第百八十七話 騎士達の思惑
この話を飛ばしてました・・・という訳でこの話を割込み投稿した上でもう一話アップします。
本日二話投稿です。
「特命騎士ってなんだよ・・・」
「シャロン?グチグチ言わないの!」
ドランブへ向けて森を歩いているが気に入らない。
何が気に入らないって、エスガルドとかいう田舎の国から来た人間が失礼なやつだからだ。
ちょっとあたし達より強いからってとにかく生意気な奴だ。
そして何よりも気に入らないのは女王が我々よりも奴の事を高く評価している事だ。
「あー被りにくい!邪魔だねっ!」
「ドランブに着くまで我慢しなさい?私だってお腹に金属が当たって不快なのよ?」
昨日あいつに兜を曲げられたせいで額と後頭部に金属が当たって痛くなってきた。
だけどあたしはまだ兜を脱げるからマシ、レジーナの鎧は腹にあいつの拳の方がくっきりと残って遠目でもすぐにわかるくらいにへこんでいる。
「あいつは馬車の中で悠々として・・・腹立たしいったらないね?」
「フフフ。あれだけの無礼を働いてドランブを封鎖する魔族に負けたってなったらどうなるでしょうね?」
レジーナの言葉に雷に打たれたような衝撃を受けると同時に納得する。
丁寧な口調のレジーナだが四従臣の中で一番好戦的なのだ。
そのレジーナが昨日の一件以来何も言わない事が不思議だったのだが、どうやら今は出来る限りチヤホヤとしてドランブの街で大衆の面前で大恥をかかせるつもりみたいだ。
「そりゃ・・・こんだけ大見得きって魔族に負けたら恥ずかしくて二度とこの国には来れないだろうね?」
「でしょ?だから盛大にあたし達四従臣が補佐をして上げましょう?」
レジーナは背筋が凍るような笑みを浮かべて言って来る。
しかもブールニア騎士団トップであるあたし達四従臣で補佐をして、更に傷を深くしようとしている・・・この女だけは敵に回したくない。
その後行きと同じで魔物に出会う事無くドランブで陣を張る騎士団の下へと到着する。
「レジーナ?シャロン?エンリコ?騎士団長の下へ行きましょう?」
「「「はっ!」」」
馬車から降りてきた女王と共に騎士団長の下へと向かう。
どうやらあいつは馬車の中でゆっくりしているようだ。
エスガルド如きの田舎者が女王に働かせていい御身分である。
それが自分の首を絞めているとも知らず。。。精々今の状況を楽しむといい。
あいつ以外の全員で陣頭指揮をとる騎士団長のテントへと入り、女王はひとしきりの挨拶や説明を済ませてテントの端に侍女達が準備していた席に座るのであたし達の出番だ。
「ケンドール騎士団長!今の状況を教えろ!」
「はっ!先程聖騎士勇者六名がウォーウルフとハイコボルト二体の魔族を撃退し、街へと逃げたのですがその後入れ違いに例のピエロが出て来て・・・返り討ちにあった所であります。」
騎士団長が淀みなく報告をする。
本来ならば悲しむべき報告なのだが、聖騎士勇者が六人がかりでも倒せなかったと聞いてレジーナの口角が釣り上がっている。
「もう心配ありません!女王様の特命騎士様がいらしてますので、女王の馬車からそのピエロまで騎士達で隊列を組んで盛大に見送って差し上げて?」
「かしこまりました!」
レジーナが楽しそうに指示を出し、ケンドール騎士団長は走ってテントから出て行く。
これで馬車から門までのプチパレードが決まった。
「シャロン?鎧を新調して貴女が彼を案内しなさいねぇ?」
「了解だよ。」
レジーナはプチパレードをするだけでは飽き足らず、あたしに・・・四従臣に案内をさせて更にあいつへの期待を膨らませるようだ。
悪い顔をしたレジーナと頷きあうが、きっと今のあたしの顔はレジーナに負けず劣らず悪い顔をしているだろう。
すぐに隣のテントで替えの鎧へと着替えてあいつが待つ馬車へと向かう。
「特命騎士殿!特命騎士殿出て来て頂けますか!?」
あたしが声をかけるとすぐにあいつが馬車の扉を開いて姿を現す。
これから魔族との戦闘だと言うのに気負った様子も無く、目の前に広がる騎士達の道を見ても無反応でなんとも面白みのない人間だ。
「では早速で申し訳ありませんがピエロ退治をよろしくお願い致します。」
「あぁ・・・ピエロだと?ハイコボルトとウォーウルフじゃないのか?」
「あの三体の魔族は戻ってきた聖騎士勇者様達が退けたのですが、入れ替わりにピエロが出てきまして・・・」
「聖騎士勇者は全滅した、と?」
「(そこまで言えば誰でも察するだろうに・・・)」
この男は全てを説明しないとわからないのかね?半ば呆れながらも頷いてそのまま先導しながら魔族のいる場所へと向かって歩く。
「それで?ピエロに関しては何かわかっているのか?」
「はい。聖騎士様達の話では千年前に北の大陸を恐怖に貶めたふざけた切り札達だと思われます!」
「ズと言う事は何体もいるのか?」
「全くわかっていません。あのピエロ共が魔族なのか魔物なのかさえわかっていないと言うのが現状です。」
これは嫌がらせでもなく本当の事だ。
聖騎士達もあのピエロが千年前に好き勝手に暴れまくって、突然姿を消したふざけた切り札達と言う事しかわかってない。
ピエロが現れて半月、確認しようにもあのピエロを倒すどころか傷一つ付けられていないのが現状である。
「わかった。さっさと片付けよう。」
「頼もしいお言葉です。」
こいつは言うに事欠いて片付けようと言う。
ここまで言い切られると逆に賞賛したくなって来るほどだ。
だが聖騎士勇者が六人がかりで敵わない相手に一人で戦いになる訳が無い。
女王には申し訳ないが、あたしはレジーナとの賭けでこいつが三秒で死ぬに賭けたのだ。
ちなみにレジーナは希望的観測を込めて十秒で死ぬに賭けた。
では大道芸をしてあたし達を挑発するピエロの目の前まで来たので最後のあたしの仕事だ。
「では御健勝をお祈りしております。」
「あぁ。」
しっかりと跪いてあいつを見送る。
さぞ周りの騎士達には四従臣に恭しく見送られる超大物として映っている事だろう。
ピエロがあいつを見て大道芸を中断させて、なぜか二人でしっかりと一礼して構える。
「(ちっ!三秒経っちまった・・・)」
そう思ったのも束の間、二人共微動だにしないまま十秒も経過したので賭けは無効だ。
「ねぇ?どうなってるの?」
「もう三十分あの体勢で両方共動いてないよ。」
二人共全く動かなさすぎて、遠くから眺めていたはずのレジーナが痺れを切らしてやってくる。
「へぇ?もしかしてお互いに動けないとか?」
「あぁ達人同士だと先に動いた方が負けとかって言うあれか?」
「な、訳ないっか!」
「そうそう!あんなの本の中だけだって!」
一瞬もしかして?とも思ったが、そんな話は本の中以外では聞いた事もない。
二人で笑いあっていると、突然勝負が動き始める。
あいつは何もしていないのに、地面に転がっていた剣がピエロに向かって一直線に飛び、直後地面から数えるのも億劫になる数の土の槍が飛び出して来る。
「「「「「おぉ!?」」」」」
突然の出来事に全員の声が揃う。
そしてその後あたし達は声を上げる所か息をするのも忘れてしまう事となった。
土の槍を避けるためにピエロが空中に飛び上がり、あいつはピエロに向かって抜刀しながら飛び上がる。
あたしが見えたのはそこまで、次の瞬間気付いた時にはあいつはムーンサルトしながらピエロを斬っていた。
「レジーナ見えてる?」
「早すぎてぇ剣が三本くらいに見えるわねぇ?」
あたし達はあいつの事を見くびっていたようだ。
それと同時にあいつと喧嘩した時のことを思い出した身震いがする。
あいつが本気を出していたら、あたし達は確実に死んでいただろう。
恐らくあたし達を倒すのも殺さないように気をつけて・・・それこそ指先で摘むくらいの力しか出してなかったのだろう。
「てかなんで両方共浮いたままなんだ?重力はどこにいったんだい?」
ふとあいつもピエロも空中で戦いっぱなしで全く地面に足を着いてない事に気付く。
余りにもあいつらが普通に戦っているのでそんな当たり前の事に気付けなかった。
レジーナに問いかけるが、彼女は二人の戦闘に魅入っていてあたしの声は届いてないようだ。
「マジで何でもありだな?」
「でも対応したわね?」
ピエロの足がいきなりありえない方向に曲がって蹴りを繰り出しているが、驚く事にあいつはしっかりと反応したが、捌ききれずに蹴りを喰らって着地してフラフラとしている。
どうやらあいつらにも重力と言う概念があったようで少し安心してしまう。
そして最初に生やした土の槍を挟んでピエロも着地する。
「これで終わりだ。エンドフレア」
あいつがポツリと呟くと、ピエロが真っ黒な炎に包まれる。
エンドフレアなどという魔法は見た事無ければ聞いた事も無い。
炎が収まると今まで勇者達のどの魔法でも傷一つ付けられなかったピエロが跡形も無い。
一体どれ程の魔力を使えば先程の魔法を発動できるのか想像もつかない。
「なぁレジーナ?あたし達とんでもないのに喧嘩売っちまったか?」
「「「「「うおぉぉぉぉぉっ!」」」」」
真っ青になったレジーナに問いかけるが、騎士達の歓声で返答は聞こえない。
いや、そもそもレジーナはただ呆然とルドルフを眺めていて返答する気が無いようだ。




