第二百四話 金クラスの部屋
王都を歩いていると俺達を見た全員がヒソヒソと話し始め、擦れ違った人達全員が振り返って二度見してくる。
今朝賞金首になったばかりなのに、名誉勲章騎士のルドルフが九歳の少年だったという事でかなり有名になってしまっているようだ。
しかも神銀級のアランを隣に、そして美女二人を後ろに連れているので更に注目の的になっている。
タルトとアンジーを連れて歩くようになって注目される事には慣れたつもりだったのだが、自分が注目されるのは初めてなのでとても居心地は悪い。
「ニコってば有名になったねぇ?あたしよりも有名になったんじゃない?」
「茶化すな。」
アランが俺に向かってぎらついた視線を送ってきている冒険者達と思われる荒くれ者を見ながら言って来る。
「まぁ最初の一ヶ月は襲撃とかあるかもね?でもきっちりとぶっ飛ばせばみんな諦めるよ?」
「ちっ!面倒だな・・・」
おそらくアランの正体がばれた時は賞金目当ての人間達に襲われたようだ。
そして俺もこれからしばらくはそうなるようだ。
「気をつけなよ?風呂の時とか寝てる時とか無防備な時を狙ってくるから。」
「常套手段だな。」
その後も歩きながらアランはどんな襲撃を受けたのか聞くが、襲撃手段自体は普通のようだ。
もし部屋の入口に絶炎並の高火力の魔法で防御する間も無く殺されたらと心配していたのだが、「せめて首が残ってないと賞金は出ないから!」っと一笑に付されてしまった。
そのまま歩き続け、本校舎の敷地に入る。
本校舎に来たのは始めてだが、校舎と思わしい建物を通り過ぎると驚く事に商店や料理店まであり、一言で表現すると王都の中に小さな町が入っている。といった感じだ。
そしてアランの言った通り学生のほとんどが自分の領地に呼び戻されているのだろう。
学校の敷地内に入った途端に人がいなくなってとても歩き易い。
「御主人様こちらでございます。」
「どうぞお入りください。」
キョロキョロと学校の敷地を歩いていると寮に着いたようでタルトとアンジーが一つの建物の扉を開けて中へと促してくれる。
アランと一緒に部屋に入るとアンジーは手早く全裸になってマジックバッグに入れていた家具を配置し始め、タルトは部屋に結界を展開する。
アンジーが変態なのが少し不満だが、これ以上は高望みとも言えるほどに優秀な部下達で本当に助かる。
「ほう?キッチン付きのリビングに・・・部屋が三つも?」
「まぁ金クラスになれる生徒なんて大概貴族だし、貴族はまず使用人がいるからねぇ?あと三つの扉の内一つはお風呂とトイレだから。」
どうやら部屋は二つのようだ。
それにしてもさすがは金クラスだ、風呂まであるとは驚きである。
「アンジー?そっちの部屋をタルトと一緒に使え。俺はこっちの部屋を使う。」
「わかったわ?変わりばんこにそっちの部屋で寝ればいいのね?」
「殺されたいのなら入って来い。」
「・・・引越しを進めるわ。」
俺が殺気を放ちながら言うと、アンジーは気持ち悪い顔で身震いしながら自分達の部屋へと入って行く。
タルトが汚物を見るような目でアンジーを見ているが、朝起きるとアンジーが冷たくなっていた、などと言う事態が怒らない事を願うばかりだ。
「ねぇニコ?あなたの料理食べたいなぁ?」
「わかった。キッチンの性能も知りたいし作ろう、だがこれはどうやって使うんだ?」
アランに言われてキッチンに立つのだが、見た事も無い道具が並んでいてかまどが見当たらずに困惑してしまう。
アランが楽しそうに笑って俺を見ているが、さっさと教えて欲しい。
「魔導コンロ初めてなの?ここに火属性の魔石をセットするか、魔素を流すのよ?こっちは魔導蛇口だから魔石をセットするか魔素を通さないと水は出ないからね?」
「ほう?」
「魔石の魔素を導いて使う道具で魔導具ね?」
アランに言われた通りに火属性の魔素を流すとコンロから火が吹き出して、天井を焦がす。
そこまでの魔素は流したつもりはなかったのだが、どうやらかなり余剰だったようだ。
「大人しく火の魔石を使いな?それならいる分だけを魔導コンロが吸い取るから。」
「そうしよう。」
今まで魔導コンロという物を初めて知ったが、上手く魔力操作が出来れば安定した高火力を実現出来そうだ。
それに普段の鍛錬は自分の持っている魔素を出来得る限りの大きい魔力で操作する練習だ、これは小さな魔力の鍛錬に丁度良さそうだ。
その練習は後日火事にならないように処置してからする事にして、今日は大人しく火の魔石を使って料理をする。
「御主人様念入りに結界を張っておきました。」
「家具の設置も完了したわよ?」
「ありがとう。なら適当にアランとお茶でもしていてくれ。」
タルトとアンジーは俺の指示通りにアランと和気藹々とお茶を飲みながら話し始める。
一年生の時と違って部屋の中で料理が出来るというのはとてもありがたい。
もうこれ以上無いくらいに注目を浴びてしまったので、これからは遠慮無く金クラスを目指して行こう。
そんな事を考えながらアランの要望でワイバーンの唐揚げを揚げ続ける。
「出来たぞ。」
「来た来た!」
俺が作った料理を机に置くと、アランが我先にと料理を食べようと手を伸ばして殺気を放つタルトに腕を掴まれている。
「師匠より先に食べるのですか?」
「さっきまで楽しく話してたのに・・・お姉ちゃんショック!」
「(前に似た光景を見たな。)」
学習しないアランはタルトに容赦なく怒られていじけているが気にせずに配膳を済ませて夕食を始める。
俺が食べ始めたのを見たアランがタルトを気にしながら恐る恐る唐揚げを取って食べ始める。
そのまま四人で楽しく夕食を食べていると窓の外に冒険者が見える。
早速俺達を襲撃するつもりなのか、俺達の様子を伺おうと間抜け面で窓を必死に覗き込む冒険者を指差しながらタルトに訪ねる。
「タルト?あれはなんだ?」
「幻影の結界も張っているので、外からは真っ暗で何も見えないからでしょう・・・私の水竜の怒りでも割れない強度のものを張ってるので心配はありません!」
「目障りね・・・行って来るわ。」
タルトはかなり上等な結界を張ってくれたようだ。
タルトの水竜の怒りで割れないとなると、俺ではおそらく突破は無理だろう。
アンジーが溜息を吐いて冒険者達を始末しようと席を立つのだが、タルトに押さえつけられて椅子に座りなおされ、タルトが部屋から出て行く。
「何?なんで?あたしが行くって言ったのにタルト暴れたかったの?」
「お前が裸のまま出ようとするからタルトが変わってくれたんだ。気付け。」
「ちっ!人間社会は面倒臭いわね・・・」
「面倒臭いのは同意だが、せめて下着くらいは着用しろ。」
アンジーの人間社会が面倒臭いというのは同意だ。
だが知性の無い魔物でも服を着るものもいるというのに、知性のある生物なのだから服くらいは着て欲しい。
そしてタルトは数分で戻ってきた。
メイド服は一切汚れていないので冒険者が来ていた事を知らなければ戦ってきたとは気付けないだろう。
「タルトどうだった?」
「取るに足らない奴らでしたよ?とりあえず死なない程度にボコボコにして学校の敷地外に放り出してきました!」
「すまんな。助かる。」
「いえ!私の事を狙っていた輩の可能性もありますから!」
タルトは上機嫌な様子で元気一杯に答えてくれる。
なぜかアンジーは不機嫌そうに片肘を突いて料理を突いて遊び始める。
「アンジー?行儀が悪いからやめろ。」
「そうです!食材に感謝をしていれば絶対にしない、いや!出来ない事ですよ?」
「わかったわよ!下着を着るようにするから次はあたしに行かせなさいよ!?・・・別にあんたの役に立ちたいとかじゃなくてムシャクシャするから合法的に人間をボコボコにしたいだけなんだからね!?」
アンジーの言葉にアランが笑いを堪えている。
どうやら俺の役に立てなかったから不機嫌になっていたようだ。
頑なに裸にこだわっていたアンジーが下着を着るくらいには先程役に立てなかったのが悔しかったようだ。
アンジーはいそいそとマジックバッグから下着を取り出して着始める。
「ツンデレですね。」
「これはツンデレだな。」
「いい眷属捕まえたじゃん?」
タルトと一緒に下着を着るアンジーを見ていると、笑うのを我慢しすぎて顔を真っ赤にして涙目になったアランが言って来る。
アンジーは下着を着終わるとフン!っと鼻を鳴らして夕食を食べ始める。
不機嫌なアンジーと無邪気に笑うタルトが並んで料理を食べる姿は絵になる。
そんな事を考えながら夕食を食べ終わり、タルトとアンジーに食器洗いを任せて俺はアランに言われて気になっていた風呂を見てみる。
「これも魔導蛇口・・・しかも魔石を入れる穴が二個もあるだと?」
「上に水、横は加熱してお湯にするために火の魔石を設置するのよ?」
「成程、そう言えばこの魔石はどれくらいもつんだ?」
「毎日普通に使ってるだけなら・・・一年くらいはもつはずよ?」
「成程。それなら次の組分けまでは心配しなくて済むな。」
「ぶっちゃけ?属性魔石ってブッ高だから王子のサミュエルでさえも使ってなかったんだけどね?」
お湯を出して温度を確かめながら、話していると予想外の話が聞けた。
魔導コンロや魔導蛇口はこの国で一番偉い一族のサミュエルさえも使えない物だったようだ。
そうなると新たな疑問が浮かぶ。
「なぜ王子でも使えないような物を設置しているんだ?」
「金クラスに入った貴族の子供は無理をしてでも魔導具を使って見得を張るんだよ?」
「成程。サミュエルは見得を張らなかったんだな?」
「そうだね?ご飯はニコが作ってくれるからコンロも蛇口も必要ない!ってね?」
なんとも見栄よりも実益を取るサミュエルらしい話だ。
妙に納得していると部屋の扉が開いて裸のタルトとアンジーが入ってくる。
二人共風呂が余程楽しみなようで仲良くバスタブに寄りかかって湯加減を確かめたりしてキャッキャと騒いでいる。
「ここを捻ればお湯は止まるからな?お前らの力だと壊しそうだから、出来る限り優しく捻れよ?」
俺は一番風呂は二人に譲り、魔導蛇口の説明をしてお風呂セットを床に置いてアランと一緒にリビングへと戻る。
二人は何やら意外そうな顔をしていたが、バスタブは二人が限界の大きさだった。
それに女性達と一緒に入るつもりは無い。
昔にアランと一緒に入った気がするが、その時にはフィルもいたし大浴場だったのでノーカウントだ。
アランと一緒に食後の紅茶を楽しんでいると、美女二人が湯気を立てながら風呂から上がってやってくる。
次は俺の番だと風呂に入ろうと立ち上がると当然の様にアランも立ち上がって付いて来る。
「・・・一応聞く。帰るんだな?」
「今日はお・泊・ま・りっ!」
「タルトとアンジーのベッドにか?」
俺の言葉を聞いて前に一緒のベッドで寝たタルトがアランの後ろで嫌そうに手と首を振って無言の抗議をしているので余程嫌なようだ。
アランは俺に対して呆れた表情で溜息を吐きながら答える。
なぜそんな表情をされないと駄目なのかさっぱり理解出来ずとても心外である。
「一緒に風呂に入りながら説明するわ。」
「いい。帰れ。タルト御客様がお帰りだ。」
「かしこまりました!」
タルトは部屋の外へとアランの背中を押し始める。
アランは喚き散らしながら必死に抵抗しているが、タルトの力に負けてそのまま部屋から押し出される。
諦めの悪いアランはドアノブをガチャガチャと回して部屋に入ろうとしているが、タルトの結界によって扉を開く事が出来ないようだ。
俺はその様子を見て安心して風呂に入る。
広い大衆浴場の風呂もいいが、一人で入る風呂は格別だ。
しっかりと堪能して風呂から上がり三人で魔力の鍛錬をしてから別れて部屋に戻って眠りに着く。




