第百九十九話 山賊の連行、水竜の集落
夕食を食べ終わると二人が食器を回収して小川へと向かって行く。
「すまんな。頼んだ。」
「ではおやすみなさい!」
「洗い物くらいはお任せください!」
二人共夕食の間にブレスレットに魔力を流し続けるコツを掴んだらしく、二人共いつも通りの様子で食器を洗っているので、もしかすると一ヵ月後はウィンストンどころかフォルナとアイリーンさえも越えるかもしれない。
楽しみにしつつ立ち上がって山賊達へと向かう。
「なんだ?」
「いや?念のために逃げられないようにしておくだけだ。」
山賊の頭領が俺に気付いて聞いて来るが、別に答えるほどのことはしない。
山賊達を囲むように結界を張る。
外からの攻撃は勿論、中から出る事も出来ないものなので、朝起きて山賊達が魔物や動物に襲われて死んでいる。っという事も無いし、逃走される心配も無くなる。
そして結界の中は適温に保たれるので山賊達にとっても嬉しいはずだ。
俺は自分の結界の出来を自画自賛しつつテントに入って眠りにつく。
翌日いつも通りに目覚めてテントから出ると、山賊達が何やら騒がしくしている。
近づいてみると全員が縄を解いて必死に結界を叩いて脱出しようとしていた。
「なぁ?今すぐに自分で縛られるのと、騎士二人にこの光景を見てもらうの・・・どっちがいい?」
山賊達に問うと一斉に俺の存在に気付いてお互いを縛り始める。
余程昨日の戦闘で恐怖を植えつけられたようだ。
その後クリスティアナとパンジーが起きて来るが、山賊達はすでにお互いを縛り終え何事も無かったように振舞っているので、二人は山賊達が逃げ出そうとしていた事に気付く事無く、朝食を終えて出発する。
出発してしばらくした頃、魔物用に一定時間ごとに発動している探索魔法に反応がある。
最後尾の山賊達がクリスティアナの目を盗んで縄を解いているようだ。
どうやら朝縛り直した時に最後尾の人間だけ緩めにしていたようだ。
「はぁ・・・」
読んでいた本を閉じながら大きく溜息を吐いてから、馬車から出て最後尾の山賊を押さえつける。
「あまり目に余るならギルドにも行けなくなるぞ?」
山賊や野盗は基本的に死罪なので、襲われた時点で殺しても何一つ問題無く、ギルドに連れて行っても無期の鉱山労働だそうだ。
俺もクリスティアナもパンジーも殺すのはしのびし、ギルドへ連れて行けば報奨金が貰えるそうなので手間をかけて連行しているが、もし山賊達に逃げられたら俺達の責任になってしまう。
これ以上手間をかけるようなら、食べない生物として殺すのも仕方が無いと思えてきた。
「なぜ俺達の動きがわかった?」
「自分の手の内を教える馬鹿がいるか?」
頭領が悔しそうに顔を顰めながら聞いて来るが教える訳が無い。
俺の返答を聞いて更に醜く歪めて悔しがっている。
「手を煩わせてしまって申し訳ありません!」
「問題無い。」
「おい!手を出せ!」
すぐにクリスティアナが駆けつけて来て山賊達を乱暴に縛り始める。
余程俺の手を煩わせた事が気に障ったのか、改めて縛られた山賊達の手はうっ血しそうなほどに白んでいる。
山賊は縄が食い込み、痛そうに顔を顰めているが自業自得だ。
さっさと馬車へ戻って読書を再開する。
その後山賊達は大人しくなり逃げ出そうという素振りも無く麓の町に着く。
素振りが無かったと言えば語弊がありそうだ。
正確にはクリスティアナとパンジーの厳しい監視によって出来なかったと言うべきだろう。
「ほら歩きなさい!」
「さっさと歩く歩く!」
そんな事を考えながらクリスティアナとパンジーがギルドへと山賊を連行するのを見送る。
まったりと読書をして待っていると、突然扉が開いていい匂いと共に人が入ってくる。
本から視線を外して訪問者を確認する。
突然の出現でも驚くよりも先に見惚れる美女、水竜の魔族ウランだ。
自分達が引く車にとんでもない存在感を放つ存在が入ってきたので馬たちがいなないたり右往左往して落ち着かない様子になる。
「久々だな?どうした?」
「色々とあってな?タルトが一大事なのじゃ。」
「一大事?何があった?」
「ざっくりと言うがの?タルトの右腕と翼が切り落とされ、今正に失意のどん底なのじゃ!」
「(タルトの右腕と翼が?何があればそんな事になるんだ?)」
ウランの言葉に外から聞こえる馬の鳴き声や村の喧騒が遠くに離れて行く。
「今は集落に戻って療養しておるが・・・お主に合わせる顔が無いとふさぎ込んでおる・・・」
「ほう?そこに俺が行って更に悪化する可能性は?」
「ない!お主ならばどうにか出来ると信じておるのじゃ!ひょひょひょひょひょ!」
「ならば少しだけ待て。連れと話し合ってからだ。」
「長い生なのじゃ!数分など一瞬だの。」
ウランは暗い表情で話したと思えば俺の言葉に上機嫌になって答える。
どうにもウランの情緒も不安定な気がして心配になるが、それよりもタルトの容態が心配なので、すぐにでも文字通り飛んで行きたいが今は帰り道とは言え任務の途中なので勝手に飛んでいくわけには行かない。
ウランが快諾してくれたので、クリスティアナ達が戻ってくるまでの間にしっかりと何があったのかと教えてもらう。
「なるほどな・・・やはりエミールは危険だったな・・・」
「何やらのぅ?アランが言うには御使い?とかいうやつだったらしいぞえ?」
「何!?御使いだと?」
「うむ。アランがの?死んで体が消えたから聖騎士勇者だ!でもあんな強いのは見た事無いから絶対御使いだ!って騒ぎ散らしておったのじゃ。」
ウランの言葉に思わず前のめりになってしまう。
ウランはニコニコしているので、状況を理解出来ていないようだ。
そんな事よりも危険だとは思っていたが、エミールが御使いというのは大問題だ。
さすがにウランを含めた水竜九体分の魔力を込めた攻撃で撃退したそうだが、次の襲撃でもウラン達が万全の状態で相対できるとは限らない。
それどころかウラン達が駆けつけられるかもその時にならないと未知数だ。
というか御使いという事はこの前のアルテミスやバルカンと同等の力を持っていると言う事だ。
相対したアルテミス達の評価はあんな化物には関わりたくない。その一言だった。
「・・・戻ってきたようだ。二人共入ってくれ。」
「え?何でしょうか?」
「ほぇー綺麗な人です・・・」
ウランの言葉に考え事をしていると皮袋を抱えたクリスティアナとパンジーが帰ってきて御者台へと向かって車の横を通るのが見えたので扉を開けて二人を招き入れる。
クリスティアナは平然とした様子で入ってくるが、パンジーは車の外でボケーッとウランに見惚れ始める。
「久しいのぅ?ささっ!中に入りやえ!」
「久しい?」
「わわっわかりましたぁ!」
ウランがパンジーに手を差し出している。
クリスティアナはウランの言葉に何やら考え始め、パンジーは慌てた様子でウランの手を取って促されるままに隣に座ってうっとりとウランを眺める。
「二人共?こいつは・・・俺の・・・」
「そういえば自己紹介をしておらなんだな?主の眷属ウランと申す。よろしくのぅ?」
「やはりそうでしたか。」
「えぇ!!?・・・えぇぇぇぇぇぇ!??」
俺が言い淀んでいるとウランが代わりに答えてくれる。
クリスティアナは成程と頷き、パンジーは壁に後頭部を押し付けながら驚いている。
「それでな?俺の大事な眷属が困った事になっているようでな?これから向かいたいのだがどうだろうか?」
「のっぴきならぬ事情があるのじゃ!お願い出来んじゃろうか?」
「問題ありません!」
「訓練ももう我々だけで出来るので御安心して下さい!」
二人共二つ返事で了承してくれる。
二人共俺との行動によって余程の事では動じなくなって来た。
その後もこれからの食事の食材などを含めた金の話をするが全く問題無いそうだ。
むしろ山賊の褒章金を渡そうとしてきたが、二人の成果なので断わりウランと共に村から出て目立たない森の中へと入る。
「もう大丈夫かの?」
「おそらく大丈夫だろう。」
「では行くのじゃ!」
ウランが裸になって水竜の姿に戻るので背に乗り、水竜の集落へと飛び立つ。
やはり馬車ごと持たれて移動するよりも背中に乗って移動するほうが気持ちがいい。
「そういえばアラン達に被害は出なかったのか?」
「教官に重傷者が多数でアラン殿は魔法で胸を貫かれたがなぜか復活したそうじゃ。」
死者は出て無いようで一安心だ。
おそらくアランは咄嗟に完全回復薬を使って助かったのだろう。
それにしてもアランとタルトの二人がいてそんな状況になるとは・・・エミールの事を舐めていたつもりは無いが、見通しが甘かったと言わざるを得ないだろう。
「ではエミールの強さはどうだった?」
「かなり強かったぞえ?少なくとも妹達の魔力を借りて即行で終わらせねばやばいと思う程度にはのぅ?」
「俺とどっちが強い?」
「エミールだの・・・ガルとの戦いのようにお主の戦略次第ではわからぬが・・・」
ウランは即答なので、エミールは俺を圧倒するほどの魔力量だったようだ。
一応前に戦ったガルーダの魔王種であるガルを引き合いに出して濁しているが、今の俺が勝つのはかなり難しいみたいだ。
「エスガルドの状況は大体分かった。タルトはどんな様子なんだ?」
「タルトは治療の途中で変化が解けると駄目じゃったので、集落へと運んで治療をしたのじゃが・・・完全に塞ぎこんでおっての・・・もう一週間家から出て来てないのじゃ。」
「なるほど。一応呼びかけて駄目なら天岩戸作戦だな。」
「ほう?何をするのか楽しみじゃの!」
ウランは楽しそうに声を弾ませているが、別に変わった事をするつもりは無い。
そのまま集落に着き、ウランの案内でタルトの家の前に案内してもらう。
水竜の集落は前回訪れた時は竜サイズの掘っ立て小屋があるだけのとてもシンプルな集落だったのだが、今はレンガ造りの立派な家々が立ち並ぶ集落となっていた。
ウランが「どうじゃ?わらわ達頑張ったぞえ?」っと誇らしげにしているが、素直に感心する。
「タルト大丈夫か?色々と土産もあるし土産話もあるから出て来てくれないか?」
タルトの家の前で声をかけるが反応は無い。
仕方が無いので集落の中央で料理を始める。
「ルドルフ?何をしておるのじゃ?」
「ん?タルトは出てこないが、ウランが眷属の振りをしてくれたりしてかなり頑張ってくれたからな。俺に出来うる限りの振る舞いをさせて頂こう。」
ウランが不思議そうな顔で言って来る。
タルトが出てこないが仕方ない。
お礼も含めてウラン達のために料理を作る。
「ウラン?食前酒だ。」
「ほう?これは美味しいのぅそれになんだかフワフワとしていい気分じゃの?ほれチーズ?みんなに配ってやりぃ?」
帰り道で買った酒を渡すがウランは初めて飲んだのだろう。
一口で顔を上気させ艶やかな雰囲気を醸し出し始め、俺達の周りで防衛戦の時と同じように奇妙なダンスをしている水竜達に酒を渡している。
水竜達も食前酒を飲んで顔を上気させとても艶やかな様子だ。
全員がかなりの美人なのでとても眼福である。
その後も水竜達は浴びるように酒を飲みながら、俺が作った料理を出したそばから平らげていく。




