第二百話 タルトとのデート
宴会が進み、ウラン達は全員が真っ赤な顔になって楽しそうに料理を頬張りグラスを傾けている。
ただ全員の手が止まる様子は無く、満杯近く入っていたはずの時忘れのマジックバッグが空になりそうな勢いだ。
遠慮無く腹一杯になるまで食え。っと言ってしまったのを軽く後悔しながらひたすら料理をする。
「のぅニコよ?」
「なんだ?酔っ払いの絡みなら料理が終わってからにしてくれないか?」
料理を作っているとウランが上機嫌な様子で絡んでくる。
今相手をしている余裕は無いのでアランが酔っ払っている時と同じように適当にあしらうのだがウランがどこ吹く風で腰に手を回してくる。
「ひょっひょっひょっ!最近魔力量が増えておらんのじゃろ?」
「わかるのか?」
「竜の目は特別製でな?前回会った時から増えておらんようなのでな?」
「ここ一ヶ月近く上がった気がしてなかったが、やはりそうだったか・・・」
竜の目はそんな事まで見えるのかと驚く、俺の魔力量が上がってないという事の方が重要だ。
なんとなく感じていたのだが俺の限界が来たと信じたくなかったので考えないようにしていた。
「ニコよ。」
「・・・なんだ?」
「お主は何を求め。何を欲する?」
「平穏無事な生活を。」
「ほう?意外じゃのぅ・・・では何を差し出せる?」
「俺の力を全て差し出そう。平穏無事ならば必要無い。」
「ひょっひょっひょっ!それもまた一つの真理じゃの!」
ウランは俺の言葉に一瞬真顔になるが、すぐに楽しそうに笑い始める。
突然の質問に俺は意味がわからずにただただ困惑してしまう。
「何が言いたいんだ?」
「人間は気が変わりやすい生物ゆえ。お主は間違えた選択をせぬようにな?」
「答えになってないが?」
「そう遠くないうちに選択を迫られるじゃろう・・・間違った選択をするでないぞ?ひょっひょっひょっ!」
言うだけ言って上機嫌な様子のウランは千鳥足で離れて行く。
本当に竜種の言葉と来たらタルトの「俺は星」発言といい本当に意味がわからん。
そもそも「そう遠くないうち」と言われても、人間のそう遠くないなのか、竜のそう遠くないなのかもわからない。
人間目線ならば一年やそこらだろうが、竜目線だと数十年単位で先の話しな可能性もある。
ウランのせいで答えの出ない思考の渦にはまりながら、料理を作り続けているとタルトの家の扉が静かに開くのに気付く。
タルトはいつも通りのメイド服だが、右の袖がだらりと力無く垂れ下がっている。
ウランから聞いていたので覚悟はしていたが、実際に見てしまうと悲しみやら怒りやら色々な感情が腹の底からこみ上げてくる。
タルトは何やら覚悟を決めた表情で俺の下へと一目散に駆け寄ってきて口を開く。
「師匠遅くなって申し訳ありません!お手伝い致します!」
「手伝いの前にこれを飲め。」
どうやらタルトは宴会の騒がしさに誘われたのではなく、俺だけが忙しくしている状況が許せなかったようだ。
本当は天岩戸作戦でタルトに楽しい声を聞かせて出て来てもらうつもりだったのだが・・・少し意図していた作戦とは違うがタルトが出て来てくれたので結果オーライとしておこう。
とりあえず残った左腕だけでガッツポーズをするタルトに完全回復薬を差し出す。
「・・・この命が続く限りお供致します。」
「そんなに気合を入れる事か?」
タルトは俺が差し出した物が完全回復薬だと即座に理解して重々しい宣言と共に一気に飲み干す。
すぐにタルトの力無く垂れ下がっていた右の袖が膨らみ、袖から綺麗な手が出て来る。
アランの話を聞いて完全回復薬の効果は実証済みだったのだが、実際に目の当たりにするとすごいものだ。
タルトも目を見開いて自分の右手を眺めてグッパして感触を確かめている。
「タルト?無理に手伝わなくても宴会に参加すればいいんだぞ?」
「いえ!師匠に尻拭いして頂いて宴会に参加などもってのほかです!」
尻拭いも何も俺に付いてこなければ腕を失う事も無かっただろう。
だからタルトの発言には色々と言いたいことがてんこ盛りだが、タルトの右腕が生えた事に気付いたウラン達に囲まれて見えなくなり、話を強制的に切り上げられてしまった。
ウラン達の隙間から見えるタルトはなぜかメイド服を脱がされているが気にせずに料理作りに専念する。
「お前ら?もう料理はいらないのか?」
「食べるのじゃ!みんな持って行くのじゃ!」
「「「「「「「「わーい!」」」」」」」」
簡易机に料理が乗り切らなくなったのでウラン達に声をかける。
ウラン達はまだタルトをおもちゃにし足りないらしく、料理を持った皿とタルトを持って去って行く。
ちなみにタルトはパンツ一枚にされていた。
おそらく生えた腕が本物か確かめるためなのだろうが、もう少し恥じらいと言うものを持って欲しいものである。
「(最近女性に対して恥じらいばかりを求めている気がする・・・)」
そんな事を思いつつ料理を作り続けて夜が更けて行くが、結局俺のマジックバッグの中身が空になるまで宴会は続き、タルトは宴会に強制参加させられて戻ってくる事は無かった。
翌日目を覚まし、水竜の洞窟に入る。
昨夜時忘れのマジックバッグを空にするのに飽き足らず、ヴァドール産の干し肉などの保存食まで根こそぎ持っていかれて、完全に食料が切れたからだ。
おかげで大事に使っていたベーコンを作らないと駄目だし、なによりも魔物肉の補充が大変だ。
誰とは言わないが、学校には魔物肉が一種類だと味が単調だと文句を言う女と爺がいるので少なくとも三種類は用意しておきたいところだ。
少々辟易としながらも洞窟に入るとすぐに魔物を発見する。
「ほう?ウォーターリザードか。」
ウォーターリザードは姿形はリザードと一緒なのだが、肉体が水で出来ていて鱗や爪と言った素材は取れるが肉が取れないハズレ魔物である。
さっさと空気の刃で真っ二つにして素材を回収する。
キラキラと透き通るような鱗に牙そして大きめの魔石。
確か火耐性が高い防具になる高級品だと聞いた事がある。
その後もウォーターリザードを倒しながら洞窟を進んで行く。
「(ウラン達はこの洞窟で食事を済ましていると言っていたがウォーターリザードばかりで食べられる魔物がいないじゃないか・・・)」
そんな事を思いながらも素材を回収しつつ洞窟を進んで行く。
前にアークデーモン達を倒した部屋まで行くとやっと食べられる魔物を発見するのだが大問題発生である。
部屋の中にいた魔物が水竜だったのだ。
おそらくこの水竜はみんなが狩らずに残しておいて魔族になっているのを待っているのだろうから狩る訳にはいかないだろう。
がっくりと肩を落として洞窟を後にする。
「師匠!どこに言ってたんですか?」
「朝食の調達に洞窟に行っていたが、ウォーターリザードばかりで食べられる魔物がいなかったぞ?」
「あー面倒臭いからってほっとくとあいつらばかりになるんですよ!」
「しかも最奥には水竜だ。食材が何も無い。」
「私がいないとみんな不精で困ったものです。では私が一っ飛びしますので家に帰りましょう?それにしても・・・昨日の海水魚美味しかったですね?」
「海水魚が食べたいのか?西の端にゲーテと言う町がある。そこで人魚に言えば手に入るんじゃないか?」
どうやら洞窟の中に肉が出ないウォーターリザードしかいなかったのはウラン達が食べられる魔物だけを狩り続けた結果だったようだ。
タルトは呆れた様子で水竜に変化しながら昨日の宴会の料理を思い出して舌なめずりをしている。
どうやら余程海水魚が気に入ったようで俺の言葉に目を輝かしている。
「成程!では王都に帰る前に寄り道しましょう!」
「ウラン達に挨拶はしなくていいのか?」
「おそらくあれだけ食べて飲めば一週間は寝っぱなしでしょう。」
「さすがは竜種だ。」
さすがは竜種、ウラン達はこれから一週間は食休みをするので挨拶は無しでいいようだ、タルトの背中に乗って集落を飛び立つ。
タルトは「デート!デート!」と鼻歌を歌っていてとても上機嫌な様子で飛び続け一時間程でゲーテが見えてくる。
馬車で行けば数日はかかるだろうに恐ろしい速度である。
「師匠?あれどうします?無視しても問題無さそうですが?」
「・・・ワイバーンか。そう言えばあの割れた山はワイバーンと山賊の巣窟と言っていたな。一体欲しいが・・・多いな。」
タルトの視線の先を見るとワイバーンが群れで空を飛んでいた。
「では一体狩って来ます!師匠は下の森で待っていてください!」
「そうか?なら任せた。無理はするなよ?」
「亜竜如きが何体いようと物の数ではありません!」
「さすがは水竜だ。」
ワイバーンは風属性の亜竜だが、竜種特有の硬い鱗にかなりの威力のブレスを吐き空中を自由自在に舞う危険な魔物で、確か金級冒険者が三人はいないと戦いにもならない魔物と聞いた記憶がある。
その上群れでとんでいるワイバーンとなると人間からすれば遭遇したら死を覚悟するレベルだと思うのだが、水竜のタルトからすればそんな扱いになってしまうようだ。
タルトは自信満々に言い切るのでタルトの背から降りてエアーバッシュを発動させて森へと降り立つ。
「師匠血抜きをお願いします!」
「早いな・・・」
俺が地面に降り立つと同時に首を噛み切られたワイバーンを咥えたタルトがやってくる。
まさかここまで余裕だとは思っていなかったので驚くが、急いでヴァンパイアニードルを使って血抜きを施して解体をする。
「この箱は何ですか?」
「アイテムボックスと言ってな?大容量の箱だ。」
ワイバーンの素材をアイテムボックスに放り込んでいると人型に変化したタルトが不思議そうに尋ねて来る。
一応ブールニアで何があったか説明をして、アイテムボックスは冒険者ギルドの金庫から拝借した事を説明する。
「では口外厳禁ですね!ですがどうやって魔族が通せんぼしている上に魔物が跳梁跋扈するドランブ街の中に入れたのですか?」
「・・・説明すると長くなる。タルトにはその内教える日が来るだろう。」
「楽しみが増えましたね!」
「タルトは聞き訳がよくて本当に助かる。」
タルトは俺の様子から察してくれて、それ以上は何も聞く気は無いようだ。
タルトの気遣いに感謝しながらワイバーンを解体し終え、ゲーテの町へと入る。
「師匠何を買うんですか?」
「まずは酒だ。あいつらは酒が好きな様子だったからな。後はワイバーンと・・・楽器でも買って行くか。」
タルト共に人魚への土産と自分達用の食材を買い漁って行く。
少しだけ俺がゲーテを歩いたら騒ぎになるんじゃないかと懸念していたのだが、俺に気付く人間は誰もいないのでとても快適に買物をする。
楽器は店員に海水に強い楽器をと注文したところ銀を多く使ったトランペットやフルートなどを渡されたので買っておいた。
人魚といえばハープかな?と勝手な印象があったのだが、ハープは木を使っているので海水に浸かる可能性があるのなら絶対にお勧めしないと言われて諦めた。
その後タルトと一緒に浜辺から、エアーバッシュを発動して海の真ん中にある岩の祠へと向かう。
「師匠?あたし幸せです・・・」
「すまんが今は余裕が無い。」
タルトを抱っこして海を渡っていると蕩けた表情で俺に言って来るが、タルトが予想以上に重たく気を抜くと海に落ちてしまうので反応する余裕が無い。
何も考えずに抱っこしたが、人間の形をしていても中身は水竜なのだ。
少し考えれば見た目通りの重さで無い事は分かったはずなのに、ここで海に落ちてしまっては師匠と呼ばれているのに威厳も何もあったものでは無い。
その後もタルトは俺の胸に寄りかかって何やら呟いているが、エアーバッシュを発動させる事だけを考えて必死に海の上を駆け抜ける。




