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第二百三話 賞金首あとついでに戦争勃発

タルトとアンジーそしてニッグ達の稽古をつける日々が続き始業式の前日となった。

寮への引越しはもっと早くに出来たのだが、みんなの稽古をつけるのに九番隊

の詰め所が都合よかったのでギリギリまで伸ばしたのだ。

タルトはめきめきと腕を上げ、素手での戦闘でも俺では敵わないレベルになったし、アンジーはタルトからメイドの所作も叩き込まれて準備万端だ。

ついでにニッグ達もタルトとアンジーに鍛えられて、前に見たセルジュとかいう金級冒険者にも勝てるだろうと思えるくらいになった。



「師匠!我々の荷物は全部まとめましたので、後は我々が新しい寮に行くだけです!」

「リーダーさっさと行くわよ?学校って所には色々な本があるんでしょ?」

「わかったわかった。わかったからとりあえずアンジーは服を着ろ。」

荷造りを済ませたタルトが声を掛けてくる。

最近文字を覚えて本を読むのにはまっているアンジーはとても楽しみな様子だが、残念な事に裸だ。

服を着てくれないと外出は許可出来ない。

百歩譲っても結界で見えないように誤魔化している家の庭が許容できる限界ラインだ。

アンジーは忘れていたようで何も言わずにいそいそと自分のマジックバッグから服を取り出して着始める。




「隊長!大変です!」

今度こそ九番隊の詰め所を出発!っと意気込んでいると食料調達に出ていたニッグが大慌てで入ってくる。

何事かと思ってニッグを見ると一枚の紙を手が白む程に握り締めている。


「どうした?」

「精霊教会の広報を見てたらとんでもない事が書いてあったんです!」

広報とはこの大陸での情報を精霊教会が有料で配っているもので、商人などはこの広報を元に仕入れの商品や行き先などを決めているらしい。

ニッグが右手で握り締めていた広報を差し出してくるので、広げて三人で見る。



「ほう?ハイゼン王国とエスガルド王国が戦争ですか。」

「へぇ?物騒な話しね?」

「アンジー?エスガルド王国とは今俺達がいる国の名前だ。」

一番上に大きくハイゼン王国とエスガルド王国戦争開始とある。

ニッグが大慌てで俺達が出発する前に見せようと走って帰ってくる訳だ。

だが俺は別にこの国がハイゼン王国になろうがエスガルド王国のままだろうが、別段構わないので問題無い。


「違います!いや・・・それも重要ですが広報の一番下です!」

「賞金首情報ですか?」

「へぇ?山賊に強盗に・・・犯罪者がズラリね?」

「待て。なんでここに俺とタルトの名前があるんだ?」

ニッグに言われて広報の一番下を見ると、俺とタルトの名前と人相書が載っている。

しかも俺はニコ(ルドルフ)と書かれていて正体までばらされている始末だ。


「聖騎士勇者の殺害と・・・共謀罪ですか・・・」

「ねぇ?白金貨百枚って高いの?」

「金貨一万枚。十億ゴールド・・・お前の大好きな肉の串焼き二百万本だ。」

白金貨一枚は金貨百枚の価値があったはずだ。

アンジーは俺の説明を聞いても腑に落ちない様子なので、分かりやすく物に換算すると価値がわかったようで、目を見開いて涎を垂らしながら俺とタルトを交互に見始める。

賞金額も他の賞金首に比べて桁が三つ四つ違うのも驚きだが、それよりも俺がルドルフとばらされた事が問題だ。



「問題だな。」

「いえ。逆に私はルドルフでの行動時に同行出来るので嬉しいです。」

「二人で四百万本・・・あぎゃぎゃぎゃぎゃぎゃ!」

前向きに考えるならタルトの言い分は尤もだ。

だが俺はこれからどう動けばいいのか皆目検討が付かない。

アンジーは涎を袖で拭き取りながらぎらぎらした目で見てきてウザイのでとりあえずアイアンクローして電撃をお見舞いしておく。


「お前らすまんがアランを探して連れて来てくれないか?」

「もうルード達に呼びに行かせてます!」

とりあえずこういう時はおそらく同じ経験をした事があるであろうアランに聞くのが早いだろう。

そう思ってニッグに指示を出すのだが、もう先に行動してくれているようだ。

俺の手の中でアへ顔で失神するアンジーを部屋の隅に投げ捨てて、タルトと一緒に食堂でティータイムをしながらアランの到着を待つ。

部下が優秀なのでとても楽である。






しばらくすると屋敷の扉が荒々しく開く音がして、すぐにルード達が息を切らせながら食堂に入ってくる。

そしてその後ろをいつも通り飄々とした様子のアランがやって来て当たり前のように俺の隣に座り、タルトが紅茶を用意し始める。

「突然呼んですまんな?」

「本当よ!しかも人を使って呼び出すなんて大出世ね?」

アランはタルトにお礼を言いながら紅茶を飲み始める。

一応俺の都合で突然呼び出したので、開口一番に謝っておく。

アランは皮肉を言って来るが、俺に頼られたからか上機嫌な様子なので問題無さそうだ。

広報紙を取り出して見せながら俺とタルトの事が書いてある場所を指差す。


「うっわ!白金貨百枚ってやばっ!一生遊んで暮らせるじゃん!!」

「それもだが・・・名前を見てくれ。」

「あー・・・もうばれちゃったかぁ・・・」

「俺はどうすればいいんだ?アランの時はどうしたんだ?」

アランは俺の言葉にルドルフの正体が精霊教会にばれた事に気付き天を仰ぎ始める。

俺の状況を憂いてくれるのは大変ありがたい事なのだが、今はそれよりも俺がこれからどうするか、アランがバレた時はどうしたのかを聞きたい。



「ニコはどうしたいの?」

「今まで通り学校に通いたいと思っているが・・・無理だろう?」

ニヤリと笑みを作ってアランが聞いて来るので、俺は今まで通りの生活がしたいと言う純粋な気持ちを言う。


「問題無いよ?ただあたしの時と一緒だと少し騒ぎになって、周りの対応が変わるだろうけどね?」

「そうなのか?賞金首なのに大丈夫なのか?」

「大丈夫大丈夫!あたしも賞金首だし・・・フィルもよ?尤も金貨千枚とかだったと思うけど。」

「桁が一つ違うじゃないか・・・」

どうやら賞金首になった事はそこまでの問題では無いらしい。

ただアランとフィルは俺よりも桁が一つ小さいと言うのが気になるところだ。


「そりゃ、ただの聖騎士勇者を撃退と御使いを撃退じゃ精霊教会的に危険度は段違いだわね?」

「だが撃退したのはウランだぞ?」

「眷属が御使いを撃破・・・はい主の危険度更に増えましたー」

反論するのだが、薮蛇になってしまった。

更に棒読みで追撃され、俺がぐうの音も出ない。

返答に困っている俺はどんな顔をしているのかはわからないが、アランは俺を見て面白そうに紅茶をすすり始める。



「という事は俺とタルトが賞金首になった事は問題では無いんだな?」

「この国では精霊教会の力はそこまでじゃないから問題無いよ?それよりも問題は・・・」

「そうだな。俺がルドルフとばれた事だな。」

「違う!ハイゼン王国との戦争よ!」

「別に人間同士の争いは勝手にやればいいだろう?俺に何の関係が?」

どうやらアランもハイゼン王国との戦争を始めて知ったようで、食い入るように広報の記事を読みながら言って来る。

俺としては遠くの戦争よりも自分の事だと思っていたのだが違うようだ。

アランは俺に呆れたような視線を向けて大きく溜息を吐きながら口を開く。


「いい?もしハイゼン王国が勝ったらねぇ?」

「ふむ、つまりエスガルド王国が負けたら?」

「知ってる?この王都より北に精霊教会って無いのよね?でもここらへんも精霊教会の支配地になって、リオルゲン辺りに聖騎士勇者が復活するための教会を建てて魔の森に聖騎士達が攻め込むだろうね?」

それは大変拙い。

ルル達が聖騎士に負けるとは思わないが、実家を精霊教会に荒らされるのは絶対に許容出来ない。


「まぁ・・・とは言えあんたを戦争に駆り出すほどアレク王達も鬼畜じゃないと思うから安心しな?」

「そうか。出来る限りは関わらないようにしよう。」

「まぁ学校が始まるかも微妙だしねぇ?ゆっくりしとけば?」

「どういう意味だ?」

「おそらくこの国は二つに別れる。精霊教徒とそれ以外にね?下手すれば精霊教徒はみんなハイゼン王国に亡命・・・もうしてるかもね?今味方をすればハイゼン王国が勝った時に今の領地を保証とかして貰えちゃったりもするんじゃない?」

「なるほど。」

広報には、この戦争は魔族と結託した邪教徒共に正義の鉄槌を!などとハイゼン王国側の無茶苦茶な主張だけが書かれている。

この戦争は精霊教会が目論んだ宗教戦争なのは明白である。

そしてこの国の約三割の人間が精霊教徒であり、その中で約六割が貴族で後の残りは商人や冒険者だ。

尤もそのほとんどは信仰心など無く、精霊教会という巨大コミュニティーを利用するために入信しているそうだが、精霊教徒と言えば亡命は簡単に出来るだろう。

そんな人間達からすれば本格的に戦争が始まる前に勝ち馬を予想するのは当たり前の話だ。




「勿論あたしとフィル、そしてニコとタルトはエスガルド一択だけどね?」

「どうせ本気で亡命すれば聖騎士になるとかって条件でそれらしい理由を付けて賞金を取り下げるんだろ?」

「ニコも人間社会わかってきたわね?だから貴族達はどちらが勝つのか予想するので大忙しだろうし、すぐに動けるように今頃学校の子供を自分の領地に呼び戻してる頃じゃないの?」

「口実は自分の領地で戦争の準備って所か?」

「そんな所!領地を持たない名誉貴族はもっと必死よ?負けたら貴族爵は取り上げられて平民落ちだからね?」

「成程。大体わかった。ニッグ達報せてくれて本当に助かった。では予定通り引越しをしよう。」

アランのおかげで色々とわかった。

とりあえず明日からの学校がどうなっているのか楽しみだ。

アランも一緒に四人で屋敷を出て、とりあえずこれから約半年間俺の家となる本校舎の寮へと向かう。

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