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第二百十九話 完全敗北。そして進化

「ンァァァァァ!いってぇっしょぉぉぉぉぉ!」

粉塵の中から幼女の怒声と共に凄まじい魔力波が空気を揺らしながら通り過ぎて行く。

「(この感覚は・・・魔力場か。)」

魔力波が通り過ぎると当たり一帯が可視出来たと、錯覚するほどの濃密な魔力に覆われる。

俺達と幼女が吹っ飛んだ位置までは十メートルは離れているはずなのだが、それだけの範囲を覆う魔力場を形成出来る事に驚く。

魔力場を形成すると言う事のその範囲に常に魔力を垂れ流しの如く注ぎ続けなければならない。

俺では魔力場を形成出来るのは、半径三メートルが限界でそれ以上の広さは魔素も魔力操作の力量も足りない。

そして魔力場内は俺達の動きだけでなく息遣いや体温などとにかく全ての情報を把握されていると思っていい。

何が言いたいかと言うと、先程の魔力波一発で最悪の状況に陥った上に、完全な力量の差を見せ付けられてしまった。






「アンジーッ!魅了はやめてこっちに参戦しなさいっ!」

俺が必死に状況を分析していると、後ろのタルトは滴るほどに汗をかきながらかなり焦った様子でアンジーを呼び寄せている。

こんなに焦ったタルトは見た事無い。そしてアンジーに魅了をやめさせてでも参加して貰わないと勝てないと分析したようだ。

つまりはタルトは周りにいる一万五千を越えるハイゼン軍よりも目の前に広がる粉塵の奥にいる化物一人の方が危険と判断したという事だ。

そして俺もその意見に大賛成である。

舞う粉塵が不自然に揺れるので本能的に刀で防御する。



「さすがっしょ!だけど狙いはお前じゃないっしょ!」

ラッキーな事に幼女の剣を受け止める事に成功した。

服がボロボロに破れた幼女は俺が防いで当たり前と言った様子で言って来るが今剣を交えられているのは運が良かったとしか言いようが無い。

「なぜ突然魔力が増えた?」

「本気出しただけっしょ!」

鍔迫り合いをしながら問うが、時間稼ぎにもならなかった。

幼女が軽く剣を振るうので俺はエアバッシュを発動して踏ん張る。

刀を立てて剣を受けるのだが踏ん張った甲斐も無くそのまま力任せに地面へと叩きつけられる。



「がはっ!」

地面に衝突した衝撃で肺の中にあった空気が全て外に出て行き全身からボキボキと骨が折れる鈍い音が聞こえる。

直後全身に激痛が走り口から漏れていた空気が血に変わる。

出来る限り冷静に自分の状態を確認するが、わかるのは被害が甚大すぎてまともに動ける状態ではないという事だけだ。

このまま治癒してもまともに戦闘を出来る様には骨はくっ付かないだろう。

折れてあらぬ方向に曲がる腕を必死に振り回してマジックバッグから完全回復薬(フルポーション)を取り出すのだが、指に力が入らず地面に落としてしまう。

今はこの一秒でさえも勿体無い。

粉塵で視界はゼロに近いなか地面を這って落としてしまった完全回復薬(フルポーション)を必死に探す。

何秒かかったのかはわからないが完全回復薬(フルポーション)の瓶を見つけたので瓶の口を咥えてふたのコルクごと無理矢理飲み込む。



「二人共死んでないだろうな・・・」

完全回復薬(フルポーション)を飲んでから体が回復するまで十秒にも満たない時間なのだが、今はその十秒にも満たない時間が恐ろしく長く感じる。

今は幼女の魔力場の中なので捜索魔法(サーチ)を発動しても、俺の魔力波は一瞬でかき消されてしまって周囲の様子は一切わからない。

アンジーが加わって優位になっていればいいが、そうでなければ絶望的である。




「(やっと終わった!)」

全身の痛みが無くなったので、腕を動かして普段通りに動くか確認をするが問題無さそうだ。

他の傷も治ったと信じて俺が先程までいた方向へと向かって地面を蹴り出し粉塵を抜ける。

すぐに目の前に幼女の背中が現れるので切りかかる。

幼女の向こう側に血だらけで空中に磔にされるタルトとパンジーが俺の顔を見て嬉しそうに微笑んでいるので、二人共まだ生きているようだ。


「今更出て来ても遅いっしょ?」

幼女は俺を一瞥もする事無く背面に剣を置いて刀を受け止める。

「遅いなんて事は無い!」

「いんや?遅いっしょ?お前が動き出すのも・・・てか動きも遅すぎっしょぉ!」

生きていればどうとでもなる。この一撃で目の前の化物を殺せば問題無い。

それ以外は何も考えず再度全力で剣を振るう。




踏み込んだ右足は地面にめり込み衝撃で骨が折れる音が聞こえるが、魔法によって強化された筋肉のおかげで剣を振りぬくまでは問題なさそうだ。

刀を振り下ろす腕は関節が外れ皮膚だけで支えらている。

普段と間合いが変わってしまうが、今は幼女に向かって一度振り抜ければそれでいいので、むしろ遠心力が働いて威力が上がるので好都合だ。

皮膚が千切れる音を立てているが振りぬくまでくっついていればいい、気にせず幼女に向かって剣を振りぬく。

今の俺が放てる最高の一撃・・・のはずだったのだが、邪悪な笑みを浮かべた幼女が張った魔法障壁によって防がれ刀が折れる。

そして同時に俺の魔素が切れ、身体強化魔法と魔力特性で無理矢理強化していた体が一瞬で限界を迎えてその場に倒れ込む。


「ふん!まぁただの人間にしてはよくやったほうっしょ!だけど進化してるうちの敵じゃないっしょ!」

「最後に・・・最後に俺を殺す者の名前を教えてくれるか?」

「うちはディアナ。ぶっちゃけ御使いっしょ?」

「ディアナか。来世では勝てるようにしておこう。」

俺はこんなに短いスパンで死を覚悟するとは思ってもいなかった。

人間は魔の森は死の森と言うが、俺からすれば人間社会の方が余程危険な魔が潜む密林だ。

とは言え短い人生だったが俺は大切なものを知ることが出来たし、タルトやアンジーそしてニッグ達にレタスといった俺には勿体無い眷属を得る事も出来て、少々短いとは思うが俺には出来すぎな人生だった。

・・・ゴブチョウ達とコボチョウ達も大事な眷属だ。忘れてはいない。

「何死のうとしてるっしょ?そんな楽に殺すわけないっしょ!」

俺が薄れ行く意識の中眷属達に感謝をしていると突然意識がはっきりして現実へと引き戻される。

幼女改めディアナとか言う御使いの右手が俺に触れているので俺に何かをしたようだ。



「何の・・・つもりだ?」

「お前が勇者の可能性があるから心を折ってから殺すっしょ?自分の無力さを思い知るっしょ!」

俺は息も絶え絶えにディアナに問うが、当の本人は心底楽しそうにタルトの爪をはぎ始める。

タルトは声には出さないが苦悶の表情でとても見ていられない。


「やめろ・・・」

「こんなに面白いのに止めないっしょ!次の女もお前のために我慢するっしょ?」

「リーダー以外に痛めつけられても気持ちよくなっっァァァァッァァッ!」

ディアナは続けてアンジーの爪を剥ぎ始め、アンジーの悲鳴が俺の頭の中でこだまする。


「俺は勇者じゃない!殺せっ!」

「嫌っしょ!お前には絶望を与えて殺さないと生き返ってまた現れるっしょ!?口車にはのらないっしょ!」

ディアナは二人の両手両足の爪をはぎ終わり、近くにいた兵士を呼び寄せて襲わせる。


「嫌です!私の全ては師匠のものです!」

「汚らわしい手で触れるな!お前らに汚されるくらいなら殺しなさい!」

「おぉっとぉ?君達邪魔な腕っしょ?」

「くぅっっっ!!!」

「あぁぁぁぁぁぁぁぁっ!」

アンジーとタルトは必死に抵抗するがディアナは楽しそうに笑いながら二人の腕を切り落とし傷を焼いて止血をして、再度兵士達に指示を出す。

兵士達は下卑た笑みを浮かべながらタルトとアンジーへと一斉に群がる。

服を破られ陵辱されていくタルトとアンジーを見て俺は怒りで狂いそうになる。

俺は動かない身体に対して必死に動けと命令するのだが一切言う事を聞いてくれない。

「(もう狂いたい!殺してくれ!)」

そうなれば二人は俺に見切りを付けて逃げるという選択肢を選べるようになるのに・・・ディアナに対して、二人に群がる兵士達に対して、そして弱い自分自身に対しての怒りで頭が真っ白になり、そのまま周りの景色も白に染まって行く。








「タルトは!?アンジーはどうなった!?答えろディアナ!」

世界が全て白に染まるので声を張るが答えは返ってこない。

俺は意味も分からずに体が動かないままただ真っ白な世界で何かしらの変化を待つ。

どれだけ待ったのかわからないが待ち続けてやっと変化があった。

その変化はとても懐かしくそして心地よい変化だった。


「ヌァッハッハッハッ!やっと話せたな?」

「なんだ?死ぬ前の走馬灯というやつか?だがそれならルルだけじゃなく最低でもクネとエドとハッピーは出てくれないと不満だな。」

「ニコよ!将棋を指そう。」

「いいが・・・俺は今骨が折れていて体が動かない。」

「ぬ?どこが折れているのだ?さっ将棋を指すぞ?」

ルルの言葉に全身の痛みが消えている事に気付く。

試しに指を動かすとさっきまで無かった感覚が戻っている事に気付く。

続いて関節は外れ皮膚だけでかろうじて繋がっていた腕は何事も無かったように普通に動かせるようになっている。


「さすがは走馬灯だ。だが走馬灯とは今までの記憶だろ?ルルと将棋を指した記憶はないと思うぞ?」

「ヌァハッハッハッ!これから増やしていけばいいではないか!」

「これから?今死んでいるのに?」

「お前は死んではいない。死に限りなく近いがな?」

「意味がわからん。」

「将棋で俺に勝てれば教えてやろう!」

「ならば遠慮はせんぞ?」

ルルと将棋を打つのだがやはり今俺は走馬灯の中にいるようだ。

聞いていた走馬灯は一瞬の間に今まで経験した事が頭の中を巡るはずだが、俺はルルと将棋をしたことは無い。

「それに頭のいいルルがこんなに将棋が弱い訳がない。」

「ぬぁっ!?ニコよ・・・その言葉は俺の心に中々のダメージを与えたぞ?」

「さすがは俺の記憶だ。ルルが言いそうな言葉だな。」

「ヌァッハッハッハッ!確かに俺はルルではない!お前の魂だ。」

「意味が分からん・・・だがやはりルルが言いそうな言葉だな。」

「お前はこれから進化する・・・正確には俺と言う魂を持ったお前がな?」

相変わらずルルの言っている事は意味不明だが一つだけわかった言葉がある。

どうやら俺は進化するらしい。

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