第二百六話 何かあったときの集合場所ではないのだぞ
気持ち良く眠っていると窓から差す光に当てられて目を覚ます。
目を開けるといつの間にか日が昇っているようだ。
それどころか光が差す方向から考えてもう昼近いようだ。
「今日から始業式なのに大寝坊だな。」。
だが大寝坊したにしてはそこまで寝た気はしないし、タルトとアンジーも一緒に寝坊したという事にかなりの違和感がを感じる。
だが日が昇っているのは事実なので、とりあえずタルトとアンジーと話をするべくリビングに行くと二人も同じように不思議そうな表情で部屋から出てきた所だった。
「師匠申し訳ありません!大寝坊しちゃったようです!」
「今・・・十時だわ。」
「アンジー・・・時計なんて持ってたのか。」
タルトは俺に頭を下げ、アンジーはマジックバッグから時計を取り出して今の時刻を教えてくれる。
時計はかなりの高級品なのでアンジーが持っていることに驚く。
「今はその様なことを行っている場合ではありません!師匠は今からでもすぐに学校に行かねば!」
「待って?外の景色に違和感がない?」
「そうだな。人通りは無いし、何よりも店が閉まっている。」
タルトは慌てて俺の制服を用意して着替えを促すが、アンジーの言葉に冷静に外を見ると違和感だらけだ。
とりあえず外に出て空を見上げるが太陽が真上で輝いていている。
普通の昼間である、ただ何かはわからないが違和感を感じる。
「
「師匠!あれは太陽ではありません!魔法です!」
「ねぇ?少しづつ大きくなってない?落ちてきてるって事?」
「安眠妨害も甚だしい。何か意図があるのかもしれんから俺達だとばれないように消してやろう。」
タルトの竜の目があの太陽は魔法で作り出した偽物であると見抜いた。
全く寝た気がしないので、今は夜の十時と言われたら納得である。
どういう意図で自然の摂理に反して夜の世界を照らしているのかは知らないが、さっさと寝たいので俺達の仕業とわからないように処理させてもらおう。
「えっとですね?あの太陽は薄い結界によってなんとかあの形を保っているようですから、強めの衝撃を加えれば結界が破れて崩壊すると思います!」
「どうするの?あんな距離まで魔法は届かないわよ?」
「下から打ち上げると届かないだろうな?アンジー制御は任せた。」
タルトの分析によって予想よりも簡単に処理出来そうだ。
魔法は人によって差があるが、魔力を体から離して扱うのが苦手な俺で約三百メートル。
得意なアンジーで一キロが限界の射程距離だ。
アンジーの言う通り下からの打ち上げでは、重力に逆らうので魔法の有効射程距離は普段の半分以下だろう。
だから魔法を打ち上げるのでは無く、太陽の更に上から魔法を落とせばいいのだ。
アンジーの手を握って地上の滅びを発動する。
後始末の事も考えて遥か上空の空気を集めて圧縮して落とす。
「あぁ、そういう事ね?・・・ここね。」
アンジーはすぐに地上の滅びの特性を把握して太陽の近くで地上の滅びを爆発させる。
俺は体から離れた場所の魔素を操作するのは苦手なので、得意なアンジーに任せたが大正解だ。
上空に浮かんでいた太陽の結界は地上の滅びの爆発によって壊れすぐに魔法を崩壊を始め、大爆発が起きる。
大爆発は空気を圧縮した事によって真空状態になった上空方向へと広がって行き、そのまま爆炎は雲の上を広がって行き地平線の向こうまで空を焼きながら世界を照らして行く。
夜空に浮かんでいた雲が炎によって照らされとても綺麗な景色で思わず目を奪われる。
「よし。俺の予想通り地上への被害は無いな。タルトは見事な分析だしアンジーは見事な制御だった。」
「さすがは師匠です!」
「打ち上げるんじゃなくて落とすとはさすがはリーダーね。」
「さ。俺達だとばれないようにさっさと寝よう。」
「はい!」
「途中で起こされるのはもうこりごりだわ。」
爆炎が完全に見えなくなるまで見ていたかったが、誰かに目撃されては困るので三人でいそいそと部屋に戻って寝直す。
「んーっ!やはり寝覚めはこうでなくては駄目だな。」
翌朝目覚めて伸びをしながら率直な感想が漏れる。
やはり変な時間に起こされるのではなく、いつも通りの時間に目覚めるのはとても気持ちがいい。
リビングに出て朝食を作り始める。
「師匠おはようございます!」
「ふあっ・・・おはよー。」
朝食を作っていると元気いっぱいのタルトと生欠伸をしてまだ眠たそうなアンジーがリビングへとやってきて朝食の準備を始める。
二人がテキパキと準備をしているとノックの音がしてタルトが応対に行ってくれる。
こんな時間にやってくる人物といえばアランだろう。
「お邪魔しまぁす。」
「新しいメイドさんがおるんじゃな。じゃけどなんで下着姿なんじゃろ?」
「ロジェ?目つきがいやらしいわよ?ニコの学友のターニャです!よろしくお願いします。」
「そんなつもりじゃないんですみません!同じくロジェです!」
これは予想してなかった、ターニャとロジェが朝食をたかりに来たようだ。
久々の再会なので相手をしたいのは山々だが朝食を追加しなければならないので大忙しだ。
アンジーに服を着るように目配せをして、タルトに二人の応対を任せる。
「出来たぞ。」
「では失礼致します。」
「我々に任せてご主人様はお席にどうぞ。」
俺が声をかけると感情表現が乏しいメイドバージョンのタルトとアンジーがそそくさと配膳を進め、朝食が始まる。
「ねぇねぇ?昨夜突然昼間のように明るくなったのって何だったのかな?」
「あれじゃろ?ハイゼン王国からの攻撃じゃろ?」
「そうだったのか?俺達は寝ていて気付かなかったな?それよりも二人は実家に戻らなくていいのか?」
「昨日王都にいる姉さん達と相談したけど、実家からは何も音沙汰無いしあたし達は王都にいろって事なんだと思うわ?」
「わしは・・・その・・・商人じゃからのぅ?ニコとの親交を深める方を優先した。親にもその旨を書いて手紙を出したけん大丈夫じゃろう。」
「・・・そうか。好きにしろ。」
朝食を食べながら三人で話をしていたのだが、ターニャは戦争の話は知っていたが、俺の賞金首の話は知らなかったようでロジェの言葉を聞いて意味がわからないと二人で話しこみ始める。
ターニャは時折俺とタルトの顔を見て顔を青褪めさせている。
そんな事を考えていると再びノックの音が聞こえてタルトが応対に動く。
「いやぁ!この部屋は快適な温度でありがたい!」
「ニコおはよう!会いたかったよ!」
「おはようサミュエル。俺も会いたかったぞ?」
アランとサミュエルがやって来た。
予想していたので二人の分は最初から余分に作っていた。
アンジーがテキパキと二人の朝食を配膳し始める。
「アンジーありがとね?外は昨日起こった謎の大爆発の影響で異常気象だけどこの部屋は別空間ね?」
「そうですね。ですが王都が滅ぶかの瀬戸際だったのにこれくらいで済んだのは僥倖ですよ?」
「そんな事があったのか?危ない所だったな。」
「そうですね。御主人様の言う通りです。」
「・・・・・・」
アランとサミュエルの会話に俺達は適当に相槌を打っておく。
どうやら昨日の魔法はエスガルド王国を攻撃するためのものだったようなので、俺達がした事は結果オーライだったようで一安心だ。
そしてアンジーは俺達の会話に一切の興味を示さず、朝食を黙々と食べ進める。
「ふーん?まぁいっか!それでね?これから城は戦争の準備で忙しくなるの。」
「ふむ。それは大変だ。」
「んでもってあたしも色々と飛び回らないと駄目なの。」
「ふむ。それも大変だ。」
「って事でサミュエルはここに住みます!」
「ふむ。意味がわからん。」
アランは楽しそうに笑いながら素っ頓狂な事を言って来る。
「(サミュエルがこの部屋に住むだと?なぜそうなるんだ?)」
俺が突然の言葉に固まっていると再びノックの音が響きタルトが応対するために立ち上がって玄関に向かって行く。
「成程!これならば殿下も安心じゃな?ふぇっふぇっふぇっ!」
「さすがはタルトじゃ!腕を上げたものじゃのぉ?」
「我々では手の出しようがありませぬなぁ?」
「ちっ!爺が!負けてんのに笑ってんじゃねぇ!」
今度はフィルとウランそしてレナエルとオーギュストがやって来た。
フィルとウランが来るのも予想外だが、レナエルとオーギュストは更に予想外だ。
「・・・お前ら何をしに来た?すまんがお前らの椅子も朝食も無いぞ?」
「このタイミングで来て朝食があるとは思っとらん!それにわしは地べたで十分じゃわい!」
「わらわもじゃ!」
「オーグ!」
「かしこまりました。」
フィルとウランは床に直接座り込み、レナエルはオーギュストを四つん這いにさせてそれに座る。
アンジーがそれを見て目を輝かせながらポケットからメモを取り出してなにやら書き込んでいるが、碌なものでは無いだろう。
「まぁいい。何をしに来た?」
「学校はしばらく休校だ。生徒はおらんし、何より異常気象でまともに生活も出来んからな!そして昨夜の話を聞きに来た。」
「わらわも昨夜の極大魔法が気になって朝一で飛んで来たのじゃ。」
「あたし達も昨日の太陽をどうやって処理したのか聞きに来たんだよ!」
フィルとウランは楽しそうに言って来るが、レナエルは大変ご機嫌斜めのようだ。
というかレナエルががさつな本性を出している時に機嫌がいい時を見た事が無い。
そしてどうやら昨夜の魔法を処理したのが俺達だとばれているようだ。
見つからないように大急ぎで家に戻ったりしたのに全て無駄な行動だったようだ。
観念して昨日の事を出来る限り漏れなく丁寧に話す。
勿論タルトの竜の目などの魔族と繋がりそうな話は伏せる。
「了解した!オーグ。」
「はいっ!」
俺が話をし終わると全員が一様に黙ったまま考え込む中、レナエルとオーギュストはすぐに再起動してそそくさと部屋から出て行く。
他の人間は再起動するまで時間がかかりそうなのでタルトとアンジーと一緒に食後の紅茶をすすりながら待つ。
「承知した。殿下?またお会いしましょう。」
「サミュエル?この部屋なら安全なはずだから一歩も出ちゃ駄目よ?」
「わかりました。」
続いてフィルとアランがサミュエルに声をかけながら部屋から出て行く。
俺はサミュエルがこの部屋で暮らす事を了承したつもりは無いのだが、口を挟む間も無く二人は部屋から出て行ってしまった。
「サミュエル?お前を匿うのは依頼なのか?」
「戦争が終わった暁には依頼として処理してもいいよ?」
「それならばどちらに依頼するんだ?」
「勿論ルドルフだよ?」
「ならば宝物庫を開ける準備をしておけ?」
「おそらく父上はそのつもりだろう!戦争に勝てば、というのが大前提だけどね!」
「ならば引き受けよう。」
サミュエルの言質を取れた。
もう断わるという選択肢は無さそうだしこの条件が限界だろう。
タルトはまた宝物庫に入れるという事に目を輝かせて喜んでいるので問題無いだろう。
「ね、ねぇ?ニコってルドルフ様なの?」
「やっとこっちに戻ってきたか。そうだ、俺がルドルフだ。」
「マジか・・・」
ターニャは長い沈黙を経てやっと口を開くのだが再び考え込んで固まってしまう。
仕方ないのでタルトにお替りの紅茶を注いでもらってゆっくりとウランを交えて談笑する。
「なぁ?牛の鳴き声が聞こえないか?」
「聞こえませんがどうなさいました?」
談笑しているとミノタウロスの鳴き声が聞こえた気がしたのでみんなに聞くのだがみんな首を横に振る。
「そうか・・・なんだか助けを求めるような鳴き声が聞こえたのだがな・・・」
「ひょっひょっ!ニコ?お主牛の鳴き声を出す眷族はおるかえ?」
「眷属なのかはわからんが、ミノタウロスを捕まえた事はある。」
「眷属とは魂で繋がっておるでの?そやつらが魂から助けを求めておるのじゃろうの?」
俺の耳が正常であり、ウランの言葉が本当であればライネンで何やら問題が起きているようだ。
「行くのならば片道切符じゃが送ってやるぞえ?」
「師匠?行きましょう!」
「殿下のお世話はニッグ達にさせればいいでしょ?この部屋から出なければ安全でしょ。」
「なら行ってみるか。サミュエル?すぐに九番隊の部下達が来る。ターニャとロジェの事は任せた。」
ミノタウロスの鳴き声は今も聞こえる、俺は余程心配そうな顔をしていたのか、ウラン達が俺の背中を押してくれるのでライネンに行ってみる事にする。
今も聞こえる牛の鳴き声が俺の勘違いでも今日中には帰ってこられるだろう。
アンジーがニッグ達のいる詰め所へと走って部屋から出て行くので、サミュエルに一声してからウランとタルトと三人で部屋から出る。




