第二百七話 ライネンへ
部屋を出るととんでもない熱風に襲われる。
「暑すぎないか?」
「昨日の爆発で大気が不安定での?ここに来るまでに竜巻も起こっておったぞえ?」
みんなが俺の部屋に来て驚くわけだ。
タルトの結界のおかげで部屋の中は快適な環境に保たれているので全く気付かなかったが、昨日の爆発によって空と地上の温度が逆転してエスガルド王都を中心に熱風が吹き荒れ、所によっては竜巻や大豪雨が発生しているそうだ。
タルトと一緒にウランから街の外の様子を聞きながらアンジーの後を追って九番隊の詰め所へと向かう。
俺達が到着した時にはすでにアンジー達の説明を受けたニッグ達が屋敷の玄関で整列して待っていた。
「お前ら俺の事情で申し訳ないが頼んだ。」
「お任せください。」
「今の我々ならば大抵の人間には負けません。」
「へへっ!隊長お任せください!」
「あたし達が付いていれば王子の一人や二人問題無く、っね?」
「マリア?王子は一人。二人いたら大問題よ?」
ニッグ達が順番に答えてくれる。
全員目にやる気を漲らせているので問題なさそうだ。
敬礼で見送ってくれるニッグ達に見送られながら庭に出ると水竜の姿に変化したウランが待ってくれていた。
「準備は済んだのかの?」
「あぁ問題無い。それよりもここから出発するのか?」
「来る時に見たが門は閉められておった。ならばここから飛び立つのみじゃ!認識疎外魔法はかけてあるから心配無用なのじゃ!」
「ならば行こう。」
さすがはウランだ、飛び立つにあたって抜かりないようなので、遠慮無く背中に乗り込む。
「ウラン?やっぱり私が飛んで行ったほうがよくない?」
「たわけ!片道切符じゃと言ったろうが!この悪条件では飛ぶのが限界で街に着く頃には戦える力は残っておらぬじゃろう。何があるかわからんのじゃ、お主は体力を温存しておくのじゃ!ほれそこの人魚もさっさと乗るのじゃ!」
「掴まれる準備をしていたけど・・・乗っていいのね?」
タルトがウランに怒られ、ついでに掴まれてライネンまで行くと思って身構えていたアンジーも怒られている。
すぐにタルトとアンジーもウランの背中に乗り、ウランが王都を飛び立つ。
確かに空を見ればいつ雨が降り出してもおかしくない曇天で暑苦しい風が吹き荒れていて天候は最悪だが、ウランの話を聞く限り王都の結界を出ると更に酷い状況らしい。
「高度を上げると結界がもたぬ。少々低空を飛ぶが気にしないでたもれ?」
そう言ってウランは高度を上げるのをやめて飛び始める。
いつもなら人が点に見えるくらいの高さを飛ぶのに、今日は米粒くらいの大きさなのでおそらくいつもの半分以下の高度だ。
「なぜこんなに低空なんだ?」
「これより上は魔素嵐が吹き荒れていますので生物が生きられる環境ではありません!」
「ほう?竜の目にはそんなものまで見えるのか。」
「はい!地上の魔素が吹き上げられ、上空を駆け巡っているようです!」
俺の素朴な疑問にタルトが答えてくれる。
今の場所よりも高度を上げると魔素嵐に巻き込まれて俺達は死ぬそうだ。
思っていた以上に無茶苦茶な天候だった。
その後局地的な大雨を抜け、突発的に発生する竜巻を突っ切り、嵐の中飛びウランはライネンを目指してくれる。
ウランは次第に口数が少なくなっていき、最終的には飛ぶ事に集中して一切喋らなくなった。
「地図通りであれば数分でライネンの街が見えるじゃろう。皆降りる準備をするのじゃ!」
突然ウランが声を掛けてくる。
中々過酷な空の旅だったので、ウランの声を久々に聞いた気がする。
過酷と言っても俺達はウランが張った結界の中にいて快適なので、過酷だったのはウランだけだ・・・ありがとうウラン。
「わかった。本当に助かった。」
「ウランの言う通り私が飛んでいたら辿り着けたかも怪しかったですね。」
「え?降りてくれないの?こんな高さ死ぬよ?」
俺とタルトはいそいそとウランから降りる準備を進めるのだが、パンジーは心底嫌そうにウランの羽にしがみ付いている。
「アンジー?わがままを言わないの!」
「嫌よ!痛いのは好きだけどこの高さは死んじゃうもの!」
「煩いです!放り投げられたいですか?」
「わかったわよ!覚悟を決めればいいんでしょ!」
タルトとアンジーが不毛な争いをしている。
アンジーは無駄な抵抗をやめて大人しくタルトにおぶさって飛び降りる準備を進める。
ウランの言う通り地平線の向こうにライネンの街が見え始める。
ライネンの上空では色とりどりの魔法が爆発してとても綺麗だ。
「花火が上がってますね?」
「色とりどりで綺麗ね。」
「勇者と戦っているんだな。ああやって精霊魔法を無駄撃ちして空気中の魔素を使いきって勇者に精霊魔法を使わせないようにしているんだ。」
どういう訳か勇者達は精霊魔法だけがとてつもない威力になる。
逆に言えば精霊魔法さえ使わせなければ普通の人間と変わらないのだ。
「今なのじゃ!ニコよ。また会おうの?」
「あぁ本当に助かった。無事帰れたらまた宴会を催してやる。」
「ウラン?気を付けて帰ってね!」
「死なないわよね?高いわ・・・ギャアァァァァァァ!!」
ウランの合図で俺はベネチアンマスクを装着してタルトと一緒にライネンの街に向かって飛び降りる。
アンジーが大絶叫しているので舌を噛まないか心配だが、タルトに任せておけば大丈夫だろう。
俺はエアーバッシュを発動してミノタウロスの牛舎へと向かう。
どうやらライネンの街での戦闘は精霊教会付近のようで牛舎付近は平和そうだが、まずは自分の眷属達の無事の確認が先決だ。
そしてどうやっているのかは全くわからないがタルトは空を駆ける俺の後ろを飛んでいるので問題無さそうだ。
「チョッ!火球が飛んで!ギャァァァァァ!」
「本当に煩いですね・・・」
俺は念のために飛んで来る魔法を避けながら高度を下げているのだが、タルトはお構い無しに魔法を突っ切っている。
結界で全く無傷だが、背負われているアンジーは白目を剥いて気絶している。
折角の美人が台無しである。
「師匠。洗浄魔法をお願いします。」
「なんだ・・・わかった。」
地上に降り立つとアンジーを放り投げながらタルトがお願いをして来る。
何があったのかとタルトを見ると、腰の辺りがびしょびしょになっているので、アンジーがあまりの恐怖にタルトの背中の上で粗相をしたようだ。
それ以上は何も言わずにタルトとアンジーに洗浄魔法をかけてやる。
「ありがとうございます!アンジーは置いといて、ミノタウロスの様子を見に行きましょう!」
「そうだな。俺に気付いたのか中が騒がしいから安心させてやろう。」
「そういえば師匠?なぜマスクをしているのですか?」
「顔をジロジロ見られるのは嫌だからな。まぁ正体がばれているから無意味なのだが気分の問題だな。」
俺が牛舎の結界を開けているとタルトが尋ねて来る。
別に意味は無いのだが、強いてあげるとすれば注目を浴びていてもマスクをしていれば俺の顔を認識出来る人間はいないので少し安心出来るからだ。
俺とアランが協力して張った結界を開いて二人で牛舎の中に入ると待ち構えていたミノタウロス達に囲まれて盛大にもみくちゃにされる。
俺の隣を歩いていたタルトはいつの間にか三歩ほど後方で立ち止まってもにくちゃにされる俺に笑顔で手を振っている。
半年振りの牛舎をら確認するが、ミノタウロスの数がレタス達の三体に加え六体に増えているので大分牧場らしくなってきてるようだ。
「ぶもぉぉぉぉぉぉ!!」
俺がもみくちゃにされているとミノタウロスの雄叫びが聞こえて、冷静さを取り戻したミノタウロス達が一歩下がって人間のように跪く。
突然の出来事に呆気に取られていると一体の雌のミノタウロスが近づいて来て恭しく跪いて一鳴きする。
この人間臭い仕草をするミノタウロスはレタスで間違いないだろう。
「レタス久しぶりだな?元気だったか?」
「ぶもっ!」
「それにサボテンとダイコンも元気そうで何よりだ。」
「「ぶもっぶもっ!」」
俺が声をかけると三体とも嬉しそうに鳴き声を上げる。
どうやらミノタウロス達にはまだ被害は出ていなさそうなので一安心だ。
「ぶもっ!ももももっ!」
「師匠?彼女は私も我々を恐がらせた不埒者の退治に参加したい!っと言ってますよ?」
タルトはミノタウロスの言葉がわかるようだ。
それにも驚いたが、先程の数音の短い鳴き声にそんなたくさんの意味が含まれている事にも驚きだ。
「レタス?お前はみんなを守れ。」
「ぶもぉぉぉぉ・・・」
「私役に立って見せますのにぃぃぃだそうです!」
「この戦いが終わったらお前を王都に連れて行く事も考えるから今は仲間を守る事に集中してくれ?」
タルトが言葉を理解出来ると言う事は、レタスは理性のある魔族という事になるだろう。
さすがに魔族を周りのミノタウロスと一緒の扱いをしては可哀想だ。
王都へと連れ帰るか、それが無理ならレタスの扱いを見直すべきである。
「ぶもっ!ぶーっも!」
「了解しました!そこの雌よりも役に立ちま・・・それはありえません!」
「ぶもっぶもっ!」
「牛の分際で言いますね?解体して食べますよ?」
「ぶもももももも!」
「煩い!胸が大きければ良いというものではないのです!」
なにやらレタスとタルトが喧嘩を始めるのだが、生憎レタスの言葉を理解出来ない。
だがしょうも無い喧嘩をしているのはわかる。
中断しても全く問題は無さそうなので無視して指示を出す。
こういう時は下手に仲裁をするよりもビシッと指示を出せば治まる事を学んだのだ。
「ではレタスはここで仲間を守れ!タルト行くぞ?」
「ぶもっ!」
「わかりました!」
俺の言葉にレタスは敬礼をしながら鳴き、タルトは足取りも軽やかな様子で牛舎の外に向かって歩いて行く。
レタス達に手を振りながらタルトの後を付いて牛舎を後にする。
「アンジーさっさと起きなさい!」
「っぷあ!ここは!?もう魔法に突っ込まないのね?」
外に出るとタルトが魔法で作り出した水をかけてアンジーを覚醒させていた。
ビショビショになったアンジーは辺りを確認して地上に降り立った事を確認して胸を撫で下ろしている。
「あぁ、その代わり戦場に突っ込むぞ?」
「そっちなら大歓迎!大暴れしてやるんだから!」
ビショビショのアンジーを魔法で乾かしながらいうと、アンジーは待ってましたとばかりにファイティングポーズをしてヤル気満々な様子だ。
タルトも魔王の手斧を取り出して準備万端なので俺も刀を取り出して三人で戦闘中の教会へと向かう。




