外伝 タルトの休日
ニコがブールニア女王国に行っている間、学校が休みの日はオーギュストはレナエルと共に本業をし、タルトは王都で買物をしたりととても人間社会を満喫していた。
そして今回の休みの日、タルトは王都のダンジョンを突き進んでいる。
認識疎外魔法を使えないタルトは周りの冒険者に目撃されても大丈夫なように羽は出さずに自分の脚で森の中を突き進んで行く。
二時間程かけて地底湖に着く、タルトはそのまま静かな地底湖にかけられている橋を渡ってニコが作った階段を降りて滝へと向かう。
「さて・・・さっさと終わらせて休日を楽しもっと!」
タルトは元気一杯に一人ごちて滝の前で門番をしているサーペントの首を魔王の手斧で刈り取って手早く血抜きを済ませて地底湖へと戻って解体をする。
水竜の集落にいた頃は血抜きや解体などせずに常に丸かじり一択の食生活だったのだが、ニコの料理を食べてから血抜きを施さないと臭くて食べられない体になってしまった。
「ここでは解体が楽でありがたいですね!」
タルトはサーペントの内臓などの食べない箇所を地底湖に投げ込むと魔魚達が群がり、一瞬で跡形も無くなる。
本来であれば亜竜とは言え、竜の内臓は薬の材料などになるのでギルドへ持って行けば中々の額で買い取ってもらえるのだが、タルトは自分はあくまでもニコの配下なので不用意に自分まで目立つべきでは無いと考えているので、皮や骨などの保存のきく素材はニコのために取っておくが保存がきかない内臓などは邪魔なだけなのである。
タルトは手馴れた様子でぱっぱとサーペントの解体を終え、マジックバッグから燻製箱を取り出して肉を燻し始めベーコンが出来るまでの間、優雅に地底湖で水浴びを楽しみ始める。
「おぉ!ここが噂の地底湖だな?」
「ここを抜ければ沼地の蜥蜴地帯だったよな?」
「ですがここを抜けるのはかなり難しいでしょうね・・・」
ぷかぷかと地底湖に浮かんでまどろんでいると、三人の冒険者が地底湖へと降りてくる。
三人は地底湖の周りを調べ、モクモクと煙の上がる燻製箱に気付き臨戦態勢で近づき始める。
「すみません。それは私が燻製をしているので触らないで頂けますか?」
タルトは大急ぎで地底湖から上がり、服を着ながら冒険者の三人に話しかける。
「あんたは・・・ルドルフさんとアランさんと一緒に勲章を授与していたメイドさんか。」
「へへ!やっぱりな!周りはついでに勲章をもらえていいなって言ってたが、俺はルドルフが連れてるんだから普通じゃねぇって分かってたぜ!」
「たしかにこの地底湖を泳ぐのは普通ではないですね・・・」
三人組の冒険者はタルトを見て、一瞬ギョッとした表情をするがすぐに表情を緩めながら武器を納め始める。
「聞き分けがいい様で大変ありがたいです。」
「俺はジャックだ!ルドルフさんとは親しくさせてもらってる。」
「噂に違わぬ美しい女性ですね?グレイです。」
「正確にはニコだがな?ブランだ。」
「馬鹿!ルドルフさんの連れだからって正体を知っているとは限らねぇだろ!?」
「そうです!この馬鹿!」
三人が自己紹介をし始め、ブランの失言にジャックとグレイの拳骨が飛ぶ。
グレイは頭をさすって涙目になっているが、タルトはその様子を見て表情を弛める。
タルトは竜の目によって三人の武器がニコの魔力を纏っている事に気付いていたので主が自ら魔力付与した武器を与えるくらいに親しい相手なのは分かっていたのだが、万に一つだが盗んだ物の可能性もある。
自分の不用意な行動で主の正体をばらすわけにはいかないので念を入れて用心していたのだが、自分の主の正体を知っているという事でかなり親しい関係である事が分かったからだ。
「私はタルトです。御主人様のメイドを勤めさせていただいております。今日は休日を頂きましたので食材の調達と水浴びをしにここにいますので、お気になさらずどうぞお進み下さい。」
「食材の調達だって?それにこんな場所で水浴び?嬢ちゃん正気の沙汰か?」
「全く問題御座いません。御心配には及びません。」
「さすがはニコ君のメイドだ・・・では折角ゆっくりしている所を失礼した。」
タルトが恭しくお辞儀をしながら言うと、ジャック達もしっかりと頭を下げて地底湖にかかる橋へと進み始める。
タルトはそれを見送ってやれやれといった様子で服を脱いで水浴びを再開する。
「でぇぇぇぇぇ!やっぱりこんな場所で水浴びって嘘だろ!」
「ブランあそこ。」
「うっそだろ!?裸の美少女だぁ!??あのメイド死んでるんじゃねぇのか?」
「にこやかに手を振ってますよ?」
「お前ら無駄口はやめて逃げるぞ!」
湖から飛び出す魔魚に追われジャック達が全力疾走で引き返して来た。
タルトは視線を感じたので、主の知り合いに不快な思いをさせないように精一杯愛想を振りまくように三人に手を振る。
その行動が更にジャック達の驚きを煽るのだが、タルトは気付かずに手を振り続けジャック達はそれを横目に見ながら必死に地底湖の外を目指して全力疾走する。
「はぁはぁ・・・俺達にこの先はまだはえぇって事だな・・・」
「橋の上の俺達は襲われて、なんで水の中のメイドが襲われねんだよ?」
「そりゃニコ君のメイドさんですから・・・」
三人が地底湖から離れた入口に座り込んで息も絶え絶えに話している。
「昼食を作ろうと思いますが、御主人様の話を聞かせてもらえるならついでに作りますが?」
「喜んで話しましょう。」
再び服を着たタルトがジャック達の下に歩み寄って話しかける。
ジャックは得体の知れないニコのメイドに対して反射的に敬語で答える。
その後タルトは料理をしながらジャック達とニコとの馴れ初めから始まり、西の森での再開、そして王都防衛戦の話をする。
「俺達とニコ君との話はそんなもんだな?君はどんな風に知り合ったんだ?」
「まずは姉が御主人様と仲良くなり、そして我が家に来た時に私が一目惚れして今に至るといった感じですね。」
「ほう?と、いう事は・・・その・・・君とニコ君は・・・あの・・・男女の関係に?」
「まだです。手を出して下さいませんので。」
タルトは出来上がった料理を配膳しながら悔しそうに答える。
尤もニコがそういうつもりで自分を傍に置いていないのはわかっているのだが、タルトも女性なので気持ちで割り切れていないようだ。
「成程・・・では君は何者だ?人間が・・・その・・・地底湖で水浴びなんて・・・」
「そうだそうだ!しかもこのベーコンはニコが朝食で出してくれたベーコンと一緒だぜ?」
「ブラン?それ以上はいけない。食材の調達と水浴びに来たと仰っていたでしょう?」
ジャックがオブラートに包もうとして失敗し、ブランはド直球で言い、グレイはタルトが何を調達したのか察してブランを制する。
そしてタルトはどう説明するべきかとても困った様子で適当に話をはぐらかす事にしたようだ。
「ブラン様はサーペントがお気に入りですか?では地底湖を渡って御主人様が御作りになった階段を降りると水浴びをしてますよ?」
「サーペントなんて狩れねぇよ!つか地底湖渡れなかったよ!」
「「敬語を使えっ!」」
タルトの言葉にブランが条件反射で反論して、ジャックとグレイに拳骨をされている。
話を逸らす事に成功したようでタルトがホッとした表情を浮かべる。
実のところジャック達が気を利かせて、いつも通りの漫才をやったのだが、タルトは気付かずに満面の笑みで昼食を食べる。
そのまま当たり障りの無い話をしながら昼食が進む。
「ではタルト君?多分大丈夫なんだろうが、ここは危険なダンジョンだから気を付けてな?」
「ニコによろしく伝えといてくれよな!?」
「とても有意義な時間をありがとうございました。」
「御主人様の御知り合いにお会い出来て光栄でした。皆様もお気をつけて。」
昼食を終えたジャック達が地底湖を去って行く。
タルトはそれを見送って新たなサーペント肉を燻製箱にセットして水浴びを再開する。
「ハッハッハッ!この先で狩りが出来ればダンジョンに潜るのが隔週から月一になるね?ネル?」
「そうね?だけどこの階は魔魚が飛び交う凶悪な階層らしいわよライオ?」
タルトがのんびりと水に浮かんで寝ていると、新たに二人組の冒険者が現れ、迷う事無く橋へと突き進み魔魚に襲われ始める。
男は必死に女性を守りながら魔魚へと槍を突いているが、悉くが空振って男は見る間に血だらけになっていく。
「ライオ?予想以上の魔魚が襲ってきたわ?」
「ハッハッハッ!僕は予想通りだよ?これくらいならネルを守れるからね?」
「さすがはライオだわ・・・」
「(そういう言葉は頭の魔魚を取ってから言われたいなぁ・・・師匠に!)」
前回ニコと地底湖に来た時に自分が襲われていたら、あのカップルの男のように守ってくれていたのだろうか?
タルトはぷかぷかと水浴びをしつつ魔魚にかじられ放題で血だらけの男を眺めて、そんな事を考えつつ一人悶える。
「ネル?僕は君と愛を語りたくなったから戻ろうか?」
「わかったわ?ダンジョンだから時間がわからないのは好都合ね、時間を忘れて語らいましょう?」
カップルは地底湖の入口に戻ってイチャイチャし始める。
「(私も師匠と愛を語らいたいなぁ・・・というか男性は治療をしたほうがいいんじゃ?)」
タルトは血だらけのまま楽しそうにラブラブな雰囲気を醸し出すカップルを眺めながら心配する。
「そこの女性!ネルと仰いましたか?キスよりも先に治療を優先すべきでは?」
「血に染まるライオをもって見ていたくて・・・格好いいじゃない?」
「ネル?君の気持ちには気付いていた!それにかすり傷だよ?」
タルトが再び水浴びをやめてカップルに話しかける。
カップルは突然現れたタルトに動じる事も無く、戯言を言い始めるがライオ貧血でフラフラと倒れる。
「あら?青い顔で倒れるライオの格好いいけど・・・死んじゃ駄目よ!?」
ネルはライオの様子に焦りつつもラブラブオーラ全開でイチャイチャと治療を始める。
「(殺して地底湖に投げ込めば証拠隠滅も問題無し・・・)」
タルトはそんな二人に殺意を抱き、計画を立てているとライオが持っている槍に目が止まる。
タルトの竜の目がライオが持つ槍が纏うニコの魔力を見逃さなかった。
「この槍はどこで手に入れたのでしょうか?」
「ロンギヌスの槍かい?親切な人がくれたのさ!ルドルフって言ったかな?」
「この槍すごいのよ!?魔猪だろうが魔熊だろうが一突きなの!ライオの腕あっての一突きだけどね?」
尋ねると気を失っていたはずのライオが答え、ネルはライオを誇らしげに自慢し始める。
ライオの凄さよりもこの冒険者達も主の知合いという事にタルトは驚く。
「(師匠が魔力付与した槍を渡すという事はかなり近い人間なのでしょうね・・・)」
タルトはカップルと主との距離感を必死に計る。
結果この二人は盗人ではなさそうなので、先程の三人ほどは親しくは無さそうだが、自分が魔力付与した武器を渡すほどに近い距離感なのだと判断してライオに対して口を開く。
「ライオさん?先程の様子を見た所ライオさんも魔法を使った方が効率がいいですよ?」
「それはわかってるさ!だが僕はどれだけ魔物肉を食べても水晶が光らない魔力無しだからねぇ・・・」
「ライオ?貴方は魔力が無くっても魔熊も一撃で倒せるじゃない!」
タルトの言葉にライオは伏し目がちに答え、ネルはライオの治療をしながら言う。
直後二人は一瞬見詰め合ってから抱き締め合ってイチャイチャし始める。
タルトは二人を見てとてもモヤモヤとした気持ちになる。
ただ二人の様子が羨ましいだけなのだが、今まで羨ましいと言う感情を抱いた事のないタルトにとっては初めての感情なので言い様の無い歯がゆさが襲う。
「あなたは無属性の魔力なので水晶は透明に光っていたのでしょう。古代魔法に載っている変換魔法陣を探してみなさい。面白い発見があるかもしれません。」
「へぇ?変換魔法陣って変換効率が悪すぎて忘れ去られた魔法陣だったよね?」
「さすがはライオ物知りなのね?また惚れ直しちゃったわ!」
タルトの言葉にライオとネルが再びイチャイチャと二人の世界に入る。
「(これ以上この二人と関わっていると殺しちゃう!)」
タルトはもやもやする気持ちを静めるためにも再び地底湖へと飛び込み、そのまま日が暮れるまで地底湖の底で悶々とし続けるのであった。




