第二百九話 タルトの魔力特性
自信満々な様子のタルトとザッシャの後ろを付いて行き、騎士団の支部の中にある地下牢へと案内された。
「それでは私はバンク隊長に報告などの業務がありますので失礼致します。」
「わかった。もし死んでしまったらすまない。」
「教会には騎士を配置しておりますので問題無いはずです。それに痛覚無効の人間に情報を吐かせられる者はいませんので気になさらないで下さい。」
「それはありがたい。」
ザッシャは聖騎士勇者達を連行していたアイリーンとパンジーを引き連れて去って行く。
もし殺しても問題無いとわかったのでとても気が楽になる。
「タルト聞いたな?俺は拷問がわからんから任せた。」
「かしこまりました。ですが今は誰も殺すつもりはありませんのでご安心を、では勇者の皆さんそこに整列してください。」
俺は地下牢の隅にあった椅子に座ってタルトの拷問を見る体勢になる。
「アンジー?そんな場所に手を突いたら汚いぞ?」
なぜか椅子の隣でアンジーが息を荒げて四つん這いになっているので注意しておく。
アンジーはとても不機嫌な様子で立ち上がってマジックバッグから机や椅子を取り出して紅茶を淹れ始める。
「今日は頑張ったから部屋に戻ったら座ってやる・・・」
「リーダーお茶をどうぞ!」
俺は大変不本意な方法だが、あまりにもアンジーの機嫌が悪いので仕方なく言うとアンジーは花が咲いたような笑顔で紅茶を差し出してくる。
何度目か忘れたがこいつを眷属に迎えた事を後悔するが時すでに遅しである。
何が楽しくて座り心地が悪そうな、四つん這いの女に座らなければならないのだろうか?
誰かに見られたら俺の人間性を疑われる事は明白だ。
アンジーには御褒美かもしれないが、俺にとっては罰ゲームである。
「ではまずはあなたです。一回しか言いませんし言わせません。今回の作戦を全て喋りなさい。」
タルトが拷問を開始する。
勇者達はただ部屋の隅に並ばされて質問をしているだけなので、俺がイメージしていた拷問とはかなり違うようだ。
「やだね!それで喋る人間がいるのかい?」
「かしこまりました。」
端で立っていた女性の勇者が答え、タルトは淡々とした様子で答えた女性の首を魔王の手斧で跳ね飛ばす。
女性の頭が床に転がり、残された体がばたんと音を立てて倒れる。
「殺さないって言ったじゃねぇか!?」
「今は殺さないと言ったのです。彼女はまだ生きています。」
勇者の中の一人が叫び声を上げるが、タルトは無表情のまま床に転がった頭を持ち上げて立っている三人に顔が見えるように床に置き直す。
女性の生首を見た勇者達は一瞬で顔を青褪めさせる。
なぜならば生首は目を白黒させて口をパクパクとさせて、人目で生きていると分かる様子だからだ。
「中々えげつないわね・・・」
「そうだな。だがタルトにしか出来ない精神攻撃だな。」
あくまでも俺の予想なのだがタルトの魔力特性は水操作だ。
おそらく生首になった聖騎士勇者の血液を魔力特性によって無理矢理循環させているのだろう。
そして牢の隅に転がる胴体の方も血液を循環させているのだろう。
その証拠に生首と体から血が一滴も出ていないので俺の予想は間違ってないはずだ。
「いいですか?喋りたくなければそれで結構。私の魔力が続く間ですので一年程度でしょうか?生首で過ごしてから復活なさってください。では改めて伺います喋りなさい。」
再びタルトが質問をするが、今度は誰も何も喋ることが出来ないようだ。
数秒の沈黙の後、タルトは無言で端に立っていた聖騎士勇者の首を跳ね飛ばし、先程と同じように目を白黒させている生首を女性の生首の隣に置く。
なんというか・・・人間の生首が目の前に並べられると言うのは見ていて気分が悪く紅茶が不味く感じる。
「あぁ、舌を噛みきっても無駄ですよ?出血死は出来ませんから。」
女性勇者が意を決して舌を噛み切ったのだが、タルトが淡淡と事務的に伝える。
生首の二人は絶望の表情を浮かべ、残っている五体満足の聖騎士勇者達は今にも倒れそうなくらいに顔が真っ青で息もかなり荒い様子だ。
「息苦しそうですね?ですが問題ありませんよ?」
「え?」
「だって頭だけになれば息をする必要はありませんから。あ、ご心配無く!食事も私の魔力が続いている間はですが栄養を供給するので必要ありませんよ?」
聖騎士勇者達は何を心配していると思っているのかと呆れた表情だが、タルトは気にした様子も無く無表情のまま二人へと歩み寄る。
詰め寄られた二人は壁際に立たされていた事さえ忘れていたようで思わず後ずさるが壁にぶつかってよろけている。
「では今一度質問致します。全てを喋りなさい。三秒だけ待ちます。」
タルトが秒読みをしながら魔王の手斧をゆっくりと振りかざす。
とても偉そうにしていた勇者が股間に染みを作りながら気を失ってその場に倒れ、それを見た最後の聖騎士勇者が手を前に突き出しながら口を開く。
「待て待て待て!待ってくれ!一つ確認したい!」
「なんでしょう?時間稼ぎならば首をはねますよ?」
「俺が洗いざらい喋ったとしよう。それからどうなる?」
「時が来れば生首は出来る限り苦しまないように殺し、貴方は解放ですね。」
「・・・・・・全て話そう。」
どうやらタルトの拷問は成功したようだ。
男は観念したようでその場にへたり込みながら口を開く。
「ではこちらの男性はもう用済みですね。」
「待ってくれ!小隊長しか知らない情報もあるかもしれない!」
「そうですか・・・」
タルトが漏らしながら失神した聖騎士勇者に斧を振り上げるのだが、観念した聖騎士勇者の言葉に納得して斧をマジックバッグに入れる。
「ではさっさと今回の作戦を話しなさい。」
「はい。俺達の任務は王都が消滅し混乱しているであろうエスガルドに攻め込み、落とせればそれでよし。落とせなければ目を引き付けてハイゼン軍の到着を待つ事でした。」
どうやら俺が時間稼ぎをしているような気がしたのは間違いでは無かったようだ。
持久戦に持ち込んでライネンを落とせなかったとしても後からくるハイゼン軍が来るまで騎士と兵士達を疲弊させる予定だったようだ。
俺達がレタス達に呼ばれていなければライネンの街は落ち、戦争の天秤はハイゼン王国に傾いているところだったようだ。
「成程。いいですか?王都は消滅していません。」
「なんでだ!?突然の反乱に対応出来たとしても、その後に発動した煉獄太陽で消滅しない訳がねぇよ!」
更に新事実が出てきた。
アランもフィルも教えてくれなかったが昨日王都では反乱が起こっていたようだ。
そして煉獄太陽という魔法に聞き覚えがあるような無いような・・・
俺が思い出せずに悩んでいるとタルトが耳元で「ニッグが持っていた水晶玉に刻まれていたのが煉獄炎でした。」と教えてくれた。
恐らく名前が似ている事から術者の魂を代償に発動する魔法なのだろう。
「あぁ・・・あれはこちらの御主人様が遥か上空で爆発させて事なきを得ました。」
「あんた達何者だよ・・・」
タルトが俺に耳打ちをしてから聖騎士勇者に答えているが、タルトの中ではもう対処可能な魔法という事になっているようで、完全に興味を失っている様子だ。
聖騎士勇者は目を見開いて驚いているが俺が気になっている事を質問する。
「いくつか質問がある。一つ目はお前らはこれから攻めてくるハイゼン軍と連絡は取れるのか?そして取っていたのか?」
「いえ。無理です。」
「次だ。攻めてくるハイゼン軍の規模は?」
「ハイゼン王国兵が一万、冒険者が五千、そして冒険者に扮した聖騎士勇者が百人のはずです。」
連絡手段があるのであれば、俺達と戦った時に何らかの動きをするはずだが、全くそういう動きは無かったので連絡手段が無いのは予想通りだ。
そして攻めてくる戦力も少し多いが大体予想通りだ。
俺が一番聞きたかった最後の質問をする。
「最後だ。勇者とは何なんだ?なぜ精霊魔法だけあんなに強化されるんだ?なぜ教会で復活する?殺せないのか?」
「俺もよくわかってないんですが、俺達の魂には精霊が混ざっているらしいです。だから精霊魔法を発動すると魂の精霊が最低限の代償で最大限の効果を発揮してくれるそうです。そして死んだ時は精霊が魂を精霊教会に運んで精霊王の力で蘇るらしいです・・・」
気になりすぎて少し前のめりに質問をしすぎたと反省する。
勇者は一つ一つ丁寧に答えてくれるのだが、最後の殺せるかどうかの答えで詰まる。
おそらく殺す方法はあるのだろうが、それを教えて自分が試しに殺されないか不安なのだろう。
「大丈夫だ。俺は敵対する人間以外と争うつもりはない。お前はもう俺達には向かってこないだろう?」
「向かいません・・・それに俺にはおそらく次は無いでしょうし。」
「次は無い?どういう意味だ?」
「勇者は心を折って、魂が負けを認めたら死ぬと同時に魂が成仏って言うんですか?そのまま消えるらしいです。なので精霊が魂を運べずにそのまま俺達は消滅するんです。」
どうやら勇者を殺すには肉体的に、では無く心を殺さないと駄目なようだ。
痛みを感じない上に諦めない限り何度でもやり直せる勇者の心を折るのはかなり骨が折れそうだ。
「(む。折るが重なったな・・・心を折るのに骨を折る・・・)」
偶然にも今とても上手い事を思いついてしまった。
タルトとアンジーに言いたい気持ちでいっぱいになるのだが、冷たい目で見られそうなので我慢して言葉を飲み込む。
「・・・成程。俺からは以上だ。タルトとアンジーは?」
「私は元から無いわ。」
「御主人様、治癒魔法をお願い出来ますか?」
アンジーは終始聖騎士勇者達に興味を示す事は無かった。
そしてタルトが生首を胴体に乗せて言って来る。
一応治癒魔法と呼ばれているが、この魔法は免疫力や細胞の再生力を強化しているだけなので切った直後ならまだしも時間が経った首と胴体が繋がるとは思えないが、タルトのお願いなので一応試してみる。
「まじか。」
「えぇ。血液を循環させていたので鮮度はばっちりです!」
治癒魔法をかけると生首と胴体は傷跡も無く繋がり、生首を経験した二人は自分の体を確認して声も出ない様子だ。
どうやら神経なども問題無く繋がっているようで驚きの余り語彙力の欠片も無い言葉しか出ず少し恥ずかしい。
「師匠お手数をおかけしました。」
「いや。俺も人間相手に血生臭いのは嫌だから助かった。では以上だ一応お前達から情報が漏洩しているとばれる訳には行かないので、ライネンの戦いが終わるまではここにいろ。終わったら隷属の首輪は取り外して解放してやる。」
聖騎士勇者達は目を丸くしたまま無反応だ。
隷属の首輪もあるので逃げ出すとは思えないが念のために檻を閉めて地上へと戻る。
「パンジー!ザッシャ副隊長はどこだ?」
「どうなさいました?何かお伝えしましょうか?」
「いや。案内してくれ。」
「かしこまりました!」
地下牢を出て階段を上がると丁度目の前をパンジーが歩いていたので呼び止めてザッシャ副隊長のいる所に案内してもらう。
連れて行かれた場所は前にも来た事のあるバンク隊長の部屋だった。
パンジーは開けるべきか悩み始めるのでお構い無しに扉を開け放って部屋の中に入る。
部屋の中にはバンク隊長とザッシャ副隊長が机に大量の書類を広げて話し合っている所だった。
先程まで激戦を繰り広げていた騎士団の隊長と副隊長の会議なので中々重要なものだと思うのだが、タルトのおかげで手に入った情報もかなり重要なはずなので二人の状況などお構い無しに先程手に入った情報を二人に教える。
最初は面食らった表情をしていた二人だったが、俺の話を聞いてどんどんと顔が険しくなっていく。
「これから攻めてくると分かっていれば対処のしようはありますね?」
「そうだな。という事は南門の見張りを増やして兵士は交代制で休ませよう。」
「いや。あくまでも聖騎士勇者と交戦中の体で行って貰いたい。」
俺が説明を終えると二人があれこれと話し始めるので指示を出す。
机の書類に視線を向けていた二人は鳩が豆鉄砲を喰らったような顔で俺を見上げてくる。
「それでは・・・我々には負けろと?」
「そうですよ!?」
「違う。俺を使って卑怯な上に臆病な虫をいぶり出すぞ。」
二人は机を叩きながら反論してくるので、俺の作戦を二人に教える。
俺は貴族が得意とする腹の探りあいというものが本当に苦手だ。
だがエスガルドが戦争に勝つためには、その探りあいに勝利して獅子身中の虫を燻り出す必要がある。
なので俺は二人に先程の聖騎士勇者の話を聞いて即興で考えた作戦を二人に説明する。
「成程・・・ですがそれはかなり危険な方法では?」
「そうですな・・・失敗すればこの街どころか折角助かった王都も落ちますよ?」
「王都はフィルとアランがいるから問題無い。むしろそれで落とされるならどっちみちこの国は負ける。あとこの作戦をしないのならどっちみち後ろから刺されて、戦争に負けるだろうから俺はさっさとこの国に見切りを付けれて楽になるな・・・という訳で断わってくれ、そうすれば俺はさっさと眷属を連れて実家に帰れる。」
半ば脅迫めいた物言いに二人はわかりやすく表情を曇らせるが、事実なので仕方が無い。
この作戦で不穏分子を掃討しなければ、いつ後ろから刺されるかわからない状況で精霊教会を相手に戦争をして勝てる訳がない。
この作戦が無理なのであればタルトとアンジー、そしてニッグ達とレタス達を連れて魔の森へと帰って精霊教会との戦争に備えるのが現実的な対応策だといえるはずだ。
「どうするんだ?」
「・・・バンク隊長?」
「引き受けなければ一万五千を超えるハイゼン軍に蹂躙されるのだ・・・あなたの言う通りにしよう。」
ザッシャ副隊長はとても不安そうな表情でバンク隊長に尋ねているが、バンク隊長は覚悟を決めた様子で立ち上がって宣言するように答える。
あの勇者達のおかげで即興ではあるが我ながらいい作戦が思いついた。
聡明なタルトとアンジーがサムズアップして俺の作戦を称えてくれているので問題無いだろう。




