第二百五話 アレクの苦悩
どうも正しい日本語がわからなくなってきた、エセ日本人です。
今回二話に分けるととても中途半端な文字数になったので、少し長めです。
よろしくお願いします!
時間は少し戻り、広報紙を握り締めたニッグが九番隊の詰め所へと走っている頃、エスガルド王城内も騒然としていた。
俺は足取りも重く跪く大臣達の隣を歩いて玉座に座り口を開く。
「フィルどうなっている?」
「は!ハイゼン王国からの宣戦布告も無く、情報と言えば精霊教会の発行した広報のみ。アルトリウスの街は大混乱です。」
フィルは俺の言葉に跪いたままハキハキと答える。
俺はいつも通りでいいぞ?っと言おうと口を開けるのだが、言葉よりも先にため息が漏れ出てしまう。
「はぁ・・・フィル!今は近しい者しかいないから普通にしてくれ!」
「わかった。」
今は事態が事態なので、本当に信用出来る者のみを呼んでいる。
フィルは重々しい口調をやめていつものように軽く返事をする。
「アル、騎士と貴族の様子はどうだ?」
「はっ!騎士団は離団希望者が手続きのために本部で列を成しており、おそらく他の街の支部でも同じ状況だと思われます!貴族は皆我先にと家族を集め各々の領地に戻っております!」
アルフォンスの報告を聞いて頭を抱えている。
朝一の精霊教会が出した広報紙で今の状況だ。
昼を過ぎれば、そして明日になれば今以上に貴族達は王都から離れ、刻一刻と我が国の状況は悪くなるだろう。
貴族達も自分の領地に戻って軍備を進めると言っているが、果たしてどれだけの貴族が本気で軍備を進めるのだろうか?
恐らく半分以上の貴族は精霊教会がついているハイゼン王国の勝利を信じて疑わず、自分の領地を守るためにハイゼン王国に味方をしてお目こぼしをお願いするつもりだろう。
「わしは・・・どうすればいいのだろうか?」
「兄上!こんな時だからこそ兄上がしっかりしないと駄目でしょう!」
「そ、そうだな。実の弟が王都に残ってくれて本当に心強い。」
弟のへファイが領地の軍備は息子達に任せて王都に残ってくれた。
どの貴族も信用できない状況において血を分けた弟が近くにいてくれるのは本当に心強い。
その後も会議を続けるが精霊教会の広報によって報じられたハイゼン王国との開戦という情報によってハイゼン王国へと逃げる人々の報告ばかりで頭を抱えるばかりだ。
「フィルよ・・・俺は・・・俺は・・・どうすれば?」
全員が出て行き、フィルと二人になった玉座の間で頭を掻き毟りながら問う。
おそらく今の俺は王として臣下に見せられない顔になっているだろう。
「ふぇっふぇっふぇっ!実質精霊教会が相手だからなぁ?そりゃみんな逃げるわなぁ?」
フィルはいつも通り陽気に笑いながら言っているが、俺は全身から血の気が引き今にも倒れたい気持ちで一杯である。
いっその事このまま倒れてアンデッドにでもなれれば王位は弟のへファイに譲られ、悩む事も無く世界を漂う存在となれるのだろうがそれは叶わない願いだ。
「アレク?いい報せもあるぞ?」
「なんだ?良い報せとはなんだ!?」
フィルは腰のマジックバッグから紙を取り出し始める。
今日起きてから何百回も穴が開くほどに見た広報紙だ。
フィルは笑顔のまま広報紙の下のほうを指差す。
そこは賞金首の広報欄だった。
そこにはニコ(ルドルフ)君とタルト君が白金貨百枚と書いてあった。
思わずフィルから広報紙を奪い取って食い入るようにニコ君とタルト君の記事を何度も何度も読み返す。
「(ルドルフの正体がばれてしまった・・・ニコ君が我が国から去ってしまう・・・)」
長年の友人であるフィルから死刑宣告をされた気分だ。
なぜフィルはそんなに平然としていられるのか不思議でならない。
「お前の考えはわかる。だが心配するな!ニコは出て行かん!」
「なぜそんな事が言える?」
「ニコは精霊教会がエスガルド王国を支配する事を是とはせん!ふぇっふぇっふぇっ!」
「なぜ言い切れる?」
フィルは笑い続けて俺の言葉に答える気は無いようだ。
長年の付き合いだからわかるがフィルがこういう時は大抵俺に言えない事がある時だ。
「まぁお前が言うなら信じよう。」
「尤も率先して戦争に参加するかはわからんがな?ふぇっふぇっふぇっ!」
フィルとアランも精霊教会に賞金をかけられている。
それも二人共ニコ君程の額では無いが、もし捕える事が出来れば精霊教会への貢献値は計り知れない。
エスガルド王国から出ようものなら国レベルで捕縛に動く程度には重要人物なのだ。
つまり何が言いたいかと言うと、フィルとアランはエスガルド王国が無くなって最も困る人間だから信用出来ると俺は思っている。
「だが君達四人の戦闘能力なら本気で亡命すれば精霊教会は受け入れるだろう?」
「ふぇっふぇっふぇっ!まず奴隷契約はさせられるだろうな?わしらがそこまでして生きたい人間だと思うか?」
「無いな。」
「そういう事だ!だから最後まで足掻けるだけ足掻くさ!とは言え各自最後の逃げ場所はある。それだけは覚えておけ?」
フィルの言う通り二人とニコ君達が本気で亡命をすれば奴隷契約をして聖騎士になるとか、そんな条件で偽の死体を用意するなりして受け入れられるだろう。
それを受け入れてまでこの四人が生きたいと思うのか?っと問われれば答えは決まっている。
絶対にありえないっだ、タルト君はわからないが少なくともフィル・アラン・ニコ君の三人はそうなるくらいならどこかに雲隠れするだろう。
それも一切の痕跡を残さずに元々いない人間と思えるくらいに完璧に消えるだろう。
「さて!考えても仕方が無い!我々は残った人間でどうにか勝つしかないだろう?」
「そうだな。何からするべきか・・・」
「まずはエスガルドに残った人間を確認して現状の戦力を把握だな?そして大急ぎで軍備を整えつつハイゼン王国からの宣戦布告の使者を待てばいいんじゃね?」
「軽いっ!軽すぎるっ!」
「ふぇっふぇっふぇっ!気負いすぎてはいい結果は出んぞ?」
「そうだな?昼食を食べようか。」
フィルの言う事も尤もだ。
玉座の間の外に控えていた使用人に昼食の準備を申し付けてフィルと一緒に自分の部屋へと行き昼食を食べる。
「陛下!ロヴネル家の亡命を確認致しました!」
「わかった。行ってよし。」
「陛下!アマーティ商店の亡命を確認致しました!」
「わかった。行ってよし。」
「陛下・・・」
フィルとの食事で少し落ち着いたと言うのに昼からの報告は亡命の報告ばかりだ。
唯一の救いといえば亡命者の多い南部地域にあって、我が国の盾でもある要塞都市ライネンを守るマルメル家の亡命の報告を聞かない事である。
ライネンでハイゼン王国の侵攻をせき止めている間に国内を平定してまとめる事が出来ればこの戦争も勝ち筋が見えてくる。
「(いや。まとめられなければ蹂躙される未来しかない・・・)」
そんな事を考えながら次々やってくる兵士達の報告を上の空で捌いて行く。
「陛下!騎士達が約千名の兵士達を伴って蜂起しました!」
「わかった。行って・・・良くない!なんだと!?」
「蜂起した騎士と兵士達はいずれも手練れの者達ばかりのようです!」
兵士達を捌いていると、アルフォンスが報告に来る。
今までの兵士達の流れで捌きそうになり、慌てて呼び止めて詳しく話を聞く。
どうやら蜂起した騎士と兵士達は騎士団本部を乗っ取り、城へと攻め込むべく準備をしているそうだ。
「・・・収められるか?」
「一両日中には片をつけて見せます!」
アルフォンスは自信満々の様子で言うので任せる。
「父上は動かれないのですか?」
いつの間にか隣に座していた息子が心配そうに声を掛けてくる。
こういう時に動くのは下の人間で無ければならない。それに的確な指示を出すためにも全体を見る事が出来る場所にいなければならないのだ。
「王は臣下を信じて命ずるのみよ!今のはアルフォンスならば成し得ると信じて命じたのだ。」
「成程!勉強になります!」
ぶっちゃけ?今の自分の戦力とか把握出来てないし?蜂起したって言われても?その規模も把握出来ないし?丸投げなんだよね?
本心で言えば今すぐ泣き叫びたいのを我慢して、威厳を保って王らしくしているのだ。
少々投げ槍になる権利くらいはあるはずだ。
「(ハイゼン王国の独立戦争が終わったから王位を譲ってもらったのに俺の代で戦争とかマジ勘弁!だからヘファイが王をしろって言ったんだ!)」
そして心の中で叫ぶ。
だが息子と臣下の前なのだ。威厳のある王として外には一切漏らさない。
長年の王生活で身につけたスキルの一つだ。
「報告します!エスガルド軍と反乱軍が戦闘を開始しました!フォルナ騎士とウィンストン騎士そしてクリスティアナ騎士の活躍により騎士団本部の制圧は着実に進んでおります!」
「ウィンストンは団長の息子だな?だが残りの二人は聞いた事無いぞ?」
「私も初耳だったので団長に伺った所、二人共ウィンストン騎士と同じく共金級冒険者ルドルフによって訓練を受けた人物だそうです!」
「成程。御苦労!」
「はっ!失礼致します!」
伝令兵は元気良く返事をして去って行く。
「父上?今の報告で何がわかったのでしょう?」
「いいか?わざわざ報告に来ると言う事は予想以上に制圧が進んでいるという事だ。」
「成程。そしてわざわざ名前を言うという事は目覚ましい働きをしていると言う事ですね?」
「その通りだ。」
本当に自慢の息子だ、俺の言葉ですぐに先程の伝令の意味を理解してくれる。
だがそれよりも名前を上げられる程の働きをしている人間は全員もれなくニコ君が教えた人間だという事に驚きを隠しきれない。
「陛下!城内で多数の貴族が蜂起しました!フィル校長と近衛兵が応戦しております。」
「んむ。フィルがいるなら問題無いだろうが応援を向かわせろ!我らの守りは最小限でよい!」
城の中でも反乱が起きたようだ。
フィルがいるのなら大丈夫だとは思うが念のために応援を送っておく。
もしここを襲撃されたとしても余程のことがなければこの部屋にいる貴族達で対処出来るだろう。
「父上?報告が来ませんが大丈夫なのでしょうか?」
「サミュエルよ心配してはならぬ!こういう時こそ我々はどっしりと構えておらねば、皆に伝染してしまうぞ?」
「成程。」
最後の報告から一時間経つが伝令兵がやって来ない事に息子が心配そうに尋ねて来るので、出来る限り落ち着いた口調で答える。
恐怖や焦りと言った負の感情は一度伝染し始めると恐ろしい速度で広まってしまう。
ましてや今戦っている相手は事前に戦争の話しを聞かされ、今日のためにしっかりと準備をしたであろう反乱兵だ。全員間違いなく士気も高いだろう。
もし恐怖や焦りが広がれば今の戦局は引っくり返り、我が軍勢が押し返され防衛戦になる可能性もある。ここで我々が慌てる訳にはいかないのだ。
「報告致します!敵の中に勇者がいるようで、騎士団本部の入口に土魔法でバリケードを形成されました!只今全力でバリケードの排除をしております!」
「なぜ蜂起したのに時間稼ぎをするのだ・・・アルフォンスからの考察は聞いてないのか?」
「は!団長は今はまだ推察の域を抜け切っていないので事実のみを報告しろ!っと仰いました!」
「御苦労下がってよし。」
「は!失礼致します!」
伝令兵の報告に必死に考えを巡らせる。
水面下で色々な準備をした上で蜂起したはずだ。
普通なら決死の覚悟で城に攻め入り、蜂起した貴族達と合流して王である俺の所を目指すはずだ。
だが城の中の貴族達はフィルの目覚ましい活躍によって鎮圧され。
騎士達は騎士団本部を占拠しただけで防戦一方の様子だ。
絶対に何か・・・王と王子以外に別の目的があるはずなのだが全くわからん・・・こういう時こそ賢明な弟に助言を求めたいのだが、こんな時に限って姿が見えない。
「誰か!へファイを!へファイ・ムイワール公爵を見なかったか?」
部屋の中にいる人間に声をかけるが全員が首を横に振る。
この前の襲撃で王子を殺せなかったから精霊教会が戦争を始めたのだとしたら?
王子が死んで得をする人物は誰だ?
反乱軍のリーダーがまだ判明していない、これだけの人間を動かせる人物は誰だ?
ふとそんな考えが頭をよぎり、今の状況に当てはめて行くと最悪の状況が思い浮かぶ。
「おい!今反乱軍に加わっている者の家族は今どこにいるか今すぐに調べろ!わかる範囲で構わん!とにかく急げっ!」
慌てて自分の考えは間違えている事を確認するためにも近くにいた文官に命令を出す。
隣の息子が不安そうな視線を送ってくるが、アルフォンスと同じで推察の域を出ていない。
無駄に不安を煽るような事を言うべきではない。
俺は自分の推測が間違えている事を願いつつ、静かに文官からの報告を待つしかないのだ。
「陛下お待たせ致しました!確認できている反乱軍の家族を調べました!全員消息不明です!」
「やはりか!アルフォンスに伝令だ!騎士団本部は囮で本命は別だ・・・とにかく異変を探せ!」
最悪な事に今の報告で俺の推測は当たっている可能性が一気に高くなった。
おそらく反乱軍に加わっている者達は自分の命と引換えに家族の身の安全・・・どころかハイゼン王国内での確固たる地位も約束されているのかもしれない。
それならば手練れの者ばかりで一兵卒がいない事の説明も付いてしまう。
そしてヘファイが見えない事も考えたくない話だが・・・更に最悪の状況が頭をよぎる。
俺の言葉で部屋の中にどよめきが走り全員が浮き足立つが、今はそれを治めるよりも伝令を出す方が先決だ。
「早く行け!」
「かしこまりました!」
伝令兵が走って行き。
俺は何気なく外を眺める。
突然の反乱に時間を忘れていたがすっかり日が沈み、反乱の事など知らぬ王都民の一日が終わり、色とりどりの光を放っていた鮮やかだった街の光が少しずつ消えて闇夜に染まり始めたところだ。
俺は現実逃避も兼ねて消え行く光をぼんやりと眺めていると、突然街が真昼のように明るくなる。
「やはり・・・気付くのが遅かったか・・・」
慌ててテラスに出て光の正体を確認するが沈んだはずの太陽が空に昇っていて世界を明るく照らしている。
そして少しづつ大きくなっているの気がする・・・違う落ちて来ている。
どうやら本命はこの王都を丸ごと破壊する極大魔法を発動する事で、騎士達と貴族達の蜂起は目晦ましだったようだ。
「げ、迎撃だ!」
「待て!結界があるから大丈夫だろう!」
「馬鹿言え!あんな質量の魔法がぶつかれば王都の結界など薄氷の如くだわ!」
「ではすぐに逃げようぞ!」
「あんな極大魔法の範囲から逃げられるものか!」
今まで一緒に指揮をとっていた大臣達が慌てふためき始める。
私も同じように喚き散らしたいのだが、こういう時こそ落ち着いた対応をしなければならない。
「直ちに魔法師を屋上に集結させ太陽を迎撃せよ!そして王都民を地下に避難させるのだ!」
「「「かしこまりました!」」」
今この場に伝令兵はいないので、大臣達が自ら大慌てで部屋から出て行って伝令に向かう。
おそらく地下の避難所に逃げ込んでも太陽が激突しては意味はないだろう。
「サミュエル!この国の最後を一緒に見届けたいか?」
「はっ!我が命はエスガルドと共に!」
息子も逃げ場は無いのだと悟っているようだ。
二人で魔法師を集結させている屋上へと向かう。
「陛下!殿下!危険ですので地下へお入りください!」
「馬鹿者!こういう時こそ前に出て指示をしなくて何が王だ!」
「そうです!それに微力ですが我々も迎撃に参加します!」
魔法師を臨時でまとめていたバルテが声を掛けてくる。
地下に逃げて何も分からずに死ぬくらいなら最後は息子と一緒に最前列で最後まで醜く足掻きながらエスガルド王国の最後を見届けるとしよう。
「バルテ!バルテバルテ!あれどうすんの?」
「どうもこうもありません。出来る限り遠くで破壊するだけです。」
「遠いなぁ・・・破壊出来ても余波で死にそうだなぁ?」
「破壊出来なかったら確実に死にますよ?」
後ろからアランが走って来てバルテと一緒に話しながら屋上へと歩いて行く。
「(王としての職務に追われてサミュエルに親らしい事をしてやれてない事が唯一の後悔だが良い人生だった。)」
「父上?」
今更だがそんな事を思って息子の手を握る。
手を握るのは赤子の時以来なので、息子にとっては初めての感覚なのだろう少し恥ずかしそうだ。
いつの間にか男の手になった息子を誇らしく思う。
最初で最後の王では無く、父親としての行動が手を握るだけとは我ながら情けない話だが、もし生き残ったらもっと父親として接しなければ・・・
死を覚悟したつもりだったが、所詮はつもりだったようだ。
そんな事を考えながら息子と二人で屋上へと向かう。




