第二百十三話 英雄の凱旋
「ザッシャ副隊長状況の説明を。」
「お待ちしておりました!おそらく聖騎士勇者が復活して戻ってきたのでしょうが、前回の倍近い数です!」
ザッシャの隣に降り立ってパンジーを降ろしながら報告を聞く。
報告を受けながら街の外を眺めるが、聖騎士勇者と思われる人間がこの前と同じように隊列を崩さないように森を抜けてこちらに向かってゆっくりと歩を進めている。
普通の状況であれば聖騎士勇者達がじわじわと迫ってくるのは恐怖なのだろうが、前回の襲撃で生き返る兵士という評価を下したので、なにをとろとろしているのだろうか?っという感想しか出ず、とても滑稽だ。
「成程。魔素嵐は?通信は復活したのか?」
「はい!今朝試した所たまに音声が飛びますけど本部と連絡が取れました。しっかりと今回の作戦も伝えてあります!」
どうやらレタスには申し訳ないが攻めてくるタイミングはちょうどよかったようだ。
もしまだ魔素嵐が治まってなかったら、この聖騎士勇者達を撃退してまた次の襲撃まで待たなければならなかったところだった。
しかも魔素嵐が治まってすぐと言うのも最高の状況である。
可能性は低いがライネンを襲っていた聖騎士勇者が捕えられている事に気付かれていない可能性もある。
「ではこの後の行動を覚えてるな?」
「はい!隊長と共に何度も反復してますので完璧です!」
「なら作戦開始だ。」
ザッシャ副隊長は自信満々の様子で敬礼をして答えるので大丈夫そうだ。
今から行う作戦のために、この四日間まどろっこしい生活をしていたのだ。
聖騎士勇者達には申し訳ないが溜まっていた鬱憤のはけ口になってもらう事にしよう。
「来たぞ!精霊魔法を叩き込め!」
門から降りて聖騎士勇者へと走っていると声が聞こえてくる。
どうやら前回の大敗によって、しっかりと作戦を立てたようだ。
魔法が干渉しない位置取りをした聖騎士勇者達が俺に向かって特大の精霊魔法を次々と放ってくる。
御丁寧に全員火球で属性まで揃えているようだ。
「作戦を考えたようだが、精霊魔法で殺せると思われているのは心外だ。」
でかいだけの精霊魔法などものの数では無い。
火球を受け止めて分解する。
魂の精霊が協力しているらしいがサイズが違うだけで精霊魔法は精霊魔法だ、構築している魔力を握りつぶして、適当に分解すれば精霊魔法は形を維持出来ずに勝手に魔素になって空気中へと霧散する。
そして飛んで来る精霊魔法を順番に握りつぶして分解して行く。
「これで俺を殺せる予定だったのだろうな・・・杜撰すぎる計画だ。」
魔法を全て分解し終え、聖騎士勇者達を見るのだが全員その場に突っ立ったまま動きが無い。
どうやら先程の魔法で俺を仕留め、そのままライネンを落とす計画だったようだ。
あんな魔法で俺を倒せると思われているとは・・・人間社会に出てからは過大評価ばかりされて辟易としていたのだが、逆に過小評価をされるとなるとそれはそれで腹が立つものだ。
怒りのままに刀を抜いて風の刃を放つ。
風の刃は放射状に広がりながら飛んで行き、隊列を組んでいた聖騎士勇者の半数以上が上下に分かれて消える。
「・・・嘘だろ?」
前回の聖騎士勇者達は生き返る兵士だったが今度はもっと強い聖騎士勇者が来ているだろうと気合を入れてたので、信じられない場景に驚き刀を振りぬいた体勢のまま固まってしまう。
突然の状況に聖騎士勇者達は驚いて声も出ない様子だが、俺もまさかの事態に我が目を疑いつつ固まる。
「いっ!今の極大魔法であいつはもう魔法を放てないぞ!全員で一斉にやるぞ!」
「「「「「おぉっ!」」」」」
「(さっきのが極大魔法だと?それは極大魔法に失礼すぎるだろう・・・)」
リーダーっぽい人間の指示に生き残った聖騎士勇者達が一斉に俺に向かって来る。
人間は生き返れるというだけでここまで考える事を忘れてしまうのかと哀れみさえ湧いて来る。
だがこれで散り散りに逃げられると、生き残った聖騎士勇者がいつ襲ってくるかと警戒しなければならなかったのだが、向かってきてくれるのは好都合である。
そのまま襲い掛かってくる聖騎士勇者達を処理して行く。
「精霊魔法で身体能力を強化しろ!」
「してます!」
「ならなんであいつの方が速いんだ!?」
「知りませんよ!」
聖騎士勇者達が何やら会話をしているが、俺が速いのではなくて聖騎士勇者達が遅すぎるのだ。
というか先程の精霊魔法の一斉射撃によってこの辺りの魔素濃度が下がりすぎて、聖騎士勇者達の精霊魔法が完全に発動出来ていないのだが、考える事を忘れてしまった生き返るだけの兵士と化した聖騎士勇者達は気付かないみたいだ。
とりあえずこの後の作戦のためにも俺が圧倒的に勝利を収める必要があるので好都合なのだが俺ではなくとも、アイリーンとパンジーで十分対処出来そうだ。
そう考えるととたんに今の戦いが億劫になったので、先程から偉そうに見当違いな考察で指示を出している聖騎士勇者の下へと行き、回転切りをしながら風の刃を放つ。
全周囲に風の刃が飛んで行き、周りの聖騎士勇者達が一斉に上下に分かれて消える。
聖騎士勇者達が一斉に消え、身に付けていた武具が金属音を響かせながら地面に落ちる。
平原には金属音だけが響き人の音は聞こえない、さっさ全滅させようと思って風の刃を発動したので驚きは無い。
「う・・・嘘だろ?」
後ろから人の声が聞こえたので振り返ると地面に尻餅を突いた聖騎士勇者がいた。
一人だけ生き残りがいたようだが、立ち上がる様子も無く何一つ脅威を感じられない。
「腰を抜かしてたから生き残ったのか・・・」
もしかしたら俺の風の刃を真正面から受けられる人間がいたのか?っと期待したのだが、全く持って肩透かしである。
俺は落胆を隠しきれず、深い溜息を吐きながら生き残った聖騎士勇者の下へと歩み寄る。
「あ・・・あ・・・あ・・・」
「おい。後ろに控えている奴らは攻めて来ないのか?」
「え?・・・あ?・・・俺すか?」
「お前以外に誰がいるんだ?馬鹿にしているのか?」
何か情報が手に入らないかと聖騎士勇者に話しかけるのだが、会話になりそうもない。
無駄な時間を過ごしたと後悔しながら刀を振り上げると聖騎士勇者は顔の穴という穴から液体を出しながらもそもそと動き始める。
「馬鹿にしてるなんて滅相もないす!」
何をするのかと思って見ていたら聖騎士勇者は土下座をして謝り始める・・・これが精霊教徒自慢の最強の部隊だと言うのだから呆れて何も言えない。
俺が呆れていると聖騎士勇者は何を勘違いしたのか、聞いてもいないのに土下座をしたままべらべらと喋り始める。
「今回の作戦は俺達がライネンの門を壊したら一気になだれ込む予定だったす!そうすれば今もどちらに付くか決めあぐねているエスガルドの貴族共もこちらに付いてくるだろうからそのまま合流してエスガルドを攻め滅ぼす予定だったす!」
「成程。よくわかった。」
とりあえず聞きたかった情報は聞けたので聖騎士勇者の首をはねてライネンの街へと戻る。
俺が壁に近づいて跳ぼうとすると南門が開く。
おそらく今日は門を通って街に入れという事なのだろう、門を通ると割れんばかりの歓声で出迎えられ、騎士達に勧められるまま馬に繋がれた山車に乗せられて突然パレードが始まる。
「(ザッシャ!派手に宣伝しろとは言ったがここまでしろとは言ってないぞっ!?)」
沿道で手を振ってくれる街人達に手を振り返しながら、隣で満面の笑みのザッシャに対して心の中で叫ぶ。
そのまま数時間かけて俺を乗せた山車はゆっくりと街中を練り歩き太守の館の前でパレードは終了し、そのままの流れで祝賀会へと強制参加させられる。
イェルドとかいう太守を初めとしたお偉いさんに囲まれ遅めの昼食を食べる。
臭いおっさん達に執拗に酒を勧められ過去でワーストスリーに入る居心地の悪い昼食だった。
夕暮れ時になりやっと抜け出す事に成功してふらふらしながら太守の館を出て、さっさと自分の部屋に戻ってタルトとアンジーの顔を見たいその一心で騎士団支部へと向かう。
「あっ!英雄様だ握手してー!」
「こら!英雄様に失礼でしょ!?」
騎士団支部へと向かっていると俺を見つけた子供が無邪気な様子で駈け寄ってくる。
母親らしい女性が子供を止めようとしているが、無邪気な子供が近寄ってくるのを断わるほど俺は無粋な人間では無い。
「大丈夫です。お嬢ちゃん俺なんかと握手がしたいのかい?」
「うん!あたしも英雄様みたいにばったばたと敵をなぎ倒すの!」
「そうか。お嬢ちゃんもきっとそうなれるよ。」
「うん!まずはルドルフを殺すの!」
「ほう?出来るのかな?」
「余裕っしょ。」
お嬢ちゃんと握手をしながら話していると、お嬢ちゃんは邪悪な笑みを浮かべながら魔法を発動し、俺とお嬢ちゃんの周りが結界に覆われて地面から火が噴出してくる。
ここまで作戦通りとは思わず笑みが零れ落ちる。
この母子はタルトが目を付けた人間達で調査は完了している。
今握手をしているお嬢ちゃんは腹に魔法陣が描いた聖騎士勇者で、腹に刻まれている魔法陣を解析した結果俺の絶炎に似た完全範囲指定の火魔法という所までわかっている。
本当に出来る眷族を持って俺は楽が出来て助かる。
こうなる事は予想済みなので、タルトに傍から見ても気付かれないギリギリの魔力量を使った強力な結界を張って貰っている。
そしてその結界上に魔力を総動員させて魔法障壁を何重にも発動してお嬢ちゃんの魔法を防ぐ。
俺が魔法を防いでいると、お嬢ちゃんは邪悪な笑みを浮かべたまま自分の魔法で燃え尽きて火の中に消えて行く。
聖騎士勇者だからこそ出来る特攻だ。
考える事が出来るだけでここまで脅威度が変わるのだなと感心する。
俺の魔法障壁と結界がお嬢ちゃんの魔法に耐え切れずひびが入り始め、一瞬でそんな事を考える余裕が無くなる。
ここまで完璧に作戦通りにいって調子に乗っていたようだ。
「あのガキめっ!」
ひびはドンドンと広がって行き思わず舌打ちと悪態が口から出るが、今はそれよりも生きる為に必死に考える事が先決だ。
必死に体を丸め、息を止め、手で顔を覆って結界が壊れるまでに出来る限りの準備をする。
『パリンッ!』
直後結界は小気味良い音を立てて割れ、全身に激痛が走る。
永遠にも感じる時間が終わり、俺の体が燃え尽きる前に魔法の発動が終了してどうにか命だけは助かったようだ。
だが両手両足の感覚が無く全身も熱いを通り越して少しづつ寒くなってきた。
このままでは俺は死に作戦は全て崩れてしまう。
「(俺が死んだらタルトとアンジーは動くか?)」
ふとそんな事を思う。
おそらく俺がいなければタルトとアンジーどころか、ウランやニッグ達も今後エスガルドのために動くかどうか定かではない。
ミノタウロス達も今のままライネンに留まるのだろうか?
そんな事を考えながら必死に自分の体に治癒魔法を施そうとするのだが胸に刻まれた魔法陣まで焼けているのか魔法が上手く発動しない。
胸の魔法陣を確認しようにも首の皮が焼けているせいか首が動かないので確認が出来ない。
「タルト!アンジー!レタス!命令だ助けろ!」
最後の体力を振り絞って本気で叫ぶが喉が焼けて全く声にならない。
今俺が転がっているのは聖騎士勇者が狙いやすいように人けの無い裏路地を歩いていたので、どうせ声が出ても誰も気付くわけが無いと分かりきっているが最後まで諦めたくなかった。
平穏無事な生活を目指して必死に生にしがみ付いていたがここが俺の終着点のようだ。
どんどんと寒くなり、もう痛みは無く猛烈な眠気が襲ってくる。
俺はその眠気に抗う事が出来ずにまぶたが落ちてきて意識が遠のいていく。




