第百九十八話 ルドルフブートキャンプ パート2成果
俺達はリーオの街を出発して二ヶ月半が経ち、今はエト山脈のネーウシ山を下っている。
急いだところで卒業式には間に合わないのでそれなら折角の外国を観光したいと二人に言われたので、エト山脈に入る前にちょこちょこと買物や観光をしたので結構予定よりも遅れている。
そんな事よりも今山賊と思われる人間達に囲まれつつある。
クリスティアナとパンジーは全く気付かずにのん気に話しながら御者をしているので教えてやる事にする。
「二人共。山賊かはわからんが人間達に囲まれているぞ?」
「なるほど、山賊だとすれば騎士団の馬車を狙うとは中々の自信家ですね?」
「ルドルフ殿がいるのにいい度胸だよねぇ?」
二人に馬車が包囲されつつある事を教えるが、クリスティアナは呆れたような顔をして、パンジーに至っては俺頼みの様子だ。
俺としては今こそ二人の訓練の成果を見る絶好のチャンスだと思う。
「訓練の成果を見せて見ろ。やばければ助けるし、死ななければ治してやる。」
二人は俺の言葉を聞いて割れそうな程の勢いで御者台の窓から間抜け面を近づけて来る。
どうやら二人共俺がどうにかしてくれると思っていたようだ。
「どうした?しっかりと山賊達を退治出来れば訓練は次の段階だ。そうでなければ・・・」
「「そうでなければ?」」
「今日の訓練からは文字通り心臓が止まるまでしごいてやろう。」
そう文字通り心臓が止まるまで治癒魔法は掛けない。
二人共間抜け面に拍車がかかる。
どうやら死なないか心配しているようなので、二人の心配を和らげてやる事にしよう。
「心配するな。心臓はな?止まっても数分以内なら治癒魔法でどうにかなるものだ。」
魔の森にいた頃にルルに俺の心臓が止まるまでしごかれた事を思い出す。
俺が弱すぎてルルが力加減を間違えてしまったせいなのだが、「ヌァッハッハッ!何事も経験なのだ!」っとルルは大笑いして誤魔化していたが、本当にその経験が役に立つ日が来るとは夢にも思っていなかった。
二人は間抜け面のままフリーズしているので、俺が行くしか無さそうだ。
小さく溜息を吐いて馬車の扉に手をかける。
「ルドルフ殿ぉ!ルドルフ殿の手を煩わせませんから!」
「そうです!これしきの事でルドルフ殿が出る幕はありませんからぁぁぁぁ!」
二人が御者台から飛び降り、左右二手に分かれて馬車の側面で山賊達を待ち構える。
どうやら余程次のステップに行きたいようだ。俺もその向上心は買いたい。
これだけの向上心があるのなら、山賊はおよそ二十人いるのでもし勝てなくても次の段階に進んでもいい頃だろう。
念のために危なくなったら即座に飛び出せるように二人にはばれないように御者台の窓から出て馬車の屋根で待機する。
「おぉ!可愛い騎士が守ってらぁ!」
「頭ぁ!可愛い騎士ですぜぇ!?」
獣の皮を剥いで身に纏った蛮族、という言葉がぴったりの男達が姿を現してクリスティアナとパンジーを見て嫌らしい笑みを浮かべている。
みんなそれぞれに武器を構えているが、ゴブリンが持っているような低品質な武具なので二人で問題なさそうだ。
「ゲハハハハハ!女ばかりの護衛でしかも中の人間が出てこねぇって事は護衛対象は女だ!中で震えてるんだろうぜ?やっちまえ!」
一際巨躯の男が現れたかと思うとなんとも短絡的な考えを披露しているが、周りの子分はその言葉に「さすがはお頭だ!」と心酔しきった様子でクリスティアナとパンジーに襲い掛かる。
まずはクリスティアナを観察する。
しっかりと周りの状況を確認して襲い掛かる山賊達の対処をしている。
冷静に山賊達の攻撃を見極めて時には避け、時には右手の盾で受け、時にはあえて兜で剣を受け、着実に山賊を行動不能にしていく。
ぱっと見は敵の攻撃を鎧で受けたりして綱渡りの戦闘にも見えるが、しっかりと相手の攻撃を見極めた上で無理なくしているのでクリスティアナは全く問題無さそうだ。
次に反対側のパンジーを見る。
「はぁ!」
俺が顔を出すと同時に山賊を横薙ぎに剣を振るい山賊をふっ飛ばしていた。
その後も盾でうまくけん制しつつ怯んだ山賊を戦闘不能にしている。
少々力技ではあるがこちらも全く危なげない様子だ。
訓練の成果が実際に見られたのは僥倖だった。これならば次のステップに移っても全く問題無さそうだ。
「チッ!不甲斐無ぇ部下どもだぜ!」
お頭と呼ばれていた巨躯の山賊が力任せに大斧を振ってパンジーに振り下ろす。
「キャアッ!」
パンジーは一瞬女の子らしい声を出してたじろいだが、一瞬で体勢を立て直して小盾と女性用の短めなロングソードを構えてしっかりと山賊を見据えている。
力自慢の脳筋パンジーでは大斧を真正面から受け止めて・・・とか考えていそうなので屋根から飛び降りてパンジーと山賊の間に降り立つ。
「ルドルフ殿なぜ!?私は戦えます!」
「いや。その盾では真正面から受ければ盾が壊れるだろう。さすがに死なれては治せん。」
パンジーのとても悔しそうな声が聞こえるが、いくら力自慢のパンジーとは言え、十二歳の女性が二メートル近くある巨漢が振る大斧を受け止めたらどうなるかは子供でも容易に想像できる。
これからあと一ヶ月魔力操作の訓練をしっかりとこなせば、身体能力強化魔法の精度が上がって大丈夫かもしれないが今はまだ早い。
「今更出て来ても遅いわチビ!!」
「すぐに背は伸びる。」
山賊がとても気にしている事を言いながら斧を振るう。
今はまだクリスティアナやパンジーと変わらない背丈だが、これから始まる成長期で一気に高くなる・・・はずだ。
せめてアランに抱きつかれて顔の位置が一緒の高さになるくらいには伸びて欲しい。
そんな事を考えながら片手で大斧を受け止めて、もう片方の腕で山賊の鳩尾に拳をめり込ませる。
「おぼぇっっ!」
「ばっちぃ・・・」
山賊は目を見開いて大口を開けて苦しみ、目の前にいた俺は見事に山賊の口から吐き出された唾を浴びてしまう。
とても不愉快な台詞を吐かれた上に、山賊の体臭がとても臭くて重ね重ね不快だ。
鳩尾にめり込んだ腕を引き抜いて、山賊の顔をあびせ蹴りする。
山賊は巨体を転がせながら山道の端へと転がって行く。
「全く・・・人のことをチビと罵った上に唾まで吐きかけるとは最低な男だ。」
「そうですね?山賊死すべしです!」
パンジーは迷う事無く自分の剣と盾を投げ捨てて、山賊が持っていた大斧を奪って、周りに群がる山賊へと突っ込んで行く。
大斧は柄の長さが一メートルはあり、立てかけるとパンジーと変わらないくらいの長さなのに、パンジーは軽々と振り回して山賊達を蹂躙している。
「(出会った時はこんな子じゃなかったのになぜこんな脳筋系騎士になってしまったのだろうか・・・)」
パンジーが嬉々として大斧で回転切りをし、それに巻き込まれて吹っ飛ぶ山賊達を見て思わず額を押さえる。
「パンジー大丈・・・夫・・・のようですね。」
「あぁ。山賊の頭領だけは俺が始末したが・・・あとは見ての通りだ。」
向こう側の山賊を片付けたクリスティアナが心配して駆け寄ってくるが、嬉々として大斧を振り回すパンジーとそれから必死の形相で逃げ惑う山賊達を見て呆れた表情を浮かべている。
「この後はどうするんだ?山賊達の根城を探すのか?」
「いえ。そこは国からの要請が無いので、まだ冒険者の領分でしょう。」
「そうか・・・にしてもパンジーは楽しそうだな。」
「パンジーも含めて後の始末は我々でしますので車に乗ってゆっくりなさっていて下さい。」
「わかった。」
言葉に甘えて車に戻り、二人の様子を観察するがパンジーが大雑把に戦って、細かい取り残しをクリスティアナがしっかりと処理して中々いいコンビである。
俺が車に戻ってから数分で山賊を掃討し終えて、二人は手際よく山賊達を縛って行く。
山賊達を二列に並ばせて、手縄をした上で足を交互に前後の人間で縛っているので、逃走防止もばっちりだ。
「では進みます!」
「あぁ任せた。」
手早く縛った山賊達を馬車に繋いだパンジーが御者台に戻ってきて馬車が進み始める。
どうやらクリスティアナは監視のために山賊達と一緒に歩くようだ。
魂が抜けたように馬車に引かれて歩く山賊達を引き連れてゆっくりとネーウシ山を下って行く。
しばらくして夜営することになる素朴な疑問が生まれる。
「クリスティアナ?山賊達の飯はどうすればいいんだ?」
「何も食べさせずに倒れられても困りますしね・・・水とパンを与えとけばいいでしょう。」
「わかった。寝床は?」
「そこら辺に縛って置いときます。」
クリスティアナに聞くのだが、中々冷ややかな目で辛辣な様子だ。
山賊などの野盗に慈悲は無いとは聞いていたが、ここまでとは思ってなかったので少々驚きだ。
少々不憫なのでスープを作ろうかとも考えたが、俺までクリスティアナ達に冷ややかな視線を向けられたくないのでやめて普通に三人分の料理を作る。
「ルドルフ殿?次の訓練とはどのような物なのでしょうか?」
「うんうん!次のステップが気になってました!」
「次か?次はこれをつけて生活してもらう。」
夕食を食べていると二人が聞いて来るので、ウィンストンの時に使ったブレスレットを渡して説明する。
このブレスレットは滅茶苦茶重たいのだが、魔力を流せば軽くなるエドお手製のマジックアイテムだ。
「わかったか?剣術はエスガルドに帰ってからすればいい。後は魔力操作の練習だ。」
「かしこまりました。寝る時以外は着けるんですね?」
「そうだ。だが身に危険が迫った時なども全て自己判断で外せよ?」
「かしこまりました!」
二人は早速ブレスレットを両手両足に着けて食事を始める。
二人共普通に食事が出来ているので、ウィンストンの初日と比べて雲泥の差で正直驚く。
尤もウィンストンが酷すぎたのかもしれないがまだ三人にしか教えていないので判断が難しい所だ。
たまに気を抜いてブレスレットが重くなって食器を引っくり返しながら食事をする二人と夕食を食べる。




