第百九十二話 ヴァドール滞在最終日
俺がテントで気持ちよく寝ていると突然の衝撃に目を覚ます。
「ルドルフ殿ぉ!私結婚したいですぅ!」
「・・・クリスティアナか?」
どうやらべろべろに酔っ払ったクリスティアナが俺の上に飛び乗ってきたようだ。
テントの入口を見やると、真っ赤な顔をしたパンジーがニヤニヤと俺達を眺めている。
「ルドルフ殿ぉ!?聞いてますかぁ!?」
「あぁ・・・睡眠霧。」
クリスティアナが馬乗りになってつかみかかってくるので魔法で眠らせる。
俺に覆いかぶさっるように眠ってしまったので、そっと横にどかせてパンジーにジェスチャーで自分達のテントへと運ばせる。
ツツジとウツミを見て羨ましくなって酒の力を使って頑張ったのだろうが、今は恋愛よりも優先することが多すぎて恋愛どころの話でない。
それにアランなどの絡みもあるし、仕事上の関係だけでいるのがお互いのためだろう。
パンジーがクリスティアナを担いでテントから出て行くので改めて眠りにつく。
翌日目覚めて朝食を作っていると二人が起きてくるが二人共二日酔いなのか頭を抱えていて、クリスティアナは謝ってくる様子は無いので恐らく二人共昨日の出来事を覚えていないようだ。
「出来たぞ?二日酔いの時こそ吐いてでも食べろ。」
「ありがとうございます・・・」
「うっぷ・・・食べなきゃ駄目なんですね・・・」
二人は青い顔をしながら頑張って朝食を口の中に押し込んでいる。
アランが「二日酔いできつい時こそニコの飯!」と言って朝食をかき込んでいた。
アランの言葉なので少々不安は残るが、大酒飲みのアランが昼食まで二日酔いを引き摺っているのを見た事無いのでおそらく本当だと信じている。
朝食を食べ終わる頃にカイサが村中の女性を引き連れてやってきた。
杖を突く老婆からまだ指をしゃぶるのに大忙しの子供まで、とにかく全部の女性が俺の前で一斉に頭を下げる。
「カイサ?何の真似だ?」
「昨日のケーキの作り方を教えて下さい!他にも色々と!」
カイサが大声で答える。
後ろに控える女性達は頭を下げたままだ。
指をしゃぶっている女性は隣の母親らしき女性に無理矢理頭を押さえつけられていて見ていて少し辛い気持ちになる。
「わかった!だがこれだけの人数には教えられないから厳選しろ。こんな小さい子に教えても作れないだろう?・・・なぁ?お嬢ちゃんは食べる専門だよな?」
「ケーキ食べたい・・・」
「・・・すぐに作ろう。」
指をしゃぶる女性に聞くが上目遣いで言われてノックアウトされる。
俺がピザ釜の準備を取り出して準備をしていると、女性陣からロリコン?っと聞こえるが、あんな穢れの無い目で言われたらどんな人間でもノックアウトするに決まっている。
だから俺はロリコンでは無い。
俺がピザ釜の準備を終える頃にはカイサが女性の選別を終えて、十人ほどの女性達にデザートの作り方を教える。
「美味い!」
「それはよかった。」
先程のお嬢ちゃんに試食係をお願いしたが、満面の笑みでケーキを食べている。
名前をニナというらしい。
俺があーんをしているとまたロリコン?と女性陣がヒソヒソと話し始める。
「二ナの純粋な濁りの無い目で言われて嬉しくならない人間がいるのか?あと俺はおっぱいが大好きだ。」
女性陣に誤解を生まないためにも最後に一言加えたのだが更に女性陣のヒソヒソ話が白熱し、全員が胸を寄せて谷間を作り始める。
ニナの母親まで谷間を作って上目遣いをしてくるので教育的にも本当に止めて頂きたい。
それに俺はおっぱいが好きなのであって大きさはそこまで気にしないので、谷間を作った所で関係無いのだが、それを言えば薮蛇になるだろう。
あえて何も言わずに次のデザートを教える。
「・・・この窯を作るのが最大の課題じゃな・・・」
「明日までに作っておこう。」
「蜂蜜も高うて作るんには・・・」
「そこは甘いものを探してくれ。」
カイさが俺がいなくなってからのことを心配している。
窯は用意するが、甘味は自分達でどうにかしてもらわなければならない。
窯は俺が用意すればしばらくは使えるし、壊れても修理なり作り直すなり出来るだろうが、甘味は今回俺が用意しても尽きればそれでおしまいだ。
ヴァドールの人間達でどうにか解決してもらうべきだろう。
「という訳で俺は窯を作る。このレシピを元に作れるだろう?指揮は任せた。」
「かしこまりました!」
とりあえず基本となるデザートは教えた。
あとはその応用で簡単に作れるはずなので、後の事はカイサに任せて大丈夫だろう、少し離れた場所で釜を作る。
俺が使っている簡易型の適当なピザ釜とは違うオーブンタイプの少し複雑な構造のものを作ろうと思って簡単に設計図を起こす。
俺のピザ釜は薪を焚いて熱して同じ部屋で焼くと言う普通のものだが、これから作る窯は二層構造になっていて下からの熱で窯全体を熱するものだ。
これならば初心者でも使いやすいし、女性達でも俺のピザ釜よりは安全に扱えるだろう。
書物で学んだ知識なので少々不安は残るが恐らく俺のピザ釜よりもいい物になるだろう。
「ルドルフ様?夕食の時間なので失礼します!貴重な時間をありがとうございました!」
俺が夢中で窯を作っているとカイサが声をかけてくる。
窯作りを中断して視線を上げるとお辞儀をしながら俺が渡したレシピを差し出してきていた。
「そのレシピはお前らで持っておけ。窯は明日には作っておく。」
「かしこまりました!ありがとうございました!」
「「「「「ありがとうございました!」」」」」
女性達が改めて一斉にお辞儀をしてくる。
仰仰しいと思って呆れていると、ニナが俺の袖をツンツンと引っ張っている。
「ニナどうしたんだ?」
「ありがとっ!」
何か言いたそうに口をモゴモゴとしているので耳を近づけると満面の笑みで御礼を言ってきてキスをしてくる。
どこで覚えたのだろうかと思いつつも嫌な気はしない。
頭を下げていた女性陣がそれを見て「やっぱりロリコン・・・」と話し始め、二ナの母親は何やら覚悟を決めた表情をしているが誤解としか言いようが無い。
「ニナありがとうな?これからママ達が作ってくれるだろうから楽しみにしとけ?」
「うん!ありがとう!」
「お前ら勘違いするな?ニナは可愛い。だが恋愛対象では無い。何よりもエスガルドに恋人・・・?的なやつがいる。」
「明日までが勝負じゃ!」
ニナの頭を撫でながらしっかりと女性陣に釘をさしておく。
俺の言葉になぜか女性達がキャーキャーと騒ぎながら村へと帰って行くのだが、カイサが何やら不穏な事を言っていたが聞かなかった事にして窯作りを再開する。
「只今戻りました!」
「ルドルフ殿!?最後の夜なのでありったけの食材を貰ってきました!」
カイサ達が立ち去ってからどれくらい経ったのかはわからないが、二人が大量の魚介類を抱えて帰って来る。
さっさと夕食にするためにも窯作りを急ぐ。
「ルドルフ殿?お忙しいようですし今日は我々が料理しましょうか?」
「いいのか?」
「はい!お任せください!」
「では楽しみにしておこう。」
クリスティアナが素晴らしい提案をしてくれる。
店以外で人が作った料理を食べるのはかなり久々だ。
楽しみにしながらも窯を作り終え、試運転も兼ねて簡単に手抜きクッキーを作る。
「ルドルフ殿出来ましたよ!クリスの愛情たっぷり魔魚料理ですよ!」
「パンジー?馬鹿な事言ってないで手伝いなさい!」
パンジーが呼びに来るのだが、顔を真っ赤にしたクリスティアナに後ろ襟を掴まれて離れて行く。
クリスティアナの気持ちには気付いていたが、段々と露骨になってきた。
フォルナのように自分から身を引いてくれればありがたいのだが、アイリーンというストッパーがいたので引いたのであって、パンジーはアイリーンと違って楽しそうに煽っているので中々難しそうだ。
「(とりあえず窯自体は大成功だな・・・)」
丁度不揃いなクッキー達が焼き上がったので回収してクリスティアナとパンジーの下へと向かう。
ヴァドールでの最後の夕食は魚の煮付けだった。
少し濃い目の味付けは米との相性抜群でとても美味しい。クリスティアナはいい奥さんになるだろう。
だがこれを言うとパンジーは面白そうに煽ってくるのは目に見えているのであえて何も言わずに料理を食べる。
クリスティアナが俺が何も言わないからか少し残念そうにしているが、何を言っても薮蛇になりそうなので何も言えないのでもどかしい。
「クリスティアナ美味しかった。代わりにと言ってはあれだがさっき焼いたクッキーを食べてくれ。」
「その言葉だけで十分であります!片付けも我々がしますのでどうぞお休みになってください!」
「よかったね?毎日食べたいってさ?」
夕食を食べ終わって感想とクッキーを残してさっさと自分のテントへと向かう。
パンジーにからかわれたクリスティアナが俺のクッキーを独り占めして喧嘩を始めているが、恐らくいつものじゃれ合いだと思うので無視して自分のテントに入る。
「お待ちしておりました。」
「・・・いつからいた?」
テントに入ると布団が敷かれており、その上で三つ指を立てたカイサが出迎えてくれた。
カイサは生地少な目の中々刺激的な下着だけの姿でとても魅力的だ。
だがその刺激よりもいつの間に布団を運び込んだのか気になって仕方が無い、そして何よりも俺がテントに入るまで全く気付けなかった事に驚きだ。
「ルド・・・あなた様が窯作りをしている時に準備いたしました。」
「そうか・・・悪い事は言わん帰れ。」
「そうですか・・・私は潔く引きますが次の方はどうでしょうね?」
カイサの言葉に悪寒が走り、探索魔法を発動するとテントと村の間に立つ塀に隠れるように複数人の反応がある。
どうやらカイサを追い返しても村中の女性が順番にテントに入ってくるようだ。
中にはとても小さい子供の反応もある・・・おそらくニナだろう。
思わず頭を抱える。
「カイサ?これはあくまでも俺が片手間に考えた草案だ・・・明日目覚めたら確認してくれ。」
「え?塩田ですか?」
全員を断わっていては夜が明けてしまう。
そして何よりも俺の予想通りにニナが登場したら俺は母親を呼んで説教を始めそうだ、そうなると結局夜が明けてしまう。
カイサに俺が適当に作っていた草案を渡す。
あくまでも草案であり、俺は手伝うつもりは無いので、頓挫する可能性もある。
本当は去り際に村長に渡して、やりたければやってみろ。っと言う投げ槍なものである。
なぜ塩田の草案を今出したのかと言うと、今カイサはかなりの興奮状態でおそらく睡眠霧をかけてもレジストされてしまうので、気を逸らすためだ。
「海水を採れる安全な場所は少ない。成功すれば特産品になるかと思ってな?ではおやすみ?」
「待ってくだ・・・」
カイサはまだ話したそうだったが、睡眠霧をかけて布団で寝かせる。
俺への関心が塩田へと逸れたので簡単に眠らせることが出来た。
これで次の女性がテントに入ってくる事は無い。
安心して鍛錬を終えていつも通り寝袋に包まって夢の中へと意識を手放す。




