第百八十九話 クネの奥の手と御使い達
昨日一話飛ばしてアップしてました。
二話前に割込み投稿してますので、興味のあるお暇な方はよろしくお願いします。
騎士達から歓声が上がる中、新たなクラウンズが街門の端からひょっこりと顔を出す。
顔を覗かせたクラウンズは王冠を被っており、門から出て来る気配は無い。
「(王冠か・・・やはり出してきたか。)」
王冠を被ったクラウンズ、クラウンズの中でも特に性能のいい四体にクネが王冠を被せて区別している道化の王達だ。
道化の王達が出動するのは、竜を狩る時以外には見た事無いので、俺の戦闘能力は竜並みだとクネが評価したのだろう。
嬉しい事ではあるが、先程のクラウンズでも気を抜けなかったのに道化の王達が相手となると本気を出さないと簡単に死にそうだ。
道化の王達は門の端から横向きに顔だけを覗かせたまま動かないので、恐らく俺が準備を終えるのを待っているのだろう。
遠慮無く戦闘準備をさせて頂く。
「(久々だ・・・十分が限界だな。)」
魔力を放出して半径三メートルを自分の魔力場へと変える。
魔力場を維持するために全力で魔力を放出し続けなければならないので十分以内に勝負を終わらせないと俺は魔力枯渇によって行動不能になってしまう。
だが俺の魔力場内では、敵は精霊魔法などの魔素を利用する魔法は使えなくなるし、俺は魔力感知や通常の倍以上精密な魔力操作が可能となる。
魔力場を体内と表現される事もあるほどに自分にとって有利なフィールドである。
そして俺はこの体内でなければ道化の王達とは勝負にもならないだろう。
準備が終わったのでこちらを静かに待つ道化の王達に礼をして構える。
道化の王達は門から出て来る。
「(虫タイプ・・・ジョイか。)」
道化の王達は腕が二対生えていて、わちゃわちゃとしたおどけた様子で駈け寄ってくる。
道化の王達には喜・怒・哀・楽の四体いる。
クネ曰く「あたしの感情をこの子達に分けたの。」と言っていた。
そしてふざけた様子とは裏腹に四本の手にはそれぞれに剣・槌・弓と矢を持って完全に戦闘態勢だ。
そして手に持つ武器は全てエドお手製のマジックウェポンでそれぞれが絶望的な性能であり、一体で三個も扱えるような代物では無い。
「とりあえず弓か・・・違う!」
脇から生えた腕が弓を構えるので、身構えていると肩から生えた剣を持った腕が振られ不可視の衝撃波を飛ばし、もう片方で持った槌を地面に振り下ろしている。
魔力感知を発動してなければ、不可視の衝撃波で終了となっていた自信がある。
なんとか衝撃波避けるが先程振り下ろしていた槌が地面を叩くと地面が大きくうねり、先程のクラウンズとの戦闘で作った土の槍が全て砕けて風に舞う。
そして粉塵の向こうからありえない軌道を描きながら五本の矢が飛んで来る。
「(魔力感知をしてなければもう死んでるぞ・・・)」
矢は避けても速度を落とす事無く旋回して俺に向かって飛んで来る。
俺もお返しとばかりに磁場を形成して先程のクラウンズがジャグリングをしていた剣を操ってジョイに斬りかからせつつ矢を地面へと叩き落し、一足飛びに粉塵を飛び越えるべく地面を蹴る。
「(母さん・・・魔力感知を展開してなければ死んでるよ?)」
ジョイも同じように俺が操っていた剣を叩き折って粉塵へと飛び込んで来た。
魔力感知を展開してなければ、ここまでで何度死んでいるだろうかと思わずクネに届くはずの無い念波を飛ばしながらジョイと打ち合う。
右から迫る剣を居合い抜きした刀で弾き、左から迫ってくる槌を蹴って回避する。
そして下の腕で矢を放とうと弦から指が離れるので加速しきる前に矢を左手で掴んで地面に投げ捨てながら、エアーバッシュに魔力を流して空中を蹴ってジョイの背中へと回る。
魔力感知で操り糸の場所は把握している。
背中の腰から伸びる糸を斬るべく刀を鞘に納めて集中する。
「終わりだ!」
数瞬の集中を終え操り糸に向かって居合い斬りを行う。
ジョイが数瞬とは言え俺が集中している間動かなかったので不審には思っていた。
そして居合い斬りを行って動かなかった意味がはっきりとわかった。
結論だけ言うと俺の居合い斬りでは操り糸を斬る事が出来なった。
「(道化の王達は操り糸も特別製なのか・・・)」
呆気にとられていると、ジョイの首がぐるりと回って俺を見つめる。
そして遅れて上半身が百八十度回転して襲い掛かってくる。
槌と弓での打撃を身をよじってなんとか避けるが、続いて怪しく青く光る剣が襲ってくる。
マジックウェポンの様子を見て俺の全神経が絶対に受けるべきではないと総出で警鐘を鳴らしている。
エアーバッシュを使うなり風魔法で突風を起こすなり逃げるだけなら可能だ。
だがそれではクネの手の平の上だ。ジョイは俺が逃げるか避けるのを心待ちにして槌と弓矢を構えているのだ。
「(進むも地獄、引くも地獄なら進むのみだな・・・)」
左手の平に風魔法で風の塊を作り、向かって来る剣の腹を下からの掌底突きして弾き飛ばす。
俺の予想外の行動に驚いたのかジョイが動きを止めるので、続いて刀に空気の刃を纏わせ、刀と空気の刃を強化して上段から唐竹割で二本の右腕を纏めて一刀両断する。
地面に二本の腕と槌と弓が落ち、そのまま連撃を加えようと下からの袈裟斬りに刀を振るうが、ジョイの剣に受け止められそのまま空中で剣を交え続ける。
「ふいー!これがピエロだね!?」
必死にジョイと斬りあっていると突然隣から声が聞こえてくる。
魔力感知によれば女性のようだが、近づいてきた気配も転移魔法による空間の揺らぎも感じなかった。
ジョイを操るクネも同じようで、突然現れた女性の声に分かりやすく動揺した様子で一瞬戦闘が止まる、瞬間ジョイの頭が閃光に包まれ、首から上が消失する。
俺が今出来る最大の威力を持つ三魔法重ねがけの刀しか通用しなかったジョイの頭が無くなった。
今目の前を横切った閃光がどれ程の威力だったのか想像も出来ない。
「おいおい。横入りなんじゃねぇのか?」
「いいんじゃん?殴り合ってたし結構ヤバ目だったよ?」
突然現れた日傘を差した女性と小太りの男が話している。
女性は純金で出来ていると思われる鎧を着ており、小太りの男は最近見慣れた法衣姿だ。
「お前は金以外の事は適当・・・なんだ!?落ちてるマジックウェポン全部レアもんだ!」
「あんたは珍しい物を見つけるとポンコツになるよね?・・・ほら!」
小太りの男はジョイのマジックウェポンに飛びつき、ジョイが慌てて小太りの男を蹴り飛ばしてマジックウェポンを残った二本の左腕でかき集める。
「・・・次の機会があれば決着をつけよう。」
ジョイが俺に刀を蹴り渡してくるので受け取って別れの挨拶をする。
自分のマジックウェポンと腕を抱えてちょこんと腰を下げてお辞儀をして街の中へ駆け出す。
「あ!逃げちゃう!」
「いってぇ・・・それよりもアルテミスはそこの人間と報酬の話をしとけ!」
「わかった!君!?今回の金の分け前を相談しよう!」
「分け前だと?どういう意味だ?と言うかお前らは何だ?」
とりあえず日傘をした女性はアルテミスと言う名前らしい。
顔を確認したいのだが認識疎外魔法でも掛かっているのか全く把握出来ない。
全く把握出来ないのに何も不自然な気持ちにならないので、とても不思議な感覚である。
「あたし達は精霊教の御使い。聖騎士達からの要請を受けてやって参りました。」
「これはこれは、精霊教のお偉いさんでしたか。あのピエロを追い払ったのは貴女です。今回の名誉も褒章も貴女達でどうぞ。」
「ありゃ!この子マスクをしてて怪しいけどいい子だよ!」
「いえいえ!では私は女王にこの事を伝えるためにもこれで失礼致しますので、街と大迷宮の解放をよろしくお願い致します。」
精霊教の御使いなどと言う役職は聞いた事も無い。
俺が本気を出した攻撃以上の破壊力をいとも容易く発動し、認識疎外魔法がかかったマスクを見破った、どう考えても俺よりも保有魔力量は上だろう。
こんな得体の知れない人間に関わって碌な事になる訳が無い、さっさと離れるのが吉だろう。
突然現れた二人に全ての手柄を全て譲りさっさとその場を離れる。
「じゃあバルカン聞いたね?さっさと片付けるよ?」
「わかった。接続するぞ?」
「いやーっ!」
騎士達の群れを抜けて遠視で二人の行動を監視する。
バルカンと呼ばれた男が空に向かって謎の球体を投げはじめ、アルテミスは無邪気な様子で右腕を天に掲げたと思ったら背中の鎧の隙間から一対の純白の翼が生える。
「(翼だと?精霊教は魔族は・・・という事は人間なのか?)」
必死に分析をしていると、アルテミスは翼を羽ばたかせて優雅に街が一望出来そうなくらいの高さまで飛び上がる。
「ホーリーシャワー!」
どこか間の抜けた声が聞こえ、アルテミスが構えた日傘の先からシャワーと言う言葉に相応しく、夥しい数の閃光が飛び出して街へと落ちて行く。
もしもだが敵対した時のことを考えてしまう。
さすがにこの夥しい数の閃光一つ一つが先程ジョイの頭を吹っ飛ばした閃光と同じ威力では無いだろうが恐ろしい光景である。
「さぁ!魔物は全部駆逐したから回収よろしくね!?分け前は仕留めたあたしが五割!ちょろまかそうとする悪い子は厳罰しちゃうからねっ!」
「アルテミス?魔族は大迷宮に逃げたみたいだし、物も全部持って行ったみたいだから俺帰るわ。」
バルカンが目の前にマジックバッグを広げながら空にいるアルテミスに声を掛けている。
先程ばら撒いていた球体が独りでにマジックバッグに入っている。
先程の「接続」という言葉と攻撃方法を見た限り、バルカンが偵察役でアルテミスが攻撃役なのだろう。
この短時間で街中の探索を終え、一瞬で殲滅した。
バルカンも偵察が得意というだけで戦闘能力は未知数だ。
「全部って!?全部ってどこまで!?」
「全部は全部だ!ギルドの金庫も空っぽで面白そうなマジックアイテムも無し。そして・・・火事場泥棒出来そうな金も無しだ。」
「え・・・じゃあ魔物狩った小金しか手に入らないの?」
「そういう事だ。帰るならまだ間に合うぞ?」
「帰る!そこの聖騎士!今回の魔物の半分はアルテミスに出すように!」
「大金持ちなんだから、そんな小金捨てろよ・・・」
「強欲の名が泣くよ?一ゴールドを笑うものは一ゴールドに泣くんだよ?」
「わかったわかった。」
二人は世間話をしながら忽然と消え、騎士と聖騎士と冒険者達が我先にと街へとなだれ込む。
魔法陣は見当たらなかったので転移魔法では無さそうだが、どうやって消えたのか全くわからない。
わかったのは、二人の名前と役職。そして今の俺では絶対に敵わないと言う事だ。
とりあえず、女王と話すために女王の馬車へと歩を進める。




