第二百十話 聖騎士勇者と戦う
バンク隊長とザッシャ副隊長はこれから更に会議をして俺の計画を詰めるそうだ。
パンジーに案内されて俺達のために用意してくれたという三人部屋へと案内される。
俺は二部屋に分けて欲しかったのだがそれを言う前に、優秀で仕事の早いタルトがザッシャと話をしていたみたいで決定事項のようだ。
「じゃあリーダー疲れを癒しなさい?」
部屋に入るなり下着姿になったアンジーは床に四つん這いになって、無駄に凛々しい顔で言って来る。
疲れを癒す所か、昨日今日の疲れがどっと出たような気がする。
とは言え今日頑張ってくれたアンジーがして欲しいというのだから仕方が無い。
「あふん!」
俺が諦めてアンジーに座ると椅子が気持ちの悪い声を出す。
俺とタルトは聞こえてないふりをして机を囲んで紅茶を飲む。
「はぁはぁ・・・それにしても今日は勉強になったわ。」
「気持ち悪いから息を荒げるな。何を勉強したんだ?」
「勇者達を喋らせるのは簡単だけど、反抗心まで摘み取って一石二鳥だものね。」
「ん?どうやって痛覚無効を持った人間を簡単に喋らせれるんだ?」
「あたしの魔力特性で魅了すれば一発でしょ?」
「「あ・・・」」
アンジーの言葉に俺とタルトの声が揃う。
アンジーの魔力特性の事は覚えていたが、魅了状態にはそういう効果がある事を忘れていた。
「あれ?もしかして忘れてたの?あたしの感動を返してくれない?」
「煩いぞ。お前が普段奇行しかしないからだ。」
「その通りです!」
アンジーの言葉にとてもイラッとしたので結構強めに尻を叩いておく。
少し強めに叩きすぎて部屋の中にパシンと良い音が響き渡る。
力を込め過ぎたか?っと心配するが椅子は身震いしながらとても嬉しそうに表情を蕩けさせているので問題なさそうだ。
「後な、忘れてないぞ?今回の作戦はお前の魅了ありきの作戦だからな?」
「そうなの?ならもう一回叩いていいわよ?物足りないなら二回、三回と叩きなさい!?」
「十分だ。そろそろ背もたれのある椅子に座りたいのだが?」
「何よ!ほら!これでいいんでしょ!?」
アンジーの訴えを無視して立ち上がろうとすると、右足を真上に上げて背もたれを作り出す。
どれだけ俺に座って欲しいのかと呆れるが、俺の隣に足を立てられてもどうやって背でもたれたらいいのかわからないし、左足だけで踏ん張っているせいで、プルプルと震え出した。
そんな椅子に座るのもそろそろ疲れたので普通に備え付けの震えない椅子に座りなおす。
アンジーはとても不満そうな表情で立ち上がって椅子に座りタルトが淹れた紅茶を飲み始める。
「タルト?魔素嵐はどれくらいでなくなるか竜の目ではわからないか?」
「恐らくですが、三日後か・・・四日後には治まると思います!」
「そうか。それならばそれまではお前らは表に出ないようにしておけ?」
「かしこまりました!」
おそらくハイゼン王国への内通者にはタルトとアンジーは見られているだろうから意味の無い行動の可能性が高いのだが、打てる手は打つつもりだ。
将棋ならば敵の駒が見えているので次の一手も予想出来るのだが、敵の駒所か自分の駒も見えていない状況だ。
俺が味方と言い切れるのはバンク・ザッシャ・アイリーン・パンジーの四名と九体のミノタウロスとタルトとアンジーだけである。
「自分の駒がわからないのが一番痛いな・・・」
「師匠?戦争と将棋は違います!本物の戦争は数ではありません!戦力の質ですよ?」
思わず考えが口から漏れ、タルトが激励してくれる。
確かにこれは将棋では無いので持ち駒も違うし、先に攻撃すれば駒を取れる訳でもない。
俺は無駄にあれこれと考えすぎていたようだ。
出来合いの料理を時忘れのマジックバッグから取り出して三人でまったりとこれからの行動の打ち合わせをしながら夕食を食べる。
「布団が硬いですね。」
「枕もごわごわね。」
「普段使っている寝具は特別製だからな・・・しばらくは我慢しよう。」
夕食を終え、鍛錬をして布団に入るのだがタルトとアンジーは騎士団が用意してくれた寝具に不満たらたらだ。
二人共つい最近まで布団という概念も無く地べたで寝ていたのにすっかり人間の暮らしに慣れてしまったようだ。
俺が言うと二人は静かになってすぐに寝息を立て始め、俺もすぐに眠りの落ちる。
「失礼致します!ルドルフ殿!襲撃です!」
「ちっ!昨日に続いて今日も起こされるのか・・・」
寝ているとパンジーが部屋に大騒ぎしながら入って来る。
気持ちよく寝ている所を起こされて思わず舌打ちと共に心の底からの愚痴が漏れ出る。
「ルドルフ殿!?起きてください!」
「起きてる!状況を説明しろ。あと今何時だ?」
「今は夜中の三時であります!闇に紛れて投石器を設営していたようで突然岩の嵐が降り注いで来ました!あと手配書よりも可愛いお顔ですね?」
「ちっ!こっちの都合を考えろ!あと顔はこれから男らしくなるから言わないでくれ。」
パンジーの報告を聞きながら、着がえてベネチアンマスクを装着する。
背もそうだが、顔もすぐに成長期に入って男らしくなるはずなので、ほっといて欲しい。
「では行って来る。お前らはゆっくり寝てればいいからな?」
「お気をつけて!」
「無事に帰って来なさいよね?」
一応二人に声をかけてからパンジーと一緒に騎士団支部から出る。
パンジーはそのまま俺を案内しながら走って行くがそれよりも俺が飛んだほうが早いだろう。
「パンジー待て。どこの門だ?」
「南門です!・・・何を!?あわわわわわ・・・」
パンジーを抱き抱えてエアーバッシュを発動して南門へと一直線に飛んで行く。
パンジーは最初は驚いていたがすぐに大人しくなって俺に体を預けてくれる。
鎧を着て完全武装しているのにタルトよりもかなり軽いので滅茶苦茶飛びやすい。
南門に向かって飛んでいると街を囲う壁の上にいるザッシャが見えたので隣に着地する。
街の中からは暗くてわからなかったが壁の外を見るとこちらに向かって岩が飛んで来てライネンの結界に当たって砕けている。
そして南の森から聖騎士勇者であろう人間達が百人・・・なのかはわからないが、百人程がこちらに向かって歩いて出て来ている。
とりあえず今の状況は大体わかったので、パンジーを地面に降ろして突然の俺の登場に驚くザッシャに問いかける。
「状況は?」
「は?・・・ハッ!敵からの襲撃は投石器からの投石、こちらは結界で問題無く対処しております。問題は聖騎士勇者であろう人間が集団でこちらへ向かってきている事であります!」
「では俺はどうすればいい?」
「おそらくですが!ハイゼン王国は攻めよりも守りを得意としており、自国の兵士を失う事を酷く嫌います。なので今攻めてきている聖騎士勇者を撃退すればカルネンの教会で復活して合流しなおすまで少なくとも三日の猶予が出来ると愚考致します。」
「その言葉を聞きたかった。」
ザッシャが自分の考えを話してくれる。
一番懸念していたのは魔素嵐が治まる前にハイゼン軍との戦闘が終了してしまう事だったが、ザッシャの言う通りならば聖騎士勇者さえ対処出来れば計画通りに事が進みそうで何よりだ。
「ではザッシャ?タルトの見立てでは魔素嵐が治まるのは三日か四日だそうだ。とりあえずこいつらを撃退して今日はもう寝るぞ?」
「頼もしい御言葉です!」
ザッシャにタルトの見立てを話してから、壁から飛び降りて聖騎士勇者へと走る。
信じられない事だが聖騎士勇者達は暗視魔法を使っていないのか俺の存在に気付かずに、余裕の表情を浮かべながら隊列を組んで歩いて前進し続けている。
とりあえず駆け寄って雷の雨を発動させる。
眩い閃光が闇夜を切り裂き、俺の姿を見つけた聖騎士勇者達が口元を歪めていやらしい笑みを浮かべる。
「金貨一万枚が向こうから出てきたぜ!?みんなやっちっっっヌギャァァァッァァ!」
「おい!クレインなんだっっっっヒギャァァァァッァァ!」
これまた信じられない事に聖騎士勇者は俺の魔法を無視して嬉しそうに笑いながら話し始め、そのまま雷に打たれて服だけを残して消える。
そして近くにいた聖騎士勇者達も同様に感電して服を残して消える。
その後もそこら中に雷の雨が降り注ぎ聖騎士勇者の悲鳴が聞こえ続ける。
正直勇者は人外の強さだとみんなから聞いていたので、激戦になるだろうと身構えていたのだが雷の雨一発で半数近くが戦線から離脱したようだ。
聖騎士の強さをヴィンガとロンヴァルトを基準に考えていたのだが、あいつらなら真っ暗闇を暗視魔法も使わずに進軍しないし、俺が発動した魔法にも何かしらの対応をしていただろう。
俺の中で聖騎士勇者の評価はただの生き返る兵士という所まで下がった。
「てめぇ!よくもチェルシーをっ!」
「闇討ちなら黙ってしろ。」
その後も御粗末な反撃が続き適当に対処するのだが、どれもいとも容易く仕留めれてしまう。
「(これならパンジーの方が強いぞ?これがやり直しに慣れた人間の末路なのか?)」
余りにも聖騎士勇者達の手応えの無さに呆れてしまう。
今もパンジーやクリスティアナなら普通に対応出来るであろう横薙ぎの一撃が何の抵抗もされる事無く聖騎士勇者の体を通過して上下に分ける。
「どこだ!?どこにいやがる!?」
「こっちはいないぞ!」
「こっちもいない!逃げたんじゃないのか!?」
「逃げる・・・お前らが見当違いの場所に走ってるだけだろう・・・」
一応言っておくが俺は一切逃げてない。
それどころか最初に雷の雨を放ったときから数歩しか歩いていないのだが、わざわざ夜襲をかけてきたのにこいつら全く夜目が利かない上に対応策も用意していないド素人のようだ。
優しい俺はド素人達のためにわざわざ魔力灯を発動して俺の場所を教えて上げる。
「いたぞ!」
「誰かは知らないが死ぬ直前に発動されたんだな?ドンマイ!」
「魔法は得意なようだがドジったな!?」
たまたま近くにいた聖騎士勇者達が蛾の如く魔力灯に引き寄せられる。
魔力灯を上に投げて対処する。
「一つ教えておこう。魔力灯は俺が発動した。」
襲い掛かってきた聖騎士勇者に教えてながら回転切りをする。
聖騎士勇者達は全員真っ二つに別れて服を残して消える。
今の適当な回転切りで全員が倒せると思っていなかったので呆気に取られてしまう。
だが上に投げた魔力灯が俺を中心に辺りが照し、俺を発見した聖騎士勇者達が襲い掛かってくる。
もしかしたら先程までの聖騎士勇者は新人で、生き残りは手練れの可能性もある。
気合を入れ直して聖騎士勇者達を迎撃するべく刀を構える。
「お前・・・これくらい避けろよ・・・」
少しづつ剣を振る速度を遅くしているのだがいつまで経っても聖騎士勇者達は一行に反応する事無く服と武具を残して消えて行く。
「油断したな!」
「油断はしているがそれでも負けているのがお前らだ。」
服だけを残して消える聖騎士勇者の後ろから新たな聖騎士勇者が出て来て切りかかってくるのだが、本当に精霊魔法で身体能力を強化しているのかと疑いたくなるレベルだ。
とりあえず横薙ぎに刀を振るって剣を振り上げて飛び掛ってきた聖騎士勇者を上下に分けて処理する。
聖騎士勇者を相手にすると刀が血で汚れないし、生き返る上に死体も残らないので罪悪感もかなり少なめだ。
パンジー達の訓練に丁度いいかもしれない・・・そんな事を考えながら聖騎士勇者達を処理して行く。
「お前で最後のようだな?」
「マジで?」
「次はもっと強い聖騎士勇者を連れて来い。そうすれば本気で相手してやる。」
「マジでぇぇぇぇ?」
金髪のチャラそうな聖騎士勇者は「マジで?」以外の言葉を発する事無く消えた。
「(今頃カルネンだったか?の教会は満杯だろうな。)」
そんなどうでも良い事を思いつつも探索魔法を発動する。
上を通る投石の反応だけで人の反応は無いのでザッシャの予想通り森の奥に控えるハイゼン軍は動く気は無いようだ。
さっさとザッシャの下へと戻る。
「多分聖騎士勇者は片付いたぞ。」
「ありがとうござました!ここからは人間同士の戦闘ですね・・・」
「少しその言い方は引っかかるが・・・まぁいい。帰って寝るぞ?」
「はい!あいつらに動きがあればすぐに声をさせて頂きます!」
ザッシャ副隊長が敬礼をしながら答える。
少し物言いに引っかかる所があるが、今はそれよりも睡眠を優先だ。
「わかった。では失礼する。」
さっさと部屋に戻るとタルトとアンジーが出迎えてくれる。
二人共俺を心配して待ってくれていたようで俺の顔を見てとても安心した表情をする。
こうやって帰る場所で心配して誰かに待たれると言うのは、ルル以来で久々なのでとても新鮮だ。
「ただいま?」
「楽勝だったようですね?さっ!寝なおしましょう!」
「ふん!これでタルトが静かになって寝られるわ?」
二人共余程眠い中俺を待っていたのだろう。
服を着替えている間に寝息が聞こえ始め、俺も自分のベッドに入って眠りにつく。




