第百八十八話 クネとの真剣勝負
「では行って来る。」
「お気をつけて!」
「お帰りをお待ちしております!」
クリスティアナとパンジーとの挨拶を済ませてセシリア女王の馬車に乗り込む。
二人はヴァドールの村で俺がドラゴンケイブ大迷宮を開放するまで留守番だ。
セシリア女王曰く「ルドルフ様はヴァドールにいるのですから、御付の人間もヴァドール。」という事だ。
俺としては特命騎士としての、変装をするつもりは無いのでそんな面倒臭い作業は必要ないだろうと思ったのだが、俺の御付がヴァドールの村にいた。と言う事実が必要らしい。
あとヴィンガとロンヴァルトの姿も見えないのだが、セシリア女王は「大丈夫です!」の一点張りなので何をしているか謎だ。
「ねぇルドルフ様?」
「なんだ?」
馬車が進み始めると早速セシリア女王が話しかけてくる。
出来れば読書を楽しみたいのだが、女王を無視するわけにも行かないので返事をしておく。
「ルドルフ様ならドランブの街はどれ程で解放出来ますか?」
「どの時点で解放なのだ?」
何度も何度も解放と言われたが、よくよく考えればどの時点で解放と言われるのかがわからない。
コボチョウ達魔族がいなくなればなのか、街の中の魔物を駆逐すればなのか、大迷宮に入れるようになればなのか、それとも街と融合したジャングルを撤去し終えればなのか全く謎である。
「大迷宮の前に我が軍の陣地を張る事が出来たら解放です。」
「前に寄った時と同じ状況ならば一日だ、だが陣地を作るとなると足手まといがいるだろうから一週間はかかるだろうな。」
「街の入口にはハイコボルトとウォーウルフの魔族が立ち塞がっていますが勝てると?」
「どうだろうな?勝負は常に時の運だからな。」
コボチョウ達とクラウンズ、クネに力を見せればあいつらは満足して魔の森へと帰るだろう。
問題はその後の街の中だ。
街の中は森と変わらない状況だったし、結構な数の魔物が巣くっていたので兵士達を守りながら進むとなるとかなり時間がかかるだろう。
セシリア女王が難しい顔で考え込み始めるのでやっと読書に集中できそうである。
その後も馬車は森の中を何事も無く進んで行き、昼過ぎにドランブの街の前に広がる騎士団のテント地帯へと到着した。
道中揺れも気にならず、速度も中々速かったのでさすがは王族の馬車である。
「では私は騎士団長達と話をしてきます。」
「わかった。」
セシリア女王が馬車から降りるので、手を振って見送る。
俺が先日の騎士団長からの対応を話すと、女王は気を利かせて騎士団長には会わなくていいと言ってくれたので本当にありがたい。
俺の握手を無視されてもう騎士団長には一切の興味無いしどんな顔をしていたかも覚えていない。
マジックバッグから適当に作り置きの料理を取り出して昼食にする。
「特命騎士殿!特命騎士殿出て来て頂けますか!?」
昼食も食べ終わってまったりと読書をしていると馬車の外から俺を呼ぶ声が聞こえる。
おそらくこの声はへしゃげた兜が似合うシャロンだ。
俺は本を閉じて馬車の外に出ると予想通り、シャロンが立っていた。
シャロンは兜を慎重したようで綺麗になっていて、後ろには騎士達が隊列を組んで街の門へと向かって道が出来上がっていた。
少し仰々しすぎると思うのだが、ブールニア女王国のしきたりなどは一切わからないのでこれが普通だと自分に言い聞かせてシャロンと共に門へと向けて騎士達で出来た道を進む。
「では早速で申し訳ありませんがピエロ退治をよろしくお願い致します。」
「あぁ・・・ピエロだと?ハイコボルトとウォーウルフじゃないのか?」
「あの三体の魔族は戻ってきた聖騎士勇者様達が退けたのですが、入れ替わりにピエロが出てきまして・・・」
「聖騎士勇者は全滅した、と?」
シャロンは黙って頷く。
コボチョウ達は約束通り俺が帰ってくるまで堪えられたようだ。
だが俺がまだ顔を出して無いのでコボチョウ達が御褒美なのか、お仕置きなのかは微妙な所である。
クネの気分次第だろう。
「それで?ピエロに関しては何かわかっているのか?」
「はい。聖騎士様達の話では千年前に南の大陸を恐怖に貶めたふざけた切り札達だと思われます!」
クラウンズ達はかなり格好いい名前で呼ばれているようだ。
とは言え魔族側と人間側で呼び名が違うのはややこしいので統一してくれないと混乱しそうだ。
次クネに会えたらこの呼び名を教えて統一してもらえるように頼んでみよう。
「ズと言う事は何体もいるのか?」
「全くわかっていません。あのピエロ共が魔族なのか魔物なのかさえわかっていないと言うのが現状です。」
あの人形の正体はクネの糸で作った操り人形なのだがそれさえも判明してないようだ。
そうなるとクネの存在すらも人間は認識していないのだろう。
上手く立ち回らないとクネの正体がばれかねないので中々責任重大である。
「わかった。さっさと片付けよう。」
「頼もしいお言葉です。」
シャロンは言葉では俺にへりくだっているが、俺を見る目は冷め切っており「ピエロに殺されろ」と心の声が聞こえてきそうだ。
そして俺が進む騎士達の道の向こうでは、楽しそうにボールの上でバランスをとりながら六本の剣でジャグリングをするクラウンズが見える。
「では御健勝をお祈りしております。」
「あぁ。」
門を包囲する騎士達が途切れ、棒読みのシャロンに送られて門へと歩を進める。
クラウンズは俺の姿を確認して、驚いた様子で乗っていたボールから落ちて盛大に尻餅を付き、ジャグリングしていた剣がポコンポコンと順番に頭に落ち、それを見ていた見張りの騎士達から失笑が起こる。
ちなみに頭に落ちる剣はしっかりと柄が下になるように調整されているので、驚いたのも転んだのも全て計算である。
「(ここまで精巧に操れるとはさすがはクネだな・・・)」
クラウンズと相対してお互いに一礼して俺は刀を抜き、クラウンズはファイティングポーズをとる。
「(さて・・・どう動く?)」
俺はクラウンズの動きに合わせて居合い抜きでカウンターを叩き込む作戦だ。
魔の森を出て成長した今の俺ならば極限まで集中した本気の居合い抜きで斬れるかのか試したい。
集中してクラウンズが動き始めるのを待つが、クネも同じ戦法のようだ。
そのままお互いに後の先を狙い睨み合う。
「(ちっ!根競べじゃクネに勝てないか・・・)」
何千年も生きた魔族の気の長さに百年も生きられない人間が勝てる訳がない。
おそらくクネなら今の状態で丸一日俺が動くのを待ち続けるだろう。
このままでは俺が先に集中力が切らしてしまい、その隙をつかれるのはてしまうだろう。
諦めてクネに悟られないようにゆっくりと静かに魔法の準備をする。
もし俺が魔法の準備にリソースを割いている事がばれたらクラウンズは即行で俺に襲い掛かってくるだろう。
クネに絶対に悟られてはいけないので、ゆっくりとだ。
三十分後、なんとかクネにばれずに準備を終えた。
いやクネは気付いていてあえて俺を泳がせているのかもしれないが、そんな事を考えていては何も出来なくなる。ここまで来たら腹を決めて愚直に攻めるのみである。
まずは先程クラウンズがジャグリングしていた剣を雷魔法で磁力を発生させてクラウンズへと飛ばす。
「「「「「おぉ!?」」」」」
周りの兵士達からどよめきが起こる。
俺は構わずに剣を軽々と避けるクラウンズを中心に地面から何十本もの土の槍を作り出す。
クラウンズはその場から飛んで上空に退避するので一気に斬りかかって勝負を仕掛ける。
クラウンズの目の前でエアーバッシュを発動して空中を踏み込んで居合い抜きをする。
クラウンズは俺の刀にそっと手を当てて軌道を変えられ空振り、直後に俺の右腕によって死角となった場所から左足が飛んで来る。
すんでの所で身を逸らして避け、エアーバッシュで空中を蹴りムーンサルトをしながら刀を振る・・・手応えありだ。
俺が空中で動けないと思っているクネの意識の死角を突けた。
おそらくクネは今大混乱だろう。
クネが冷静さを取り戻すまでが勝負だ。そのままエアーバッシュで空中を縦横無尽に跳んでクラウンズを何度も何度も斬る。
クラウンズの体は俺の刀では一切傷を付けられていない。
だがクラウンズを斬るために刀を振っているので無いので気にせず刀を振り続ける。
何十回と斬りかかったところでクラウンズの首と腕が文字通り糸が切れてだらりと力無く揺れ始める。
「(やっとか・・・)」
さすがのクネでも人間と同じ大きさの人形を無線では操作出来ない。
このクラウンズも腕と足そして頭と胴体の六箇所に操り糸があり、両腕と頭の三本の操り糸を切る事に成功した。
決死の覚悟で攻めて、やっと作戦の第一段階成功だ。
攻めの手を弛める事無く空中を蹴ってクラウンズへと刀を振るう。
クラウンズは器用に足を使って俺の剣を捌く。
十分近く戦ってやっとクラウンズの右足の操り糸を切る事が出来た。
クラウンズはでくの坊のように全身が重力に引っ張られるままにぶらぶらとしている。
「(よし!これで・・・嘘だろ!?)」
勝ちを確信した瞬間、振り上げていた左足が突然前に曲がって顎にクリーンヒットしてしまう。
魔王種と戦う時は常識を捨てろ。完全に失念していた。
まさか膝が前に曲がるとは・・・魔王種相手では虚しい言い訳でしかない。
軽い脳震盪を起こして歪む視界の中、何とか地面に着地する。
「(勝った。せてくれるよな?)」
俺が生やした土の槍を挟んで対面にクラウンズが着地して動きを止めている。
作戦通りにクネがクラウンズの操り糸を接続しなおしているのだ。
いきなり膝が前に曲がった時は驚いたが、なんとか作戦通りにいけたようだ。
クラウンズは人形なので重力には囚われない。
それなのに最初に地面を土の槍だらけにした意味はクラウンズが今いる場所に着地させるためだったのだ。
「これで終わりだ。絶炎」
ふらふらとよろけながらもトリガーワードを唱えるとクラウンズの足元に魔法陣が現れ、地面から真っ黒な炎が湧き上がる。
この魔法は結界で完全に密閉した空間の中に地獄の炎とも呼ばれる黒炎を作り出す。
発動範囲を結界内に制限する事により威力も上がり、密閉空間を作り出すことによって結界内は天井知らずで温度が上がると言う相乗効果により鉄だろうといとも容易く溶ける温度を実現させた魔法である。
ただ俺の魔力量や操作熟練度では設置しておかなければ発動できないという最大の制限がかかってしまうのだが、上手くいってよかった。
「(とは言えこれで駄目ならお手上げだぞ・・・)」
数秒後、超高熱によって焼けて硝子状になった地面だけを残して絶炎の発動が終わる。
さすがのクネの糸でも鉄をも溶かす絶炎の超高熱には耐えられなかったようだ。
「「「「「うおぉぉぉぉぉっ!」」」」」
俺がクラウンズがいなくなったことを確認して納刀すると、観戦していた騎士達から割れんばかりの歓声が上がる。




