見ると門の前に聖女オフィーリアと白銀の鎧の男が立っている。


「さて。どんな魔法を使うのか刮目しましょう。」

「そうね?肉の串焼き二十万本の魔法とはどんなものかしらね?」

「お前はまだ食べ物で言うのか・・・来たな。」

アンジーは頑なに一億ゴールドと言わない事に呆れると同時にぶれないなと尊敬する。

そんなどうでもいい事を考えていると森から隷属の首輪をした人間達がこちらへと平原を全力疾走してくる、聖女の一挙手一投足を見逃すまいと三人で見守る。

聖女は手に持っていた杖を目の前の地面に突きたてて優雅に踊り始める。




「ん?聖女は何をしているの?」

「踊っていますね?」

「初めて見たが、あれは体の動きで魔法陣を描いているんだ。」

魔法陣を描く方法は色々あるが、おそらく聖女の踊りもその方法の一種だ。

ただ体の動きで魔法陣を描くので、かなり複雑な動きになる上、指先の動作を一つ間違えただけでも最初からやり直しという非常にシビアなものだったはずだ。


「へぇ?これならあたしでも色々な魔法が使えそうね?」

「だけど色んな書物を読んでるけど魔法陣を描く踊りなんて見た事ないですよ?」

「どの書物かは忘れたが一子相伝だったり、基本的に秘伝だと書いてあったと記憶している。」

アンジー達魔族は元々から魂にいくつかの魔法陣が刻まれている。

種族特性とでも言えばいいのだろうか?とにかく種族ごとに大体決まっているが魔族は魔法陣無しで特定の魔法を発動することが出来る。

例えばタルトの水竜の怒り(ドラゴンブレス)などだ。

だがアンジーは補助系の魔法しか使えないので、踊りで魔法陣を描けると知って目を輝かせているが、魔法陣を描く踊りは一朝一夕で作れるものでは無いと思うので、かなり険しい道のりだろう。

そんな事を考えていると森から奴隷神輿に乗ったディアナが出て来る。

ディアナは歪に口元を歪ませてながら右手に持った水晶玉のような物を手先で楽しそうに弄繰り回している。


「あの水晶玉で煉獄炎(ゲヘナムフレア)を強制発動するのかな?」

「おそらくそうでしょうね?禍々しい魔力が見えます。」

「それよりも聖女が佳境よ?」

「この星に住む同胞に平等の安らぎを!聖結界(ホーリーフィールド)!」

聖女が杖に向かって両手を突き出して呪文を唱える。

杖からとても優しい白い光が広がって行き壁へと向かって来る奴隷達を包み込んで行く。


「生きとし生けるもの全てに祝福を!聖なる祝福(ホーリーブレス)!」

全ての奴隷が白い光に包まれると、聖女は驚いた事に更に続けて呪文を唱える。

そして包み込んでいた光・・・いや空間が眩い閃光を放ち始める。


「まさか・・・さっきの踊りで二個も魔法陣を描いてたって事?」

「この状況を見る限りそうでしょうね?」

「そのようだ魔法陣は全て消えている。しかもおまけ付きだ。」

閃光が収まり、目に魔力を込めて奴隷達を確認するが腹に描かれていた煉獄炎(ゲヘナムフレア)の魔法陣の反応が消え、肩に刻まれていた生贄の魔法陣も消えている。

しかもそれだけではなく、全員の隷属の首輪が外れて地面に落ちるのが確認出来る。

聖女は百点満点、いや百二十点の仕事をしてくれた。


「聖女は一億の仕事をしてくれたみたいだな?」

「そうですね?では行きましょう!」

「あんた達?奴隷はリーダーの眷属よ?丁重に扱いなさい?」

「「「委細承知しております!」」」

壁から飛び降りているとアンジーが何やら不穏は指示を出しているのが聞こえた。

千人を越える奴隷を眷属に迎えるつもりなど一切なかったのだが、そう思っていたのは俺だけのようで一緒に飛び降りたタルトを見ると当然です!っと言わんばかりに頷いているし、壁の上で一緒に聖女を見ていたバンク達も即答で答えている。


「どうしてこうなった・・・」

「師匠?戦争は質ですが、数も必要ですもんね?」

「ふん!ニッグ達くらいになったら戦力に数えてあげるわ?」

「もういい!さっさと行くぞ。」

地面に着地して頭を抱えていると二人は見当違いな事を話している。

奴隷達の事は後で考える事にして、今はディアナに集中だ。

南門から出て来る騎士達を横目にディアナがいた場所へと向けて地を蹴る。

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