第二百一話 アンジー加入そしてタルトの意外な一面。
「帰りも同じようにして帰りましょうね!?」
「そ、そうだな。」
無事岩山に到着して地面に降り立つとタルトが目を輝かせながら言って来る。
タルトは初めて大好物の唐揚げを食べた時よりも嬉しそうだ。
帰りは別の方法で海を渡ろうかと考えていたのだが、今のタルトに無理だとは言えるだけの勇気が無い。
「(負荷トレーニングだと自分に言い聞かせて頑張るか・・・)」
覚悟を決めながら嬉しそうに鼻歌を歌うタルトと一緒に岩山の中に入る。
「ほぅ?中々の群れですねぇ?」
「おい。俺の事を覚えてるか?」
なだらかな坂を下り終え、広間に出ると海水の湖の中で人魚の群れが思い思いにすごしていた。
タルトは一切物怖じする事無く人魚の群れを確認している。
俺が声をかけると副リーダーの人魚が近づいて来る。
全員ブロンド髪で少し目つきがキツイ似たタイプの美人ばかりなので少し見分けがつきにくいが、恐らく間違ってないはずだ。
伊達にホブゴブリンとハイコボルトの群れを見分けていた訳では無いのだ。
「お久しぶりっす!どうしたんすか?」
「やはり副リーダーか。魔魚が欲しい。これと交換してくれ。」
やはり副リーダーだった。
マジックバッグから先程買った酒や楽器、そしてワイバーンの肉を地面に出す。
「これ・・・何っすか?」
「こうすれば音が出る楽器と言う物だ。お前ら歌が好きだからこういうのも好きなんじゃないかと思ってな?」
副リーダーが取り出したフルートを弄くり始めるので、鳴らしてどういう物かしっかりと説明をする。
俺の鳴らした音に反応して遠くで遊んでいた人魚達が寄ってきて楽器で遊び始める。
こう言っては何だが、全員下半身は魚だが上半身は美人なお姉さんだ、しかもトップレスなので簡単に説明するとおっぱい祭りである。
「こんな楽しそうな物・・・どれだけの魔魚を出せばいいんすか?」
「どれくらい・・・考えてなかったな。」
ひとしきり楽器で遊んだ副リーダーが尋ねて来る。
今更だが魔魚が欲しいとしか考えて無かったので、どれだけの量か全く考えて無かった。
「とりあえず持ってきなさい!量は師匠が決めます!」
「あん?お前何ですか?生意気すぎて笑えてくるんすけど?」
俺が考え込んでいるとタルトが堂々と人魚達に言い放つ。
人魚達はタルトの堂々とした態度に口を開けて呆気に取られるが、副リーダーが一瞬で我を取り戻して怒気を顕わにしてタルトに掴みかかるのだが、タルトは笑顔のまま副リーダーの手を払いのけてアイアンクローをして持ち上げる。
「いてー!いてーっす!頭が取れるっす!」
「生意気なのはどちらですか?彼我の差もわからないなんて・・・食いますよ?」
タルトは笑顔のまま副リーダーを持ち上げているが、自分が人魚に舐められたという事でかなりご立腹の様子だ。
このままほっとくと本当に人魚達を食べそうなのでタルトを止めるべく口を開く。
「タルト?俺の友人達に何をしているんだ?」
「・・・申し訳ありません!少々この小娘達が生意気だったもので・・・」
タルトは俺の言葉に反応してアイアンクローをやめて副リーダーが頭を押さえて地面にうずくまる。
忘れていたがタルトは六百歳を越える魔族だった。
約六百歳のタルトからすればほとんどの生物は歳下なので恐らく間違っては無いだろうが、見た目だけで言えば大人の人魚と銀髪に美少女なので人魚の対応が正しいと思うがそれを俺が指摘する勇気は無い。
「タルトはお前の言い方で言えば二十二万回は生きている。尊重するんだぞ?」
「・・・大魔族様失礼しました。みんな行くっすよ?」
副リーダーは俺の言葉に顔を青褪めさせて人魚達を連れて広場から出て行く。
タルトは満足そうに鼻を鳴らして人魚を見送っているが、普段は冷静で思慮深いタルトにあんな一面があったとは驚きだ。
「ねぇ・・・」
「なんだ?なぜお前だけ残っているんだ?俺達の見張りか?」
「違うわよ!あんたにやられて群れを追い出されたの!責任取りなさいよ!」
「知らんがな。」
「あんたに押し倒されて魔族としてのプライドはズタズタよ!」
リーダー人魚が近づいて来てなにやら喚き始める。
かなり勘違いされるワードを連発してタルトが俺に疑惑の目を向けている。
タルトに半眼で見られるのはとても遺憾なのでリーダー人魚にアイアンクローをして電撃を流す。
「言葉は選べよ?」
「あびゃびゃびゃびゃびゃびゃ!!」
「いいか?まずやられたという表現を訂正しろ。次に押し倒して無い。ただ押して壁にめり込ませたんだ。」
「あびゃびゃびゃびゃびゃびゃ!!」
「俺の眷属がいるんだ。言葉をしっかりと選べよ?」
説教を終えてアイアンクローをやめて地面に落とすが、人魚はまだ電気が残っているようで蕩けた表情で体を痙攣させている。
「師匠?だらしない顔で失神しましたよ?」
「全くしょうが無い人魚だ。」
人魚は所謂アへ顔と言うのだろうか?舌を出してだらしない表情で昇天してしまった。
タルトと一緒に呆れるが人魚は問題なさそうなので俺は読書、タルトはベビードラゴンに変化して海水の湖で水浴びを楽しんで人魚を待つ。
「お待たせしたっす!」
「全員何も持ってないが?」
「これからすよ!」
副リーダーが帰ってきて合図を出すと人魚達が一斉に歌い出す。
とても綺麗な歌声で思わず聞き惚れてしまう。
人魚達の歌声に聞き惚れていると魔魚達がビチビチと飛び跳ねながら俺の前へとやってくる。
「おぉ!?」
「成程。魅了の歌声見事ですね。」
突然の状況に驚くがいつの間にか人間になったタルトは平常運転で魔魚を掴んで捌き始める。
俺も遅れて時忘れのマジックバッグをタルトとの間に置いて魔魚を捌き始める。
「なぁ?こいつなんだが・・・群れから追い出したのか?」
「・・・そうっすね。リーダーとしての仕事をしないので追放した事になってるす。」
俺が魚を捌きながら聞くと、副リーダーは昇天しているリーダーを見て溜息を吐きながら答える。
副リーダーは呆れた表情をしているが、慕われているのがよくわかる。
「なっている?どう言う意味だ?」
「ルドルフ殿には正直に言います。リーダーは貴方に負けてから常に上の空す!こんなリーダーはみんな見たくないんすよ!」
「では俺の眷属として連れて行けと?」
「そうなってしまうすね・・・よろしくお願いします!」
副リーダーは昇天するリーダーを見て慈しみの表情を浮かべながら頭を下げてくる。
俺は困ってタルトを見る。
タルトは魚を捌きながら黙って頷くので、俺は副リーダーに顔を向けて口を開く。
「分かった。引き受けよう。」
「リーダーはわがままで傲慢で・・・わがままですがよろしくお願いします!」
人魚達が一斉に頭を下げて頼んでくる。
「(わがままと二回も言ったぞ?)」
副リーダーの言葉に一抹の不安がよぎるが、もう水竜を眷属に迎えてしまっているので、ここに人魚が加わった所でそう変わりは無いだろう。
だが俺が連れて行くのに対して一番大事な事を聞いておかなければならない。
「だが一つ条件がある。こいつは人間に変化できるのか?」
「はい!貴方に付いて行きたいと進化してます!」
「俺に付いてきたいからといって進化だと?無茶苦茶だな・・・」
「さすがはリーダーっす!尊敬っす!」
副リーダーが興奮した様子で話すが、話し方が似ているせいか段々とこいつがコボチョウと被ってきた。
それにしても俺と一緒にいたいからと進化とは・・・俺に対してどんな欲望を抱いたのだろうか。
「それで?お前らはいいとして・・・リーダーの名前はあるのか?」
「あるっす!アンジェラっす!ルドルフ殿の天使という意味でみんなで考えたんすよ!」
「長い!アンジーだ。」
「貴方に名付けられたならリーダーは喜ぶす!」
俺の横でアへ顔で昇天するドMリーダーの名前はアンジーと決定した。
もし反対されたらアイアンクローと雷魔法で服従させれば喜んで受け入れるだろう。
「私もよく理解してませんがツンデレ・・・というやつなのですね?」
「俺は全くわかってないがそう言うのか?」
「普段はツンツンしているのに、いざとなるとデレデレする事です。」
「デレを発見出来ていないからツンデレでは無いだろう?」
「師匠のために進化までしたのですよ?デレで無くて何だというのでしょうか?」
「・・・あまり深く考えたくない話だな。」
タルトは淡々と言って来るが、本当に考えたくない話しだ。
本日二度目になるがアンジーがどんな欲望を抱き、それを俺に向けてくるのかこれから不安で一杯である。
「女の眷属が増えるがタルトは反対しないのか?」
「なぜでしょう?こんな人魚でも戦力が増えるのは喜ばしいことです。」
タルトの気持ちに気付けないほどの朴念仁では無いので、念のためにタルトに尋ねるのだが、タルトはあっけらかんと答える。
タルトは女性が増えるよりも戦力の増強の方が勝って嬉しいそうだ。
「戦力って・・・何と戦うつもりなんだ・・・」
「師匠の覇道を一緒に進める同士が増えるのは嬉しい事ですね?」
次は覇道などと言い出した。
俺は平穏無事に過ごしたいのであって、覇道などと言うものとは一生縁は無いだろう。
これ以上話しても頭痛の種が増えるだけな気がするので、話を切り上げて魔魚捌きに専念する。
魔魚を捌き終えたのだが、アンジーはだらしない表情をしたまま起きる気配が無い。
俺がどうしようかと考えているとタルトがおもむろにアンジーを持ち上げて塩湖へと投げ入れる。
タルトは同族の水竜や俺に優しいので気付けなかったが人魚の・・・歳下の扱いが少々雑なようだ。
「っぷぁ!何すんのよ!?」
「煩い魚類。さっさと人間に変化して付いて来るか、魔魚と一緒に捌かれて食材として付いて来るか選びなさい。」
タルトが殺気を放ちながらアンジーに言う。
おそらくアンジーは答えを間違えたら本当に捌かれるだろう。
魔族とは言え上半身が人間の人魚は食べたくないのでアンジーがタルトへの答えを間違えないように密かに祈る。
周りの人魚達も俺と同じ気持ちのようで震えながら手を合わせている。
「変化致しますです。」
アンジーは即答して陸に上がり、すぐに鱗に覆われていた下半身が二本の足へと変化する。
タルトは無言でマジックバッグから服を取り出してアンジーに投げつける。
アンジーも何も言わずに服を拾って着始めるので、早くも上下関係が確立したようだ。
「胸が苦しい・・・」
「そうですか。では少し削りましょう。」
アンジーがメイド服を着るが、チッパイのタルト用なので豊満な胸を持つアンジーのメイド服は胸のボタンが悲鳴を上げている。
タルトはそのボタンを見て小さく舌打ちをしながらも何とか堪えていたが、アンジーの一言で爆発した。
タルトは右腕だけ変化を解き、鋭い竜の爪をアンジーの胸に向かって振りかざす。
このままではアンジーが食材になってしまう、俺は大慌てで右腕を掴んで止める。
「お前らやめろ!タルトも気にするなら変化する時に大きくすればいいだろう?」
「・・・戦闘に邪魔ですので。」
タルトもアンジーの胸をもぐくらいに羨ましいのなら変化で大きくすればいいのだ。
タルトは目を伏せてモゴモゴと喋って全然聞き取れない。
とりあえず準備は済んだので人魚達にお礼を言って、怯えるアンジーを連れて岩山を出る。




