外伝 平和な魔の森
ニコとの激戦を御使いアルテミスによって強制的に終了させられて膨れっ面のクネがコボチョウ達を連れて真っ暗な洞窟を走っている。
全員暗視魔法を発動しているので灯りは一切無い真っ暗闇だ。
「あたしのジョイが滅茶苦茶だわ・・・本当に最悪!」
「そうっすね?腕まで切り落とされて可哀想っす。」
クネが真っ暗な洞窟の中でボロボロになったジョイを抱き抱えながら文句を言っている。
隣を走るコボチョウはいつもと様子が違うクネに驚きながらも抱えているジョイの様子を一緒に嘆く。
「コボチョウ?腕はニコが切り落としたの!あの子はジョイと張り合えるまでに成長した証よ?あたしが言ってるのは頭の事よ!」
「あの光弾はやばかったすね・・・おいら達ももう少し洞窟に入るのが遅かったら・・・」
クネがニコの成長を喜びながら頭を吹っ飛ばされた事に怒るというとても器用な様子だ。
コボチョウは先ほどの自分に向かって一直線に飛んで来たアルテミスが放った光弾を思い出して身震いさせている。
「・・・私の言いたい事が全くわかって無いようね?帰ったら覚悟なさい?」
「えぇ!?なんでっすか!?」
「あんな光弾がどうしたって言うの?あんた達は死んでたかもしれないけど、私まで一緒にされるのは心外だわ。じゃあどうするの?それはあなた達をあんな光弾で死なないくらいに鍛えるのが一番早いわ。」
「なんでそうなったっす!?・・・痛っ痛いっす!お前らやめるっす!」
先程までのテンションが嘘のようにクネはいつも通りの冷静な様子に戻り言い放つ。
コボチョウ達は魔の森に帰ったらクネの八つ当たりという名の地獄の特訓をする事が決定した。
原因を作ったコボチョウは隣を走る部下達から本気で殴られ蹴られ文字通り踏んだり蹴ったりといった様子である。
ちなみに最後尾にはメドゥーサが静かに付いている。
クネ達は騒々しく魔の森に向けて真っ暗闇のドラゴンケイブ大迷宮を走り抜ける。
「眩しいっす!」
「帰って来たわね。」
クネ達は何事も無くドラゴンケイブ大迷宮を抜けて、コボチョウ達が頑張って掘った魔の森のダンジョンを上がり地上に出る。
ニコが出発した時はただの集落レベルだったルル達の住処はマジカの作ったゴーレム達が働いて、森を切り開き道を整備し家々を建て、町と呼べるレベルにまで発展していた。
ただ住人は増えていないので、見た目だけだ。
「おかえり。どうだった?」
「まぁまぁね?コボチョウ説明してあげて?」
「ウッス!こちらは洞窟を抜けた先の街で手に入ったもので・・・」
クネ達の帰りを待っていたエドが声をかけてくる。
クネが物置サイズのアイテムボックスを取り出しコボチョウが説明を始めるのだが、エドが待ってましたとばかりに飛びついてアイテムボックスの中身を物色し始める。
「じゃあ私はルルに報告してから、ニコから貰ったファッション誌読まなきゃ駄目だから失礼するわね?」
「ん?ニコ?何でニコ?」
「煩い。あんた達があたしに押し付けた仕事でしょ?後でルルから聞きなさい?」
「何でニコから貰った?説明しなさい。」
「絶対に嫌。」
エドはニコの名前に反応してアイテムボックスの物色をやめてクネに問い詰めるが、クネは勝ち誇った笑みを浮かべながら離れて行く。
「コボチョウ?説明しなさい。」
「おいら達もクネ様と一緒に報告しなくちゃ駄目なんで失礼するっす!メドゥーサさっさと来るっす!」
「かしこまりました我が君。」
エドは標的をコボチョウ達に変えるも、コボチョウ達もエドに捕まるまいと大慌てでクネを追ってルルの家へと走って行く。
クネはルルの家で報告をしている。
ダンジョンを掘っていて突然現れた大穴はドラゴンケイブ大迷宮という洞窟だった事。
ドラゴン大迷宮を抜けるとドランブという魔物に占拠された街に出たので物資を根こそぎ貰って帰ったこと。
そしてニコとの再開まで報告が進んだ所でルルが興奮し始める。
「ほう!ニコがジョイを!?」
「そうなの。聖騎士が横入りして頭を吹っ飛ばしたけど、横入りが無ければニコは普通に勝ってたわ?」
「あのニコがジョイを倒すとは・・・子供の成長は早いものだな?」
「そうね?でもまだジョイレベルだわ?フューリーには勝てないわね。」
「ヌァッハッハッハッ!また一年経てばわからんぞ?」
「そうね?あとこれはニコからの土産よ?」
クネはルルに将棋セットと一冊の本を渡す。
「ぬ?これは何だ?」
「その本に書いてあったけど駒を取り合って遊ぶ遊具みたいよ?」
「ほほう?中々興味深い遊具だな。」
「一勝負してみる?」
「おう!全く同じ戦力で一巡づつ駒を進めるのか・・・面白そうだ。」
ルルは本をパラパラと読んでクネと向き合って駒を並べ始める。
クネの後ろに控えているコボチョウ達も将棋に興味津々な様子で二人の勝負を見つめている。
「ぬぉっ!?そんな所に飛車などおったか?」
「あったわよ?はい王手。」
「グヌヌヌヌ・・・悔しい!なんと言う悔しい遊具だ・・・」
「ルル?あなた普段から力任せに物事を進めてるからこうなるの。もう少し戦略と言うものを考えなさい?」
ルルは頭を掻き毟って悔しがり、クネはドヤ顔でルルに説教をする。
普段ならルルは何かしら言い返すのだが、将棋でボロ負けしたので何も言えずにさらに悔しそうに顔を歪めている。
「おいコボチョウ!お前ら練習に付き合え!」
「喜んでっす!」
「ルールはお二人の勝負を見て大体把握したっす!」
「三人で力を合わせてルル様に勝つっすよ?」
ルルの言葉にクネの地獄の特訓から逃げる口実が出来たと喜び勇んでコボチョウ達はルルと将棋盤を挟んで座り込む。
「あなた達?明日あたしに将棋で勝てれば特訓は免除してあげるわよ?」
「「「ルル様!一日よろしくお願いするっす!」」」
「ヌァッハッハッハッ!まずは俺に勝たないとクネには勝てんぞ?」
クネの言葉にコボチョウ達は真剣な表情になり、満面の笑みのルルと将棋をし始める。
「メドゥーサ?こいつらに付いていても得る物は無いわよ?一緒に来なさいな?」
「クネ様。折角の御声ですが、我が君の戦いを見届けたく思います。」
「そう?そんなに面白い戦いじゃないと思うけど頑張って。」
「私如きの意見を聞き入れて頂き光栄で御座います。」
クネは去り際に後ろで静かに控えるメドゥーサにお声を掛けているのだが、コボチョウと一緒にいたいようだ。
クネはそれ以上は何も言わずにルルの家を後にして次の目的地へと向かう。
「あ!クネ様おかえりなさい!夕食は何がいいですか?」
「そうね、見た事無い物を食べてみたいわ?この中から作れそうな物をお願いできる?」
「わぁ!いっぱいの料理本だ!」
「これはニコがハッピーにって預かった本よ?他にもあるはずだからエドの物色が終わったらアイテムボックスの中を見てみなさい?」
「アイテムボックスですか?にしてもなぜニコからの預かり物が?」
「説明しなくちゃ駄目なのね・・・」
ハッピーはとても不思議そうな表情で尋ね、クネは溜息を吐きながらも本日二度目の今回の冒険の報告をする。
最初はとても億劫な表情で話していたクネもニコと出会った辺りでテンションが上がり始め、ニコがクラウンズを倒しジョイさえも圧倒した所で最高潮に達した。
「へぇ!?その聖騎士は邪魔以外の何者でも無いですねぇ?」
「そうよ!私が息子の成長を喜んでたのに、とんだ横槍よ!」
「にしてもジョイの頭を吹っ飛ばす光弾ですか・・・クネ様は問題無いですがあたしやコボチョウ達には脅威ですねぇ?」
「ん?ハッピーなら問題無いと思うわよ?」
「いやいや!クネ様はジョイの耐久性能を過小評価しすぎです!とりあえずお茶入れますね?」
「ええお願い。」
クネは論点のずれた会話しか出来ないコボチョウの時とは違って、ハッピーは気持ちをしっかりと理解してくれるので会話が弾んでとても楽しそうな様子である。
その後もクネとハッピーはお茶を飲みながら話に花を咲かせてニコの成長を喜び合う。
「ハッピー今日の夕食はこれでこれ作って。」
クネとハッピーが楽しく話していると、右手に巨大なピザ釜を、左手には一冊の本を持ったエドが食堂に入ってくる。
エドは持っていた本を広げてハッピーの前に置く。
クネとハッピーはエドが置いた本に視線を落とす。
「ピッツァ?ですか?」
「あらあら美味しそうじゃない。」
「これ食べてみたい。チーズ?とか言う保存食も見つけたから、窯作った。」
「ではすぐに作りましょう!」
「私と話しこんだせいでバタバタしそうだし手伝うわよ?」
「ん。あたしも窯の出来を確かめたい。」
ハッピーとクネが本を頼りにピザ生地を作り始め、エドが食堂の真ん中でピザ釜の準備を始める。
「エド様・・・暑いです・・・」
「エド?ここは食堂よ?ピザ釜は外で使って頂戴?」
「ん・・・あたしもそう思ってた。」
すぐに食堂の中がサウナのようになり、汗だくのハッピーとクネが文句を言い、同じく汗だくのエドが熱々のピザ釜を抱えて食堂から出て行く。
「予想してましたけどピザ釜を抱えて行きましたね?エド様の火耐性どうなってるんですか?」
「鈍いから気付かないだけよ。」
ハッピーがピザ釜を抱えて出て言ったことに驚きを隠せない様子だが、クネは平然と無茶苦茶な説明をする。
エドは結界によってピザ釜に触れていないだけなのだが、結界が薄すぎて傍から見れば触れているようにしか見えないのだ。
ハッピーは魔法で食堂内の空気を外に放出して食堂内の空気を入れ替え、涼しくなった食堂で二人が料理をする。
その後無事にピザが出来上がり、マジカやゴブチョウ達もやってきて和気藹々と夕食が始まる。
「ルル様こないですねぇ?」
「あぁ・・・どうせコボチョウ達と将棋に熱中してるんでしょ?ほっときなさい。」
「将棋?・・・ですか?」
「ニコがルルにって用意した遊具よ?」
「ん!クネ?なんでニコ?」
夕食の時間になってもルルがこない事にハッピーが心配そうな声を出すが、クネがいつも通り平然と答える。
クネの答えを聞いて、エドがピザを食べる手を止めて食って掛かる。
「はぁ・・・仕事を押し付けてくれたあなたにも説明して上げるわ。」
「ん。当然!」
「洞窟進んだ。街出た。ニコに会った。」
「全然足りない。」
クネは完全な棒読みで三行で答え、それを聞いたエドは頬を膨らませて、珍しく表情筋を動かして抗議している。
ハッピーやゴブチョウ達は二人の喧嘩をニヤニヤと見つめながらピザを頬張り、マジカただ一人は青い顔をしておろおろとした様子でクネとエドの喧嘩を見守っている。
「物作り馬鹿には三行で十分だわ。」
「ん。わかった表出ろ。改めて上下関係を教える必要があるみたい。」
「ニコにジョイを破壊されちゃったから・・・今は勝てないわね。」
「ニコが?ジョイを?詳しく。」
「右腕を切られちゃったでしょ?でもジョイの前に戦ったクラウンズは跡形も無く燃やされちゃったわ?」
「違う!なんでジョイとニコが戦うのって!?」
「煩い!後でルルに聞きなさい!はい。これニコから預かった本ね?」
「これは・・・興味深い・・・」
エドは今にも殴りかかりそうな様子だったのだが、クネから本を渡されて食べかけのピザの存在も忘れるほどに本に没頭しながら食堂から出て行く。
それを見ていたゴブチョウがおずおずとクネに近寄って話しかける。
「あの、クネ様・・・我々には何も無いのでしょうか?」
「伝言よ。これを渡す事によって生活は豊かになるだろう。その豊かな生活を支えるのもいいし、さっさと進化して俺を支えるのも好きにしろ。」
「うぉぉぉぉぉぉぉ!!進化だ!魔王種になってニコ様がいる人間社会に行くのだ!」
クネの言葉にゴブチョウと部下のホブゴブリン達が雄叫びを上げながら食堂を出て行く。
「全く。ニコはあたし達の喜ぶものを把握しすぎね。」
「クネ様に似てぱっと見はとても素っ気無いのに誰よりも思慮深い子ですもんね?」
「ハッピー?私って素っ気無いのかしら?」
「いえ!そういうつもりでは・・・」
ハッピーの言葉に少しムッとしながらも、自分に似てという部分に悪い気はしないクネであった。
今日も魔の森の平和な日常が進んで行く。
ちなみだが翌日、夜通し将棋で遊んでコボチョウ達にボロ負けしたルルは数週間拗ね続け、ルルに勝ったコボチョウ達は自信満々の様子でクネに挑んだが、軽々と自信を打ち砕かれ眷属となったメドゥーサを道連れにして地獄の特訓を受けることとなった。




