第百九十一話 続いて披露宴
俺は式が終わるやいなや二人に呼び出されて本来ならば新婦が座るべき席に座らされたと思ったら深深と頭を下げてくる。
「ふぃー・・・疲れたぜ!綺麗なウェディングドレスありがとな!」
「本当にそうですね?信じられませんがルドルフ殿が作ったのでしょう?」
ツツジとウツミが喜んでいたのは見たが、新郎の二人にも喜んでもらえたようで頑張って作った甲斐があるというものである。
「そう言って貰えただけで十分だ。だがなぜ俺はここに座っている?お前らと結婚した覚えは無いぞ?」
「ヘッヘッヘッ!俺達の聖騎士生活に引導を渡したルドルフさんよぉ?気持ちはどうだ?」
「引導を渡した覚えは無い。」
俺が至極真っ当な文句を言うが、ロンヴァルトは気にした様子も無く肩を組んで来る。
そして全く見に覚えのない事を言って来る。
俺がいつ引導を渡したと言うのかさっぱりわからない。
「ルドルフ殿を見て自分の限界を思い知らされまして、このままツツジ殿・・・いやツツジと一緒に歳をとるのも悪く無いかな?っと思いましてね?」
「ヴィンガがこう言うんなら、俺も可愛いウツミと一緒になってな?二十年一緒にやったんだ、もう死ぬまで一緒に魚を取るのも悪くねぇかな?って思ってよ?
ただ告白して一時間もせずに、あれよあれよと結婚式まで決まったのは驚いたがな・・・へへへ。」
「それはよかった。二人共末永く幸せにな?」
二人共は遠い目をして答える。
俺の何を見て限界を感じたのかは知らないが、身を固める決心をしたのは男として尊敬する事だ。
とは言え告白して一時間もせずにここまでの大事が決められるとはフットワークの軽い村である。
「ロン?本当にいいのですか?私が結婚するからと流されてませんか?」
「うるせぇ!今更お前以外と組めるかよ!それに俺一人だと失敗するのは目に見えてらぁ!ならウツミと子供達に囲まれながら、お前と一緒にのんびりと過ごすのも悪くねぇやな?へへへ」
「どっちにしろ付き纏ってこないのなら祝福しよう。そろそろ俺はお邪魔になるだろうから失礼する。」
この二人は本当に仲がいいようだ。
相方が聖騎士をやめて結婚するからと、自分も同じように結婚しようと決意するのは容易な事では無いだろう。
集会場からツツジとウツミが出て来たので主役の席からどいてクリスティアナ達の隣へと移動する。
「では皆様本日は我が娘のツツジと姪のウツミの結婚式に御参列頂き誠にありがとうございます。
私は若い頃は冒険者として村を出ていた事もあり、ツツジを授かったのは四十を越えてからでありまして本当に目に入れても痛くない可愛い自慢の娘であります。
その娘が聖騎士様と一緒になられるとは感無量で・・・」
村長がむせび泣き始め、長い長い祝辞が始まった。
そして村人達はとても退屈そうにしている。
隣のクリスティアナとパンジーも分かりやすく片肘を付いて空のグラスを弄って手遊びをしている。
村長は嗚咽しながらも必死にツツジとウツミ達への祝辞を読み上げる。
とても二人が大切だなと思う気持ちが伝わってくるいい祝辞だった。
「(そんなに大事な娘と姪に聖騎士の夜の世話をさせるのは如何なものかと思うが・・・)」
そんな事を考えながらウェイターに扮する村人達が忙しなく目の前の空のグラスに酒を注いで行くのを眺める。
「ではヴィンガ殿!ロンヴァルト殿!末永く我が村で一緒によろしくお願い致します!では乾杯!」
「「「「「乾杯!」」」」」
タイミングを見計らったように全員のグラスに酒が注がれると同時に、村長の祝辞が終わって村人達が一斉に立ち上がって乾杯をして一気に騒がしくなって宴会が始まる。
ある者は隣の人間と酒を飲んで騒ぎ、ある者は新婦に酒を注ぎに行ってお祝いの言葉を述べ、またある者は早々に酔っ払ってヴィンガとロンヴァルトへと怨嗟の視線を送っている。
「やはりツツジとウツミはもてるのだな?」
「そりゃ美人ですしねぇ?」
「未婚の男達はみんな狙ってたでしょうね?」
「俺は聞いてただただ、めでたいと思ったがみんながそうでは無いのだな?」
「ほらルドルフ殿?今ツツジ殿と話している女性。目が笑ってないでしょう?」
「あそこの男性は銛を取り出してヴィンガ殿を睨んでます。」
俺が思わず言うとパンジーとクリスティアナがウェディング姿のツツジとウツミに見惚れながら答える。
俺は結婚式は目出たい!と思って大急ぎで動いたが、人の数だけ物語がある。
全員が全員ハッピーとは行かないようだ。
そう言われて改めて宴会場を見てみると女性達からは聖騎士をものにした妬みが。男達からはツツジとウツミを取られた恨みが宴会会場に渦巻いているのが、幻視できてしまった。
「こんなのを見せられると結婚したくないな・・・」
「こ、これは特殊な状況ですから!」
「そうです!私とルドルフ殿ならば祝福の嵐です!」
「クリス今それ言う!?」
クリスティアナとパンジーが意味のわからない喧嘩を始めるので俺は席を立って暇そうにしているヴィンガとロンヴァルトの下へと再度向かう事にする。
「どうだ?もう他の女を抱けなくなった感想を聞かせてくれ。」
「フフフ!私はツツジが居ればそれで十分です。」
「俺もだ!ルドルフはどうなんだ?一人の女に決めるってのは逆に覚悟が決まるぜ?」
「すまんが俺はまだ女性を知らない。結婚はまだまだ早い。」
俺の言葉にヴィンガとロンヴァルトに留まらず、友達と楽しそうに話していたツツジ達も驚愕の表情を浮かべて俺を見る。
俺が女性を知らないというだけで、そんなに驚かれる意味がわからない。
「女性を知らない?嘘でしょう?」
「嘘じゃない。」
「はぁ?お前ほどの腕なら言い寄ってくる人間なんて星の数ほどだろう?」
「星の数は言いすぎだ。」
「まさか・・・私達に手を出さなかったのは・・・」
「変な勘ぐりをするな!女が好きだ。」
「じゃけど魔貝漁の時に胸を押し付けたのに無反応じゃったけんのぅ・・・」
「あれはそういう意味だったのか・・・気付けば無くて申し訳ない。」
ヴィンガ、ロンヴァルト、ツツジ、ウツミの順で言って来るのでしっかりと一問一答しておく。
それにしても魔貝漁をしている時にウツミが貝に手を挟まれたと抱き付いて助けを求めて来た事があったが、普通にハプニングだと思って雷魔法で魔貝を取ったが誘惑をされていたとは気付けなかった。
「そういえばな?この前ドランブの街でアルテミスとバルカンと言う人間に会った。」
「ほう?御使い様にあったのですか?」
「しかも守銭奴アルテミスに収集癖バルカンのコンビって事は一瞬で片付いたんだろうな?」
変な話になりそうなので、本題を切り出す。
俺が二人の名前を出すとヴィンガとロンヴァルトは真剣な表情で答える。
「俺は聞きたいのは御使いとはなんだ?全員翼が生えているのか?」
「御使い様とは人から進化した方々です。現在七名の御使い様がいらっしゃいます。」
「数千人いる聖騎士のトップでよ?滅茶苦茶つえーらしいな?」
あまり知られていない話だが、人間も魔物と同じように進化するそうだ。
進化するには、限界まで魔力量を上げた上で、何かを渇望した時に進化するという事だ。
だからこそ魔族は自分の欲望に正直だ、そうでないと進化出来ないのだから進化した魔族や魔物程自分の欲望に正直だ。
そして欲多き人間が一つの欲望に対して進化出来るほどに深く欲望を抱く事はまず不可能だとルルから聞いていたが、その不可能を乗り越えた人間が七人もいるらしい。
「人間が進化しても肉体の縛りから離れて精神体に近づくだけだろう?翼が生えるとは聞いた事も無いぞ?」
「そうなんですか?我々は御使い様がそうだったので、進化すれば翼が生えるとばかり思ってましたね?」
「おうよ!進化して空を飛びたいって、聖騎士なら一度は思うぜ?」
人間が進化したら、翼が生えるなどと聞いてない。
ルルが言わなかっただけなのか、それとも御使いだけなのか・・・考えても分かりそうも無い。
「それで?ルドルフ殿はいつまで村にいるつもりなんですか?」
「明後日帰る予定だ。」
「えぇ!?もう俺達聖騎士じゃねんだし、ゆっくり遊ぼうぜ?」
「ロン?ルドルフ殿は僕達の結婚式のために延期してくれたんですよ?次に遊びに来た時に我々がおもてなし出来るようにしましょう?」
ロンヴァルトはとても残念そうにしているがヴィンガの言う通り二人の結婚式のために滞在を延ばしたのだ。
ドラゴンケイブ大迷宮解放には一ヶ月以上かかる予定で日程を組んでいるそうなのでまだまだ滞在しても問題無いのだが、野菜の買出しをしないと毎朝村にやってくる行商人が持ってくる数種類の野菜だけでは物足りない。
そして何よりもさっさとエスガルドに帰ってニコに戻りたい。
「それじゃあもう一つのお祝いの品を準備してくるかな・・・」
「ウェディングドレス以外にもあるのですか?」
「あんな綺麗なウツミを見れたのにまだあるってか?お前は本当に飽きさせねぇなっ!?」
「お前らはどうかは知らんがツツジとウツミは喜ぶと思うぞ?」
笑顔の二人と別れて少し離れた所で慌しく動き回るカイサに時忘れのマジックバッグからケーキを取り出して渡しておく。
カイサは満面の笑みでケーキを切り分け始めるので問題無いだろう。
元の席に戻ってしばらくするとケーキが配られてヴィンガとロンヴァルトが笑顔の新婦達にケーキを食べさせている。
とても仲睦まじい雰囲気でほっこりとしてしまう。
「新郎新婦があーんしてる・・・いいなぁ・・・」
「憧れるよねぇ・・・思い切ってルドルフ殿に頼んでみたら?」
「二人でシミュレーションしろ。じゃあ俺はテントに戻るぞ?」
「かしこまりました!」
「もふはへははへふ!」
俺はやるべき事はやり終わったはずなので自分のテントへと戻る。
早速クリスティアナがパンジーにケーキを詰め込まれて何を言っているのかは謎だ。
「(にしてもパンジーは一気にあーんさせすぎなので相手が見つかるまでに要練習だな。)」
あーんの練習なんて初耳だが、今のリスのように頬を膨らませてケーキを食べるクリスティアナを見る限り必要だろう。
そんな事を考えながら自分のテントへと戻る。




