第二百十五話 結界発動からの防衛戦
翌日パンジーとアイリーンにも協力して貰って外壁までの直線距離を正確に計測してもらい、その数値を元に算盤片手に三人で唸りながら高低差の計算をして魔法陣を構築する。
本当にあっという間に一週間が過ぎた。
街全体を覆う結界なので発動に使う魔法陣は中々巨大な物になり発動するための魔力も膨大なものになってしまった。
だが土中にも展開する球体結界なので、門以外からは空からも地面からも結界に阻まれて進入できないという俺達の自信作だ。
タルトの竜の目を駆使し、計算上では三人で目一杯に水属性の魔力を注げば発動するはずだが、おそらく発動したら今日一日は魔素枯渇によってまともに動けなくなるはずだ。
隣で見学しているパンジーとアイリーンに何度目かわからない確認をする。
「本当に反乱軍が攻めてくるのは明日なんだな?」
「はい!今日の夜に北門付近に到着するのは確実です!」
「南のハイゼン軍と連絡を取ったりぃ、野営地を建てる時間がいるはずなので、攻めて来るのは明日以降だと思いますよぅ?」
今日一日動けなくなっても問題無さそうだ。
最悪魔力が不足して結界が不発動だったとしても、アイリーンとパンジーがなんとかしてくれるだろう。
「二人共明日から忙しくなるぞ?」
「ふん!やっと暴れられるのね?」
「我々気力は十分です。」
二人共ヤル気満々の様子なので一斉に魔法陣に魔力を注ぐ。
魔法陣は容赦無く俺の魔力を全て吸い取って行き、首にぶら下げていた魔力を貯めておける指輪が俺の魔素を回復してくれるのだがそれも水の魔力に練ったそばから容赦無く吸い取られる。
もう数秒吸い取られたら魔素枯渇で意識が飛ぶと言う所で魔法陣が発動して強烈な閃光と共に結界が広がり、俺は激しい倦怠感に襲われてその場に大の字で転がる。
「二人共意識はあるか?」
「結構ぎりぎりだったわね・・・」
「しっかりと結界が発動してます!」
二人の反応が帰ってくるので一安心だ。
だが二人共俺と一緒で限界まで魔素を吸い取られて動けないようだ。
三人で大の字で床に寝転んで静かに魔素の回復を待つ。
「壮観な眺めでしたね?」
「あんな大魔法の発動を見られるなんて一生に一度あるかないかですねぇ?」
パンジーとアイリーンは拍手をして感動しているが、俺達に反応するだけの元気は無い。
「では結界の発動を報告しておきます!」
「御三方はゆっくりと休んでくださいねぇ?」
二人先程の俺達の魔法の発動に余程感動したのか、キャピキャピとした様子で報告のために部屋から出て行く。
そして俺達は日が暮れてやっと体を動かせるまでに魔素が回復したので、三人で夕食を食べる。
「初めてあんなに魔素使ったわね。」
「俺もだ。だがタルトの竜の目はすごいな?本当に俺達の保有魔素でギリギリ足りたな。」
「いえ!師匠が私の拙い言葉を理解して下さって、魔素が足りるように結界を調整したおかげです!」
三人で話しながら夕食を食べる。
アンジーはテキーラを飲み、タルトはピザを頬張って大変満足気な様子だ。
俺もこの二人がいなければ絶対に発動出来なかったので、本当に頼れる眷族で誇らしくなる。
その後明日に備えて魔素を補充するためにも体が欲するだけの量を食べる。
三人で普段の倍以上の夕食が体の中に納まり、この生活のためにストックしていた料理を食べつくして、最終的には部屋の中で火球を使って料理をしてなんとか全員満腹になったので鍛錬を終え、川の字で三人仲良く眠る。
「ルドルフ殿!大変です!」
気持ちよく寝ているとパンジーが部屋に飛び込んできて揺さぶられる。
パンジーを確認しようと必死にまぶたを上げるが、真っ暗で何も見えない。
「なんだ?」
「反乱軍とハイゼン軍が闇に紛れて同時に夜襲してきました!」
「適当に迎撃してやれ。俺達の結界があるから大丈夫だろう。」
魔素は寝ている時が一番回復する。
なので俺達は明日に備えてしっかりと寝て魔素を回復させないと駄目なのだ。
そして昨日魔素を限界まで消費したせいで今人生で一番眠たい。
暗闇に目が慣れ、パンジーの顔が見えてくるが目元に目くそが付いている。
パンジーも気持ちよく寝ているところを叩き起こされて俺達を呼びに来たのだろうが、俺達は寝させてもらう事にしよう。
「我々では聖騎士勇者の対応が出来ません!」
「いいか?おそらくあいつらは門を破壊するために精霊魔法を放つ。そしてそれを防ぐだけの結界を張っている。だから馬鹿なあいつらが精霊魔法を使って空気中の魔素を使いきったらアイリーンと突っ込め。お前らなら対処できる。」
パンジーは驚いているが、あの馬鹿な聖騎士勇者達は自分の精霊魔法を過信している。
馬鹿の一つ覚えで門を破壊しようと初っ端に精霊魔法を発動して周囲の魔素を使いきるだろう。
周囲の魔素が無ければ精霊魔法は使えないただ生き返るだけの馬鹿で無鉄砲な兵士達だ。
「そんな!我々の力を過大評価しすぎです!」
「違うぞ?お前達の力はわかっているつもりだ。あの聖騎士勇者達は精霊魔法が無ければお前達の敵では無い。」
俺は死にかけた事で仲間を頼る事の重要さを痛感した。
今はパンジーとアイリーンを信じて俺達は魔素の回復に専念するべきだと判断したのだ。
とは言え少し心配なのでパンジーとアイリーン用に武器を渡しておく事にする。
マジックバッグから二本の剣の柄を取り出してパンジーに渡す。
「柄?何ですかこれ?」
「マジックウェポンだ。しっかりと武器の形をイメージして発動しろ?」
タルトの魔力付与を施した武器だ。
俺の強化と違って、タルトの水操作の魔力特性は反則だと言いたいような効果だった。
水属性の魔力を流せば魔法の水がイメージをした形を作り、剣だろうが盾だろうが自分のイメージ次第で好きな形に姿を変える夢の武器になった。
短所と言えば、イメージをしっかりと込めないと強度が生まれないのと、水属性を持っていないと発動しない事だ。
幸いパンジーとアイリーンの魔力は水属性だったはずだし、想像力は豊富そうなので問題無いだろう。
「ではアイリーン先輩と頑張ってきます!」
「あぁ生きて帰って来るんだぞ?」
「もちろんです!」
パンジーは俺が渡したマジックウェポンを両手に持って部屋から出て行く。
布団に入って眠ろうとするのだが、任せたものの心配で全く寝付けない。
先程まで人生で一番眠たかったのに不思議なものである。
「師匠?睡眠霧は使われないのですか?」
「さっさと寝てくれない?気になって眠れないんだけど?」
「お前らも心配なんだな?」
俺がもぞもぞとしていると両脇から声が聞こえてくる。
どうやら二人もパンジーとアイリーンが心配で寝付けないようだ。
「師匠見に行きますか?」
「だが任せたのに俺が出張っては駄目だろう?それに俺達の存在をばらすのは明日の方がいいだろう?」
「煩いわね!タルト行くわよ?」
俺が決めかねているとアンジーがベッドから飛び出して服を着始め、タルトは背中から羽を出して飛ぶ準備を始める。
それを見て俺も覚悟を決めて認識疎外魔法をかけ、アンジーと一緒にタルトに抱き抱えられて窓から飛び立ち、上空から防衛戦の行方を眺める。
北門ではすでに戦いが始まっているようだが、反乱軍は俺達が張った結界に阻まれ街からの弓矢や投石によって一方的な戦局だ。
「北門は問題無さそうですね。」
「南門も始まったわよ?」
アンジーの言葉に南門に目を向けるとかなり遠いのだが、大爆発が起きるので、真っ暗闇なのだが一目で南門の場所が判明する。
おそらく俺の予想通りに門を破壊するために精霊魔法の一斉射撃をしたのだろう。
そして目に魔力を込めて遠視すると、爆発が納まって壁の上から飛び降りる影が二つ見える。
パンジーとアイリーンだろうが遠すぎてよく見えないなと思っていると、タルトが見える位置まで近づいてくれる。
パンジーは先程渡したマジックウェポンを大斧の形にして、普段背中に背負っている大斧と合わせてまさかの大斧二刀流という脳筋スタイルで聖騎士勇者達を蹂躙し、アイリーンは弓の形にして水の矢を放っている。
「成程。作り出した武器を切り離して使うとはいい発想だな。」
「弓にする発想は無かったですね?」
「ふん!あたしの方が使いこなしてるわ?」
一方的な戦場を見て安心する。
二人も俺の言葉にいつも通りの様子で答えるので同じようだ。
タルトが魔力付与したマジックウェポンを使っているアンジーは敵対心を燃やしているが、さっき手に入れたばかりのアイリーン達と張り合うのは少々大人気なさ過ぎると思う。
そんな事を考えていると離れた所にいた聖騎士勇者が暴れ回るパンジーに向かって特大の水球を発動するので魔法障壁を張って防いでやる。
パンジーは何が起こったのか瞬時に理解して笑顔で街に向かって頭を下げて、また暴れ始める。
俺達は街ではなく真上にいるのだが、中々の勘のよさである。
「師匠?おそらくパンジーは自力で対処出来ましたよ?」
「ふん!リーダーは過保護なのよ、あたし達が見てるのばれたじゃない!」
「すまん。咄嗟に体が動いてしまった。」
パンジーに渡しているブレスレット型の魔道具には魔法障壁の魔法陣も刻んでいたはずだ。
タルトの言った通りパンジーは自力で対処出来ていただろう。
アンジーは俺達が心配して見に来ているとばれたのが恥ずかしい様子だが身体が勝手に動いてしまったので仕方が無い。
「もう大丈夫そうですね?」
「あーあ無駄な時間を過ごしたわね。さっさと帰って寝ましょ?」
「そうだな?アンジーの言う通り安心して眠れるな?」
最近やっとアンジーのツンデレ語が理解出来るようになってきた。
アンジーは俺に向かって何やら反論しているがタルトが猛スピードで部屋へと戻るので風の音で何も聞こえない。
そのまま窓から部屋に戻り、三人で川の字になって就寝する。




