第百八十六話 特命騎士に任命された
「ルドルフがよ?臨時で聖騎士になればいいじゃねぇか?」
「成程!私にはそれを可能にする権限もありますしね?」
ロンヴァルトの作戦は俺が聖騎士として参加するというものだった。
俺が聖騎士のふりをしている所をクネ達に見られるのは絶対に嫌だ。
そしてヴィンガとロンヴァルトが嫌らしい笑みを浮かべて俺を見ているので、そのままなし崩しに聖騎士にされそうな気がしてならないのが更に嫌だ。
「すまんが俺にも事情がある。聖騎士は絶対に駄目だ。」
「ならばルドルフ殿は臨時で私の特命騎士としましょう!もちろん名前は表に出しませんし、権限も私に次ぐものを差し上げましょう!」
俺が聖騎士を拒否すると、ならばとセシリア女王が詰め寄ってくる。
俺とそう変わらない年頃のはずなのだが、有無を言わせぬ迫力がある。
「セシリア女王!?エスガルドの人間にそのような事をなるのですかぁ!?」
「あなた達を一捻りにした彼の力が必要なのです!なりふり構っていられません!これは女王命令です!」
俺がセシリア女王の迫力に気圧されていると、後ろに控える騎士達が慌てふためき、レジーナが反論しているがセシリアの一喝で全員が静かになる。
俺も断われる雰囲気では無いので、断わるのは折り合いがつかなくなってからでも遅くは無いだろう、とりあえず建設的に条件の話し合いをするべきだろう。
「では俺が特命騎士になったとしよう。期間は?」
「ドラゴンケイブ大迷宮解放まで。」
「権限はどこまで?」
「騎士団長へ・・・いえ!私と同等の発言権を!」
「報酬は?」
「狩った魔物は適正価格にて買い取ります。そして名誉の代わりに十分な報酬を用意します。」
「受けよう。但し一切の指図は受けん。」
「かしこまりました。」
「そして御付を付けるな。邪魔でしかない。」
「・・・かしこまりました。」
「最後に・・・」
「最後に?」
「ヴァドールの村人達は今復興で大変だ。俺が解決したらすぐに騎士共を派遣して復興を手伝え。」
「勿論です!」
「まとまったな?では明日の朝出発だ、失礼する。」
「かしこまりました準備を進めておきます。」
このまま長居をしていれば後ろに控える騎士達が何かを言って来そうだ。
今あいつらにギャーギャー騒がれたら我慢出来る自信が無いので、セシリア女王との話が終わり口を挟まれる前にさっさと村長の家を出る。
「(こうなるとなりふり構っていられないな・・・)」
そのまま砂浜へと向かい、自分の分の魚を手に入れるべく動く。
「ルドルフ殿どこへ行ってらしたんですか!?」
「これ美味しいですよぉ?」
俺が砂浜に着くと両手に魚料理を持ったクリスティアナとパンジーが駈け寄ってくる。
「明日朝一でドラゴンケイブ大迷宮に出発するぞ?準備を任せた。」
「「かしこまりました!」」
二人は俺の言葉に即座に敬礼をして砂浜を出て行く。
俺の少ない言葉でも即座に理解して行動してくれるのは本当にありがたい事だ。
続いて魚料理を食べるウツミ達の下へと向かう。
「ウツミ。今日採れた魚を売って欲しいんだが誰と交渉すればいいんだ?」
「売る?何を言っとるんじゃ?今日の漁はルドルフ様に差し上げるために開催したんじゃで?」
「ほう?ならば尚の事売ってもらおう。全員の賃金とかも考えれば・・・二百万は越えるな?」
「ほいだらうちらも筋を通してルドルフ様に頂いた素材やら木材やらの金も支払わんといけんのぅ?この村は借金地獄になるのぅ?」
「・・・ウツミ・・・中々いい度胸してるな?」
「ヘヘヘ。うちらは魔魚が泳いどる真横で素潜りで魔貝をとっとるんよ?」
「ならマジックバッグに入るだけ頂こう。」
「なら案内しちゃる!こっちじゃ!」
今日獲った魚を買い取ろうとウツミに話しかけたのだが簡単に丸め込まれてしまった。
満面の笑みで魚の解体場へと案内してくれているウツミを見て、少し納得行かないが、これでいいんだと自分に言い聞かせる。
「ルドルフ様が魚もろうて行くけんなぁ!?」
解体場と言う名の掘っ立て小屋は中央に海水が流れる水路が設置してあり、その水路を挟むように女性達が魚を解体していた。
解体場に着くやいなやウツミが三枚に卸された魔魚の切り身の前で女性達に言う。
突然そんな事を言っても女性達は驚くのでは?っと考えたのだが、全員が手を止めて俺にどうぞどうぞと笑顔でジェスチャーしてくれる。
ありがたく時忘れのマジックバッグに入るだけの切り身になった魔魚を放り込む。
「ようけこと入るのぅ?」
「いや・・・もう一杯だ。金を出さん代わりに手伝ってもいいか?」
「大歓迎じゃ!」
俺が言うと一瞬でまな板と包丁が用意され、ウツミと一緒に魚を捌く。
「早いな?」
「そりゃ漁村の娘じゃけんのぉ?じゃがルドルフ様も早いで?いつでもこの村に婿に来ても大丈夫じゃ!」
何度も魚を捌いていたが、さすがは漁村の娘だ。
ウツミの包丁裁きを学びながら一緒に魚を捌く。
そして婿の話は丁重に遠慮しておいた。
その後夕暮れまでひたすら魔魚を捌いたり干物を作ったりして野営地点に戻る。
「帰ったぞ、準備を任せてすまんな?飯を作るから待っててくれ。」
「いえ!お気になさらずに!」
「よろしくお願い致します!」
「楽しみです!」
声をかけて夕食の準備をしていると、なぜかセシリア女王が満面の笑みで嬉しそうにキャピキャピとしている。
なぜか俺の料理を食べられると思っているようだ。
「セシリア女王?なぜお前まで楽しみしている?」
「え?ドラゴンケイブ大迷宮解放までは私の騎士ですよね?」
「そうだな?だが俺は誰の指図も受けん。」
「ぐぬ・・・」
「あー・・・レジーナ、シャロン、エンリコだったか?次は手加減はせんからな。」
セシリアが悔しがり、後ろに控える騎士達が剣に手をかけるのでしっかりと念を押しておく。
これで俺に向かって来るのなら死なない程度に本気で痛めつけてやろう。
結果的に騎士職に復帰できなくなったとしても俺は知らん。
「(こないのか・・・)」
騎士達は一瞬俯いて考えて剣から手を離す。
問題無さそうなので夕食作りに集中する。
「ねぇルドルフ様?」
「なんだ?セシリア女王の夕食を作ったら御付の分も作らないと駄目だろう?絶対に御免だ。」
俺が夕食を作っているとセシリア女王が近づいて話しかけてくる。
どうせ夕食の催促だろうと思って先に言うが首を横に振るので違ったようだ。
「じゃあ何だ?」
「アラン姉様とはどういう関係なのですか?」
「知らん。アランが一方的に付き纏って来ている。」
「ふむ・・・ではアラン姉様はあなたの事を絶対に敵わない相手と評価してましたが本当ですか?」
「どうだろうな?本気で戦ったらわからんと思っているぞ?」
「成程・・・明日からのご活躍で判断しましょう。」
セシリア女王は言うだけ言って上機嫌な様子で離れて行く。
アランは俺の事をそんな風に周りに言っているとは知らなかったので驚いてしまう。
アランと俺が本気で戦ったならばどちらが勝つかわからないのは本心だ。
負けるとは思っていないが、勝負は時の運だ。
条件次第ではアランの奥の手によって俺がやられる可能性は十二分にあると思っている。
「出来たぞ。」
「「すぐに準備を致します!」」
夕食が出来上がって声をかけると二人が同時に答えて配膳を始める。
二人共手馴れたもので騎士職を失ってもメイドとしてやっていけそうだ。
「では頂きます。」
「「頂きます!」」
今日の食事は先程ウツミから作業をしながら教えてもらった魚バーグである。
肉との合挽きとは臭みが出ないのか?っと少し不安だったが魚の臭みも無く美味しく出来上がったので大満足だ。
「そういえばクリスティアナ?お前の家名はジャフルなのか?」
「え?そうですが・・・何か?」
「ほう?いや・・・学校の一年生に弟子がいるのだが、そいつの知り合いにジャフル家の執事がいてな?」
「クラウスですね?普段はソフィア、妹なのですが・・・優秀なソフィアに就いていますので。」
思わず口の中にあった魚バーグが飛び出る。
クリスティアはソフィアの姉だった、しかも優秀なクリスティアナはソフィアの方が優秀だと言う。
「どうなさいました?」
「いや・・・クリスティアナは平民を見下すか?」
「いきなりどうしました?平民だろうと能力がある人間は尊敬致しますが?」
「そうだよな。平民の俺のために配膳までするクリスティアナが平民差別をするわけが無いな。」
ソフィアは成績はいいが、平民差別をするし実戦になると腰抜けだ。
俺の評価ではソフィアなどよりもクリスティアナの方がよっぽど優秀なのに謎である。
「なぜソフィア、妹が優秀だと?」
「はっ!私は六年生ですが戦闘が全く駄目で、上位の生徒が就職してようやく銅クラスに繰り上げられ、運良く今回のルドルフ殿の御付任務で白羽の矢が当たっただけですので・・・」
こんなに優秀なクリスティアナが落ちこぼれだったとは信じられない。
僅か十日足らずで俺との旅に順応し、細かい所まで気のきくクリスティアナが落ちこぼれと言われても俄かに信じられない話である。
「偶然の必然だな・・・」
「ん?何か言いましたか?」
「何でもない。パンジーもそうなのか?」
「私も六年生なのですが戦闘が全く駄目でやっと銅クラスに繰り上がれまして・・・」
二人共戦闘が苦手のようだ。
こんなに優秀なクリスティアナがソフィアに劣るとは到底思えない。
暇があったら二人に戦闘訓練を施せば、こんなに優秀な二人だ。
剣なり魔法なり何かしらの長所が見つかるだろう。
「お前ら強くなりたいか?」
「「勿論です!」」
「ならばドラゴンケイブ大迷宮が終わったら長い馬車旅だし、訓練をしてみるか?」
「いいのですか!?」
「是非お願い致します!」
二人は俺の言葉に目を輝かせているので決定だ。
今回の任務が終わったらゆっくりと二人を鍛えてみよう。
これだけ優秀な二人だ、フォルナとアイリーンくらいは強くなるだろう。
というか恐らくこの二人が俺の御付に選ばれたのはあわよくば俺が鍛えてくれれば・・・と言うアルフォンス達の考えが丸見えである。
それならばあいつらが予想出来ないレベルまで鍛え抜いて驚かしてやろう。
そうやって見ると見慣れたはずのクリスティアナとパンジーの顔が少し違って見えてくるから不思議なものだ。
「ん?何かありましたか?」
「笑われるような事はしてないよねぇ?」
「何でもない。」
意図せずに表情に出てしまったようだ。
二人が不思議そうな顔をしているので、適当にはぐらかして三人で夕食を食べる。




