第二百八話 聖騎士勇者を捕縛した。
ヤル気満々な様子のタルトとアンジーを連れてライネンの街を進んでいると、騎士団の詰め所の前で簡易型のテントを張って騎士達が陣取っている。
テントの中では忙しなくバンク隊長が騎士達に指示を出しているで即席の司令室のようだ。
「バンク隊長お久しぶりです。」
「誰・・・ルドルフ殿!?どうやってここに!?」
「それは今重要な事ですか?状況は?」
「そうですな。今朝突然教会から勇者が出てきまして、何度も撃退しているのですが延々と復活して襲ってくるのです!」
「ふむ。何人ですか?」
「四人であります!今はアイリーン隊員とパンジー隊員とザッシャ副隊長をそれぞれリーダーとした隊を組み、三交代で対応しております!」
「俺達が参加しても問題ないですか?」
「勿論!むしろ是非ともお願いしたいところであります!」
「わかった失礼しました。」
バンク隊長は直立不動で俺の質問に答えてくれる。
話がとんとん拍子に進んで楽なのだが、周りの騎士達からの注目を集めているのでもう少し控えめに対応していただけると助かるのだが無理な話なのだろう。
とりあえずこの街の戦場における最高責任者の許可は貰ったので遠慮無く騎士達をかき分けて教会へと進んで行く。
教会が近づくと地面に横たわって休む騎士達が目立ち始める。
騎士達の邪魔をしないように教会へと進んでいると見覚えのある女性達が俺を見つけて目を見開いている。
「よう。アイリーンもパンジーも元気そうだな?」
「「ルドルフ殿!?」」
二人に声をかけると同時に発言する。
まぁ普通に考えて今日から学校だと言うのに俺がここにいるなどと考える訳が無いので驚くのも無理はない。
「ミノタウロスに呼ばれて来たが、中々大変そうだな?」
「そうなんですよぅ!助けてくださぁい!」
「早朝からずっとですよ?王都に帰って大抜擢されたと思ったのに最悪ですよ・・・」
なぜここにいるのか手短に説明すると、二人は平然と受け入れて二人が泣きついてくる。
「ならさっさと終わらせて王都に帰るぞ。」
「師匠!お任せください!」
「リーダー?終わったら牛舎での失態のお仕置きお願いね?」
俺言うと二人は一足飛びに騎士達を飛び越えて教会へと飛び込んで行き、金属音がなり始める。
先程ザッシャ達が聖騎士勇者を倒していたので、新たに復活した勇者達との戦闘が始まったのだろう。
戦闘は二人に任せて俺はザッシャと合流する事にする。
「今の何だ!?新手が合流したのか!?」
「ルドルフ殿のメイドさんですよぅ?」
「副隊長!もうこの街は安全であり、楽が出来てなによりであります!」
ザッシャ達が突然教会へと乱入した二人の存在に慌てているので、アイリーンとパンジーが説明をする。
ザッシャは俺を見てなぜか静かに大きく溜息を吐いて落ち着きを取り戻したようなので問題な誘うだが、パンジーは騎士としてその言葉は絶対に言ってはいけないと思う。
そんな事を考えながら三人の下へと歩き寄る。
「みんな変わらず元気そうで何よりだ?」
「という事はメイドの片方は噂のタルト殿という方ですか。」
「あ、あ、あのぉ・・・本当にニコ君なんですかぁ?」
「そういえばルドルフ殿!クリスをほっといてこんな所で何をしてるんですか!?」
俺が声をかけるとザッシャも俺がいることを平然と受け入れてくれるので大変楽でありがたい。
とりあえずザッシャとアイリーンの質問に答えておく。
「そうだ俺の部下タルトとアンジーだ。アイリーン?騙していたようで申し訳ないが俺はニコだ。」
「成程・・・では一安心です。」
「学校で常に手を抜きまくっていたニコ君ならば納得ですねぃ?」
「クリスとは!クリスとはどうなっているのでしょうか!?」
俺が答えるとザッシャとアイリーンは納得した様子でその場に再びへたり込む。
パンジーだけは俺が答えなかったので納得行かなかったのか掴みかかってくる。
これだけの元気があるならまだ勇者と戦えそうだ。
「パンジーはまだまだ余力がありそうだな?俺の部下と一緒に戦ってこい。」
「ぴあぁぁぁぁぁぁぁぁ!!」
パンジーの襟を掴んで教会の中にパンジーを投げ込む。
パンジーは奇声を上げながら教会の中へと飛んで行き直後悲鳴と共に新たな剣戟が聞こえ始めるので問題無さそうだ。
「・・・さすがは若いな。」
「ひぇー私は無理ですねぇ・・・」
ザッシャとアイリーンは教会へと飛んでいったパンジーを見て率直な感想を漏らしている。
俺はライネンの内部事情を聞くべく簡易型の机と椅子を用意して紅茶を淹れて二人に差し出す。
周りにも騎士達はいるのだが、知らない人間よりも知っている人間に聞いたほうが効率もいいので申し訳ないが無視させて頂く。
「魔法師部隊!魔法の展開はもう十分だ!いつでも動けるようにして各自警戒を怠らぬように注意して休め!」
「騎士の皆さんもルドルフ殿と部下の方々が来て下さったので休んでくださぁいっ!」
「そういえば、ザッシャ副は隊長なのでわかるがアイリーンとパンジーはその歳で指揮官なのか?」
二人が席に着く前に周りの騎士達に指示をしている。
ザッシャは前回来たときに副隊長だったので違和感は無いのだが、若い上に出戻りのアイリーンと今年入団したばかりの新人が指揮官をしているのはとても違和感がある。
「彼女とパンジーさんは力を示しましたから。」
「ンフフフフフ!ニコ君?ルドルフ殿?のおかげで実力社会の騎士社会を上りまくってますよぅ?」
「どちらでも好きな方でいいぞ。」
どうやらアイリーンとパンジーは赴任早々に力を示して年上の騎士達を制して一気に指揮官まで昇格したようだ。
その後も二人から色々と話を聞くが、今朝突然教会の中から四人の聖騎士勇者が飛び出してきて暴れ始め、大慌てで対応して今に至るそうだ。
教会で復活するので聖騎士勇者なのは確定なのだが、本人達は「ただの冒険者だ!」っと言い張っているそうだ。
とりあえず話をまとめるとミノタウロス達は聖騎士勇者達が街で暴れ始めてすぐに俺に助けを求め始めたようである。
「ぶぎゃっ!」
その後も紅茶を片手に話しに花を咲かせていると、パンジーが教会から文字通り飛んで出て来て、盛大に地面に尻餅を付いて奇声を上げる。
ザッシャとアイリーンが涙目のパンジーを抱えてやってくるので紅茶を差し出すと、パンジーは一息で紅茶を飲み干しておっさん臭い仕草で息を吐きながら口を袖で拭う。
「何があったんだ?」
「私の力がつきましてお姉様達に足手まといと言われて放り出されました。」
「そうか。あいつらがそう判断したなら俺は手を出すべきでは無いな。」
「あのお姉様達は何者でしょうか?更にルドルフ殿に教えて頂ければあの域に達するのでしょうか?」
「それは無理だあいつらは元が違う。」
「やはりそうですか・・・あたしも片手であんな風に華麗に斧を操りたいです!」
パンジーの話を聞くがどうやらタルトが片手で魔王の手斧を扱う姿に憧れを抱いたようだ。
パンジーはタルトのようになりたいそうだが、人間と水竜では元々の体の作りからして違うので無理な注文だ。
俺の言葉にパンジーはがっくりと肩を落としているが、こればかりは生物としての元根本の話なので俺にはどうしようもない。
「にしてもおかしいな。」
「何がでしょうか?」
「あいつらは教会まで追い詰められた上にタルトとアンジーという勝ち目の無い強者が現れても尚粘る理由はなんだ?」
「確かにそうですね。」
パンジーの話を聞く限り聖騎士勇者達は復活するごとにタルトとアンジーが鎧袖一触と言った様子で瞬殺しているそうだ。
普通そんな強敵が出てきたら増援を呼ぶなり何らかの対応をするはずなのに色々と違和感がありすぎる。
「なぁ?聖騎士勇者に隷属の首輪をすれば奴隷になるのか?」
「え?勇者の奴隷など聞いた事ないのでわかりません!」
「勇者ともなるとレジストしても不思議は無いですよねぇ?」
「ですが隷属の首輪の拘束力は強力ですしね?」
気になって三人に聞くのだが、三人共わからないようだ。
隷属の首輪が効くのであればそれで捕えて情報を引き出してみよう。
レジストされたら別の方法を考えないと駄目だが、他に何も思いつかないので仕方が無い。
ニッグ達が付けていた隷属の首輪を取り出して教会の中へと踏込む。
教会に入ると突き当たりにそびえ立つ石像の前に突然現れた男女が大声で武器を構えタルトが斧で、アンジーはこの前まで練習していた空手で瞬殺していた。
「おい!また増援に来たぞ?」
「魔素嵐で連絡取れないはずのに次から次へとなんでだよ!?」
「知らないわよ!このままこいつらが魔素枯渇になるまで戦うだけよ!」
「そうだぞ!我々は足掻いて足掻いて死にまくればいいのだ!」
「(ふむ。通信系のマジックアイテムは使えないのか。何も手を打たないなと思っていたがそういう事か。)」
そして再度復活した聖騎士勇者達が俺の姿を見て何やら大声で話し始める。
四人だけで街一つの騎士団を相手に持久戦で挑んでいたようだ。
アンデッドが延々と蘇って襲い掛かってくるゾンビアタックという言葉があるが、正にその言葉がピッタリである。
そして今は遠距離通信マジックアイテムは使えないらしい。
「タルト!アンジー!勇者共を無傷で拘束だ!」
「かしこまりました。アンジー?」
「水の檻。」
俺が指示を出すとアンジーが魔法で水の檻を作り出して聖騎士勇者達を一瞬で拘束する。
御丁寧に両手両足には水の枷を嵌めてくれているので、聖騎士勇者達は身動きすら取れない状況だ。
本当に部下が優秀だと楽で助かる。
俺は拘束された勇者達に近寄って隷属の首輪を嵌める。
「これで・・・奴隷になったのか?」
「あぁ・・・ニッグ達が嵌めていた物ですね?」
「へぇ?こんな面白そうな道具があるのね・・・拘束プレイか・・・」
聖騎士勇者達は隷属の首輪を付けると少し抵抗が緩くなったが、それ以外に変化は見られない。
隣のタルトが納得したように言いアンジーは顔を上気させてブツブツと呟き始める。
とりあえずアンジーの呟きの中身は絶対に知りたくないので、さっさと隷属の首輪の効果を確かめるためにも聖騎士勇者達に指示を出してみる。
「よし。貴様ら付いて来い。」
俺が指示を出すと正気に戻ったアンジーが聖騎士勇者達の拘束を解く。
聖騎士勇者達は嫌そうに表情を歪めながらも俺の後ろを付いて来るので、無事レジストされずに奴隷化出来たようで一安心である。
「ザッシャ。こいつらを尋問したいのだがどこかいい場所は無いか?」
「はっ!無理無理っ!俺達は死ぬ瞬間まで戦えるように痛覚無効なんだ!どんな拷問されても喋らねぇよ!」
「そうだな?むしろ加減を間違えて殺してくれりゃあ、この首輪から解放されて万々歳だぜ!」
「って訳で、あたし達は牢屋にでも押込んでおく事をお勧めするわよ?」
「貴様ら残念だったな!?我等からは情報を引き出せんよ!」
俺の言葉に勇者達が嘲笑しながら言って来る。
恐らくこれが奴隷の許される精一杯の悪態なのだろう。
「ザッシャ副隊長。拷問を実施したいと思いますので汚れても問題無い部屋をお願い出来ますか?道具は全てこちらで用意しますので部屋だけで結構です。」
「それならば地下牢ですね。御案内致します。」
「御協力感謝致します。」
どうやらタルトは拷問をするようだ。
というかタルトは拷問の仕方がわかるのだろうか?
師匠である俺は痛めつけて喋らせる行為という知識しかないので、痛覚無効の人間への拷問方法など思い付きもしない。
俺はそんな事を考えながらアンジーと共にザッシャとタルトの後ろを付いて勇者を連行する。




