第二百十七話 敗戦兵の扱い
街の外周を壁沿いにぐるりと進んで牧草地に辿り着く。
牧草地への入口でアンジーを見送って、魅了された反乱軍を眺める。
「お待ちしておりました!こちらにお願いします!」
「アンジーさん貴族の方々はこちらにお願い出来ますかぁ?」
パンジーとアイリーンは騎士達に指示を出してアンジーが連れてきた反乱軍達を捌いて隊ごとに並ばせているのでとても忙しそうだが、俺は相変わらず何もする事は無さそうだ。
暇なのでボーっと前を通って行く反乱軍を眺める。
まず御付の人間に馬を引かせて豪華な鎧を着た貴族達が通り、次に見慣れた銀色に光り輝く鎧に身を纏った騎士達が馬を引いて通っていく。
そして次も見慣れたくすんだ銀色の鎧を着た兵士達が徒歩で通って行く。
「ここまでが貴族と職業軍人ですね。」
「次は冒険者だな?」
兵士の次は鉄製ではなく、皮製の鎧や胸当てなどの実用的な装備の集団が通って行く。
次にとても貧相な装備の兵士達が通って行く。
「ここまでの冒険者で約一万。残りの人間は恐らくですがほとんど領民でしょう。おそらくライネンを落としたらこの街の財を持って帰るつもりだったのでしょう。」
「成程。やはり落とされていたら略奪が始まっていたのか?」
「おそらく我が街は略奪の限りを尽くされてボロボロになっていたでしょう。」
「本当に戦争とは度し難いものだ・・・」
ザッシャは当たり前のように答えるので俺は呆れてしまう。
そして領民達は兜のつもりなのかバケツを被っている者もいるし、武器も鎌やくわといった農具を腰に差している者までいる。
貧相な装備しかしていない、領民達を見送くると次に通ったのは荷馬車一杯に食料を積んだ兵站部隊と非武装と言っても過言では無い女子供と老人達だった。
「女子供まで戦争に参加しているのか・・・」
「彼女達は貴族の家族でしょう。おそらく人質にされないために連れて来て、この街を落としたらハイゼン王国へと亡命させる予定だったのでしょう。」
「成程。道理で全員非武装な訳だ。」
俺の呟きにザッシャが答えてくれる。
とても納得の行く答えを得られて大満足だがこんな人間まで行軍に参加させるとは重ね重ね驚きである。
そして反乱軍が全員牧草地へと入ったので騎士達に先導される女子供の集団と一緒に最前列に進む。
到着すると最前列では司令官である貴族達に隷属の首輪を付けているところだった。
騎士達は俺と一緒に到着した女子供にも隷属の首輪を着け始る。
「反乱罪は歳も性別も関係ありません。一族郎党全員です。」
「そうか・・・なんとも心が痛いな・・・」
余程俺が分かりやすく驚いていたのだろう。
何も言ってないのにザッシャが説明してくれる。
確かに親を処刑されれ子供は国への反抗心を持つのは少し考えればわかる事だ。
頭ではわかっているのだが、見ていてとても痛ましい気持ちになってしまう。
そんな事を考えていると女子供の中に見覚えのある初老の男性を発見する。
「クラウスさん・・・」
「これはこれは・・・ルドルフ殿・・・それともニコ君ですかな?」
一年生の時にいつも隣の調理場で料理を作っていたクラウスだった。
いつも通りの執事服だが腰には剣を携えている。
俺の呟きに気付いてクラウスが足を止めて俺に話しかけてくる。
「なぜあなたが反乱を・・・その剣は・・・戦うつもりだったのですか?」
「主がそう決めたのであれば、付いて行くのが我ら臣下の定めでございますれば。この剣はいざという時に家族の皆様を殺してから自害するための物でございます。尤も自害すらも許されない大敗を喫するとは思っていませんでしたがね?ホッホッホッ。」
クラウスはとても落ち着いた様子で話しながら近くの騎士に腰に携えていた剣を渡している。
分かっていた事だが、反乱軍は戦闘に参加しない女子供であっても相応の覚悟で戦争に挑んでいる。
だがクラウスの言葉を聞く限り、主である反乱軍の中にはジャフル家の当主がいるはずだ。
つまりは王都で騎士として戦っているクリスティアナの親が反乱したと言う事はクリスティアナはどうなるのかと疑問に思ってクラウスに問いかける。
「クリスティアナは王都でエスガルドのために戦っていますよ?」
「お嬢様達はすでにジャフル家の人間では御座いませんので、無関係で御座います。」
アンジーの演奏によって魅了されているせいか、クラウスはとても穏やかな表情で答え、パンジーがやって来て隷属の首輪を付け始める。
俺が知っている人間に隷属の首輪を付けられているのはとても見ていられない。
「クラウス・・・ごめんなさいごめんなさい・・・」
「パンジー様?敗軍の人間に情けをかけられますな。」
パンジーもクラウスの事を知っているようで隷属の首輪を着けたクラウスに号泣しながら謝っている。
「(戦争は勝っても負けても心に傷を負うものなのになぜ人間は起こすのだろうか?)」
答えは出ているが思わず心の中で自分に問うてしまう。
今回の戦争は精霊教会がハイゼン王国を使って起こした戦争だ。
ふつふつと精霊教会への殺意が湧いて来る。
「アンジー!全員に武装を解除させろ。」
アンジーがフルートを吹きながら頷くと演奏の音色が少し変わり、反乱軍は一斉に鎧などの武装を解除し始め、バケツリレーをして先頭に積み重ねて行く。
「おいザッシャ。他に何をさせればいいんだ?さっさと指示をくれ。」
この場所にいても心が荒む一方だ。
一秒でも早くこの場所から離れたくなって少々荒い口調でザッシャに指示を促す。
少し離れた所で騎士達に指示を出していたザッシャが駈け寄ってくる。
「遅くなって申し訳ありません!武装解除も包囲も完了したのでもう魅了を解いて頂いて結構です!」
「わかった。では俺達は昼食を作るとしよう。」
「早く行きましょう!こんなの見たくないです!」
「そうね?あたしが魅了したからとはいえ、見ていて気持ち良くないわね?」
もう俺達の出番は終わったようだ。
アンジーが演奏を終わらせると、先程まで静かに待機していた反乱軍にどよめきが走りざわつき始める。
突然魅了が切れて今の状況を理解しきれずに騒ぎ始めたようだ。
「静まれ!諸君達は負けた!だが今も皆同じエスガルドの民だと思っている!
なので出来れば拘束などはしたくない!
諸君らが大人しくすると約束してくれるのならこの牧草地内での自由と生活は保障しよう!
だが申し訳ないが反乱を主導した領主と騎士達は捕縛し、然るべき場所で断罪させて頂く事は理解してくれ!」
牧草地内に作った急ごしらえのお立ち台にザッシャが立ち反乱軍に向かって大声で叫ぶ。
かなりの効果があったようで、ざわついていた反乱軍は大人しくなり、お立ち台の隣に立っていたバンク隊長が隷属の首輪を着け終わった貴族達を連れて町へと戻って行く。
反乱軍も落ち着いたようだし、この牧草地には見ていて気持ちいいものは一切無い。
タルトとアンジーを連れて牛舎へと歩いて行く。
「なぁ?反乱軍を燻りだしたのは間違っていたのだろうか?」
「何を言っているんです?」
「そうよ?逆にこれだけの敵を自分の陣地に抱えて戦える訳無いじゃない。」
俺は何が正解だったのかよくわからなくなってタルトとアンジーに尋ねるのだが即答だ。
「二人の言う通りだが・・・隷属の首輪を着けられたクラウスを見たらな・・・」
「師匠が動かなければ、最初の聖騎士勇者の襲撃でライネンは落とされ、下手をすれば今頃ハイゼン軍と反乱軍は合流して王都に向かっている頃ですよ?」
「そうよ?こんな戦争を起こした人間に同情するなんて時間の無駄よ。」
二人の言う事はもっともだ。
だが折角仲良くなれたクラウスを失うのはとても辛い。
クラウスとの思い出が頭の中を駆け巡る。
「師匠にとってクラウスさんは大切な人だったんですね?」
「あぁ・・・俺が人付き合いで悩んでる時とか、いつも的確なアドバイスをくれた。」
俺がターニャ達と東の森に狩りに行った時にソフィアと険悪になった時も、クラウスは的確なアドバイスをしてくれたのを思い出す。
そしてクラウスの言う通りソフィアと話したら、今までの険悪なムードが嘘のように仲良く話すことが出来た。
あの時はソフィアの執事だという事を知らなかったので、上手くいったので驚いたが今思えばクラウスはおそらく俺が悩んでいる事をソフィアに教えてくれていたのだろう。
「師匠の力ならクラウスさんを助けられると愚考しますが?」
「そうね?英雄ルドルフが白と言えばカラスも白くなるわよ?」
「いや・・・それをしたら後戻り出来ない気がする。」
二人の言う通り俺が言えば、クラウスは無罪とまでは行かなくても、解放はされると思う。
だが今の時点でも九歳の子供が大人の世界に関わりすぎだと思っているのに、これ以上深入りしてしまってはいざという時に魔の森に戻れなくなってしまう。
「難しいですね・・・」
「まっ!あたしはリーダーがいれば後はなんでもいいけど?」
「そうだな!俺如きがあれもこれもと贅沢を言いすぎだな?」
これ以上考えても気持ちが沈むだけだ。
昼からはハイゼン軍との戦いを控えているので、そのためにも気持ちを上げておかなければならない。
さっさと牛舎に行って三人で昼食を食べる事にしよう。




