第二百六話 反乱軍の鎮圧
翌朝レタスを交えて牛舎の前で朝食を食べているとアイリーンとパンジーが歩いて来る。
「「お食事中に失礼致します!」」
アイリーンとパンジーは敬礼をしながら言ってくる。
普段二人は俺達に対して大分砕けた接し方をしてくれるので、こんなにばっちりと敬礼をされると違和感しかない。
昨夜の報告が来たのだろうと思ったがどうやら様子が違う。
「どうした?昨夜の報告じゃないのか?」
「はい!昨夜の戦いは我々の被害も無く完璧に対処出来ました!」
「そしてこの伝説級のマジックウェポンを返却するために伺いました!」
二人は近寄ってきて跪いて恭しく昨夜渡したマジックウェポンを掲げる。
アンジーの武器を作るために王都で売っていた剣の柄にサーペントの魔石を使ってタルトが魔力付与をした試作品なのだが、二人からすれば伝説級のマジックウェポンとなってしまうようだ。
自分が作った武器を褒められてタルトも悪い気はしてないようで、満面の笑みで口を開く。
「そのマジックウェポンは差し上げます。ですからこれからも師匠の味方でいてくださいね?」
「だそうだ。そのマジックウェポンはお前らの物だ。」
「ありがとうございます!家宝にします!」
「わーい!もう騎士やめて冒険者で上を目指してみましょうかねぇ?ヌフフ!」
二人は満面の笑みで柄を抱き締めて感無量と言った様子だ。
少々アイリーンが不穏な事を言っているが、この戦争が終わるまではしっかりと国のために働いて欲しいものだ。
「これからどう動かれますか?」
「ちなみにぃ南門のハイゼン軍は変わらず動きは無く、北門の反乱軍は今野営地を建設している様子ですよぅ?」
「もう寝返りそうな貴族は粗方反乱軍に参加しているのか?」
「はい!むしろ明るくなって反乱軍を確認しましたが、予想外の方もたくさんいて驚いてます!」
「私やフォルナの家は参加してないようで本当に何よりですよぅ!」
「わかったならば北門の兵士を全て捕虜にする。騎士団は捕虜を受け入れる準備だ。」
「「かしこまりました!」」
少し指示が適当すぎたかと思ったが、二人は二つ返事で答えて、街へと戻って行く。
さっさと朝食を終えて昼食までに反乱軍の鎮圧する事にしよう。
それにしてもパンジーとアイリーンの言い方からすると知合いが反乱軍に参加しているようだ。
俺はどう処罰が下るのかは全くわからないので、出来る限り無傷で捕えてその後の対応は騎士団に任せることにしよう。
「師匠いいのですか?北はアンジーに任せて私と師匠が南に行けば一気に片を付けられますよ?」
「そんなに急いでどうする?アンジーの活躍を見てからでも遅くはないだろう?」
「そうよ!タルトはあたしの事を舐めてるようだからしっかりとあたしの実力を目に焼き付けなさい!」
タルトの言う通り、二手に別れて暴れたら昼飯前に北も南も片が付くだろう。
だがそれでは一人のアンジーが拗ねてしまう。
それにもし反乱軍の様子がハイゼン軍に伝わって撤退してくれれば、この作戦の目的はエスガルド王国内に潜む不穏分子の排除が目的なので手間が省けるというものだ。
タルトは少し不満そうだが、それはアンジーの能力を信じているからこそ三人で行く事に納得出来ていないだけなので問題無い。
そして何よりも俺の考えすぎならばいいのだが、一つだけ不安要素を取り除けていないのでタルトの竜の目を信じていない訳では無いのだが、出来れば昼からのハイゼン軍との戦闘にはアンジーも参加してもらわないと駄目だ。
「タルト?俺達は食べないものは殺さない。」
「わかってます!」
「分かってるなら黙ってあたしの戦いを見てればいいのよ!」
戦争だから人が死なない訳が無い。
だが人同士の殺し合いは人間に任せて俺達はエスガルドが勝利するようにサポートするだけだ。
ライネンの防衛戦が終わり、エスガルド王国内が平定されれば本格的にハイゼン王国への侵攻が始まるだろうが、そこから俺は手を出すつもりは一切無い。
朝食を食べ終わり、三人で北門へと向かう。
「んーっ!牛舎に行く時も思ったけど、隠れなくていいって楽でいいわね?」
「師匠を殺そうとしたあの女共はいませんかね・・・」
「無駄だ。もうあの日の内に俺が死んだと報告しに街を出ているさ。」
伸びをして全身で日光を浴びてとても気持ち良さそうなアンジーとは対照的にタルトは殺気のこもった目で街人達を一人一人見て俺を殺そうとした母子に扮した聖騎士勇者を探している。
タルトももうこの街にいないのは分かっているのだが、余程俺が殺されかけた事に怒っているようだ。
「ルドルフ殿!ルドルフ殿ぉっ!」
三人でまったりと北門を目指しているとガチャガチャと鎧の音を立てながらザッシャが駈け寄ってくる。
後ろには御付のマイクがザッシャの兜と盾を持って走っているので合わせて本当にガチャガチャと騒々しい。
「どうした?何か問題か?」
「いえ!全員を捕虜にするという作戦以外は全く問題ありません。」
ザッシャ副隊長は中々の剣幕で言って来る。
俺達の作戦は問題無い、という事は結果として全て問題は無いという事になるのだがザッシャの言っている意味がよく理解出来ない。
「それはよかった。ではさっさと三万人だったか?捕虜にしてしまおう。」
「ですから!それが問題なのです!どうやって三万人を捕虜にするのですか?」
どうやらザッシャはどうやるのかが気になっていたようだ。
そんな事出来るのか?出来なかったら?などとあれこれと聞かれるのが面倒臭かったので端折っていたのだが、これは説明をしないと駄目そうだ。
正直心の底から面倒臭い。
「あぁ・・・混乱しては駄目だと思って結果だけを知らせたが、過程を知りたかったのか。アンジーが反乱軍をまとめて魅了する。以上だ。」
「三万人を?同時に?無茶です・・・聞いた事ありません・・・」
「ならば聞く必要はない。目の前で行うんだから見ればいい。」
「何も疑問に思わずにただ従おうと思っていましたが・・・無理ですよ・・・」
面倒臭すぎてかなり割愛て説明すると、ザッシャは何やら呟きながら頭を抱え始める。
なぜかザッシャは数秒前に駆け寄ってきた時に比べて一気に老けた気がする。
とりあえず二人を引き連れて北門の壁を上がって遥か遠くで陣地を作っている反乱軍を見渡す。
「ほう?色とりどりな旗がいっぱいだな?」
遠くの平原に何百というテントが並んでいる。
そのテント全てにぎゅうぎゅうに兵士が詰まっていると思うと中々すごい眺めだ。
そして各々のテントには違う絵柄が入った旗が付いていて風になびいている。
「師匠?人間の戦争はああやって司令官のシンボルマークが描かれた旗を掲げて戦うようですよ?」
「ほう?ならザッシャ副隊長はどの旗が誰のものかわかるのか?」
「ほとんどわかりませんが・・・とりあえず真ん中のテントでたなびいているのはムイワール家のシンボルですね。」
タルトは本当に勉強熱心だ。
それならばどの貴族が参加しているのかと思って聞いてみるのだが、ザッシャも把握できていないようだ。
とりあえず今回の反乱を画策したムイワール家のシンボルは覚えた。
「ねぇ?もう行っていいの?」
「あぁ。昼食は豪華にしたいからな。パッと行ってパッと帰って来い。」
静かに集中していたアンジーが聞いて来る。
やっと自分の死を偽装しなくてもよくなり街を歩けるようになったので、パパッと反乱軍の鎮圧を終わらせ、今日は作り置きの料理ではなく三人で料理をしたい。
「楽しみにしておくわ?」
「師匠!私魚の煮付けとお米が食べたいです!」
「最近チーズを使った料理ばかりだったからあっさりしていいな。」
「あなた達・・・もう少し緊張感を・・・」
アンジーが壁から飛び降りて反乱軍へと歩いて行くので、タルトと一緒に昼食の献立を考える。
そしてザッシャはまた頭を抱えている。
もし魅了に失敗しても、俺達の自慢の結界が張られている街へと逃げ込んで、次の一手を考えればいいだけの話なのに、俺とタルトはなぜそんなに緊張するのかと不思議で仕方が無い。
「ザッシャさん始まりましたよ?」
「あいつは歌だけじゃなくて楽器も上手だな。」
アンジーがフルートを演奏し始めてとても綺麗な音色が聞こえてくる。
人魚は歌が有名だが、音楽全般が得意なようだ。
「あんな演奏で魅了をするのですか?ハハハありえません。」
「ありえるかどうかは見ていれば分かる。」
ザッシャはとても疲れた表情で俺達に言って来る。
前にこの街に来た時も思っていたが彼女は全てに一生懸命だ。
常にそんなに全力で人生疲れないのだろうか?っと心配になってくる。
「兵士達がテントを畳んで出立の準備を始めましたね?」
そんな事をザッシャを見つめながら考えていると、タルトの声が聞こえるので視線を反乱軍に戻す。
「嘘ぉ・・・」
反乱軍はテキパキとテントを畳み片付けを始める。
さすがはアンジーだ。
魔力特性の魅了をただフルートの音に乗せるのでは無くしっかりと指向性を持たせているので、音が聞こえている俺達はなんとも無いのに反乱軍だけが魅了にかかっている。
アンジー曰く歌だと音程とか息継ぎとか色々と考る事が多いけど、楽器なら演奏するだけだから楽なのよ?・・・だそうだ。
俺からすれば楽器の使い方がわからないので歌う方が簡単そうだが違うらしい。
「師匠?少し様子がおかしいですね?」
「ほう?アンジーの魅了にレジストするとはマジックアイテムかな?」
「私はそう考えます。師匠以外の人間が自力でアンジーの魅了にレジストするのはまずないかと。」
「そうなると戦闘能力も・・・大した事なかったな。」
突然指示していない動きをし始めた兵士達に気付いた豪華な鎧を着た貴族っぽい人間がアンジーに斬りかかっている。
アンジーの魅了に対抗できるマジックアイテムを装備した貴族達なので、その他にも強力なマジックアイテムを装備しているのかと心配したのだが、アンジーは事も無げに貴族達を魔法で拘束する。
俺の心配は完全に杞憂だった。
「整列し始めましたね。」
「指揮官らしき人間は拘束したし問題なしだな。」
「反乱を鎮圧出来たのよ・・・良い事じゃない?ねぇ?そうでしょマイク?」
「はっ!仰る通りだと思います!」
反乱軍はテントなどを片付け、しっかりと火の処理までしてから整列し始め、拘束した貴族を連れるアンジーを先頭に街へと向かって歩いて来る。
ザッシャは満面の笑みで隣のマイクの背中を叩きながら喜んでいる。
喜ぶのはいいのだが反乱軍を受け入れる準備は出来ているのだろうか?
振り返って街を見てもその様子は見受けられないのでとても不安になる。
「ザッシャ副隊長?あの反乱軍はどこに受け入れるんだ?」
「反乱軍がいなくなった♪反乱軍がいなくなった♪」
ザッシャは満面の笑みで聞いた事もない歌を歌いながら踊り始める。
どうでもいい話だがザッシャはとても音痴だった。
とはいえこのままではアンジーはずっとフルートを吹き続ける事になってしまうのでマイクに声をかけて正気を取り戻してもらうべく声をかける。
「マイク?すまんがザッシャ副隊長を元に戻して貰えるか?」
「あの・・・私もこのような副隊長は始めてなのでどうすればよいか・・・」
「こういう時はこうです!」
マイクもどう対応すればいいかわからないようでザッシャの兜と盾を持ったままおろおろとしている。
俺はどうすべきかと困っているとタルトがザッシャの頭にチョップをする。
結構鈍い音が聞こえたのでかなり痛そうだ。
ザッシャはその場に倒れこんで十秒近く頭を押さえてジタバタともがいて、いつも通りの真顔で立ち上がる。
「見苦しい所を見せました。」
「問題無い。受け入れはどこでするんだ?」
「はっ!牛舎の隣の牧草地にお願い致します!」
「タルト?」
「かしこまりました。」
正気を取り戻したザッシャが受け入れ先を指示してくれる。
タルトに一声かけると壁から飛び降りてアンジーへと伝言に走ってくれるので、俺はザッシャと一緒に壁から下りて牧草地へと向かう。
「それにしても・・・三万人を一瞬で魅了するとは恐るべき技ですね・・・」
「まぁあいつの専売特許みたいなものだからな。」
「アイリーンとパンジーが問題無いと言い切っていましたが知っていたのですね?」
「多分知らないだろうな。」
「ではなぜっ!?なぜ貴方の言葉を信じていたのでしょうか?」
「俺は知らん。あいつらの言葉を借りると、ルドルフ殿ですから!っだ。」
ザッシャは俺の言葉に何やら考え込み始める。
アイリーン達のように「ルドルフ殿ですから!」の一言で済まして、それ以上考えないほうが楽だろうに、ザッシャは真面目すぎてとても損をする性格のようだ。
尤も何でも流すよりもしっかりと考える方が絶対にいいのだが、アンジーを普通の人間と思っている限り答に辿り着くことのは無理なので、この場合はアイリーン達の方が賢い選択だと言えるだろう。
うんうんと悩むザッシャと共にタルトとアンジーを先導しながら牧草地へと向かう。




