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幕間 精霊王と魔王

エミールはウランの水竜の怒り(ドラゴンブレス)によって死亡したが、アランの予想通りに精霊教会で蘇っていた。

そして今は教会の一室でヴァネッサとモルガンとの三人で机を囲んでいる。


「計画失敗しちゃったね?二人にはかなり無理させたのに申し訳ない!」

「リーダー頭を上げてください!水竜の魔族が群れで助けにくるなんて誰も予想出来ません!」

「あの水竜共いとも容易く結界に穴を開けて行きやがって!自信作だったんだぞ・・・」

三人がそれぞれに前回のエスガルド襲撃での出来事を思い出して顔を歪めて悔しがる。


「それでだ、今回の事ではっきりした事は王子を殺すのはかなり難しい。そしてルドルフはニコ君だ。」

「え!?あのガキがルドルフだって!?」

「間違いない。大講堂にいたニコ君は違和感だらけだった、そしてあの日の対応・・・ニコ君ではなかった。それにニコ君がルドルフの愛用している刀によく似た物を持っているのを知っているしね?」

「え?私は見た事無いわよ?」

「王都に辿り着いた日、僕がターニャ君とニコ君と王都を散策しただろう?その時に一度だけね?」

「でも変ね?学校で使ってるのを見た事ないわ?」

「ルドルフとばれないように使わなかったんだろう?」

「御丁寧なことねぇ?感心しちゃうわ。」

エミールは今までの情報を繋ぎ合わせてルドルフの正体に行き着いてしまった。

ニコが人間社会で刀を持っている場面を見せた人間はジャック達の三人とエミールとターニャの五人だけなのだが、その中にエミールがいたのは不運としか言いようが無い話である。



「で?リーダーどうすんだ?計画じゃエスガルドの王子を暗殺したら、王位継承権第二位になった公爵様がクーデターを起こすはずだったろ?」

「勿論ムイワール家には働いてもらうさ捨て駒としてね?ルドルフとニコに懸賞金をかける!そしてハイゼン王国にエスガルド王国を攻めさせるぞ?」

「わかった!すぐに教皇に伝えてくらぁ!」

「頼んだ。」

エミールの言葉を聞いてモルガンが笑みを浮かべて部屋から飛び出し、部屋の中に小さくエミールの声が響いた。

だがヴァネッサはとても不安な表情で口を開く。


「今のハイゼン王国は愚王のせいでボロボロよ?勝てるのかしら?」

「勝たせるんだよ。精霊教会の力を使ってね?」

「っと言うと?」

「勇者と御使いは出来る限り出動。冒険者ギルドも動かすぞ?」

「わかった。グランドギルドマスターのところに行って来るわ。」

「(あいつが簡単に引き受けないだろうが・・・頼んだ・・・)」

続いてヴァネッサが部屋から飛び出して行く。

エミールはグランドギルドマスターとの交渉が難航してヴァネッサが泣きながら帰って来るのが目に浮かぶので、部屋で一人静かにあの食えない女豹をどうやって丸め込むか思案に耽る。








「久々に魔力を感じたが・・・精霊王よ何を考える?」

「っ!!魔王ルシファー!?」

エミールが思案に耽っていると部屋の隅の空間が歪みルルが現れる。

エミールは即座にルルに反応して魔力場を形成して臨戦態勢になる。


「俺はルシファーなどと言う名前ではないと言っているだろう?そしてそんなに身構えるな。俺達は一対一では勝負が着かないのは四千年前の戦いで学んだだろうが?」

「だからと言って何もしなかったら死ぬだろう?」

「ヌァーッハッハッハッ!それで殺せれば楽だが、その状況になったら俺はお前を疑って動けぬだろうよ?」

「だろうね?その証拠に今僕は動けない。」

対してルルは自然体のままいつも通りに快活な笑い声を上げながらエミールの対面に腰掛る。

今ルルに張られた結界を破れるだけの攻撃をすればルルを仕留める事が出来る。

エミールにはその攻撃を行う手段があるのだが、ルルが何の策も無しに目の前で無防備になる訳が無いと動けない。


「それで?百年以上もしっかりと魔力を隠して俺から逃げていたのにどうしたのだ?」

「・・・それを聞くためだけに来たのか?」

「悪いか?時が動き始めたからな。お前の動向は少しでも知っておきたいのだ。」

「時は動き出した・・・ねぇ?何を持って動き出したと判断するのかな?」

「おっと!俺の質問に答えてからだ。そうしないと俺の情報だけを抜かれてしまうからな。」

「ハッハッハッ!どうしたんだい?昔ならペラペラと話してくれたのに。」

「俺も成長しておるのよ。で?何があったのだ?」

「別に?準備が出来たから魔の森に攻めるためにエスガルド王国を支配下に置こうとして失敗しただけさ?」

「ほう?見た所、体と魂がまだ馴染んで無いようだが、貴様が負けるとはな?」

「じゃあ僕の質問に答えてもらおうか?」

「それが答えだろう?お前が俺以外に負けた。それこそ時が動き始めた証拠だ。」

エミールがルルの言葉を受けて考え込む。

ルルは楽しそうに笑いながら腕を組んでエミールを眺める。

その後数十分の間部屋の中には沈黙が流れ、ルルは暇を持て余してハッピーが淹れてくれていた紅茶を何もない空間から出して楽しみ始める。

空間魔法を駆使した超高等魔法であり、暇を持て余して紅茶を楽しむために使うような魔法では無いのだが、さすがは魔王である。



「原始人の生活をしていたルシファーがそうやって紅茶を飲んでいるってことは本当に時が動き始めたのかな?」

「フフフフフ。この紅茶葉は北の大陸にあるワシャールという所の物らしいぞ?実にかぐわしい物だ。」

「という事は僕達の長い戦いが終わるのかな?」

「それはやってみないとわからんな?お互いに準備は十分はしただろう?」

「どれだけ準備をしても貴様を殺せる気がしない・・・化物が!」

「ヌァッハッハッハッ!最近将棋という物を手に入れてな?一戦どうだ?」

ルルが将棋盤を先程の紅茶と同じように何もない空間から取り出すと、エミールは黙って駒を並べ始める。

それを見たルルは嬉しそうに鼻歌を歌いながら駒を並べてエミールと将棋を始める。





一時間後ルルは負け続け、最終的に六枚落ちで勝負するエミールに惨敗して今にも泣きそうな表情で悔しがっていた。

エミールはこんな人物と何千年も戦い続けているのかと自分自身が情けなくなって額を押さえている。

「お主・・・あれだな?人間界でのチャンピオンとかなのだろう?」

「僕がチャンピオンだって?なら僕よりも強いサミュエル王子は何になるんだい?そしてそれよりも更に強いニコ君は・・・」

エミールがルルの言葉に少し誇らしげに言い始めるが、ニコの名前を出すとルルがわかりやすく目を輝かせ始め、エミールが言葉を止める。

ルルはエミールの疑いの目に気付いて慌てて口を開く。


「その・・・そのニコという人間はお前よりも強い人間の更に上なのか?」

「そうだね?ニコ君なら僕との将棋なんて片手間に済ませるだろうねぇ?全く化物だよ。」

ルルは取り繕うつもりで言ったのだが、エミールの手放しの賞賛の言葉を受けて自分の事のように目を輝かしている。

「(どこで育ったか頑なに言わなかったがそういう事か・・・)」

エミールはルドルフの正体だけでなく、ニコの正体も暴いてしまった。

「(やっべ!俺の方が情報与えてない?納得いかんのじゃけど・・・)」

ニコを褒められて喜んでいたルルだがエミールの様子を見て我に返って自分のやらかしに気付いて分かりやすく目を白黒させ始める。




「リーダー!教皇の約束を取り付けたぜ?って何だお前!?」

ルルがどうしようかと考えていると、モルガンが扉を荒々しく開いて部屋に入ってくる。

モルガンはルルを見て身を仰け反らせて驚いているが、ルルはとても嬉しそうにモルガンを足の先からカラフルな頭の先まで舐めるように見つめる。

「ほほぅ?これがお前の切り札か?中には何人入っている?」

「何の事だろうか?彼は私の大事な仲間だが?」

ルルはエミールが自分の言葉に動揺して「僕」ではなく「私」と言ったのを聞き逃さなかった。

そしてなぜそんな面倒臭い事をするのかと思考を巡らせる。


「そういう事にしておかないと、そこの生体ゴーレムの自我が崩壊するのだな?」

「何を言っているのだ?彼は私の大事な部下だが何か?」

「ふーん?へぇー?ならその男・・・男か?人間と精霊が混ざりすぎて何かわからんのだが?」

ルルは得意気な様子で茶化すようにエミールに言う。

エミールは言葉を失って口をパクパクさせている。



「俺の中に何人いる?・・・人ゲン?セイレイ?・・・セイタイゴーレム・・・ウワァァッァァァァッァ!」

モルガンがルルの言葉を受けて我を失って暴れ始める。


「ヌァッハッハッハッ!これが次の切り札なのか?」

「煩い!モルガン?お前は俺の部下だ!何百年も一緒にやって来たじゃないか!」

ルルの言葉に自分が生体ゴーレムという事に気付いてしまって自我を保てなくなって暴れるモルガンをエミールが必死に抑えつける。


「モルガンとやら!何百年も一緒にやって来た・・・っという記憶を植えられているだろう?思い出すのだ!」

「煩い!お前は黙れ!」

ルルが楽しそうにモルガンを焚きつける。

エミールは額に青筋を立てて魔力特性を発動させ、ルルは素早くエミールの魔力場の外へと飛び退く。

エミールの魔力場の中にいるモルガンは一瞬で落ち着いた様子に戻る。



「もう大丈夫だね?」

「リーダー!教皇の約束を取り付けたぜ?って何だお前!?」

エミールが魔力特性の発動をやめると、満面の笑みでモルガンが先程部屋に入ってきた時をそのまま再現する。

それを見たルルは口に手を当てて必死に笑いを堪えている。


「ヌァッハッハッハッ!やはり時を操る魔力特性は反則だな!」

「貴様の魔力特性に言われたく無い!」

ルルがいつも通りの高笑いをしながらエミールの魔力特性を手放しに賞賛する。

エミールはルルの言葉に憤慨しながら手を向けて魔力特性を発動する。


「有意義な時間をありがとう!」

「こちらこそ!息子のニコは僕に任せておくれ?」

ルルは即座に転移魔法を発動して去ろうとするが、エミールの言葉に体の半分が空間に溶けながらも必死に踏み止まりながら口を開く。


「ぬぁっ!?ニコなどという人間など知らぬ!」

「さっさと帰れ!出て行け!」

「ニコなどと言う人間は知らぬから・・・」

ルルはエミールの言葉に反論しながら転移魔法によって消えて行く。


「お前ら探して来い。」

エミールは注意深く精霊に命令を出した上で探索魔法(サーチ)を発動しルルの痕跡を探り始める。


「ちっ!やはり何も手がかりは無いか・・・」

「リーダー?さっきのは何だ?」

「あいつが・・・倒すべき魔王だよ。」

「そんなのがなんでこんな所に!?」

モルガンは先程までの錯乱した様子が嘘のようにいつも通りの様子で答えるので、エミールは安心しながらもモルガンに説明をする。



「へぇ?リーダーと魔王はそんな因縁がねぇ?」

「僕達は参加できないだろうけど、さっさとエスガルドを蹂躙するぞ?」

「おうよ!」

「ヴァネッサが上手く行けばいいんだけど・・・」

エミールとモルガンが力強く魔の森があるであろう方角を向いて決意を新たにする。

こうしてニコは自分が知らぬ所で父親の世界を巻き込む喧嘩に巻き込まれて行く。

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